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社会福祉

社会福祉法人の理事会と評議員会の違い|決議事項・役割分担を実務目線で整理

「この議案、理事会と評議員会、どちらにかければいいんでしたっけ」

決算の時期や役員改選の時期になると、事務局からこういう質問を受けることが少なくありません。私たちが社会福祉法人様のご支援に入る中でも、指導監査の準備と並んでよく相談を受けるのが、この理事会・評議員会まわりの実務です。

厚生労働省や所轄庁の資料を読めば、両者の権限は法律で明確に切り分けられています。それでも現場が迷うのは、「制度を知らない」からではなく、似た議題が両方の会議体にまたがって出てくるからです。事業計画の承認は理事会だけで済む法人もあれば、評議員会の承認まで必要な法人もあります。基本財産の処分のように、理事会と評議員会の両方の承認が要るケースもあります。

この記事では、社会福祉法の条文と、複数の自治体が公表している決議事項一覧・運営の手引きをもとに、理事会と評議員会の役割分担、決議事項の切り分け、開催時期の考え方を整理します。

そもそも理事会と評議員会は「役割」が違う

まず前提として、この2つの会議体は同じ「役員が集まる場」でも、法律上の位置づけがまったく異なります。

  • 評議員会:法人の基本的な事項を決議する機関。法律で定められた事項と、定款で定めた事項に限り決議できます(社会福祉法第45条の8第2項)。役員の選任・解任、決算の承認、定款変更など、法人の「あり方」を決める場です。
  • 理事会:法人の業務執行を決定する機関。業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選定・解職を行います(同法第45条の13第2項)。日常的な意思決定を担う「執行」の場です。

評議員会は年に1回(定時)が基本で、法人の重要な意思決定を行う場。理事会はもっと頻繁に開かれ、業務執行を具体的に決めていく場。まずこの「議決機関」と「執行機関」という役割の違いを押さえておくと、個別の決議事項で迷ったときの判断軸になります。

評議員会の決議事項

評議員会の決議事項は、社会福祉法に規定する事項と、定款で定めた事項に限られます。この事項以外を決議することはできません(法第45条の8第2項)。

主な決議事項は次のとおりです。

決議事項根拠条文決議要件
理事・監事・会計監査人の選任法第43条第1項普通決議
理事(監事以外)の解任法第45条の4第1項普通決議
監事の解任法第45条の4第1項特別決議
会計監査人の解任法第45条の4第2項普通決議
役員・評議員の報酬支給基準の承認法第45条の35第2項普通決議
計算書類(貸借対照表・収支計算書)の承認法第45条の30第2項普通決議
定款の変更法第45条の36第1項特別決議
法人の解散法第46条第1項第1号特別決議
吸収合併・新設合併の承認法第52条・第54条の2・第54条の8特別決議
社会福祉充実計画の承認法第55条の2第7項普通決議
役員等の責任の一部免除法第45条の20第4項準用(一般法人法第113条)特別決議
役員等の責任のすべての免除法第45条の20第4項準用(一般法人法第112条)総評議員の同意

普通決議は「議決に加わることができる評議員の過半数が出席し、その過半数をもって行う」のが基本形です(法第45条の9第6項)。一方、定款変更・解散・合併・監事解任・責任の一部免除などは、「議決に加わることができる評議員の3分の2以上」の賛成を要する特別決議とされています(法第45条の9第7項)。

ここで実務上よく見落とされるのが、役員の解任は監事だけ特別決議という非対称なルールです。理事の解任は普通決議で足りますが、監事の解任だけは特別決議が必要になります。監事は法人のガバナンス上、理事会からの独立性が求められる立場だからこそ、解任のハードルが高く設定されている、という理解をしておくと納得しやすいと思います。

このほか、基本財産の処分や事業計画・収支予算の承認は、法律ではなく定款で評議員会の決議事項として定められているケースが多いところです(後述)。

理事会の決議事項

理事会の権限は、法律上、次の3つに整理されています(法第45条の13第2項)。

  1. 法人の業務執行の決定
  2. 理事の職務の執行の監督
  3. 理事長の選定及び解職

なお、理事長以外の理事を「業務執行理事」として選定するのも理事会の決議によりますが、こちらの根拠は法第45条の16第2項第2号です(第45条の13第2項が列挙しているのは理事長の選定・解職までです)。

このうち「業務執行の決定」に含まれる事項として、次の5つは理事に委任することができず、必ず理事会で決議しなければならないと法律で明記されています(法第45条の13第4項)。

決議事項根拠条文
重要な財産の処分及び譲受け法第45条の13第4項第1号
多額の借財法第45条の13第4項第2号
重要な役割を担う職員の選任及び解任法第45条の13第4項第3号
従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止法第45条の13第4項第4号
内部管理体制の整備法第45条の13第4項第5号

理事会の決議は、「議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その出席した理事の過半数をもって行う」のが原則です。定款でこの割合を加重することもできます。決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません。

また、評議員会を開催するときの日時・場所・目的である事項は、理事会の決議で決めなければなりません(法第45条の9第10項が準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第181条)。評議員会は理事会が招集を決定して開くという構造になっているため、評議員会の直前に理事会を開いて招集事項を決議しておく必要があります。

実務で迷いやすい5つのポイント

決議事項そのものは条文どおりですが、実務でつまずくのは次のようなケースです。

1. 事業計画・収支予算の承認は「定款の定め方」で変わる

厚生労働省が示す社会福祉法人定款例の第31条には、事業計画書・収支予算書の承認方法として2つの例が示されています。

  • 例1:理事長が作成し、理事会の承認を受ける(評議員会への提出は不要)
  • 例2:理事長が作成し、理事会の決議を経て、評議員会の承認を受ける

つまり、この議案を理事会だけで済ませるか、評議員会の承認まで必要とするかは、各法人の定款次第です。「うちは去年評議員会にかけなかったから今年もかけない」といった前例踏襲ではなく、まず自法人の定款が例1・例2のどちらの型かを確認するのが先です。なお、計算書類と事業報告については、これとは別に法律上の手続きが定められています。どちらも監事の監査を受けたうえで理事会の承認を受け(法第45条の28第1項・第3項)、定時評議員会に提出しますが、そこから先の扱いが違います。計算書類は定時評議員会の「承認」を受ける必要がある一方(法第45条の30第2項)、事業報告は定時評議員会への「報告」で足ります(同条第3項)。事業報告まで評議員会の承認議案として上程している法人がありますが、法律上は報告事項です。

2. 基本財産の処分は「理事会・評議員会の両方」が必要になりうる

重要な財産の処分は理事会の専決事項ですが(法第45条の13第4項第1号)、これとは別に、定款例では基本財産の処分・担保提供について「理事会及び評議員会の承認を得て、所轄庁の承認を得なければならない」と定めるのが一般的です(定款例第29条)。基本財産に関わる議案は、理事会だけで完結させず、評議員会と所轄庁の承認まで含めた段取りを見込んでおく必要があります。

3. 決議の順番を間違えると理事長不在の期間ができる

理事は評議員会で選任されますが、理事長は理事会で選定します(法第45条の13第2項第3号)。定時評議員会で新しい理事が選任されてから、新理事による理事会の開催までに間隔が空くと、その間「理事長不在」の状態が生まれてしまいます。

これを避けるため、実務では招集手続きを省略して新役員選任の評議員会と同日に理事会を開催する方法がよく使われます。新理事が全員参集できない場合は、決議の省略(書面決議)の方法で理事長を選任することも可能です。役員改選の年は、評議員会と理事会をセットでスケジュールしておくことが重要です。

4. 招集通知に載っていない議題は決議できない

評議員会は、招集通知に記載のない議題について決議することができません(法第45条の9第9項)。当日その場で「ついでにこの件も決議しましょう」とはできない、という点は評議員会特有のルールです。一方、理事会は招集時に議題を示さなくても開催でき、当日その場で議題・議案を追加して審議・決議することができます。この違いを知らずに、評議員会当日に急な議案を追加しようとして進行が止まる、というのはよくある失敗パターンです。

5. 役員報酬を無報酬にする場合も評議員会の決議が要る

理事・監事の報酬等の額は、定款で定めるか、評議員会の決議で定める必要があります(理事は法第45条の16第4項、監事は法第45条の18第3項)。「無報酬だから決議はいらないだろう」と考えがちですが、定款に額の定めがなく無報酬とする場合も、無報酬である旨を評議員会で決議する必要があるという点は見落とされやすいところです。あわせて、役員・評議員の報酬等の支給基準は、評議員会の承認を受けたうえで公表する義務があります。

開催時期・頻度の考え方

定時評議員会は「6月中」が実務上の目安

定時評議員会は、毎会計年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと定められていますが(法第45条の9第1項)、法律上「いつまでに」という具体的な期限は書かれていません。ただし、会計年度が3月末に終了する法人では、計算書類を会計年度終了後3か月以内に所轄庁へ届け出る必要があるため、逆算して6月中に定時評議員会を開催するのが実務上の一般的な運用です。開催時期を定款に明記している法人も多く、その場合はその時期までに開催する義務が生じます。

理事会は「3か月に1回以上」が事実上の下限

社会福祉法には理事会の開催回数そのものを直接定めた規定はありませんが、理事長及び業務執行理事には、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告する義務があります(法第45条の16第3項)。定款で「毎会計年度に4か月を超える間隔で2回以上」と定めた場合はこの限りではありませんが、多くの法人はこの3か月ルールに沿って理事会を運営しているため、実務上は理事会を年4回程度は開催することが事実上の標準になっています。

評議員会は年1回の定時開催が基本(必要に応じて臨時開催)、理事会はそれよりずっと頻繁に開かれる、という頻度の違いも、両者の役割の違いを表しています。

つまずくのは制度理解ではなく「自法人の定款を見ていない」こと

ここまで整理してきたとおり、理事会と評議員会の権限は法律で明確に切り分けられています。それでも現場が迷うのは、事業計画・収支予算の承認のように法律ではなく定款の定め方次第で扱いが変わる議案があるからです。

私たちが法人様のご支援に入る際も、「この議案はどちらにかけるべきか」という質問には、まず社会福祉法の条文ではなく、その法人の定款を確認するところから始めます。前任者のやり方を踏襲しているだけで、実は定款の定めと運用が食い違っている、というケースも珍しくありません。

また、理事会・評議員会の議事録は、社会福祉法施行規則で記載すべき事項が細かく定められており、開催日時・場所、議事の経過の要領及びその結果、特別利害関係を有する理事・評議員の氏名などの記載漏れは、指導監査でもよく指摘される項目のひとつです。理事会・評議員会の運営状況そのものが指導監査の確認対象になるため、決議の切り分けと同じくらい、議事録の記載事項も日頃から整えておく価値があります。

まとめ

  • 評議員会は法人の基本的事項を決議する「議決機関」、理事会は業務執行を決定する「執行機関」。まずこの役割の違いが判断の出発点になる
  • 評議員会の決議事項は法律と定款で定めた事項に限定される(法第45条の8第2項)。定款変更・解散・合併・監事解任などは議決に加わることができる評議員の3分の2以上が必要な特別決議
  • 理事会には、重要な財産の処分・多額の借財・重要な役割を担う職員の選任解任など、理事に委任できず必ず決議しなければならない事項がある(法第45条の13第4項)
  • 事業計画・収支予算の承認は、定款の定め方(理事会承認のみか、評議員会承認まで必要か)によって扱いが変わる。前例踏襲ではなく定款を確認する
  • 役員改選の年は、評議員会(理事選任)と理事会(理事長選定)の開催順序・間隔に注意し、理事長不在の期間を作らない
  • 定時評議員会は実務上6月中の開催が目安、理事会は理事長・業務執行理事の3か月ごとの報告義務から年4回程度の開催が事実上の標準

参考(一次情報)


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