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社会福祉法人の会計監査人|設置基準は今も30億円・60億円です

「会計監査人の設置基準が20億円に下がったと聞いたのですが、うちも対象になりますか」

社会福祉法人様から、この質問を伺うことがあります。結論から申し上げると、この記事の公開時点で、政令が定める基準は今もサービス活動収益30億円超・負債60億円超のままです。20億円・40億円への引下げは予定として示されたことがありますが、政令は改正されていません。

とはいえ、「今は対象外」で話が終わるわけではありません。会計監査人は定款の定めがあれば任意でも置ける機関であり、置くと計算書類の承認手続そのものが変わります。段階的な引下げが将来行われる可能性もあります。

この記事では、社会福祉法と社会福祉法施行令の条文を根拠に、設置義務の基準/選任の手続/任期/監事との違い/置いた場合に変わることを整理します。

まず結論:政令の基準は30億円・60億円

会計監査人の設置義務は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第37条にあります。

特定社会福祉法人(その事業の規模が政令で定める基準を超える社会福祉法人をいう。第四十六条の五第三項において同じ。)は、会計監査人を置かなければならない。

条文が示しているのは「政令で定める基準を超える社会福祉法人」という枠だけで、金額は書かれていません。金額は社会福祉法施行令(昭和33年政令第185号)第13条の3にあります。

法第三十七条及び第四十五条の十三第五項の政令で定める基準を超える社会福祉法人は、次の各号のいずれかに該当する社会福祉法人とする。

そして各号が、次のように金額を定めています。第一号は収益、第二号は負債です。第一号は前段に定義規定が長く続くので、金額を定めている後半部分を引用します。

最終会計年度における社会福祉事業並びに法第二十六条第一項に規定する公益事業及び同項に規定する収益事業による経常的な収益の額として厚生労働省令で定めるところにより計算した額が三十億円を超えること。

第二号は全体を引用します。

最終会計年度に係る法第四十五条の三十第二項の承認を受けた貸借対照表(法第四十五条の三十一前段に規定する場合にあつては、同条の規定により定時評議員会に報告された貸借対照表とし、社会福祉法人の成立後最初の定時評議員会までの間においては、法第四十五条の二十七第一項の貸借対照表とする。)の負債の部に計上した額の合計額が六十億円を超えること。

つまり基準は次のとおりです。

判定に使う書類基準
第一号収支計算書経常的な収益の額として厚生労働省令で定めるところにより計算した額が30億円を超える
第二号貸借対照表負債の部に計上した額の合計額が60億円を超える

いずれか一方に該当すれば設置義務が生じます。 両方を満たす必要はありません。

「20億円」はどこから来た話か

社会福祉法人制度改革の際に、会計監査人の設置義務を段階的に拡大する方針が示され、第2段階として収益20億円超・負債40億円超という水準が想定されていました。この段階施行は、政令改正という形では実施されていません。

したがって、実務上の判断は次のようになります。

  • 政令が改正されるまでは、30億円・60億円が唯一の法的な基準
  • 「20億円で対象になる」という前提で予算を立てる必要は、現時点ではない
  • ただし引下げが行われれば、対象法人は一気に増える。準備の観点では意味がある

注意:判定に使う「収益」は何か

第一号の「経常的な収益の額」は、収支計算書に基づいて厚生労働省令で定めるところにより計算した額です。法人単位の数値で見るものであり、拠点区分ごとの数値ではありません。拠点区分・サービス区分の考え方については、社会福祉法人の経理規程モデルの記事でも触れています。

会計監査人は任意でも置ける

設置義務がなくても、会計監査人を置くことはできます。根拠は第36条第2項です。

社会福祉法人は、定款の定めによつて、会計監査人を置くことができる。

同条第1項は、必ず置かなければならない機関を定めています。

社会福祉法人は、評議員、評議員会、理事、理事会及び監事を置かなければならない。

評議員・評議員会・理事・理事会・監事は必置、会計監査人だけが「定款の定めによって」置ける機関という構造です。

任意設置の場合、定款に定めが必要になります。第31条第1項第8号が、定款の記載事項として次を挙げています。

会計監査人を置く場合には、これに関する事項

つまり、任意で置くには定款変更が要ります。定款変更の手続については社会福祉法人の定款変更手続きの記事をご覧ください。

誰がなれるか(資格)

第45条の2第1項が資格を定めています。

会計監査人は、公認会計士(外国公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士をいう。)を含む。以下同じ。)又は監査法人でなければならない。

公認会計士または監査法人に限られます。 税理士・税理士法人は会計監査人になれません。ここは監事と大きく違う点です(監事に資格制限はなく、財務管理について識見を有する者などから選任します)。

監査法人が選任された場合は、第2項により職務を行うべき者を選定して法人に通知します。

会計監査人に選任された監査法人は、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、これを社会福祉法人に通知しなければならない。

選任は評議員会の決議

第43条第1項です。

役員及び会計監査人は、評議員会の決議によつて選任する。

理事会ではなく評議員会の決議事項です。 役員(理事・監事)と同じ扱いになります。評議員会の決議事項の全体像は評議員会の決議事項・報告事項の記事で整理しています。

任期は1年。ただし「みなし再任」がある

会計監査人の任期は、理事・監事と違います。第45条の3第1項です。

会計監査人の任期は、選任後一年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。

実質的に1年です。理事・監事が2年(選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで)であるのと比べて短くなっています。監事の任期については社会福祉法人の監事の要件の記事をご覧ください。

ただし、毎年選任議案を出す必要はありません。第2項に「みなし再任」の規定があります。

会計監査人は、前項の定時評議員会において別段の決議がされなかつたときは、当該定時評議員会において再任されたものとみなす。

定時評議員会で何も決議しなければ、自動的に再任されます。 実務では、交代させたい場合にだけ議案を出す形になります。

なお、会計監査人を置く旨の定款の定めを廃止した場合は、第3項により、定款変更の効力が生じた時に任期が満了します。

解任には2つのルートがある

会計監査人の解任には、評議員会によるものと監事によるものの2つがあります。

評議員会による解任

第45条の4第2項です。第45条の5第1項各号のいずれかに該当するときに、評議員会の決議で解任できます。

監事による解任

こちらが特徴的です。第45条の5第1項が定めています。

監事は、会計監査人が次のいずれかに該当するときは、当該会計監査人を解任することができる。
一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。
二 会計監査人としてふさわしくない非行があつたとき。
三 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。

そして第2項が要件を定めています。

前項の規定による解任は、監事の全員の同意によつて行わなければならない。

監事の過半数ではなく、全員の同意です。 解任した場合は、第3項により、監事の互選によって定めた監事が、解任後最初に招集される評議員会にその旨と理由を報告します。

欠けた場合は監事が一時会計監査人を選ぶ

第45条の6第3項です。

会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監事は、一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。

ここでも監事が動きます。会計監査人まわりは、選任は評議員会、日常的な監督と緊急時の対応は監事という役割分担になっていると理解すると整理しやすくなります。

会計監査人と監事は何が違うか

項目監事会計監査人
設置必置(第36条第1項)定款の定めにより設置。特定社会福祉法人は義務(第36条第2項・第37条)
資格資格制限なし公認会計士または監査法人(第45条の2第1項)
選任評議員会の決議(第43条第1項)評議員会の決議(第43条第1項)
任期選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで選任後1年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで(第45条の3第1項)
みなし再任なしあり(第45条の3第2項)
監査の対象業務および会計計算書類および附属明細書、財産目録その他の書類(第45条の19第1項・第2項)

会計監査人の職務は第45条の19第1項に定められています。

会計監査人は、次節の定めるところにより、社会福祉法人の計算書類及びその附属明細書を監査する。この場合において、会計監査人は、厚生労働省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならない。

第2項により、財産目録その他の厚生労働省令で定める書類も監査の対象になります。財産目録の様式・書き方は社会福祉法人の財産目録の記事で整理しています。

置くと手続が変わる:計算書類の承認が「報告」になる

実務上いちばん大きい変化がここです。

通常、計算書類は定時評議員会の承認を受ける必要があります。しかし会計監査人設置社会福祉法人には特則があります。第45条の31です。

会計監査人設置社会福祉法人については、第四十五条の二十八第三項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い社会福祉法人の財産及び収支の状況を正しく表示しているものとして厚生労働省令で定める要件に該当する場合には、前条第二項の規定は、適用しない。この場合においては、理事は、当該計算書類の内容を定時評議員会に報告しなければならない。

一定の要件に該当すれば、定時評議員会での承認が不要になり、報告で足りることになります。 会計監査人を置くかどうかは、評議員会の議案構成そのものに影響します。

また、監査の担い手も変わります。第45条の28第2項です。

前項の規定にかかわらず、会計監査人設置社会福祉法人においては、次の各号に掲げるものは、厚生労働省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。
一 前条第二項の計算書類及びその附属明細書監事及び会計監査人
二 前条第二項の事業報告及びその附属明細書監事

計算書類とその附属明細書は監事と会計監査人の両方、事業報告とその附属明細書は監事のみという切り分けです。

(※引用中の「計算書類及びその附属明細書監事及び会計監査人」は、e-Gov法令検索の表記どおりです。号の中で「〇〇」と「その監査を受ける者」が続けて記載されています。)

対象になったとき/備えるときに実務で効くこと

会計監査を受ける場合、法人側の負担は「監査対応の書類を揃える」ところに集中します。私たちが伴走支援で伺う範囲でも、次の3点で時間が失われがちです。

  1. 証憑と仕訳のひも付けを、その都度探している。 監査では取引の裏付けを求められます。日常の入力段階で証憑の保管場所が決まっていないと、期末にまとめて探すことになります
  2. 理事会・評議員会の議事録と、承認済みの計算書類の版が一致していない。 どの版が承認されたものかが分からなくなると、確認に往復が発生します
  3. 経理規程と実際の運用がずれている。 規程に書いてある決裁権限や手続と、実際の運用が違うと、そこが論点になります

いずれも「監査のために新しく何かを作る」話ではなく、日常の置き場所を決めておけば済む話です。設置義務の対象になる前から整えておくと、対象になったときの負担が大きく変わります。

まとめ

  • 会計監査人の設置義務の基準は、この記事の公開時点で収益30億円超・負債60億円超(社会福祉法施行令第13条の3)。20億円・40億円への引下げは政令改正されていない
  • いずれか一方に該当すれば設置義務が生じる
  • 義務がなくても、定款の定めによって任意で置ける(第36条第2項・第31条第1項第8号)
  • 資格は公認会計士または監査法人に限られる(第45条の2第1項)。税理士はなれない
  • 選任は評議員会の決議(第43条第1項)。任期は1年だが、別段の決議がなければみなし再任(第45条の3)
  • 監事は全員の同意で会計監査人を解任できる(第45条の5)
  • 会計監査人を置くと、計算書類が定時評議員会の承認ではなく報告で足りる場合がある(第45条の31)

参考にした一次情報

※「経常的な収益の額」の具体的な計算方法は厚生労働省令に定めがあります。自法人が基準に該当するかどうかの最終判断は、所轄庁および会計監査人候補(公認会計士・監査法人)にご確認ください。


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