決算書をそろえる時期になると、「貸借対照表は法人全体のものだけでよいのか、拠点ごとにも要るのか」「純資産の部は何を並べるのか」「資金収支計算書の最後の数字は、貸借対照表のどこから出てくるのか」といった疑問が出てきます。理事会や監事への説明のとき、貸借対照表のどこを見れば何が分かるのかを聞かれて、言葉に詰まった経験がある方もいらっしゃると思います。
貸借対照表のつくり方は、社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号。以下「基準」)の第25条から第28条に書かれています。そのうえで、評価の考え方(第4条・第5条)、純資産の中身(第6条)、資金収支計算書の資金の範囲(第13条)、注記(第29条)、附属明細書(第30条)、財産目録との金額の一致(第33条)が、貸借対照表を読むときの周辺の条文になります。
令和8年11月4日にe-Gov法令検索から取得した条文が根拠です。この記事では、次の3点を条文に沿って整理します。
- 貸借対照表は、どんな区分で、どんな種類を作ることになっているのか
- 貸借対照表のどこを見ると、何が確かめられるのか(条文の区分に沿った見方)
- 資金収支計算書の「支払資金残高」は、貸借対照表の何から計算できるのか
計算書類の全体像と承認の手続は、計算書類の記事で整理しています。この記事では、そのうち貸借対照表だけを掘り下げます。条文から言えることと言えないことは分けて書きます。
先に結論
- 貸借対照表は、「当該会計年度末現在における全ての資産、負債及び純資産の状態を明瞭に表示する」ものです(基準第25条)。
- 区分は、資産の部・負債の部・純資産の部の3つ。資産の部は流動資産と固定資産、負債の部は流動負債と固定負債に分けます(第26条第1項)。
- 純資産の部は、基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金、次期繰越活動増減差額の4つに区分します(第26条第2項)。
- 計算書類としての貸借対照表の種類は、法人単位貸借対照表、貸借対照表内訳表、事業区分貸借対照表内訳表、拠点区分貸借対照表の4つです(第7条の2第1項第一号、第27条)。
- 条文に挙がっている貸借対照表の種類に、サービス区分ごとの貸借対照表はありません。サービス区分は、注記(第29条)と附属明細書(第30条)の中で出てきます。
- 資金収支計算書の資金(支払資金)は、流動資産と流動負債から、条文が除くものを除いたものです。支払資金残高は、その流動資産と流動負債の差額です(第13条)。
- 財産目録の金額は、貸借対照表に記載した金額と同一とされています(第33条)。
- 勘定科目は、別表第三のとおりとされています(第28条)。別表第三の本文は、この記事の一次情報には入っていません。
貸借対照表の内容:第25条
第25条第1項は、次のとおりです。
貸借対照表は、当該会計年度末現在における全ての資産、負債及び純資産の状態を明瞭に表示するものでなければならない。
読み取れることは次の3つです。
- 時点は、会計年度末現在。期間の動きを表す書類ではなく、一時点の状態を表す書類
- 範囲は、全ての資産、負債及び純資産。一部の資産だけを載せる書類ではない
- 求められているのは、明瞭に表示すること
第2条(会計原則)の第1項第一号は、計算書類について次のように定めています。
計算書類は、資金収支及び純資産の増減の状況並びに資産、負債及び純資産の状態に関する真実な内容を明瞭に表示すること。
このうち「資産、負債及び純資産の状態」を表示するのが貸借対照表、「資金収支及び純資産の増減の状況」を表示するのが収支計算書、という分担になります。第1条第1項は、計算書類を次のように定義しています。
計算書類(貸借対照表及び収支計算書をいう。以下同じ。)
つまり、基準でいう計算書類は貸借対照表と収支計算書の2つです。附属明細書と財産目録は、計算書類そのものではなく、別の書類として並んでいます。
貸借対照表の区分:第26条
部と、流動・固定の区分
第26条第1項は、次のとおりです。
貸借対照表は、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、更に資産の部は流動資産及び固定資産に、負債の部は流動負債及び固定負債に区分しなければならない。
表にすると、次のようになります。
| 部 | 条文の区分 | 区分の数 |
|---|---|---|
| 資産の部 | 流動資産、固定資産 | 2つ |
| 負債の部 | 流動負債、固定負債 | 2つ |
| 純資産の部 | 第2項で定める区分 | 4つ |
流動と固定の線引きの基準(何をもって流動とするか)は、基準の本則(今回読んだ条文)には書かれていません。どの勘定科目がどちらに入るかは、別表第三の定めと、運用上の取扱いに関わります。
純資産の部の4つの区分
第26条第2項は、純資産の部を次のように区分すると定めています。
純資産の部は、基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金及び次期繰越活動増減差額に区分するものとする。
この4つの区分について、第6条が、基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金の3つに何を計上するかを定めています。詳しくは後の「純資産の部の中身:第6条」で整理します。
貸借対照表のどこを見ると何が分かるか
ここまでの条文の区分に沿って、「どこを見ると何が確かめられるか」を整理します。条文から導いた弊社の整理で、経営分析の指標や数値の目安は条文に書かれていないので、この記事では扱いません。
| 見る場所 | 条文の根拠 | 確かめられること |
|---|---|---|
| 資産の部全体 | 第25条、第26条第1項 | 年度末に、法人が全ての資産をどう持っているか |
| 流動資産と流動負債 | 第26条第1項、第13条 | 支払資金の計算の材料が、どの区分にあるか |
| 固定資産 | 第4条第2項、第3項 | 償却や時価の扱いが、評価の条文に合っているか |
| 負債の部全体 | 第5条第1項、第2項 | 債務額と引当金が、条文のとおり付されているか |
| 純資産の部の4区分 | 第26条第2項、第6条 | 純資産が、どの区分に、どれだけあるか |
| 注記 | 第29条 | 数字の背景にある会計方針や担保などが書かれているか |
読む順番としては、(1)全体の区分が条文どおりになっているか、(2)流動資産と流動負債から支払資金残高が出せるか、(3)純資産の部の4区分に、第6条の定めに合う額が入っているか、(4)注記に必要な事項があるか、の順で見ていくと、条文との対応が付けやすくなります。
貸借対照表の種類と様式:第27条
4つの種類
計算書類の種類は、第7条の2で定められています。貸借対照表については、第1項第一号が次の4つを挙げています。
次に掲げる貸借対照表 イ法人単位貸借対照表 ロ貸借対照表内訳表 ハ事業区分貸借対照表内訳表 ニ拠点区分貸借対照表
第27条は、それぞれが何を表示するかを定めています。
法人単位貸借対照表は、法人全体について表示するものとする。
貸借対照表内訳表及び事業区分貸借対照表内訳表は、事業区分の情報を表示するものとする。
拠点区分貸借対照表は、拠点区分別の情報を表示するものとする。
整理すると、次のとおりです。
| 種類 | 表示する範囲 | 条文 |
|---|---|---|
| 法人単位貸借対照表 | 法人全体 | 第27条第1項 |
| 貸借対照表内訳表 | 事業区分の情報 | 第27条第2項 |
| 事業区分貸借対照表内訳表 | 事業区分の情報 | 第27条第2項 |
| 拠点区分貸借対照表 | 拠点区分別の情報 | 第27条第3項 |
貸借対照表内訳表と事業区分貸借対照表内訳表は、第2項が同じ文で定めています。2つの表の違い(どの単位で、どの事業区分を並べるか)は、第27条の文言からは決まりません。様式は第4項が定めていますが、様式そのものは、この記事の一次情報には入っていません。
第一項から前項までの様式は、第三号第一様式から第四様式までのとおりとする。
条文は「第三号第一様式から第四様式まで」と書いており、4つの種類と4つの様式が対応していることまでは、条文の文言だけでは読み取れません。どの様式がどの種類にあたるかは、様式そのものを確認してください。
作成を省略できる場合
第7条の2第2項は、次の場合に一部の計算書類の作成を省略できると定めています。
社会福祉法人は、次の各号に掲げる場合には、前項の規定にかかわらず、当該各号に定める計算書類の作成を省略することができる。
貸借対照表に関わる部分を整理すると、次のとおりです。
| 場合 | 省略できる貸借対照表 | 条文 |
|---|---|---|
| 事業区分が社会福祉事業のみ | 貸借対照表内訳表 | 第2項第一号 |
| 拠点区分の数が一 | 貸借対照表内訳表と事業区分貸借対照表内訳表 | 第2項第二号 |
| 事業区分の中で拠点区分の数が一 | 事業区分貸借対照表内訳表 | 第2項第三号 |
第二号の条文は、次のとおりです。
拠点区分の数が一である場合前項第一号ロ及びハ並びに第二号イ(2)及び(3)並びにロ(2)及び(3)
「前項第一号ロ及びハ」が貸借対照表内訳表と事業区分貸借対照表内訳表にあたります。拠点区分が1つしかない法人は、法人単位貸借対照表と拠点区分貸借対照表が残る、という読み方になります。ただし、この条文は作成を「省略することができる」と定めているだけで、省略が必要という意味ではありません。拠点区分の設け方そのものは、拠点区分の記事で整理しています。
サービス区分の貸借対照表は、条文に挙がっていない
「サービス区分ごとの貸借対照表も作るのか」という疑問が出ることがあります。条文から言えるのは、次のことまでです。
- 第7条の2第1項第一号が挙げる貸借対照表は、法人単位・貸借対照表内訳表・事業区分・拠点区分の4つで、サービス区分の貸借対照表は書かれていない
- 第27条が表示する範囲として定めているのは、法人全体、事業区分、拠点区分別の3つで、サービス区分は書かれていない
- サービス区分は、第29条第1項第五号の注記と、第30条第1項の附属明細書(サービス区分間繰入金明細書、サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書)に出てくる
第29条第1項第五号は、注記として次を求めています。
法人が作成する計算書類並びに拠点区分及びサービス区分
第30条第1項は、附属明細書として次の2つを挙げています。
サービス区分間繰入金明細書
サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書
この記事で言えるのは、条文に書かれている種類だけです。サービス区分の単位で貸借対照表に相当する資料を作るかどうか、作る場合にどう扱うかは、基準の本則からは決まりません。運用上の取扱い・留意事項の通知や所轄庁で確認してください。
純資産の部の中身:第6条
第26条第2項の4つの区分のうち、3つの区分について、第6条が何を計上するかを定めています。
基本金には、社会福祉法人が事業開始等に当たって財源として受け入れた寄附金の額を計上するものとする。
国庫補助金等特別積立金には、社会福祉法人が施設及び設備の整備のために国、地方公共団体等から受領した補助金、助成金、交付金等(第二十二条第四項において「国庫補助金等」という。)の額を計上するものとする。
その他の積立金には、将来の特定の目的の費用又は損失の発生に備えるため、社会福祉法人が理事会の議決に基づき事業活動計算書の当期末繰越活動増減差額から積立金として積み立てた額を計上するものとする。
整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 計上するもの | 条文 |
|---|---|---|
| 基本金 | 事業開始等に当たって財源として受け入れた寄附金の額 | 第6条第1項 |
| 国庫補助金等特別積立金 | 施設・設備の整備のために受領した補助金等の額 | 第6条第2項 |
| その他の積立金 | 理事会の議決に基づき、当期末繰越活動増減差額から積み立てた額 | 第6条第3項 |
| 次期繰越活動増減差額 | 今回の一次情報には、計上するものの定めがない | 第26条第2項 |
第6条は3つの区分だけを定めており、次期繰越活動増減差額に何を計上するかは、この条文には書かれていません。第6条第3項が「事業活動計算書の当期末繰越活動増減差額」から積み立てると書いているので、貸借対照表の純資産の部と事業活動計算書がつながっていることは読み取れます。
基本金について、寄附金の受け入れや取り崩しの扱いは、基本金の記事で整理しています。この記事では、貸借対照表の純資産の部の区分としての位置づけまでにとどめます。
なお、基本金と国庫補助金等特別積立金を取り崩した場合は、注記が要ります。第29条第1項第七号は、次のとおりです。
基本金又は固定資産の売却若しくは処分に係る国庫補助金等特別積立金の取崩しを行った場合には、その旨、その理由及び金額
資産と負債の評価:第4条・第5条
貸借対照表に載る金額は、評価の条文に従って付されます。
資産の評価(第4条)
第4条は、資産の評価について6つの項で定めています。
資産については、次項から第六項までの場合を除き、会計帳簿にその取得価額を付さなければならない。ただし、受贈又は交換によって取得した資産については、その取得時における公正な評価額を付すものとする。
第2項以降の要点は次のとおりです。
| 対象 | 条文の定め | 条文 |
|---|---|---|
| 有形・無形固定資産 | 会計年度の末日に、相当の償却をする | 第2項 |
| 時価が著しく低い資産 | 回復が認められる場合を除き、時価を付す | 第3項 |
| 受取手形、未収金、貸付金等の債権 | 徴収不能のおそれがあるときは、見込額を控除する | 第4項 |
| 市場価格のある有価証券 | 満期保有目的の債券以外は、時価を付す | 第5項 |
| 棚卸資産 | 時価が取得原価より低いときは、時価を付す | 第6項 |
第2項と第4項の条文は、次のとおりです。
有形固定資産及び無形固定資産については、会計年度の末日(会計年度の末日以外の日において評価すべき場合にあっては、その日。以下この条及び次条第二項において同じ。)において、相当の償却をしなければならない。
受取手形、未収金、貸付金等の債権については、徴収不能のおそれがあるときは、会計年度の末日においてその時に徴収することができないと見込まれる額を控除しなければならない。
「相当の償却」の方法や、「著しく低い」の程度は、第4条の文言からは決まりません。
負債の評価(第5条)
第5条は、負債の評価を次のように定めています。
負債については、次項の場合を除き、会計帳簿に債務額を付さなければならない。
引当金については、第2項が定めています。
次に掲げるもののほか、引当金については、会計年度の末日において、将来の費用の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を費用として繰り入れることにより計上した額を付さなければならない。
「次に掲げるもの」として、条文は賞与引当金、退職給付引当金、役員退職慰労引当金の3つを挙げています。この3つ以外に、どの引当金を計上するかは、第5条の文言からは決まりません。
資金収支計算書との関係:支払資金は貸借対照表から計算できる
資金収支計算書と貸借対照表は、別々の書類ですが、つながりがあります。そのつながりを定めているのが、第13条(資金収支計算書の資金の範囲)です。第13条第1項は、次のとおりです。
支払資金は、流動資産及び流動負債(経常的な取引以外の取引によって生じた債権又は債務のうち貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものとして固定資産又は固定負債から振り替えられた流動資産又は流動負債、引当金及び棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除く。)とし、支払資金残高は、当該流動資産と流動負債との差額とする。
この文を分けて読むと、次のようになります。
- 支払資金は、流動資産及び流動負債
- ただし、次の3つは除く
- 支払資金残高は、その流動資産と流動負債との差額
除かれる3つは、次のとおりです。
| 除くもの | 条文の書き方 |
|---|---|
| 振り替えられた流動資産・流動負債 | 経常的な取引以外の取引で生じ、翌日から1年以内に期限が到来するとして固定から振り替えられたもの |
| 引当金 | 引当金 |
| 棚卸資産 | 貯蔵品を除く棚卸資産(貯蔵品は含まれる) |
貸借対照表のどこから、どう計算できるか
条文の順に手を動かすと、貸借対照表から支払資金残高を求める手順は、次のようになります。
- 貸借対照表の流動資産を見る(第26条第1項の区分)
- そこから、第13条が除く3つ(固定から振り替えられた流動資産、引当金、貯蔵品以外の棚卸資産)を除く
- 貸借対照表の流動負債を見る
- そこから、同じく第13条が除くもの(固定から振り替えられた流動負債、引当金)を除く
- 2と4の差額が、支払資金残高
つまり、支払資金残高は、貸借対照表の流動資産と流動負債を材料にして、条文が除くものを除いて計算できる、という構造です。流動資産と流動負債の区分が貸借対照表に必要な理由の1つは、ここにあると読めます。
注意したいのは、次の点です。
- 条文が使っている言葉は「支払資金残高」です。資金収支計算書の末尾に出てくる「当期末支払資金残高」という語や、様式のどこにその数字が入るかは、この記事の一次情報には入っていません。様式で確認してください。
- 貸借対照表の流動資産と流動負債のどの勘定科目が、条文の「除くもの」に当たるかは、基準の本則には書かれていません。別表第三の科目と、運用上の取扱いを見て決めることになります。
- 資金収支計算書の中身(収入・支出の区分や、末尾の数字の並び)は、資金収支計算書の記事で整理しています。
貸借対照表の流動資産と流動負債から計算した支払資金残高と、資金収支計算書の支払資金残高が合わないときは、第13条が除くものの扱いが、2つの書類で食い違っていないかを、まず確かめることになります。
注記:第29条
貸借対照表だけでは分からない事項は、注記で示します。第29条第1項の柱書は、次のとおりです。
計算書類には、法人全体について次に掲げる事項を注記しなければならない。
貸借対照表の数字と結びつきの強い項目を、条文から拾うと次のようになります。
| 号 | 注記する事項 | 貸借対照表との関係 |
|---|---|---|
| 第二号 | 重要な会計方針 | 資産の評価基準、減価償却方法、引当金の計上基準 |
| 第五号 | 作成する計算書類、拠点区分、サービス区分 | 種類と区分の説明 |
| 第六号 | 基本財産の増減の内容及び金額 | 資産の部の動き |
| 第八号 | 担保に供している資産 | 資産の部の制約 |
| 第九号 | 減価償却累計額を直接控除した場合の取得価額など | 固定資産の表示方法 |
| 第十号 | 徴収不能引当金を直接控除した場合の債権の金額など | 債権の表示方法 |
第二号は、条文では次のように書かれています。
資産の評価基準及び評価方法、固定資産の減価償却方法、引当金の計上基準等計算書類の作成に関する重要な会計方針
第九号と第十号は、貸借対照表の表示の仕方に関わります。
固定資産について減価償却累計額を直接控除した残額のみを記載した場合には、当該資産の取得価額、減価償却累計額及び当期末残高
債権について徴収不能引当金を直接控除した残額のみを記載した場合には、当該債権の金額、徴収不能引当金の当期末残高及び当該債権の当期末残高
貸借対照表に残額だけを載せたときは、取得価額や累計額を注記で補うことになる、という読み方です。注記は第1項に16の号が挙がっており、ここで取り上げたのはその一部です。
拠点区分ごとの注記
第29条第4項は、拠点区分ごとの注記を定めています。
計算書類には、拠点区分ごとに第一項第二号から第十一号まで、第十四号及び第十六号に掲げる事項を注記しなければならない。ただし、拠点区分の数が一の社会福祉法人については、拠点区分ごとに記載する計算書類の注記を省略することができる。
貸借対照表の周りでは、第二号(会計方針)、第六号(基本財産)、第八号(担保)、第九号・第十号(直接控除の場合)が、拠点区分ごとの注記の対象に含まれます。拠点区分が複数ある法人は、法人全体の注記と、拠点区分ごとの注記の両方が要る、という構造です。
附属明細書:第30条
第30条第1項は、附属明細書を19種類挙げています。法人全体で作るものと拠点区分ごとに作るものの分け方は、次のとおりです。
この場合において、第一号から第七号までに掲げる附属明細書にあっては法人全体について、第八号から第十九号までに掲げる附属明細書にあっては拠点区分ごとに作成するものとする。
貸借対照表の科目に関係しそうな名称を拾うと、次のとおりです。名称から見たもので、各明細書の様式や記載内容は、この記事の一次情報には入っていません。
| 作成の単位 | 附属明細書の名称(抜粋) | 号 |
|---|---|---|
| 法人全体 | 借入金明細書 | 第一号 |
| 法人全体 | 基本金明細書 | 第六号 |
| 法人全体 | 国庫補助金等特別積立金明細書 | 第七号 |
| 拠点区分ごと | 基本財産及びその他の固定資産(有形・無形固定資産)の明細書 | 第八号 |
| 拠点区分ごと | 引当金明細書 | 第九号 |
| 拠点区分ごと | 積立金・積立資産明細書 | 第十二号 |
附属明細書の役割は、第2項が次のとおり定めています。
附属明細書は、当該会計年度における計算書類の内容を補足する重要な事項を表示しなければならない。
第3項では、社会・援護局長が定めるところにより、第1項各号の附属明細書の作成を省略できるとされています。どの明細書が省略できるかは、基準の本則からは決まりません。
社会福祉法人は、第一項の規定にかかわらず、厚生労働省社会・援護局長(次項及び第三十四条において「社会・援護局長」という。)が定めるところにより、同項各号に掲げる附属明細書の作成を省略することができる。
財産目録との関係:金額は貸借対照表と同一
貸借対照表と並んで作る書類に、財産目録があります。第31条は、財産目録の内容を次のように定めています。
法第四十五条の三十四第一項第一号の財産目録は、当該会計年度末現在(社会福祉法人の成立の日における財産目録は、当該社会福祉法人の成立の日)における全ての資産及び負債につき、その名称、数量、金額等を詳細に表示するものとする。
区分は第32条です。
財産目録は、貸借対照表の区分に準じて資産の部と負債の部とに区分して純資産の額を表示するものとする。
そして、金額については、第33条が次のとおり定めています。
財産目録の金額は、貸借対照表に記載した金額と同一とする。
整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 貸借対照表 | 財産目録 |
|---|---|---|
| 時点 | 会計年度末現在 | 会計年度末現在 |
| 区分 | 資産・負債・純資産の部 | 資産の部と負債の部に区分し、純資産の額を表示 |
| 表示の細かさ | 明瞭に表示 | 名称、数量、金額等を詳細に表示 |
| 金額 | 記載した金額 | 貸借対照表と同一 |
財産目録の純資産は「部」ではなく「額」を表示する、という違いが、第32条の文言から読み取れます。財産目録の内容や作り方は、財産目録の記事で整理しています。この記事では、貸借対照表の金額が財産目録の金額の基になる、という関係までにとどめます。
法律上の位置づけ:作成の時期と保存
基準は省令で、その根拠は社会福祉法にあります。法第45条の27は、貸借対照表の作成について、次のように定めています。
社会福祉法人は、厚生労働省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
毎会計年度の計算書類については、第2項が次のとおり定めています。
毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類(貸借対照表及び収支計算書をいう。以下この款において同じ。)
保存は、第4項です。
社会福祉法人は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。
読み取れることは次の3つです。
- 法人の成立の日にも、貸借対照表を作る(第1項)
- 毎会計年度の計算書類は、会計年度終了後3月以内に作る(第2項)
- 計算書類と附属明細書は、作成した時から10年間保存する(第4項)
計算書類の備置きと閲覧(法第45条の32)や、所轄庁への届出(法第59条)については、計算書類の記事で整理しています。
条文には書かれていないこと
実務で質問が多い点のうち、今回読んだ条文に書かれていないものを整理します。
| 論点 | 条文での扱い | 決め方 |
|---|---|---|
| 勘定科目の一覧 | 別表第三のとおり(本文は入っていない) | 別表第三で確認 |
| 流動と固定の線引き | 第26条に基準の定めがない | 別表第三と運用上の取扱いで確認 |
| 様式の中身 | 第27条第4項は様式名のみ | 様式を直接確認 |
| サービス区分の貸借対照表 | 種類に挙がっていない | 通知・所轄庁に確認 |
| 次期繰越活動増減差額の中身 | 第6条に定めがない | 事業活動計算書の条文と通知で確認 |
| 附属明細書の省略の範囲 | 社会・援護局長が定める | 通知で確認 |
| 経営分析の指標・目安 | 条文に書かれていない | 条文からは決まらない |
通知や行政の解釈は、この記事では扱っていません。実際の運用では、そうした解釈が示されている場合があるので、個別の判断の前に、運用上の取扱い・留意事項の通知や所轄庁にご確認ください。
法人本部で整理しておくこと
条文の構造から、法人本部が手元でそろえておくとよい整理は次の5つです。条文から導いた弊社の整理で、個別の判断は所轄庁や会計の専門家にご確認ください。
- 作る貸借対照表の種類を一覧にする。 法人単位・貸借対照表内訳表・事業区分・拠点区分のうち、自法人で作るもの、省略できるもの(第7条の2第2項)を整理する
- 純資産の部の4区分に、第6条の定めに合う額が入っているかを見る。 とくに基本金とその他の積立金は、第6条の文言と照らす
- 支払資金残高を、貸借対照表から計算して確かめる。 流動資産と流動負債から第13条が除くものを除き、資金収支計算書の数字と突き合わせる
- 注記の項目を、法人全体と拠点区分ごとに分けて確認する。 第29条第1項と第4項の対象の号が違う
- 財産目録の金額が、貸借対照表と同一になっているかを見る。 第33条のとおり、金額は同一
拠点ごとの貸借対照表を法人本部の手元にそろえておくと、この5つの確認が、拠点の数だけ繰り返す作業ではなく、一覧で見渡せる作業に変わります。
この記事で書いていないこと
次のことは、今回確認した条文には書かれていません。この記事でも書きません。
- 別表第三の勘定科目の一覧と、各科目の流動・固定の別:一次情報に本文が入っていません
- 様式(第三号第一様式から第四様式)の中身:一次情報に入っていません
- サービス区分の単位で貸借対照表に相当する資料を作る扱い:基準の本則からは決まりません
- 経営分析の指標や数値の目安:条文に書かれていません
- 次期繰越活動増減差額に何を計上するか:第6条に定めがありません
- 通知・留意事項・所轄庁ごとの運用:今回の一次情報に入っていません
まとめ
- 貸借対照表は、会計年度末現在における全ての資産、負債及び純資産の状態を明瞭に表示するもの(第25条)
- 区分は、資産の部・負債の部・純資産の部。資産は流動と固定、負債は流動と固定に分ける(第26条第1項)
- 純資産の部は、基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金、次期繰越活動増減差額の4つ(第26条第2項)。前の3つの計上額は第6条が定める
- 種類は、法人単位、貸借対照表内訳表、事業区分、拠点区分の4つ(第7条の2、第27条)。サービス区分の貸借対照表は条文に挙がっていない
- 資産は取得価額が原則で、償却・時価・徴収不能の見込額の扱いは第4条、負債は債務額が原則で、引当金の扱いは第5条が定める
- 支払資金残高は、流動資産と流動負債から条文が除くものを除いた差額(第13条)。貸借対照表から計算できる
- 注記は第29条、附属明細書は第30条。拠点区分が複数あれば、注記も拠点区分ごとに要る(第29条第4項)
- 財産目録の金額は貸借対照表と同一(第33条)
- 勘定科目(別表第三)、様式、サービス区分の扱いは、基準の本則からは決まらない。通知や所轄庁で確認する
参考にした一次情報
- 社会福祉法人会計基準|e-Gov法令検索:第一条から第六条、第七条の二、第十三条、第二十五条から第三十三条
- 社会福祉法|e-Gov法令検索:第四十五条の二十七
いずれも令和8年11月4日にe-Gov法令検索から取得した条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の法人の貸借対照表が基準に適合しているかどうかを判断するものではありません。具体的な判断は、所轄庁や会計の専門家にご確認ください。
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