「役員の任期が変わるから定款を直したいけど、これって認可がいるんでしたっけ」
「事務所が移転しただけなのに、また分厚い申請書類を出すんですか」
社会福祉法人様のご支援に入っていると、定款変更のたびにこうした質問をいただきます。無理もありません。社会福祉法人の定款変更には、所轄庁の認可を受けないと効力が生じないものと、変更後に届け出るだけで足りるものの2種類があり、法令の条文を読まないとどちらに当たるか判断しづらいからです。
この記事では、社会福祉法・社会福祉法施行規則の条文と、複数の自治体が公表している「定款変更の手引き」を突き合わせて、①認可と届出の判断基準、②評議員会決議から認可・登記までの実務フロー、③変更後によくある更新漏れ、の3点を整理します。
定款変更は「評議員会の決議」がすべての出発点
まず押さえておきたいのは、認可事項でも届出事項でも、定款変更はすべて評議員会の決議から始まるということです。社会福祉法第45条の36第1項は次のように定めています。
定款の変更は、評議員会の決議によらなければならない。
この決議は普通決議ではなく、議決に加わることができる評議員の3分の2以上の賛成を要する特別決議です(社会福祉法第45条の9第7項が準用する定め)。理事会限りで定款を書き換えることはできません。まず評議員会に諮る、という順番を崩さないことが出発点です。
ここで注意したいのが、3分の2以上という割合の分母です。大阪市の案内ページでは、この特別決議の要件を「欠席者を含めた評議員のうち3分の2以上」の賛成と明記しています。つまりその日の出席者の3分の2ではなく、議決権を持つ評議員全体の3分の2が基準になります。評議員の欠席が多い法人ほど、委任状や書面決議の取り扱いを事前に確認し、必要な賛成数を確保できる見込みが立ってから議案を上程することが重要です。
「認可」か「届出」かは施行規則が線引きしている
評議員会で決議したあと、その内容によって手続きが分かれます。根拠は社会福祉法第45条の36第2項・第4項です。
定款の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、所轄庁の認可を受けなければ、その効力を生じない。(第2項)
社会福祉法人は、第二項の厚生労働省令で定める事項に係る定款の変更をしたときは、遅滞なくその旨を所轄庁に届け出なければならない。(第4項)
つまり原則は「認可がなければ効力が生じない」で、例外的に指定された事項だけが「届出で足りる」という建て付けです。この「厚生労働省令で定める事項」を指定しているのが社会福祉法施行規則第4条で、社会福祉法第31条第1項が列挙する定款の記載事項(15号)のうち、次の3号だけを対象としています。
- 第4号:事務所の所在地
- 第9号:資産に関する事項のうち基本財産の増加
- 第15号:公告の方法
この3事項は自治体ごとの裁量ではなく、施行規則に基づく全国共通のルールです。熊本県・大阪市・兵庫県の定款変更の手引きでも、届出で足りる事項としてこの3つが同じ内容で示されています。逆に言えば、この3つ以外はすべて原則として認可が必要と考えておくのが安全です。
認可・届出の判定表
| 区分 | 根拠 | 対象事項の例 | 効力発生・手続き |
|---|---|---|---|
| 届出で足りる(3事由) | 社会福祉法施行規則第4条 | 事務所の所在地/資産に関する事項のうち基本財産の増加/公告の方法 | 評議員会決議の時点で効力発生。変更後遅滞なく所轄庁へ届出(社会福祉法第45条の36第4項) |
| 認可が必要(それ以外すべて) | 社会福祉法第45条の36第2項 | 目的、名称、社会福祉事業・公益事業・収益事業の種類、評議員・評議員会に関する事項、役員の定数その他役員に関する事項、理事会に関する事項、会計監査人に関する事項、資産に関する事項のうち基本財産の増加以外(処分・減少等)、会計に関する事項、解散に関する事項、定款の変更に関する事項 等 | 評議員会決議のあと所轄庁へ認可申請。所轄庁の認可を受けて初めて効力発生(社会福祉法第32条を準用) |
実務でよく誤解されるのが「基本財産の増加」と「基本財産の処分・減少」の扱いの違いです。増加は届出で足り、処分や減少は認可が必要というのが条文上の線引きです。基本財産を担保に入れる場合も別途承認が必要になるため、資産まわりの変更は「増やすだけなのか、それ以外の操作を伴うのか」を最初に確認してください。
寄附を受けて基本財産を積み増すだけであれば届出で完結しますが、施設の建て替えなどに伴って既存の基本財産を売却・処分する、あるいは金融機関の担保に供する場合は、定款変更の認可とは別に個別の承認申請が必要になるケースがあります。資産の異動を伴う計画が持ち上がった時点で、届出・認可・別途承認のどれに当たるのかを所轄庁に確認しておくと、着工や契約のスケジュールに影響が出るのを防げます。
所轄庁はどこになるのか
認可も届出も、提出先は「所轄庁」です。社会福祉法第30条により、原則は主たる事務所の所在地の都道府県知事ですが、次のような例外があります。
- 主たる事務所が市(特別区を含む)の区域内にあり、その行う事業が当該市の区域を越えない法人 → 市長(特別区の区長)
- 主たる事務所が指定都市の区域内にあり、その行う事業が一の都道府県の区域内で2以上の市町村にわたる法人、および地区社会福祉協議会である社会福祉法人 → 指定都市の長
- 事業が2以上の地方厚生局の管轄区域にわたる法人のうち厚生労働省令で定めるもの → 厚生労働大臣
複数の市町村にまたがって事業展開している法人でも、所轄庁が都道府県のままか市に変わるかは事業区域の広がり方次第です。「うちの所轄庁はどこか」を自法人の認可時の書類で確認しておくと、申請先を間違えずに済みます。
認可が必要な変更事項の具体例
熊本県・大阪市・兵庫県の手引きで共通して認可対象とされている代表例を挙げます。
- 法人の目的・名称の変更
- 社会福祉事業・公益事業・収益事業の種類の変更(事業の追加・廃止を含む)
- 評議員の定数、評議員会に関する事項の変更
- 役員(理事・監事)の定数その他役員に関する事項、理事会に関する事項の変更
- 会計監査人を新たに置く、または廃止する場合
- 会計に関する事項の変更
- 基本財産の処分・減少、担保提供(別途承認申請が必要になる場合あり)
- 解散に関する事項、定款変更に関する事項自体の規定変更
役員の任期や定数の変更、評議員定数の見直しなど、法人運営の節目で発生しやすい変更のほとんどがこちらに含まれます。「軽微な変更だから届出で大丈夫だろう」という思い込みで進めると、あとから所轄庁に差し戻される原因になります。
実務フロー:決議 → 申請または届出 → 認可 → 登記
熊本県・大阪市の手引きが共通して示しているのは、次の流れです。
- 評議員会での決議(特別決議:議決権を有する評議員の3分の2以上の賛成)
- 認可事項は所轄庁へ定款変更認可申請、届出事項は定款変更届を提出
- 認可事項は所轄庁の認可によって効力が発生(届出事項は決議の時点で既に効力発生済みで、届出は事後報告)
- 登記事項に該当する変更は法務局で変更登記
大阪市の案内ページでは、この流れを「評議員会の決議 → 定款変更認可申請 → 市長認可(発効) → 法務局登記」と整理しています。認可申請の前に事前相談を求める自治体が多いため、決議の前段階で所轄庁の担当窓口に一度相談しておくと、申請後の差し戻しを減らせます。
なお、標準処理期間(申請受理から認可までの目安日数)は自治体によって公表の有無や日数が異なります。公表している自治体でも数週間単位が一般的で、決算期や理事改選期など提出が集中する時期は余裕をもったスケジュールを組む必要があります。正確な日数は申請先の所轄庁に個別に確認してください。
申請にあたっては、変更後の定款(新旧対照表の形式を求める自治体もあります)に加えて評議員会の議事録、役員・評議員の変更であれば就任予定者の履歴書・就任承諾書、資産の変更を伴う場合は財産目録など、変更内容に応じた添付書類が必要になります。必要書類は自治体ごとに手引きで様式や部数まで指定されていることが多いため、決議前に最新の手引きとチェックリストを取り寄せておくと、提出後の差し戻しを避けやすくなります。
登記が必要なケースと期限は「2週間以内」
定款変更のうち、法人の登記事項に該当するもの(名称、主たる事務所の所在地、代表権を有する者の氏名・住所など)は、法務局への変更登記が別途必要です。根拠は組合等登記令です。
組合等において前条第二項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければならない。(組合等登記令第3条第1項)
起算日は、認可事項であれば所轄庁の認可を受けた日、届出事項(事務所の所在地など)であれば評議員会で決議し効力が生じた日です。ここを取り違えて、認可通知が届いてから2週間以内と思い込んでいると、届出事項の登記期限を過ぎてしまうことがあります。登記を怠ると、過料の対象になり得る点にも注意してください。
つまずくのは「認可のあと」:定款の差し替え漏れが指導監査で指摘される
制度上の判定はここまでの整理で概ねカバーできます。実務で本当につまずくのは、認可や届出が終わったあとの後処理です。私たちが現場でよく見るのは、次のようなケースです。
- 変更登記は終えたが、法人のホームページに掲載している定款が旧版のままになっている
- 主たる事務所に備え置く定款の紙・データの差し替えを誰が担当するか決まっていない
- 従たる事務所(他拠点)の定款の備置き・データ記録の更新が本部変更から漏れる
- 変更した経緯(決議日・認可日・登記日)を後から追える記録が残っていない
これは決して些細な問題ではありません。定款の備置き・公表状況は、所轄庁の指導監査でも確認される項目です。当社の別記事「社会福祉法人の指導監査とは|周期・指摘基準・準備の進め方」で紹介しているとおり、指導監査ガイドラインでは定款の備置き・公表について、備置きまたは公表されている定款の内容が直近のものでない場合は文書指摘の対象となるとされています。せっかく適法に認可・届出まで済ませても、その後の差し替えを怠れば、次の指導監査で指摘を受けることになりかねません。
定款変更の手続きは「登記が終わったら完了」ではなく、「ホームページの掲載と備置き書類の差し替えまで終わって完了」という認識を法人内で共有しておくことが、後々の手戻りを防ぎます。
準備を軽くする2つの打ち手
1. 変更の種類を最初に仕分ける
決議の議案を作る段階で、「これは届出3事由(事務所所在地・基本財産の増加・公告方法)に該当するか、それ以外の認可事項か」を仕分けておくと、必要書類と手続き先を早い段階で確定できます。判断に迷う事項(例えば事業の一部見直しが「軽微」に当たるかどうか)は、決議前に所轄庁へ相談してしまうのが確実です。
2. 「決議 → 申請・届出 → 認可 → 登記 → 定款差し替え」を1枚のチェックリストにする
認可の可否や登記期限だけに気を取られると、その先のホームページ更新や備置き書類の差し替えが抜け落ちがちです。決議から定款差し替えまでの一連の工程を1枚のチェックリストにして、誰がいつ何を完了させたかを法人本部で一元的に把握できるようにしておくと、指導監査の直前になって「定款が古いままだった」と慌てる事態を避けられます。複数拠点を運営している法人ほど、本部と施設が同じ記録を参照できる状態にしておく効果は大きくなります。
まとめ
- 定款変更は認可事項・届出事項のいずれも、評議員会の特別決議(3分の2以上の賛成)が出発点
- 届出だけで足りるのは、社会福祉法施行規則第4条が定める3事由(事務所の所在地/基本財産の増加/公告の方法)のみ。それ以外は原則として所轄庁の認可が必要
- 認可事項は所轄庁の認可を受けて初めて効力が発生し、届出事項は評議員会決議の時点で効力が発生する
- 法人の登記事項に該当する変更は、認可日(または決議日)から2週間以内に法務局で変更登記が必要(組合等登記令第3条)
- 実務でつまずきやすいのは制度判断そのものより、登記後のホームページ掲載・定款備置き書類の差し替え漏れ。ここは指導監査でも確認される項目
参考(一次情報)
- 社会福祉法(厚生労働省法令等データベースシステム)(第30条:所轄庁、第31条:定款の記載事項、第45条の36:定款の変更)
- 社会福祉法施行規則(厚生労働省法令等データベースシステム)(第4条:届出で足りる事項の指定)
- 社会福祉法|e-Gov法令検索(第30条:所轄庁、第31条:定款の記載事項、第45条の36:定款の変更)
- 社会福祉法施行規則|e-Gov法令検索(第4条:届出で足りる事項の指定)
- 組合等登記令|e-Gov法令検索(第3条:変更登記の期限)
- 社会福祉法人定款変更等の手引き|熊本県
- 定款変更認可申請について|大阪市
- 定款変更届|大阪市
- 社会福祉法人定款変更等の手引|兵庫県
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