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介護のヒヤリハットの書き方|事故報告書との違いと運営基準の根拠

「ヒヤリハットの用紙、書いてもらってはいるんですが、そのあとが……」

ヒヤリハットについてご相談をいただくとき、ほぼ必ずこの形になります。集めることはできている。けれど、集めたあとに何をすればよいのかが決まっていない。だから現場も「書く意味が分からない」となり、だんだん枚数が減っていく。

この記事では、そもそもヒヤリハットの何が義務で、何が各法人の裁量なのかを、運営基準の条文に戻って切り分けます。そのうえで、書式に何を持たせておくと後で使えるのかを整理します。

先に結論を書いておきます。ヒヤリハットには国が定めた標準様式がありません。 事故報告書には令和6年11月29日改訂の国の標準様式がありますが、ヒヤリハットにはそれがない。ここが両者の一番大きな違いであり、各法人が自分で設計する余地がある理由です。

ヒヤリハットの法的な根拠はどこにあるか

「ヒヤリハット」という言葉は、運営基準の条文には出てきません。しかし、それに相当する規定はあります。特別養護老人ホームであれば、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条第1項です。条文はこう始まります。

指定介護老人福祉施設は、事故の発生又はその再発を防止するため、次の各号に定める措置を講じなければならない。

そして各号のうち、第二号がヒヤリハットの根拠にあたります。

事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備すること。

ここに書かれている「それに至る危険性がある事態」がヒヤリハットです。条文が求めているのは、次の3つが揃った「体制」です。

  1. 当該事実が報告されること(集める)
  2. その分析を通じた改善策(分析して対策を立てる)
  3. 改善策を従業者に周知徹底すること(現場に戻す)

集めるだけでは条文を満たしません。 冒頭に挙げた「書いてもらってはいるが、そのあとが」という状態は、実は運営基準の求める体制の3分の1しかできていない状態、ということになります。

第35条第1項が求める4つの措置

第二号だけを取り出すと全体像を見誤るので、4号すべてを並べます。

求められている措置
事故が発生した場合の対応、第二号に規定する報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針を整備すること
事故が発生した場合またはそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備すること
事故発生の防止のための委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができる)および従業者に対する研修を定期的に行うこと
前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと

構造としては、指針(一号)→ 報告と分析と周知の体制(二号)→ 委員会と研修(三号)→ 担当者(四号) という4点セットです。虐待防止委員会(第35条の2)が「委員会・指針・研修・担当者」の4点セットであるのと、よく似た形をしています。

注意点として、第一号は「第二号に規定する報告の方法等が記載された」指針の整備を求めています。つまり、ヒヤリハットをどう報告するかは、事故発生の防止のための指針に書いておくべき事項です。指針に書いていないなら、そこが最初に埋めるべき穴です。

委員会の開催回数は条文に書かれていない

第三号は「定期的に行うこと」としか書いていません。回数の指定は条文にありません。 ここは各自治体の解釈通知や集団指導の資料で示されている場合があるので、所轄庁の指導内容を確認してください。委員会の回数の考え方については、虐待防止委員会の開催回数と議事録の記事で、同じ構造の論点を整理しています。

事故報告書とヒヤリハットは何が違うのか

混同されやすいので、表で切り分けます。

項目事故報告書ヒヤリハット
根拠省令第39号第35条第2項(連絡)・第3項(記録)省令第39号第35条第1項第二号(報告・分析・周知の体制)
対象実際に発生した事故事故に至る危険性がある事態(および事故そのもの)
提出先市町村、入所者の家族等事業所内(外部への提出義務はない)
国の標準様式あり(令和6年11月29日改訂)なし
期限第1報は5日以内が目安定めなし
目的事実の報告と、行政による情報の収集・分析分析を通じた改善策の立案と、従業者への周知

外部に出すか、内部で使うか。 ここが決定的な違いです。事故報告書は市町村という外部の宛先があるので、様式が国で標準化されています。ヒヤリハットは宛先が事業所内なので、標準様式がありません。

言い換えると、ヒヤリハットの書式は「自分たちが後で使えるかどうか」だけを基準に設計してよいということです。外部提出用の書式に引きずられる必要はありません。

事故報告書の様式・期限・報告先については、介護の事故報告書の書き方と報告先の記事で詳しく整理しています。

障がい福祉サービスには、この規定がない

介護と障がい福祉を両方運営している法人では、ここに注意が必要です。

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)には、「事故発生の防止」の体制整備を求める規定がありません。 同省令第40条は「事故発生時の対応」という見出しで、次の3項だけを定めています。

指定居宅介護事業者は、利用者に対する指定居宅介護の提供により事故が発生した場合は、都道府県、市町村、当該利用者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。

第2項が記録、第3項が損害賠償です。

指定居宅介護事業者は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について、記録しなければならない。

つまり、障がい福祉サービス側は「事故が起きたときの連絡・記録・賠償」までが条文の要求で、ヒヤリハットの報告体制は求められていません。

 介護(省令第39号)障がい福祉(省令第171号)
事故発生時の連絡第35条第2項(市町村、家族等)第40条第1項(都道府県、市町村、家族等)
事故の記録第35条第3項第40条第2項
損害賠償第35条第4項第40条第3項
事故発生の防止のための指針第35条第1項第一号規定なし
ヒヤリハットの報告・分析・周知の体制第35条第1項第二号規定なし
事故発生の防止のための委員会・研修第35条第1項第三号規定なし
担当者第35条第1項第四号規定なし

これは「障がい福祉ではヒヤリハットをやらなくてよい」という意味ではありません。運営基準上の義務としては求められていない、という意味です。実務としては、虐待防止(第40条の2)の取組と重なる部分が大きく、多くの事業所が自主的に取り組んでいます。

ただし、法人の指針や規程を作るときは、この差を意識しておく必要があります。 介護の様式をそのまま障がい福祉に流用すると、条文にない義務を自分で背負い込むことになりますし、逆に障がい福祉の様式を介護に持ち込むと、第35条第1項第二号を満たせません。

書式に何を持たせるか

国の標準様式がない以上、設計は自由です。ただし、条文が求めている「報告 → 分析 → 周知」を回すには、最低限これらが必要になります。

集める側(現場が書く欄)

  • いつ・どこで・誰に(利用者)・誰が(発見した職員)
  • 何が起きかけたか(事実のみ。評価や反省は分ける)
  • 実際にはどうなったか(未然に防げた/軽微な影響があった)
  • その場でどう対応したか

現場に書いてもらう欄は、これ以上増やさないことをおすすめしています。分析欄まで現場に書かせると、記入のハードルが上がって枚数が落ちます。枚数が落ちると、そもそも分析の材料がなくなります。

分析する側(委員会・担当者が使う欄)

  • 要因の分類(本人要因・職員要因・環境要因)
  • 改善策
  • 周知の方法と日付(誰に、どうやって伝えたか)
  • 評価時期と結果

要因を「本人要因・職員要因・環境要因」の3つに分けるのは、事故報告書の国の標準様式が採っている分類です。ヒヤリハットも同じ分類で持っておくと、事故報告書へ引き継ぐときに書き直しが要りません。

集計できる形にしておく

「分析を通じた改善策」を出すには、1件ずつ読むだけでは足りません。同じ場所・同じ時間帯・同じ種別が繰り返されていないかを見るには、集計できる形が要ります。

事故報告書の国の標準様式が令和6年改訂で選択式をチェックボックス形式に変えたのは、まさにこの「データ化」のためでした。ヒヤリハットも、発生場所・時間帯・種別は自由記述にせず、選択肢から選ぶ形にしておくと、後から数えられます。

  • 発生場所(居室・トイレ・廊下・浴室・食堂等の共用部 など)
  • 時間帯
  • 種別(転倒・転落・誤嚥・誤薬 など)

これだけ選択式にしておけば、委員会で「今期は入浴前後の時間帯が多い」という話ができるようになります。逐語の自由記述だけでは、この議論に到達しません。

現場で枚数が減っていくときに効いたこと

私たちが施設様に伺うなかで、ヒヤリハットが続かない理由として繰り返し出てくるのは、次の3つです。

  1. 書くのに時間がかかる。 紙をもらいに行き、書き、詰所に戻して提出する。この動線が長いほど「後で書こう」になり、後では書かれません。その場で、その端末から出せるかが分かれ目になります
  2. 書いたものが返ってこない。 条文が求めている「周知徹底」が実際には委員会の議事録の中だけで完結していると、書いた本人には何も返りません。改善策を、報告した職員に見える形で戻すだけで、翌月の枚数が変わります
  3. 転記が二度手間になっている。 ヒヤリハットとして書いたものが、事故報告書になった瞬間にゼロから書き直しになる。要因の分類を国の様式に揃えておけば、この転記は減らせます

ヒヤリハットは、書式を凝るほど続かなくなる書類です。入口をできるだけ軽くして、分析側に手間を寄せるのが基本の設計になります。

運営指導で事故発生の防止の体制がどう確認されるかについては、障害福祉サービスの運営指導の記事もあわせてご覧ください(障がい福祉側の記事ですが、確認文書の考え方は共通です)。

まとめ

  • ヒヤリハットの根拠は、省令第39号第35条第1項第二号の「事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態」の報告・分析・周知の体制
  • 条文が求めているのは集めることだけではない。分析して改善策を立て、従業者に周知徹底するところまでが一体の義務
  • 報告の方法は、第一号の事故発生の防止のための指針に記載すべき事項
  • ヒヤリハットに国の標準様式はない。 事故報告書には令和6年11月29日改訂の国の標準様式がある
  • 障がい福祉サービス(省令第171号)には、事故発生の防止の体制整備の規定がない。 介護と同じ様式をそのまま流用しない
  • 書式は入口を軽く、分析側に手間を寄せる。発生場所・時間帯・種別は選択式にして集計できる形にする
  • 要因の分類は本人要因・職員要因・環境要因に揃えると、事故報告書への引き継ぎで書き直しが要らない

参考にした一次情報

※委員会の開催回数や指針の記載事項について、自治体が独自に基準を示している場合があります。最終的な取扱いは所轄庁にご確認ください。また、上記の条文は特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)のものです。サービス種別ごとに条番号が異なりますので、自事業所の該当条文をご確認ください。


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