「資金収支計算書と事業活動計算書、両方あるのはなぜですか」
理事会や評議員会の前に、決算書類の説明でご一緒すると、この質問をよくいただきます。一般の企業なら損益計算書が1つあれば済むところ、社会福祉法人では計算書が2つ並びます。しかも金額が違う。どちらを見ればよいのか分からない、というご相談です。
この記事では、社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)の条文に戻って、2つの計算書が何を測っているのか、そしてなぜ両方が必要なのかを整理します。
先に、最も分かりやすい違いを1つ挙げておきます。資金収支計算書には「予算と対比して記載する」という規定があり、事業活動計算書にはありません。 ここに、両者の役割の違いが端的に表れています。
そもそも何を作らなければならないのか
社会福祉法人が各会計年度について作成すべき計算書類は、会計基準省令第7条の2第1項が定めています。貸借対照表と収支計算書があり、収支計算書はさらに資金収支計算書と事業活動計算書に分かれます。
二 次に掲げる収支計算書
イ 次に掲げる資金収支計算書
(1) 法人単位資金収支計算書
(2) 資金収支内訳表
(3) 事業区分資金収支内訳表
(4) 拠点区分資金収支計算書
ロ 次に掲げる事業活動計算書
(1) 法人単位事業活動計算書
(2) 事業活動内訳表
(3) 事業区分事業活動内訳表
(4) 拠点区分事業活動計算書
資金収支計算書と事業活動計算書は、それぞれ4種類ずつあります。 「資金収支計算書」という1枚の紙ではなく、法人全体・事業区分・拠点区分という3つの粒度で見るための書類のセットです。
何を表示するための書類か
第17条が、資金収支計算書の4様式の役割を分けています。
第十七条 法人単位資金収支計算書は、法人全体について表示するものとする。
2 資金収支内訳表及び事業区分資金収支内訳表は、事業区分の情報を表示するものとする。
3 拠点区分資金収支計算書は、拠点区分別の情報を表示するものとする。
事業活動計算書側も、第23条で同じ構造になっています。
第二十三条 法人単位事業活動計算書は、法人全体について表示するものとする。
2 事業活動内訳表及び事業区分事業活動内訳表は、事業区分の情報を表示するものとする。
3 拠点区分事業活動計算書は、拠点区分別の情報を表示するものとする。
様式番号も条文に定められています。第17条第4項です。
第一項から前項までの様式は、第一号第一様式から第四様式までのとおりとする。
第23条第4項も同じ形です。
第一項から前項までの様式は、第二号第一様式から第四様式までのとおりとする。
整理すると、次のようになります。
| 様式番号 | 書類 |
|---|---|
| 第一号第一様式 | 法人単位資金収支計算書 |
| 第一号第二様式 | 資金収支内訳表 |
| 第一号第三様式 | 事業区分資金収支内訳表 |
| 第一号第四様式 | 拠点区分資金収支計算書 |
| 第二号第一様式 | 法人単位事業活動計算書 |
| 第二号第二様式 | 事業活動内訳表 |
| 第二号第三様式 | 事業区分事業活動内訳表 |
| 第二号第四様式 | 拠点区分事業活動計算書 |
| 第三号第一様式〜第四様式 | 貸借対照表(法人単位・内訳表・事業区分内訳表・拠点区分) |
「第一号」が資金収支、「第二号」が事業活動、「第三号」が貸借対照表と覚えると、様式番号だけで書類の見当がつきます。
作成を省略できる場合がある
すべての法人が12枚(4様式×3種類)を作るわけではありません。第7条の2第2項が、省略できる場合を定めています。
| 該当する場合 | 省略できる書類 |
|---|---|
| 事業区分が社会福祉事業のみである場合 | 貸借対照表内訳表、資金収支内訳表、事業活動内訳表 |
| 拠点区分の数が1である場合 | 貸借対照表内訳表と事業区分貸借対照表内訳表、資金収支内訳表と事業区分資金収支内訳表、事業活動内訳表と事業区分事業活動内訳表 |
| 事業区分において拠点区分の数が1である場合 | 事業区分貸借対照表内訳表、事業区分資金収支内訳表、事業区分事業活動内訳表 |
単一拠点で社会福祉事業のみを行っている法人であれば、内訳表はほとんど不要になります。決算書類が分厚くなりすぎている場合は、そもそも作る必要があるものかを一度確認する価値があります。
2つの計算書は「何が増えたか」の定義が違う
ここからが本題です。2つの計算書は、対象とする「増減」が違います。
資金収支計算書 ― 支払資金の増減
第12条です。
資金収支計算書は、当該会計年度における全ての支払資金の増加及び減少の状況を明瞭に表示するものでなければならない。
事業活動計算書 ― 純資産の増減
第19条です。
事業活動計算書は、当該会計年度における全ての純資産の増減の内容を明瞭に表示するものでなければならない。
片方は「支払資金」、もう片方は「純資産」を見ています。 測っている対象そのものが違うので、金額が一致しないのは当然です。
「支払資金」とは何か
資金収支計算書を理解するうえで、ここが最大の関門です。第13条が定義しています。
支払資金は、流動資産及び流動負債(経常的な取引以外の取引によって生じた債権又は債務のうち貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものとして固定資産又は固定負債から振り替えられた流動資産又は流動負債、引当金及び棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除く。)とし、支払資金残高は、当該流動資産と流動負債との差額とする。
長い条文なので、分解します。
支払資金 = 流動資産 − 流動負債。ただし、次のものは流動資産・流動負債から除きます。
- 経常的な取引以外の取引によって生じた債権・債務のうち、固定資産または固定負債から振り替えられたもの(貸借対照表日の翌日から1年以内に期限が到来するもの)
- 引当金
- 棚卸資産(貯蔵品を除く)
ここで実務上よく問題になるのが、1年以内返済予定の設備資金借入金です。固定負債から流動負債に振り替えたものは、支払資金から除きます。除かなければ、返済期限が近づいただけで支払資金残高が減ってしまい、資金繰りの実態を表さなくなるためです。
「支払資金=現金預金」ではありません。 未収金や未払金も含まれます。ここを誤解していると、資金収支計算書の当期末支払資金残高と、通帳の残高が合わないことに悩むことになります。
資金収支計算書の3つの区分
第15条です。
資金収支計算書は、次に掲げる収支に区分するものとする。
一 事業活動による収支
二 施設整備等による収支
三 その他の活動による収支
それぞれに何を入れるかは第16条が定めています。要点だけ整理します。
| 区分 | 記載するもの | 差額の名称 |
|---|---|---|
| 事業活動による収支 | 経常的な事業活動による収入(受取利息配当金収入を含む)および支出(支払利息支出を含む) | 事業活動資金収支差額 |
| 施設整備等による収支 | 固定資産の取得に係る支出・売却に係る収入、施設整備等補助金収入、施設整備等寄附金収入、設備資金借入金収入、設備資金借入金元金償還支出など | 施設整備等資金収支差額 |
| その他の活動による収支 | 長期運営資金の借入れ・返済、積立資産の積立て・取崩し、投資有価証券の購入・売却等(受取利息配当金収入・支払利息支出を除く)、他の2区分に属さないもの | その他の活動資金収支差額 |
そして第16条第4項が、締めくくりの構造を定めています。
資金収支計算書には、第一項の事業活動資金収支差額、第二項の施設整備等資金収支差額及び前項のその他の活動資金収支差額を合計した額を当期資金収支差額合計として記載し、これに前期末支払資金残高を加算した額を当期末支払資金残高として記載するものとする。
3つの差額を足して「当期資金収支差額合計」、それに前期末支払資金残高を足して「当期末支払資金残高」。この流れが分かると、資金収支計算書は上から順に読めるようになります。
一方、事業活動計算書は第21条で4つの部に分かれます。
事業活動計算書は、次に掲げる部に区分するものとする。
一 サービス活動増減の部
二 サービス活動外増減の部
三 特別増減の部
四 繰越活動増減差額の部
決定的な違い:予算対比があるのは資金収支計算書だけ
第16条第5項です。
法人単位資金収支計算書及び拠点区分資金収支計算書には、当該会計年度の決算の額を予算の額と対比して記載するものとする。
そして第6項が続きます。
前項の場合において、決算の額と予算の額とに著しい差異がある勘定科目については、その理由を備考欄に記載するものとする。
事業活動計算書には、これに相当する規定がありません。 第22条・第23条を読んでも、予算対比の要求は出てきません。
ここが2つの計算書の役割の違いを最もよく表しています。
- 資金収支計算書 … 理事会・評議員会で議決した予算どおりに執行されたかを検証するための書類。だから予算対比が要る
- 事業活動計算書 … その年度に法人の正味財産がどれだけ増えたか(減ったか)を示すための書類。予算という概念になじまない
そして第6項が「著しい差異がある勘定科目については、その理由を備考欄に記載する」と求めている以上、備考欄は埋める前提の欄です。空欄のまま理事会に出している場合、そこは指摘の対象になり得ます。
2つの計算書の比較
| 項目 | 資金収支計算書 | 事業活動計算書 |
|---|---|---|
| 何の増減を見るか | 支払資金(第12条) | 純資産(第19条) |
| 用語 | 収入・支出 | 収益・費用 |
| 区分 | 事業活動/施設整備等/その他の活動(第15条) | サービス活動増減/サービス活動外増減/特別増減/繰越活動増減差額(第21条) |
| 予算との対比 | 必要(第16条第5項) | 規定なし |
| 著しい差異の理由記載 | 必要(第16条第6項) | 規定なし |
| 様式 | 第一号第一様式〜第四様式(第17条第4項) | 第二号第一様式〜第四様式(第23条第4項) |
| 減価償却費 | 載らない(支払資金が動かない) | 載る(純資産が減る) |
| 設備資金借入金の元金償還 | 載る(支払資金が減る) | 載らない(純資産は動かない) |
| 固定資産の取得 | 載る(施設整備等による収支) | 載らない(資産の中身が入れ替わるだけ) |
最後の3行が、金額が一致しない理由そのものです。減価償却費は「お金は出ていかないが、正味財産は減る」取引。借入金の元金償還は「お金は出ていくが、正味財産は減らない」取引。 それぞれ片方の計算書にしか出てきません。
実務で時間が失われるのはどこか
社会福祉法人の決算業務でご一緒すると、時間を奪っているのは会計の理屈そのものではなく、区分をまたいだ集計とその検算であることがほとんどです。
- 共通経費の配分を毎年やり直している。 第14条第2項は「事業区分、拠点区分又はサービス区分ごとに、複数の区分に共通する収入及び支出を合理的な基準に基づいて当該区分に配分するものとする」と定めています。配分基準そのものは各法人が決めるものですが、その基準をどこに書いてあるかが分からなくなっているケースが少なくありません。経理規程に書いておくべき事項です
- 内訳表の合計が法人単位と合わない。 内訳表は拠点区分・事業区分の情報を表示するものなので、合計は法人単位に一致します。合わない場合は内部取引の相殺消去(第11条)か配分の漏れですが、Excelで手作業に集計していると、どこで崩れたかを追うのに時間がかかります
- 予算の備考欄を決算のたびにゼロから書いている。 第16条第6項が求める「著しい差異の理由」は、期中の段階で分かっていることがほとんどです。四半期ごとに残しておけば、決算時に思い出す作業が要りません
いずれも「会計の知識」ではなく「どこに何が置いてあるか」の問題です。配分基準の考え方や、経理規程に何を書いておくべきかについては社会福祉法人の経理規程モデルの記事で整理しています。
計算書類とあわせて作成する財産目録については社会福祉法人の財産目録、会計監査人を置いた場合に計算書類の承認手続がどう変わるかについては社会福祉法人の会計監査人の記事をご覧ください。
まとめ
- 社会福祉法人は、資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表をそれぞれ4様式ずつ作成する(第7条の2第1項)。ただし単一拠点・社会福祉事業のみなどの場合は内訳表を省略できる(同条第2項)
- 資金収支計算書は支払資金の増減(第12条)、事業活動計算書は純資産の増減(第19条)を表示する。測っている対象が違うので金額は一致しない
- 支払資金=流動資産−流動負債。ただし固定資産・固定負債から振り替えられたもの、引当金、棚卸資産(貯蔵品を除く)は除く(第13条)。現金預金のことではない
- 資金収支計算書は事業活動/施設整備等/その他の活動の3区分(第15条)。3つの差額の合計に前期末支払資金残高を足すと当期末支払資金残高になる(第16条第4項)
- 予算との対比が義務づけられているのは資金収支計算書だけ(第16条第5項)。著しい差異は備考欄に理由を書く(第6項)
- 減価償却費は事業活動計算書にだけ、借入金の元金償還は資金収支計算書にだけ載る
参考にした一次情報
※勘定科目の詳細(別表第一・別表第二)、および会計処理の具体的な取扱いは、厚生労働省の運用上の取扱い・留意事項の通知にも定めがあります。個別の判断は所轄庁および顧問の会計専門家にご確認ください。
決算の集計と検算に時間を取られている法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。拠点区分・サービス区分をまたぐ集計や、配分基準・予算差異の記録の置き場所を整えるところからご一緒します。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。