「うちの経理規程、いつの間にか古いままだった」——令和8年度に入ってから、社会福祉法人様の本部事務局からこのようなご相談をいただく機会が増えました。
理由は、随意契約で2社以上の見積もりでよいとされる上限額を定めた課長通知が改正されたためです。多くの法人の経理規程には、この上限額が具体的な金額として書き込まれています。国の基準が変わった以上、規程側も見直しが必要になります。
この記事では、「社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」(平成29年3月29日付け通知、令和8年3月17日最終改正)を一次情報として、随意契約の限度額、見積もりの取り方、契約事務の委任、理事会への報告義務まで、契約事務の実務を整理します。
この記事で扱う通知について
社会福祉法人の入札・契約に関するルールは、「社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」という一本の課長通知にまとめられています。平成29年3月29日付けで雇児総発0329第1号・社援基発0329第1号・障企発0329第1号・老高発0329第3号として発出され、平成12年2月17日付けの旧通知(社援施第7号)を廃止して置き換えたものです。
この通知は、地方自治法第245条の9第1項及び第3項に基づく法定受託事務の処理基準として発出されています。所轄庁が指導監査等で契約事務を確認する際の、いわば「ものさし」そのものだと考えてください。
随意契約の限度額(別表)はいくらか
通知の別表では、随意契約によることができる限度額が、会計監査を受けるかどうかで区分されています。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 会計監査を受けない法人 | 1,000万円 |
| 会計監査を受ける法人(会計監査人設置法人及び会計監査人を設置せずに公認会計士又は監査法人による会計監査を受ける法人) | 法人の実態に応じて上限額の範囲で設定。上限額は建築工事:20億円/建築技術・サービス:2億円/物品等:3,000万円 |
各法人において、この別表に定める額より小額な基準を経理規程で設けることは差し支えないとされています。「国の上限いっぱいまで随意契約にできる」という意味ではなく、あくまで上限を示すものだという理解が必要です。
この限度額の考え方は、通知の本文でこう定義されています。
売買、賃貸借、請負その他の契約でその予定価格が別表に掲げる区分に応じ同表右欄に定める額を超えない場合
令和8年度の改正点:価格随意契約の「2社見積もりでよい」上限額が引き上げ
ここが今回の改正の核心です。令和8年3月17日付けで、通知の発出者にこども家庭庁成育局総務課長・こども家庭庁支援局総務課長が加わる形で改正が行われ、令和8年4月1日から適用されています。
通知では、随意契約における見積もりの取り方について、次のように定められています。
価格による随意契約((3)アの契約をいう。)は、3社以上の業者から見積もりを徴し比較するなど、適正な価格を客観的に判断すること。ただし、契約の種類に応じて、下記の金額を超えない場合には、2社以上の業者からの見積もりで差し支えないこと。
原則は3社以上の見積もりであることは変わりません。改正されたのは、「2社以上でよい」とされる上限額の部分です。
| 契約の種類 | 改正前 | 改正後(令和8年4月1日〜) |
|---|---|---|
| 工事又は製造の請負 | 250万円 | 400万円 |
| 食料品・物品等の買入れ | 160万円 | 300万円 |
| 上記に掲げるもの以外 | 100万円 | 200万円 |
通知本文の金額の記載は、次のとおりです。
・ 工事又は製造の請負:400万円 ・ 食料品・物品等の買入れ:300万円 ・ 上記に掲げるもの以外:200万円
改正の趣旨は、通知の末尾でこう述べられています。
今般、別添のとおり改正し、令和8年4月1日より適用することといたしました。
注意:厚生労働省の法令等データベースは改正前の金額のまま
ここは実務上、非常に重要な注意点です。
厚生労働省の法令等データベース(いわゆる溶け込み版)に掲載されている本通知の本文は、2026年9月21日時点で、改正前の金額(250万円/160万円/100万円)のままになっています。
検索でこちらのデータベース版を見て「うちの法人はまだ250万円のままでよい」と判断すると、実務が改正前の基準のままになってしまいます。データベースの反映には一定のタイムラグがあるため、金額を確認するときは必ず改正通知そのもの(厚生労働省のページに掲載されているPDF)を見るようにしてください。
- 原文PDF:https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000666536.pdf
- 掲載ページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13323.html
- 法令等データベース(改正前の金額のまま):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2553&dataType=1&pageNo=1
随意契約によることができる7つの類型
そもそも、どのような場合に競争入札ではなく随意契約が認められるのか、通知では次の7つの類型(ア〜キ)が示されています。
- ア 予定価格が別表の額以下であるとき
- イ 契約の性質又は目的が競争入札に適さないとき
- ウ 緊急の必要により競争入札に付することができないとき
- エ 競争入札に付することが不利と認められるとき
- オ 時価に比して有利な価格で契約できる見込みがあるときなど
- カ 競争入札に付しても入札者がない、又は落札者がないとき
- キ 落札者が契約を締結しないとき
このうちエ・オには歯止めがあり、予定価格が1,000万円を超える施設整備・設備整備を行う場合には適用されないとされています。「不利だから」「有利だから」という理由だけで、金額の大きな施設整備契約まで無条件に随意契約にできるわけではありません。
なお、施設整備に係る契約については、平成13年7月23日付雇児発第488号・社援発第1275号・老発第274号「社会福祉法人の認可等の適正化並びに社会福祉法人及び社会福祉施設に対する指導監督の徹底について」の内容に変更が加えられているわけではない点も、あわせて確認しておくとよいでしょう。
予定価格はどう定めるか
見積もりを何社から取るかという話の前提には、そもそも予定価格をどう定めるかという論点があります。通知では次のように定められています。
予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、前年度の実績や当該年度の予算を参考に取引の実例価格、需要の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
「予算があるから、その金額を予定価格にする」というだけでは足りません。前年度実績や市場の実勢価格まで含めて検討したことが分かる記録を残しておくと、指導監査の場でも説明がしやすくなります。
契約事務を職員に委任する場合の注意点
理事長がすべての契約に自ら関わることは現実的ではありません。通知では、契約事務を職員に委任・分担させること自体は認めつつ、次の2点を求めています。
理事長が契約について職員に委任する場合は、その委任の範囲を明確に定めること。
契約に関する具体的事務処理を契約担当者以外の職員に行わせることは差し支えないこと。
ポイントは「委任の範囲を明確に定めること」です。誰が、いくらまでの契約について、どこまでの権限を持つのかが規程上はっきりしていないと、指導監査で「委任の範囲が不明確」と指摘される原因になります。
会計監査に係る契約は別枠で随意契約が可能
会計監査人や会計監査を担う公認会計士・監査法人との契約については、通知上、特別な扱いが定められています。
会計監査に係る契約については、(3)から(5)までにかかわらず、随意契約が可能であること。
ただし、これは「価格だけで決めてよい」という意味ではありません。複数の会計監査人候補者から提案書等を入手し、法人において選定基準を作成したうえで、提案内容を比較検討して選定することが求められています。価格のみによる選定は適当ではないとされている点に注意が必要です。参考資料として、日本公認会計士協会のホームページで公表されている公会計協議会社会保障部会の部会員リストを活用することもできます。
会計監査人との関係を含めた実務のポイントは、以下の記事でも解説しています。
重要な契約は理事会決定・報告が必須
金額の大きな契約や重要な契約については、理事長・事務局の判断だけで完結させることはできません。通知では次のように定められています。
重要な契約については、法第45条の13第4項に基づき、理事会において決定するとともに、理事長及び業務執行理事は、社会福祉法(昭和26年法律第45号。以下「法」という。)第45条の16第3項に基づき、契約結果等を理事会に報告しなければならないこと。
「決定」と「結果報告」の両方が求められている点がポイントです。理事会議事録に、契約の決定と実施結果の報告が両方きちんと記録として残っているかは、指導監査でも確認される観点のひとつです。指導監査全般の準備の考え方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
保存期間も見落とせない
契約に関する書類は、作れば終わりではなく、一定期間の保存義務があります。
- 会計帳簿:法第45条の24に基づき、閉鎖の時から10年間保存。契約に係る証憑書類についても同様に10年間保存
- 計算書類:法第45条の27に基づき、毎会計年度終了後3月以内に作成し、作成した時から10年間保存
- 財産目録:法第45条の34に基づき、5年間保存
見積書や契約書といった証憑類は、会計帳簿と同じ10年間の保存が必要です。「経理担当者しか保管場所を知らない」「退職した職員のファイルにしか残っていない」という状態は、指導監査だけでなく日常の事務効率の面でもリスクになります。
経理規程の見直しが必要になる
ここまでの内容をふまえると、多くの法人で経理規程の見直しが必要になることが分かります。特に確認していただきたいのは次の点です。
- 経理規程に「2社以上の見積もりでよい上限額」を具体的な金額(250万円・160万円・100万円など、改正前の金額)で書き込んでいないか
- 随意契約の限度額(別表)を、法人独自の基準として規程に転記している場合、その金額が古いままになっていないか
- 契約事務の委任範囲が、規程上どこまで明確に書かれているか
規程の条文をどう整えるかについては、以下の記事でモデル条文を紹介しています。今回の改正にあわせて金額部分を見直す際の参考にしてください。
実務を軽くする3つのポイント
1. 見積書・契約書をその場でデジタル保存する
契約の証憑書類は10年間の保存義務があります。契約が成立したその場でスキャン・保存する運用にしておけば、指導監査の直前に「あの見積書はどこにあるか」と探し回る必要がなくなります。
2. 理事会議事録に「決定」と「結果報告」を両方残す
重要な契約は理事会での決定と、実施結果の報告の両方が求められています。議事録のフォーマットに、契約の決定事項と結果報告の欄をあらかじめ用意しておくと、記録の抜け漏れを防げます。
3. 経理規程の金額が最新かを定期的に確認する
課長通知の金額は、今回のように改正されることがあります。経理規程に具体的な金額を書き込んでいる場合は、通知の改正状況を定期的に確認し、規程側の見直しが必要かどうかをチェックする担当・タイミングを決めておくとよいでしょう。
私たちがご支援する際も、契約台帳・見積書の保存・理事会報告の記録を仕組みで回せるようにするところから着手することが多くあります。「今の運用でどこに時間がかかっているか」を一緒に確認するところから始められます。
まとめ
- 社会福祉法人の入札・契約のルールは、「社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」という課長通知に基づく
- 令和8年3月17日付けで改正され、令和8年4月1日から適用。価格随意契約で2社以上の見積もりでよいとされる上限額が、工事又は製造の請負250万円→400万円、食料品・物品等の買入れ160万円→300万円、それ以外100万円→200万円に引き上げられた(3社以上が原則である点は変わらない)
- 厚生労働省の法令等データベース(溶け込み版)は改正前の金額のままなので、金額確認は必ず改正通知のPDFで行う
- 随意契約の限度額(別表)、契約事務の委任範囲、会計監査に係る契約の特例、理事会での決定・報告義務も、あわせて確認しておきたいポイント
- 経理規程に具体的な金額を書き込んでいる法人は、今回の改正にあわせた見直しが必要になる可能性が高い
参考(一次情報)
- 社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて(原文PDF)|厚生労働省
- 社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて(掲載ページ)|厚生労働省
- 法令等データベース(改正前の金額のまま掲載)|厚生労働省
- 社会福祉法|e-Gov法令検索
契約台帳・見積の保存・理事会報告を仕組みで回したい法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。まずは、いま契約事務のどこに時間がかかっているかを一緒に見るところから始めます。