「うちは理事に報酬を払っていないので、支給基準は特に作っていません」
法人本部でときどきうかがう言葉です。しかし社会福祉法は、報酬を支払っているかどうかにかかわらず、支給の基準を定めることを求めています。無報酬であるならそのことを基準の中で明らかにする、という形になります。
もう一つ、よく混同されるのが「基準を定めること」と「評議員会の承認を受けること」と「公表すること」の関係です。この3つはそれぞれ別の条文に根拠があり、どれか一つが抜けても指摘の対象になります。
この記事では、社会福祉法人の役員報酬について、条文から何を定め、誰の承認を受け、どこに置いて、どう公表するのかを整理します。なお、報酬額の相場や他法人との比較には触れません。法が求めているのは金額の水準そのものではなく、基準を定めて、その基準に従って支給し、外から見えるようにすることだからです。
根拠は社会福祉法第45条の35。「不当に高額」でない基準を定める
出発点は社会福祉法第45条の35です。
社会福祉法人は、理事、監事及び評議員に対する報酬等について、厚生労働省令で定めるところにより、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該社会福祉法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めなければならない。
読み取れることを整理します。
対象は理事・監事・評議員の3者です。 理事の報酬だけを定めて、監事や評議員の扱いが書かれていない基準は、この条文を満たしません。評議員は無報酬という法人も多くありますが、その場合も基準の中で位置づけを示しておく必要があります。
考慮すべき事情が3つ挙げられています。 民間事業者の役員の報酬等および従業員の給与、当該社会福祉法人の経理の状況、その他の事情です。「不当に高額なものとならないような」という基準が、この3つを考慮したうえで判断されます。
なお「報酬等」の意味は、社会福祉法第45条の34第1項第3号で定義されています。報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益、および退職手当です。退職手当が含まれている点は見落とされやすいところです。
理事・監事・評議員それぞれの位置づけは、理事会と評議員会の記事、監事の要件の記事で扱っています。
基準に書く事項は施行規則で決まっている
「支給の基準」に何を書けばよいのかは、社会福祉法施行規則第2条の42が定めています。
法第四十五条の三十五第一項に規定する理事、監事及び評議員(以下この条において「理事等」という。)に対する報酬等(法第四十五条の三十四第一項第三号に規定する報酬等をいう。以下この条において同じ。)の支給の基準においては、理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分及びその額の算定方法並びに支給の方法及び形態に関する事項を定めるものとする。
定めるべき事項は、次の4つに分解できます。
| 定める事項 | 具体的に何を書くか |
|---|---|
| 勤務形態に応じた報酬等の区分 | 常勤の理事長、非常勤の理事、非常勤の監事、評議員——といった区分 |
| その額の算定方法 | 各区分について、どのように額を決めるのか |
| 支給の方法 | 月額か日額か、いつ支払うのか |
| 支給の形態 | 現金か、それ以外を含むのか |
実際の規程を拝見していて多いのが、「勤務形態に応じた区分」が甘いというケースです。常勤か非常勤かで扱いが違うのに、規程では理事という一括りになっている。あるいは、施設長を兼務している常勤理事について、役員報酬と職員給与の関係が規程から読み取れない。この点は運営指導でも見られるところです。
常勤理事が施設長を兼務する場合の考え方は、理事長の記事でも触れています。
評議員会の承認が要る。変更するときも同じ
基準を定めただけでは足りません。同じ条文の第2項です。
前項の報酬等の支給の基準は、評議員会の承認を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
ポイントは2つです。
承認するのは評議員会です。理事会ではありません。 役員の報酬を役員自身が決める構造を避けるための仕組みですから、ここは動かせません。
変更のときも承認が必要です。 「これを変更しようとするときも、同様とする」と明記されています。金額の見直し、区分の追加、支給方法の変更——いずれも評議員会にかける必要があります。実務でよく起きるのは、理事会で決議して終わりにしてしまうパターンです。理事会での審議を経て評議員会に諮る、という流れそのものは問題ありませんが、最終的に評議員会の承認が必要である点は外せません。
評議員会の決議事項の全体像は、評議員会の決議事項の記事にまとめています。
そして第3項です。
社会福祉法人は、前項の承認を受けた報酬等の支給の基準に従つて、その理事、監事及び評議員に対する報酬等を支給しなければならない。
基準を作って承認を受けたら、そのとおりに支給する——当たり前のようですが、実務では規程と実際の支給額がずれていることがあります。規程を改定したのに評議員会にかけていない、あるいは評議員会で承認された内容と実際の支払いが合っていない。会計監査や運営指導では、規程と支給実績の突き合わせが行われます。
事務所に5年間置く。誰でも閲覧を請求できる
支給基準を記載した書類は、備置きと閲覧の対象です。社会福祉法第45条の34第1項が定めています。
社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に(社会福祉法人が成立した日の属する会計年度にあつては、当該成立した日以後遅滞なく)、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる書類を作成し、当該書類を五年間その主たる事務所に、その写しを三年間その従たる事務所に備え置かなければならない。
この「次に掲げる書類」の第3号が、報酬等の支給の基準を記載した書類です。第1号は財産目録、第2号は役員等名簿、第4号は事業の概要その他の厚生労働省令で定める事項を記載した書類です。
| 期間 | 場所 |
|---|---|
| 5年間 | 主たる事務所(原本) |
| 3年間 | 従たる事務所(写し) |
閲覧については、第3項が次のように定めています。
何人も、社会福祉法人の業務時間内は、いつでも、財産目録等について、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該社会福祉法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない。
「何人も」です。 評議員や利用者に限らず、誰でも閲覧を請求できます。そして「正当な理由がないのにこれを拒んではならない」とされています。請求されてから探すのではなく、いつ請求されても出せる状態にしておく必要があります。
なお、役員等名簿については例外があります。評議員以外の者から請求があった場合、法人は個人の住所に係る記載または記録の部分を除外して閲覧させることができます(第4項)。報酬等の支給の基準を記載した書類には、この除外規定は置かれていません。
財産目録の備置きについては、財産目録の記事で詳しく扱っています。
公表はインターネットで行う
備置きと閲覧に加えて、公表の義務があります。社会福祉法第59条の2第1項です。
社会福祉法人は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、遅滞なく、厚生労働省令で定めるところにより、当該各号に定める事項を公表しなければならない。
このうち第2号が役員報酬に関するものです。
二 第四十五条の三十五第二項の承認を受けたとき 当該承認を受けた報酬等の支給の基準
公表のきっかけは「評議員会の承認を受けたとき」です。 毎年決まった時期に、ではありません。承認を受けたら、そのつど「遅滞なく」公表することになります。基準を変更して評議員会の承認を受けたのに、ホームページの掲載が古いままになっている——これは公表義務を満たしていない状態です。
公表の方法は、社会福祉法施行規則第10条第1項が定めています。
法第五十九条の二第一項の公表は、インターネットの利用により行うものとする。
方法はインターネットの利用に限定されています。 事務所での掲示や広報誌への掲載では、この条文を満たしません。
なお第2項には、法人が所定の方法で届出を行い、行政機関等がその内容の公表を行うときは、当該法人がインターネットによる公表を行ったものとみなす、という規定があります。実務上は独立行政法人福祉医療機構(WAM)の財務諸表等電子開示システムを通じた届出がこれにあたります。現況報告書の提出については、現況報告書の記事をご覧ください。
第1項の各号は、報酬等の支給の基準(第2号)のほかに、定款の内容(第1号)、届出書類のうち厚生労働省令で定める書類の内容(第3号)が並んでいます。定款を変えたときも、報酬基準を変えたときも、公表がセットで必要だと押さえてください。定款変更の手続きは定款変更の記事にまとめています。
4つの義務が、それぞれ別の条文にある
ここまでを整理すると、役員報酬をめぐる義務は次の4つです。それぞれ根拠条文が違うため、一つ満たしていれば済むというものではありません。
| 義務 | 根拠 | 実務でつまずく点 |
|---|---|---|
| 支給の基準を定める | 法第45条の35第1項、施行規則第2条の42 | 勤務形態に応じた区分が甘い。監事・評議員の扱いが書かれていない |
| 評議員会の承認を受ける(変更時も) | 法第45条の35第2項 | 理事会の決議だけで済ませてしまう |
| 事務所に備え置き、閲覧に応じる | 法第45条の34第1項第3号・第3項 | 請求されてから探す状態になっている |
| インターネットで公表する | 法第59条の2第1項第2号、施行規則第10条第1項 | 変更したのにサイトが古いまま |
そしてこの4つは、時間の流れとしては一続きの作業です。 規程を直す → 理事会で審議する → 評議員会で承認を受ける → 承認後の版を事務所に備え置く → サイトを差し替える。どこかで止まると、そこから先が全部止まります。
ある社会福祉法人様では、規程の改定は総務、評議員会の運営は法人本部、ホームページの更新は別の担当者、という分担になっており、評議員会で承認された時点で「終わった」ことになっていました。サイトに載っていたのは3年前の版です。改定のたびに担当が引き継がれず、最後の一歩が抜けていたのです。
対策は、規程の改定を「1件の案件」として最後まで追える形にすることでした。改定日・理事会の審議日・評議員会の承認日・備置きの差し替え日・サイトの更新日を1行で持ち、全部埋まるまで完了にしない。それだけで、抜けは起きなくなります。理事会・評議員会の記録の残し方は、理事会議事録の記事でも扱っています。
まとめ
- 社会福祉法人は、理事・監事・評議員に対する報酬等について、不当に高額なものとならない支給の基準を定めなければならない(法第45条の35第1項)
- 「報酬等」には報酬・賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益・退職手当が含まれる(法第45条の34第1項第3号)
- 基準には、勤務形態に応じた区分、額の算定方法、支給の方法および形態を定める(施行規則第2条の42)
- 基準は評議員会の承認が必要。変更するときも同じ(法第45条の35第2項)
- 承認を受けた基準に従って支給しなければならない(同条第3項)
- 基準を記載した書類は、主たる事務所に5年間、従たる事務所に写しを3年間備え置き、何人からの閲覧請求にも正当な理由なく拒めない(法第45条の34)
- 評議員会の承認を受けたときは、遅滞なくインターネットで公表する(法第59条の2第1項第2号、施行規則第10条第1項)
規程の改定を、最後の一歩まで追い切りたい法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。規程の改定・理事会・評議員会・備置き・公表までを1件の案件として管理し、どこで止まっているかが一目で分かる状態に整えるところからご一緒します。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。
参考にした一次情報
※所轄庁によって、提出書類の様式や公表の運用に細かな違いがあります。実際の手続きにあたっては、必ず所轄庁の案内をご確認ください。本記事では報酬額の水準・相場には触れていません。