3月に年度が終わり、決算をまとめ、理事会・評議員会を通し、そのまま息つく間もなく6月末の届出。社会福祉法人の事務にとって、4月から6月は一年でいちばん息が詰まる時期だと思います。
なかでも「現況報告書」は、会計の数字と、人事の数字と、法人運営の記録が全部集まってこないと完成しない書類です。経理だけでも、総務だけでも終わらない。だから毎年、締切間際に「あの数字がまだ出てこない」で止まります。
この記事では、現況報告書の法的な位置づけと提出の流れを整理したうえで、毎年つまずきやすいポイントと、翌年の負担を減らすための準備の考え方をまとめます。
現況報告書とは何か
現況報告書は、社会福祉法人が毎年度、所轄庁(都道府県知事・市長など)に届け出る書類のひとつです。法人の事業の概要、役員の状況、職員の状況、施設・事業所の状況などを記載します。
根拠は社会福祉法第59条
社会福祉法第59条は次のように定めています。
社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる書類を所轄庁に届け出なければならない。
一 第四十五条の三十二第一項に規定する計算書類等
二 第四十五条の三十四第二項に規定する財産目録等
このうち「財産目録等」に含まれるのが、第45条の34第1項各号に掲げる次の書類です。
- 財産目録
- 役員等名簿(理事、監事及び評議員の氏名及び住所を記載した名簿)
- 報酬等の支給の基準を記載した書類
- 事業の概要その他の厚生労働省令で定める事項を記載した書類
この4号が、いわゆる現況報告書にあたります。つまり現況報告書は単独の制度ではなく、計算書類等・財産目録等とセットで届け出る一連の書類の一部、という位置づけです。
備置きの義務もある
見落とされがちですが、第45条の34第1項は届出だけでなく備置きも義務づけています。財産目録等は、主たる事務所に5年間、その写しを従たる事務所に3年間備え置かなければなりません(電磁的記録での作成も可)。
さらに、誰でも法人の業務時間内であれば閲覧を請求でき、法人は正当な理由なくこれを拒めません。ただし役員等名簿については、評議員以外の者からの請求に対しては、個人の住所に係る部分を除外して閲覧させることができます。
公表の義務もある
社会福祉法第59条の2第1項第3号により、第59条の届出をしたときは、その書類のうち厚生労働省令で定める書類の内容を、遅滞なく公表しなければなりません。
ここで実務上重要なのが、財務諸表等電子開示システムに記録する方法で届出を行い、内容が公表された場合には、インターネットの利用による公表が行われたものとみなされる(社会福祉法施行規則第10条第2項)という点です。システム経由で届け出れば、公表義務も同時に満たせる建て付けになっています。
いつまでに何をするのか:年度末からのスケジュール
条文と通知を時系列に並べると、こうなります。
| 時期 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
| 3月31日 | 会計年度終了 | |
| 5月末まで(年度終了後2か月以内) | 資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表・附属明細書・財産目録を作成し、理事会(評議員会設置法人は評議員会を含む)の承認を受ける | 社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項 3「決算」 |
| 6月30日まで(年度終了後3か月以内) | 計算書類等・財産目録等(現況報告書を含む)を所轄庁に届出 | 社会福祉法第59条 |
| 届出後、遅滞なく | 所定の書類の内容を公表 | 社会福祉法第59条の2第1項第3号 |
ポイントは、6月30日の前に5月末の理事会・評議員会があるということです。ここから逆算すると、実質的な作業期限は5月ではなく4月中旬〜下旬になります。「6月末が締切」と思っていると、必ず間に合いません。
財務諸表等電子開示システムでの提出の流れ
届出は、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が運営する「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」を通じて行います。
システムは大きく6つのステージで進みます。
- システムへのログイン
- 財務諸表等入力シートのダウンロード
- シートの起動と進捗管理
- 財務内容の入力
- 財務内容の確認
- 報告書への出力
入力はExcelの入力シートで行い、会計ソフトからデータを取り込むか、手入力するかを選びます。各ステージでチェックがかかり、エラーが解消されないと次に進めない仕組みです。だから、締切直前にまとめて入力すると、エラーの山を前に立ち往生することになります。
WAMの連絡板には操作マニュアルやQ&Aが掲載され、ヘルプデスク(0570-000-443、9:00〜17:00)も用意されています。エラーの意味が分からないまま時間を溶かすくらいなら、早めに問い合わせたほうが早いです。
毎年つまずくのはここ
私たちが社会福祉法人様の事務のご支援に入るなかで、この時期に「詰まる」とご相談をいただくのは、だいたい次のような箇所です。
1. 職員数・常勤換算数が出てこない
現況報告書では職員の状況を記載します。ここで必要になるのが常勤換算数です。
つまずく原因はほぼ共通していて、給与計算や勤怠のデータが、現況報告書が求める区分(施設・事業所別、職種別、常勤/非常勤別)で持てていないことです。給与ソフトからは法人全体の集計しか出てこない。だから施設ごとに手作業で数え直すことになり、担当者が代わると数え方も変わってしまう。
年度末に数え直すのではなく、もともと必要な区分でデータを持っておく。ここを直さない限り、毎年同じところで止まります。
2. 役員等名簿と、就任・退任の記録が合わない
期中に理事や評議員の交代があると、名簿と議事録と就任承諾書が食い違います。届出の直前に整合を取ろうとすると、「この人はいつから理事なのか」を議事録から掘り返す作業が発生します。
3. 計算書類の区分と、現況報告書の施設・事業所の単位がずれる
会計上の拠点区分・サービス区分と、現況報告書で記載する施設・事業所の単位は、必ずしも同じではありません。ここのマッピングを毎年その場で考え直していると、前年と違う整理になってしまい、後で説明がつかなくなります。一度決めた対応表を残しておくだけで、翌年の作業が大きく変わります。
4. ホームページの公表が漏れる
システム経由で届け出れば公表とみなされますが、法人独自の様式や定款など、法人のホームページ側で更新すべきものが漏れているケースがあります。定款については、指導監査ガイドラインで「備置きまたは公表されている定款の内容が直近のものでない場合」は文書指摘とされています。届出とあわせて、公表物の棚卸しをしておくと安全です。
翌年の負担を減らすための3つの考え方
1. 「6月に集める」のをやめる
いちばん効くのはこれです。理事・評議員が交代したらその場で名簿と就任承諾書を更新する、職員の入退職があったらその都度、施設別・職種別の区分で記録する。期中に積み上がっていれば、6月は「転記」だけで済みます。
2. 必要な区分でデータを持つ
現況報告書が求める区分は毎年ほぼ同じです。ならば、給与・勤怠・職員台帳のデータをその区分で持てばよい、というだけの話です。
ただし、これは「新しいシステムを入れる」という意味ではありません。私たちがご支援するときも、まずやるのはいま使っているExcelや給与ソフトから、必要な区分で出せるようにすることです。それで足りなければ、はじめてツールの話をします。
3. 手順を人ではなく書類に残す
「去年やった人が今年はいない」は、社会福祉法人の事務でいちばんよく起きるリスクです。エラーが出たときにどう直したか、どのシートのどこに何を入れたか。その年に一度しかやらない作業ほど、手順を残す価値が大きいです。
まとめ
- 現況報告書は、社会福祉法第45条の34第1項第4号の「事業の概要その他の厚生労働省令で定める事項を記載した書類」にあたり、計算書類等・財産目録等とあわせて届け出る
- 提出期限は社会福祉法第59条により毎会計年度終了後3か月以内(=6月30日まで)。その前に年度終了後2か月以内の理事会・評議員会の承認がある
- 届出は財務諸表等電子開示システムで行い、システム経由で公表されればインターネットによる公表が行われたものとみなされる(施行規則第10条第2項)
- 財産目録等は主たる事務所に5年、従たる事務所に写しを3年備え置く義務がある
- つまずきの多くは制度ではなくデータの持ち方。施設別・職種別・常勤/非常勤別の区分で期中から持てているかどうかで、6月の負担がまったく変わる
参考(一次情報)
4月〜6月の事務を軽くしたい法人様へ
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