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病者の就業禁止|労働安全衛生規則61条と感染症法の就業制限の違い

職員が「感染症と診断された」と連絡してきたとき、法人本部や施設の管理者は何を根拠に出勤を止めるのでしょうか。「就業禁止」と「就業制限」という似た言葉があり、どちらも感染症に関わりますが、実は別の法律に基づく別の仕組みです。止める主体も、対象も、止める範囲も違います。

この記事では、労働安全衛生法の第68条、労働安全衛生規則の第61条、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の第6条と第18条、同法施行規則の第11条を順に読み、2つの仕組みの違いを整理します。条文から決まることと、条文だけでは決まらないことは分けて書きます。

先に結論

  • 労働安全衛生法第68条は、伝染性の疾病その他の疾病で厚生労働省令で定めるものにかかった労働者の就業を禁止することを、事業者の義務にしています。中身は労働安全衛生規則第61条に委ねられています。
  • 規則第61条第1項は3つの類型を挙げています。第1号の「伝染性の疾病」には、伝染予防の措置をした場合は禁止しなくてよいというただし書があります。就業を禁止しようとするときは、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見をきく必要があります(第2項)。
  • 感染症法第18条の就業制限は別の仕組みです。通知を出すのは都道府県知事で、対象は一類感染症の患者と、二類・三類・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者です。五類感染症は条文に出てきません。
  • 就業制限で従事できなくなる業務と期間は、感染症ごとに施行規則第11条が定めています。飲食物に直接接触する業務は、第1号、第3号、第4号のいずれにも入っています。
  • 季節性インフルエンザやノロウイルスなどが規則第61条第1号に当たるか、休業中の賃金、出勤停止の日数の目安は、条文からは決まりません。この記事では扱いません。

労働安全衛生法第68条:就業禁止は事業者の義務

まず、労働安全衛生法の第68条です。条見出しは「病者の就業禁止」です。

事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。

読み取れることは3つです。

  • 主語は「事業者」です。止めるかどうかを判断し、実行するのは事業者です。
  • 対象は「伝染性の疾病その他の疾病」のうち、厚生労働省令で定めるものです。伝染性とは限りません。
  • 具体的な疾病と手続は、省令に委ねられています。この条文だけでは、どの病気がどう扱われるのかは決まりません。

省令にあたるのが、労働安全衛生規則第61条です。

規則第61条:3つの類型と、医師の意見

規則第61条第1項の柱書は、次のように書いています。

事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。

各号は、次の3つです。

号条文の書き方伝染予防のただし書
第1号病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者適用される
第2号心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者適用されない
第3号前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者適用されない

ただし書は、次のとおりです。

ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。

ただし書は「第一号に掲げる者について」と書かれているため、第2号と第3号には及びません。第1号の者は、伝染予防の措置をした場合には、就業の禁止を要しないと読めます。ただし、条文は「伝染予防の措置」の中身を書いていません。何をすれば措置をしたことになるのかは、この条文からは決まりません。

この規則の第2号は、感染症ではない疾病も対象にしています。病者の就業禁止は、感染症対策だけの仕組みではありません。

禁止するときは、あらかじめ医師の意見をきく

第2項は手続を定めています。

事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

「あらかじめ」と書かれているので、禁止してから意見をきくのでは足りません。きく相手は「産業医その他専門の医師」です。産業医に限られていません。

なお、健康診断の結果に基づいて医師の意見を聴く条(労働安全衛生法第66条の4)は、別の条です。そちらは意見を聴く相手を「医師又は歯科医師」と書き、期限を規則で定めています。詳しくは健康診断の事後措置を条文から読んだ記事で整理しています。第61条第2項とは、根拠も場面も別です。

条文だけでは決まらないこと

規則第61条の条文には、疾病の名前が1つも出てきません。第3号の「厚生労働大臣が定めるもの」の中身も、この記事では確かめていません。そのため、次の問いは条文からは決まりません。

  • 季節性インフルエンザが、第1号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に当たるか
  • ノロウイルスによる感染性胃腸炎が、第1号に当たるか
  • 新型コロナウイルス感染症が、第1号に当たるか

どれも、通達や解釈の領域です。この記事では、どれに当たるとも当たらないとも断定しません。所轄の労働基準監督署や産業医、社会保険労務士にご確認ください。

感染症法第18条:就業制限は別の仕組み

次に、感染症法の第18条です。第1項は、都道府県知事が通知を出す仕組みを書いています。

都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、

この続きで、都道府県知事は、当該者またはその保護者に対し、届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる、と書かれています。第2項が、通知を受けた後の義務です。

前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。

ここで注目したいのは、主語が事業者ではないことです。

  • 通知を出すのは、都道府県知事です。
  • 従事してはならないのは、通知を受けた患者または無症状病原体保有者本人です。
  • 従事できなくなるのは、就業そのものではなく、省令が感染症ごとに定める「業務」です。

通知の宛先は、条文上「当該者又はその保護者」です。事業者への通知は書かれていません。職員が通知を受けたとき、法人にどう連絡してもらうかは、条文からは決まらないので、法人側で決めておく事柄になります。

第5項は、知事が通知をしようとするときは、あらかじめ感染症診査協議会の意見を聴くと定めています。緊急を要する場合で意見を聴くいとまがないときは、この限りでないとされています(第5項ただし書)。

対象の感染症:一類から三類と新型インフルエンザ等感染症

第6条は、感染症の類型を定義しています。第18条の対象になる類型を、条文の列挙で確かめます。

  • 一類感染症(第6条第2項):エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱の7つ
  • 二類感染症(同条第3項):急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群、中東呼吸器症候群、鳥インフルエンザ(政令で定めるものに限る)の6つ
  • 三類感染症(同条第4項):コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフスの5つ
  • 新型インフルエンザ等感染症(同条第7項):新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、再興型コロナウイルス感染症の4つ

第18条第1項が挙げているのは、一類感染症の患者、二類感染症・三類感染症・新型インフルエンザ等感染症の患者または無症状病原体保有者です。四類感染症と五類感染症は、第18条第1項に出てきません。

五類感染症は、第6条第6項が次のように定義しています。

この法律において「五類感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。

その各号には、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症が並び、最後の第9号は、厚生労働省令で定めるものを加える形になっています。

通称の季節性インフルエンザにあたるのは、第1号のインフルエンザの括弧書きを除いたものと考えられます。つまり五類感染症の側に入るため、第18条の就業制限の対象としては、条文に出てきません。ノロウイルスという語は、五類の各号には出てきません。第9号の省令の中身は、この記事では確かめていません。

なお、第18条の就業制限の対象外だということは、規則第61条の対象外だという意味ではありません。両者は別の仕組みです。インフルエンザ等が規則第61条に当たるかは、先に書いたとおり条文からは決まりません。

施行規則第11条:従事できない業務と期間

第18条第2項の「業務」と「期間」は、感染症法施行規則の第11条が定めています。第2項の業務を、表にします。

第2項の号感染症従事できない業務
第1号エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱飲食物の製造、販売、調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務及び他者の身体に直接接触する業務
第2号結核接客業その他の多数の者に接触する業務
第3号ジフテリア、SARS、MERS、痘そう、特定鳥インフルエンザ、ペスト、新型インフルエンザ等感染症飲食物の製造、販売、調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務及び接客業その他の多数の者に接触する業務
第4号第1号から第3号以外の、法第6条第2項から第4項までの感染症飲食物の製造、販売、調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務

表の「SARS」は重症急性呼吸器症候群、「MERS」は中東呼吸器症候群のことで、条文ではそれぞれ病原体の限定が付いています。第4号の条文は、次のとおりです。

法第六条第二項から第四項までに掲げる感染症のうち、前三号に掲げるもの以外の感染症

法第6条第2項から第4項までは、一類から三類の感染症です。ここから第1号から第3号の疾病を除くと、第4号に残るのは、急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフスです。

表から読み取れることを整理します。

  • 飲食物に直接接触する業務は、第1号・第3号・第4号のすべてに入っています。 一類から三類の感染症の患者であれば、結核を除いて、飲食物に直接接触する業務は制限の対象です。
  • 「他者の身体に直接接触する業務」が出てくるのは、第1号の5疾病だけです。 介助のように利用者の身体に触れる業務が、そのまま制限の対象になるとは、第2項の条文からは言えません。
  • 「接客業その他の多数の者に接触する業務」は、第2号と第3号にあります。 施設の職員の業務がこれに当たるかどうかは、条文は書いていません。

期間:感染症ごとに2通り

第3項は、従事できない期間を定めています。

  • 結核、重症急性呼吸器症候群、中東呼吸器症候群、特定鳥インフルエンザ:その病原体を保有しなくなるまでの期間、または、その症状が消失するまでの期間
  • 上記以外の感染症:その病原体を保有しなくなるまでの期間

日数は書かれていません。「病原体を保有しなくなるまで」を、誰がどう判断するのかも、この条文には書かれていません。第18条第3項と第4項は、就業制限の適用を受けている者が、都道府県知事に対して、対象者ではなくなったことの確認を求められる、と定めています。期間の終わりは、この確認の手続とつながっています。

違反した場合

第11条第1項は、通知に書く事項を定めており、その第3号が罰則に触れています。

法第十八条第二項の規定に違反した場合に、法第七十七条第四号の規定により罰金に処される旨

つまり、第18条第2項の就業制限に違反した場合の罰金は、通知に書かれる事項の1つです。金額は、この記事では確かめていません。

2つの仕組みを並べる

ここまでの内容を、安衛法第68条・規則第61条の病者の就業禁止と、感染症法第18条の就業制限に分けて並べます。

観点病者の就業禁止就業制限
止める主体事業者都道府県知事が通知。従事しないのは本人
対象規則が定める疾病(感染症に限らない)一類の患者、二類・三類・新型インフルエンザ等の患者等
止める範囲就業そのもの省令が感染症ごとに定める業務
医師等の関与あらかじめ産業医その他専門の医師の意見をきく知事が通知前に感染症診査協議会の意見を聴く

2つは、根拠となる法律が違うので、片方に当たらないからといって、もう片方に当たらないとは限りません。逆に、両方に関係する場合に、どう組み合わせるのかは、この記事で確かめた条文からは決まりません。

福祉の現場に引き寄せて読む

ここからは、条文の構造から考えた整理です。

給食・調理の職員。 施行規則第11条第2項で、飲食物に直接接触する業務は、第1号、第3号、第4号のどれにも入っています。そのため、一類から三類の感染症の患者で、都道府県知事の通知を受けた調理担当の職員は、結核を除き、調理に直接かかわる業務に従事できないと読めます。ただし、通知があるかどうかは、都道府県知事が必要と認めたときです(第18条第1項)。診断を受けたことが、すぐに就業制限になるわけではありません。

入所施設の介護職員。 利用者の身体に触れる業務は、「他者の身体に直接接触する業務」に近い印象を受けます。しかし、条文でこの業務が出てくるのは、第1号の5疾病だけです。介護職員が必ず就業制限の対象になる、あるいはならないという断定は、条文からはできません。

規則第61条の側。 病者の就業禁止は、事業者が判断する仕組みです。施設で働く職員が、第1号から第3号のどれに当たるかは、疾病の種類と状態によって変わります。判断の前に、産業医その他専門の医師の意見をきく必要があります(第2項)。

条文だけでは決まらないこと

論点決まらない理由
季節性インフルエンザ等が規則第61条第1号に当たるか規則第61条は疾病名を挙げていない
第3号の「厚生労働大臣が定めるもの」の中身この記事では確かめていない
「伝染予防の措置」の中身ただし書は措置の中身を書いていない
休業中の賃金の扱い確かめた条文に書かれていない
出勤停止の日数の目安規則第61条は期間を書いていない
施設の感染対策の基準この記事では扱っていない
事業者への連絡の経路通知の宛先は本人またはその保護者

法人として整えておくこと

就業規則に何をどう書くかは、条文からは決まりません。条文から言えるのは、次のあたりまでです。

  • 規則第61条第2項は、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見をきくことを求めています。誰にきくのか、連絡先と手順を、あらかじめ決めておくと、いざというときに慌てずにすみます。
  • 感染症法第18条の通知は、本人またはその保護者に出ます。職員が通知を受けたときに、法人や事業所の管理者へどう連絡するのか。この経路は、条文には書かれていないので、法人で決めておく必要があります。
  • 法人が複数の事業所を持つ場合、誰が判断して誰に報告するのかを、事業所ごとにばらつかせないように決めておくと、記録も追いやすくなります。

これらは条文の要求というより、条文の構造から考えた準備の提案です。

この記事で書いていないこと

条文の範囲では、次のことは書かれていない、またはこの記事で確認していません。

  • 規則第61条第1項第3号の「厚生労働大臣が定めるもの」の中身
  • 季節性インフルエンザ、ノロウイルス、新型コロナウイルス感染症が規則第61条第1号に当たるか(通達・解釈の領域)
  • 休業中の賃金(休業手当や無給の当否)
  • 出勤停止の日数の目安
  • 施設の感染対策の基準
  • 感染症法第18条の罰金の金額、通知の様式
  • 四類感染症や指定感染症、新感染症の扱い

個別の判断は、所轄の労働基準監督署、保健所、産業医、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

まとめ

  • 労働安全衛生法第68条は、伝染性の疾病その他の疾病で省令が定めるものにかかった労働者の就業禁止を、事業者の義務にしています。規則第61条は3つの類型を挙げ、禁止の前に産業医その他専門の医師の意見をきくことを求めています。
  • 規則第61条第1号には、伝染予防の措置をした場合は禁止しなくてよいというただし書があります。第2号と第3号にはありません。
  • 感染症法第18条の就業制限は別の仕組みです。通知を出すのは都道府県知事で、対象は一類から三類と新型インフルエンザ等感染症の患者等です。五類感染症は条文に出てきません。
  • 従事できない業務と期間は、施行規則第11条が感染症ごとに定めています。飲食物に直接接触する業務は、第1号、第3号、第4号に入っています。
  • 季節性インフルエンザなどが規則第61条に当たるか、休業中の賃金、日数の目安は、条文からは決まりません。

参考にした一次情報

いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の事案への適用を示すものではありません。


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阪本翔太

阪本翔太

奈良県の中小企業診断士 & ITストラテジスト。 公的機関や大学などで講師もしています。 地方でがんばる人をITで後押ししたい。

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