「次の評議員会で監事を選任しなければいけないが、誰なら監事になれるのか正直あいまいなまま進めている」
社会福祉法人の事務局を担当していると、こういう場面に何度も出くわします。理事の人選は法人の運営方針そのものなので慎重に議論されますが、監事は「とりあえず顧問税理士の先生に」「知り合いの社会福祉士さんに」というように、要件の確認が後回しになりがちです。
ところが監事は、社会福祉法上とても細かく資格・員数・任期・兼任の制限が定められているポジションです。要件を満たさないまま選任してしまうと、評議員会の決議自体が無効になりかねませんし、指導監査でも就任承諾書や選任書類は必ず確認される項目です。
この記事では、社会福祉法(昭和26年法律第45号)の条文と厚生労働省のQ&A、自治体の公式な手引きに沿って、監事の要件を実務目線で整理します。
監事とは何をする人か
監事は、評議員会の決議によって選任される社会福祉法人の役員で、理事の職務執行を監査する立場にあります(社会福祉法第43条、第45条の18第1項)。主な職務は次のとおりです。
- 理事の職務執行の監査、監査報告の作成(法第45条の18第1項)
- 理事・職員への報告要求、業務・財産の状況の調査(同条第2項)
- 理事会への出席・意見陳述(一般法人法第101条第1項を準用)
- 理事の不正行為等があると認めるときの理事会・評議員会への報告(一般法人法第100条・第102条を準用)
- 決算(計算書類・事業報告・附属明細書)の監査(法第45条の27、第45条の28)
理事が「執行する人」だとすれば、監事は「執行を見張る人」です。だからこそ、理事や職員との兼任が禁止され、資格・独立性について細かい要件が置かれています。
まず全体像:監事の要件一覧
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 員数 | 2人以上 | 社会福祉法第44条第3項 |
| 資格 | 社会福祉事業について識見を有する者、財務管理について識見を有する者をそれぞれ含む | 法第44条第5項 |
| 欠格事由 | 法人、心身の故障で職務執行が困難な者、一定の犯歴がある者、暴力団関係者等 | 法第44条第1項(第40条第1項を準用) |
| 兼任禁止 | 理事・当該法人の職員との兼任不可 | 法第44条第2項 |
| 特殊関係者の排除 | 各役員の配偶者・三親等以内の親族その他省令で定める者は不可 | 法第44条第7項、社会福祉法施行規則第2条の11 |
| 任期 | 選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで | 法第45条 |
| 選任 | 評議員会の決議(普通決議) | 法第43条、第45条の9第6項 |
| 解任 | 評議員会の決議(監事の解任のみ特別決議) | 法第45条の9第7項 |
以下、それぞれ実務でつまずきやすい順に見ていきます。
資格要件:「2人いれば良い」ではない
社会福祉法第44条第5項は、監事のうちに次の者がそれぞれ含まれていなければならないと定めています。
- 社会福祉事業について識見を有する者
- 財務管理について識見を有する者
つまり監事が2人であれば、1人は福祉、もう1人は財務という組み合わせが必要で、「福祉に詳しい人が2人」「財務に詳しい人が2人」という構成では要件を満たしません。この点は選任のたびに見落とされやすいポイントです。
「財務管理について識見を有する者」の考え方について、厚生労働省のQ&Aは次のように整理しています。
監事は、計算書類等の監査を行うため、財務管理について識見を有する者がいることが必須である。公認会計士や税理士の資格を有する者が望ましいが、社会福祉法人、公益法人や民間企業等において財務・経理を担当した経験を有する者など法人経営に専門的知見を有する者等も考えられる。
(「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について」等に関するQ&A、問37)
資格・免許がなくても、法人や企業での財務・経理経験があれば要件を満たし得る、という整理です。逆に言えば「税理士だから安心」ではなく、その人が実際に監査業務を担えるかどうかを見る必要があります。
顧問税理士・公認会計士・弁護士はそのまま監事になれるのか
法人によっては「顧問の先生にそのまま監事もお願いしたい」という相談がよくあります。ここは契約内容次第です。同じQ&Aの問38では、次のように整理されています。
記帳代行業務や税理士業務など業務執行に該当する業務を行っている場合は、自己が行った業務を自らチェックすることになり、監事として就任することは適当でない。法律面や経営面について助言を行うにとどまる場合は、監事に就任することは差し支えない。
(同Q&A、問38の趣旨)
つまり、記帳代行や税務申告書の作成など業務執行を担っている税理士は、自分の仕事を自分で監査することになるため監事就任は不適当です。一方、契約が助言のみであれば就任できます。「顧問契約があるから」ではなく、契約の中身(業務執行を含むか、助言にとどまるか)を確認する必要があります。
員数:2人以上、そして欠員時の補充ルール
監事は2人以上でなければなりません(法第44条第3項)。理事は6人以上なので、混同しないよう注意してください。
また、定款で定めた監事の員数の3分の1を超える人数が欠けたときは、遅滞なく補充しなければならないと定められています(法第45条の7第2項)。「定款上は3人だが、1人退任してもまだ2人いるから急がなくてよい」と考えがちですが、3分の1超の欠員が生じた時点で補充義務が発生する点は押さえておく必要があります。
任期:起算点は「選任決議の日」
監事の任期は、選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までと定められています(法第45条)。定款で短縮することはできますが、伸長はできません。
実務でよく起きる誤解が、任期の起算点をいつと考えるかです。厚生労働省のQ&Aでは、任期は評議員会での選任決議をした時から起算するという考え方が示されています(同Q&A、問33の趣旨)。就任承諾書へのサインが後日になっても、任期は選任決議の日からカウントされます。
「就任承諾書にサインした日から2年」という感覚で管理していると、実際の任期満了日とずれてしまい、気づかないうちに任期切れの状態で監事が業務を続けてしまう、という事態につながります。任期管理は選任決議の日付を起点に、次の定時評議員会の予定日と突き合わせて管理することをおすすめします。
兼任禁止と特殊関係者:見落としやすい範囲
理事・職員との兼任は禁止
監事は、当該社会福祉法人の理事または職員を兼ねることができません(法第44条第2項)。「事務局長を兼務してもらいながら監事も」というような発想は、この規定に抵触します。
配偶者・三親等以内の親族、その他の特殊関係者
法第44条第7項は、各役員(理事・監事)の配偶者、三親等以内の親族、その他厚生労働省令で定める特殊の関係がある者は、監事になることができないと定めています。この「特殊の関係がある者」は社会福祉法施行規則第2条の11で具体的に列挙されており、単純な親族関係だけではありません。兵庫県が公表している「社会福祉法人の監事の手引」(令和6年1月)は、この範囲を次のように整理しています。
| 区分 | 該当する者 |
|---|---|
| ア | 役員と事実上婚姻関係と同様の事情にある者 |
| イ | 役員に雇用されている者 |
| ウ | ア・イ以外で役員から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者 |
| エ | イ・ウの者の配偶者 |
| オ | ア〜ウの者の三親等以内の親族であって生計を一にする者 |
| カ〜ケ | 理事・監事が役員を務める他の同一団体の役員・職員(監事総数の3分の1を超える場合)、支配関係にある他の社会福祉法人の理事・職員など |
親族関係だけをチェックして、雇用関係や生計維持関係を見落とすケースが少なくありません。たとえば「理事長の親族ではないが、理事長が経営する別会社の従業員」は、この規定に該当し得ます。監事候補が挙がったら、親族図だけでなく、法人・関係者との金銭的なつながりも合わせて確認してください。
なお、評議員との兼任についても、評議員会が理事・監事を選任・監督する構造上、実務上は認められない整理となっています。監事候補が現職の評議員でないかも、あわせて確認しておくと安心です。
選任と解任:決議要件が非対称であることに注意
監事は評議員会の決議によって選任されます(法第43条)。理事や理事会が監事を選任する旨を定款で定めても無効です。選任の決議は、議決に加わることができる評議員の過半数が出席し、その過半数で決議する普通決議です(法第45条の9第6項)。
一方、解任の決議要件は選任と異なります。監事の解任は、議決権を有する評議員の3分の2以上の賛成による特別決議が必要です(法第45条の9第7項)。理事の解任は過半数の普通決議でよいため、この非対称性を見落として、監事の解任を普通決議で進めてしまい、決議が無効になるケースが実務では起こり得ます。監事の解任を議案にする際は、必ず特別決議の要件(定足数・賛成割合)を満たしているかを事前に確認してください。
指導監査でも確認される書類
監事の選任・資格に関する書類は、指導監査でも確認対象になります。就任承諾書によって監事本人の就任の意思表示が確認できない場合や、評議員選任・解任委員会の資料、評議員会の議事録が整っていない場合は、指摘の対象になり得ます(指導監査の全体像と確認書類の考え方は、社会福祉法人の指導監査とは|周期・指摘基準・準備の進め方 で詳しく解説しています)。
監事についても、選任決議の議事録、就任承諾書、(該当する場合は)識見を有することを示す経歴書などを、選任のタイミングで揃えて保存しておくと、後日の監査対応がぐっと楽になります。
監事就任時に確認しておきたいチェックリスト
- [ ] 監事は2人以上いるか
- [ ] 監事の中に「社会福祉事業について識見を有する者」が含まれているか
- [ ] 監事の中に「財務管理について識見を有する者」が含まれているか
- [ ] 候補者は理事・当該法人の職員を兼ねていないか
- [ ] 候補者は各役員の配偶者・三親等以内の親族に該当しないか
- [ ] 候補者は役員に雇用されている、または役員から生計の支援を受けていないか
- [ ] 顧問税理士・会計士・弁護士を監事にする場合、契約内容が「助言のみ」で業務執行を含まないか
- [ ] 選任決議の日付を記録し、次の任期満了(選任後2年以内に終了する会計年度に関する定時評議員会の終結時)を管理表に落とし込んでいるか
- [ ] 選任決議の議事録・就任承諾書を、選任時点で保存する運用になっているか
まとめ
- 監事は2人以上必要で、「社会福祉事業について識見を有する者」と「財務管理について識見を有する者」をそれぞれ含む必要がある(法第44条第3項・第5項)
- 顧問税理士・会計士・弁護士は、契約が業務執行を含む場合は監事就任不適当。助言のみなら就任可能
- 監事は当該法人の理事・職員を兼任できない(法第44条第2項)。配偶者・三親等以内の親族に加え、雇用関係や生計維持関係にある者も「特殊関係者」として除外される(法第44条第7項、施行規則第2条の11)
- 任期は選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。起算点は選任決議の日であり、就任承諾日ではない
- 選任は評議員会の普通決議、解任は監事のみ特別決議(3分の2以上)という非対称性がある
- 選任決議の議事録・就任承諾書は指導監査でも確認される書類。選任時点で保存する運用にしておくと後が楽になる
参考(一次情報)
- 社会福祉法|e-Gov法令検索(第44条・第45条・第45条の7・第45条の9・第45条の18ほか)
- 「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について」等に関するQ&A(厚生労働省社会・援護局福祉基盤課、最終改訂 令和6年9月19日)
- 社会福祉法人の監事の手引(兵庫県、令和6年1月)
監事の選任・任期管理を仕組み化したい法人様へ
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