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社会福祉法人の基本財産|処分・担保提供に所轄庁の承認が要る根拠

「基本財産を売却したいのですが、県の承認は必要ですか」

施設の建て替えや土地の売却を検討する段階で、事務長様からこうしたご質問をいただくことがあります。答えは多くの場合「必要です」なのですが、自治体の手引きや解説記事の多くは「所轄庁の承認が必要です」という結論だけを示していて、その根拠がどこに書いてあるのかまでは説明していません。「社会福祉法に定めがある」と紹介している資料も見かけますが、実際に条文を確認すると、基本財産の処分について所轄庁の承認を直接求める規定は、社会福祉法の条文そのものには見当たりません。

この記事では、社会福祉法・厚生労働省の社会福祉法人審査基準・社会福祉法人定款例という一次資料に沿って、「なぜ所轄庁の承認が要るのか」「承認が要らないのはどんな場合か」「実務でどこを確認すればよいか」を整理します。

社会福祉法の条文には、処分の承認要件が直接書かれていない

社会福祉法第二十五条は、社会福祉法人に次のことを求めています。

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない。

「資産を備えなければならない」という保有の義務は明文で定められています。一方で、その資産(基本財産)を処分したり担保に供したりする際に所轄庁の承認を受けなければならない、という規定は、社会福祉法の条文そのものには存在しません。社会福祉法第三十条は、所轄庁の定義を置いているだけです。

社会福祉法人の所轄庁は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事とする。

では、「所轄庁の承認が必要」という実務上の常識は、どこから来ているのでしょうか。

根拠は審査基準を受けた「定款」——だから出発点は自法人の定款

厚生労働省の社会福祉法人審査基準(「社会福祉法人の認可について」の別紙1)は、基本財産の位置づけについてこう定めています。

基本財産は、法人存立の基礎となるものであるから、これを処分し、又は担保に供する場合には、法第30条に規定する所轄庁の承認を受けなければならない旨を定款に明記すること。

ここが、法律の条文と決定的に違う点です。審査基準は「所轄庁の承認を受けなければならない」と直接命じているのではなく、その旨を定款に明記することを法人に求めています。つまり所轄庁の承認という手続きは、法律から直接生じているのではなく、審査基準の求めに応じて各法人が定款に書き込んだ結果として存在しているのです。

したがって、基本財産の処分・担保提供を検討するときにまず確認すべきは、法令の条文ではなく自法人の定款です。厚生労働省が示す社会福祉法人定款例では、この審査基準の求めを次のように具体化しています。

定款例第29条が定める手続きと、承認が要らない3つの例外

定款例第29条は、次のとおりです。

基本財産を処分し、又は担保に供しようとするときは、理事会及び評議員会の承認を得て、〔所轄庁〕の承認を得なければならない。ただし、次の各号に掲げる場合には、〔所轄庁〕の承認は必要としない。

原則は「理事会及び評議員会の承認を得て、所轄庁の承認を得る」という三段階です。そのうえで、次の3つに該当する場合は所轄庁の承認が不要とされています。

  • 独立行政法人福祉医療機構に対して基本財産を担保に供する場合
  • 福祉医療機構の福祉貸付と協調して行われる融資に関する契約を結んだ民間金融機関に対して、協調融資に係る担保として基本財産を供する場合
  • 社会福祉施設整備の資金融資を行う確実な民間金融機関に対して基本財産を担保に供する場合で、事業計画が適切である旨の関係行政庁の意見書を所轄庁に届け出た場合

このうち3つ目の例外には、承認不要と引き換えの後続義務があります。定款例第29条三号は次のように定めています。

社会福祉施設整備のための資金に対する融資を行う確実な民間金融機関に対して基本財産を担保に供する場合で、当該事業計画が適切であるとの関係行政庁による意見書を所轄庁に届け出た場合。なお、当該貸付に係る償還が滞った場合には、遅滞なく所轄庁に届け出るものとする。

「承認は不要」で終わりではなく、償還が滞った場合には遅滞なく所轄庁に届け出るという義務が対になっています。融資契約の締結時にこの届出義務を見落とすと、償還が滞った局面で対応が後手に回りかねません。福祉医療機構の融資や建設工事の契約手続き全般については、記事64「社会福祉法人の入札・契約」もあわせてご確認ください。

手続の順序は「理事会 → 評議員会 → 所轄庁」

先ほどの第29条にあったとおり、所轄庁への承認申請の前には、理事会と評議員会それぞれの承認が要ります。評議員会がこれを決議事項として持つことは、定款例第10条にも明記されています。

(7) 基本財産の処分

定款例第10条は評議員会の決議事項を列挙する条文で、基本財産の処分はその一つとして名指しされています。理事会は業務執行の決定機関、評議員会は法人運営の基本的な事項を決議する機関という役割分担のなかで、基本財産の処分は評議員会マターとして位置づけられているわけです。所轄庁への事前相談を優先させて、理事会・評議員会の議決が後追いになっているケースも見かけますが、正しい順序は理事会及び評議員会の承認 → 所轄庁の承認です。

古い定款・古い情報のままになっていないか

ここまで紹介した定款例は、令和2年12月25日付の最終改正版です。しかし、2016年の社会福祉法人制度改革より前は「社会福祉法人定款準則」という別の様式が使われており、当時の基本財産の処分要件は「理事総数の三分の二以上の同意」でした。現行の定款例は「理事会及び評議員会の承認」であり、承認機関そのものが違います。制度改革前に作成した定款を長期間見直していない法人様では、この旧い要件が条文として残っている可能性があります。

さらに注意が必要なのは、厚生労働省の法令等データベース(溶け込み版)です。2026年9月24日時点で確認したところ、この該当ページは2016年改革前の記述のままで、「社会福祉法人定款準則第14条」「理事総数の三分の二以上の同意」「運用財産」といった旧い用語が残っており、現行の「会計監査人」や「定款例」という語は一件も出てきません。インターネット検索でこのページにたどり着いてしまうと、古い手続きのまま理解してしまうおそれがあります。最新の内容を確認するときは、このデータベースではなく、厚生労働省が公開している審査基準(PDF)と定款例(Word)を直接参照してください。

資産の区分についても同様の注意が要ります。現行の審査基準は、資産を次のように区分しています。

法人の資産の区分は、基本財産、その他財産、公益事業用財産(公益事業を行う場合に限る。)及び収益事業用財産(収益事業を行う場合に限る。)とすること。

旧い資料に出てくる「運用財産」という区分は、現行の枠組みには存在しません。自法人の定款・規程を確認する際は、この4区分(基本財産・その他財産・公益事業用財産・収益事業用財産)に沿っているかどうかも、あわせてチェックしておきたいところです。

基本財産を処分すると、定款変更の手続きにもつながる

定款例第28条第2項は、基本財産を物件ごとに定款へ書き込む形を取っています。

2 基本財産は、次の各号に掲げる財産をもって構成する。

このあとに、園舎や敷地といった個々の物件が号ごとに列挙される形式です。つまり基本財産を処分すると、定款に記載されたその物件の記述が実態と合わなくなるため、定款変更の手続きが必要になります。社会福祉法第四十五条の三十六第1項が定めるとおり、定款の変更は評議員会の決議によらなければなりません。

定款の変更は、評議員会の決議によらなければならない。

基本財産の処分に関する評議員会決議と、それに伴う定款変更の評議員会決議は、実務上まとめて審議されることが多いものの、性質としては別の議案です。定款変更の認可・届出の区分や登記までの実務フローは、記事06「社会福祉法人の定款変更手続き」で詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。

なお、基本財産に指定して寄附を受けた場合の扱いも、定款例第28条第4項に定められています。

基本財産に指定されて寄附された金品は、速やかに第二項に掲げるため、必要な手続をとらなければならない。

寄附金を基本財産として受け入れる際の実務は、記事30「社会福祉法人の寄附金」でも扱っています。

理事長は基本財産を専決できない

基本財産の処分は、理事長の判断だけで進めることができません。社会福祉法第四十五条の十三第4項は、理事会が理事に委任できない事項を列挙しており、その一号にこうあります。

重要な財産の処分及び譲受け

基本財産はまさにこの「重要な財産」にあたるため、この決定を理事長個人に委任すること自体が認められません。定款例第24条は理事長の専決事項を定めていますが、その備考でも対象を限定しています。

⑥ 基本財産以外の固定資産の取得及び改良等のための支出並びにこれらの処分

理事長が専決できるのは「基本財産以外の固定資産」に限られており、基本財産はそもそも専決の対象外です。専決規程を含む規程全体の体系と、どの機関がどの決裁を行うのかについては、記事49「社会福祉法人の規程一覧と決裁経路」で整理していますので、あわせてご覧ください。

基本財産は管理運用にも制限がある

処分・担保提供だけでなく、基本財産を保有している間の管理運用にも制限があります。審査基準は、基本財産の管理運用について「原則として適当ではない」財産・方法を4つ挙げています。

① 価格の変動が著しい財産(株式、株式投資信託、金、外貨建債券等)
② 客観的評価が困難な財産(美術品、骨董品等)
③ 減価する財産(建築物、建造物等減価償却資産)
④ 回収が困難になるおそれのある方法(融資)

基本財産は、元本が確実に回収できるほか、固定資産としての常識的な運用益が得られる、又は利用価値を生ずる方法で管理することが求められています。余裕資金の運用を検討する際は、その対象が基本財産かその他財産かによって許容される方法が異なる、という点も押さえておく必要があります。

実務の打ち手:定款・固定資産台帳・登記簿を1枚で突き合わせる

ここまで見てきたとおり、基本財産に関する判断の出発点は、法令の条文ではなく自法人の定款です。私たちがご支援する法人様には、次の3つを1枚の一覧に突き合わせることをおすすめしています。

  • 定款に記載されている基本財産の物件(所在地・種類・面積等)
  • 固定資産台帳上の対応する資産
  • 登記簿上の名義・地目・面積

この3つが完全に一致していない状態は珍しくありません。過去に処分した物件の記載が定款に残っている、逆に取得済みの物件が定款に反映されていない、といったずれは、いざ処分や担保提供を検討する段階になって初めて発覚しがちです。決算や指導監査の直前ではなく、施設整備や借入れの計画が動き出す前の段階でこの突き合わせを済ませておくと、承認申請の準備がスムーズになります。

まとめ

  • 基本財産の処分・担保提供に所轄庁の承認が要るという定めは、社会福祉法の条文には直接書かれていない
  • 根拠は社会福祉法人審査基準が「定款に明記すること」を求めている点にある。だから出発点は自法人の定款
  • 定款例第29条は「理事会及び評議員会の承認 → 所轄庁の承認」の順序を定め、福祉医療機構関連など3つの例外を置いている
  • 3つ目の例外には「償還が滞った場合の届出義務」がセットになっている
  • 厚生労働省の法令等データベース(溶け込み版)は2026年9月24日時点で2016年改革前の記述のままなので、参照先を誤らないよう注意する
  • 基本財産を処分すると定款変更の手続きにつながり、理事長は基本財産を専決できない
  • 基本財産は保有中の管理運用にも制限がある

参考(一次情報)


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