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社会福祉法人の苦情解決|第三者委員・受付から公表までの記録実務

「苦情解決責任者」「苦情受付担当者」「第三者委員」。名前を掲示し、規程も作ってある。多くの社会福祉法人様では、体制そのものはすでに整っています。

けれども運営指導や監査で実際に問われるのは、体制の有無ではなく記録が残っているかどうかです。誰がいつ苦情を受け付け、第三者委員にいつ報告し、話し合いの結果をどう記録し、いつ公表したか。この一続きの記録が事業所ごとにバラバラで、聞かれてから慌てて探す状態になっている法人様を少なくない数見てきました。

この記事では、苦情解決の仕組みを一から解説するのではなく、受付から第三者委員への報告、改善、公表までを誰がどう記録し、監査でどう出すかという運用の側に重心を置いて整理します。

根拠は社会福祉法第82条。ただし「窓口設置」と「記録」は基準で義務になっている

出発点は社会福祉法第82条です。

(社会福祉事業の経営者による苦情の解決)第八十二条社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。

「努めなければならない」——努力義務です。しかし、これで終わりではありません。障害福祉サービスの運営基準(指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準)は、次のように定めています。

(苦情解決)第三十九条指定居宅介護事業者は、その提供した指定居宅介護に関する利用者又はその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない。2指定居宅介護事業者は、前項の苦情を受け付けた場合には、当該苦情の内容等を記録しなければならない。

「講じなければならない」「記録しなければならない」——ここは義務です。 社会福祉法第82条が経営者の姿勢として努力義務を求めているのに対し、運営基準省令は「窓口の設置」と「記録」という具体的な行為を義務として課しています。介護保険の運営基準にも同様の規定(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第三十六条)があります。「努力義務だから記録は任意」ではありません。 ここを最初に整理しておく必要があります。

苦情解決の仕組みの目的——虐待の防止にもつながる

厚生労働省の指針は、苦情解決の仕組みの目的を次のように示しています。

○ 苦情への適切な対応により、福祉サービスに対する利用者の満足感を高めることや早急な虐待防止対策が講じられ、利用者個人の権利を擁護するとともに、利用者が福祉サービスを適切に利用することができるように支援する。
○ 苦情を密室化せず、社会性や客観性を確保し、一定のルールに沿った方法で解決を進めることにより、円滑・円満な解決の促進や事業者の信頼や適正性の確保を図る。

苦情を「密室化」させず、外の目が入る形で解決する。これは虐待防止委員会の記事で扱った、施設内で問題を抱え込まない仕組みづくりの考え方と根が同じです。苦情解決と虐待防止は、別々の仕組みでありながら、目的の一部を共有しています。

体制は三者。苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員

指針は体制を三者に分けています。

苦情解決責任者について。

苦情解決の責任主体を明確にするため、施設長、理事等を苦情解決責任者とする。

苦情受付担当者について。

サービス利用者が苦情の申出をしやすい環境を整えるため、職員の中から苦情受付担当者を任命する。
苦情受付担当者は以下の職務を行う。
ア 利用者からの苦情の受付
イ 苦情内容、利用者の意向等の確認と記録
ウ 受け付けた苦情及びその改善状況等の苦情解決責任者及び第三者委員への報告

第三者委員について。

苦情解決に社会性や客観性を確保し、利用者の立場や特性に配慮した適切な対応を推進するため、第三者委員を設置する。

役割誰が担うか主な職務
苦情解決責任者施設長、理事等解決の責任主体。申出人との話し合い
苦情受付担当者職員の中から任命受付・確認・記録、責任者と第三者委員への報告
第三者委員外部の者社会性・客観性の確保。報告聴取、助言、立ち会い

苦情受付担当者の職務ウ「改善状況等の…報告」は見落とされがちです。 受け付けた瞬間だけでなく、その後の改善状況も報告対象に含まれています。

第三者委員でつまずきやすい4つのポイント

第三者委員は「誰でもよい」わけではありません。指針は要件・人数・選任方法・報酬をそれぞれ定めています。

要件と例示

○ 第三者委員の要件
ア 苦情解決を円滑・円満に図ることができる者であること。
イ 世間からの信頼性を有する者であること。
(例示)
評議員(理事は除く)、監事又は監査役、社会福祉士、民生委員・児童委員、大学教授、弁護士など

評議員は例示に含まれますが、理事は除かれています。 苦情を申し立てられる側である理事が、その解決を客観的に見届ける立場を兼ねるのは、この仕組みの趣旨に合いません。

人数

第三者委員は、中立・公正性の確保のため、複数であることが望ましい。その際、即応性を確保するため個々に職務に当たることが原則であるが、委員相互の情報交換等連携が重要である。

選任方法

第三者委員は、経営者の責任において選任する。
(例示)
ア 理事会が選考し、理事長が任命する。
イ 選任の際には、評議員会への諮問や利用者等からの意見聴取を行う。

選任の責任は経営者にあります。 誰かに任せきりで人選が固定化し、実質的に機能していない第三者委員を置いているだけ、という状態は避けなければなりません。

報酬

第三者委員への報酬は中立性の確保のため、実費弁償を除きできる限り無報酬とすることが望ましい。ただし、第三者委員の設置の形態又は報酬の決定方法により中立性が客観的に確保できる場合には、報酬を出すことは差し支えない。

無報酬が原則ではなく、あくまで「望ましい」という位置づけです。報酬を出す場合は、中立性が損なわれない形態・決定方法であることが条件になります。

手順は「周知→受付→報告・確認→話し合い→記録・報告→公表」の一続き

苦情解決は、単発の対応ではなく一続きの流れです。どこか一つの記録が欠けると、次の段階で説明ができなくなります。

周知

施設内への掲示、パンフレットの配布等により、苦情解決責任者は、利用者に対して、苦情解決責任者、苦情受付担当者及び第三者委員の氏名・連絡先や、苦情解決の仕組みについて周知する。

受付——書面に記録する4項目

苦情受付担当者は、利用者等からの苦情を随時受け付ける。なお、第三者委員も直接苦情を受け付けることができる。
苦情受付担当者は、利用者からの苦情受付に際し、次の事項を書面に記録し、その内容について苦情申出人に確認する。
ア 苦情の内容
イ 苦情申出人の希望等
ウ 第三者委員への報告の要否
エ 苦情申出人と苦情解決責任者の話し合いへの第三者委員の助言、立ち会いの要否

「書面に記録し、その内容について苦情申出人に確認する」まで含まれます。 受け付けたその場で記録し、申出人に内容を確認してもらう二段構えです。

報告・確認——原則すべて報告。匿名の投書も対象

苦情受付担当者は、受け付けた苦情はすべて苦情解決責任者及び第三者委員に報告する。ただし、苦情申出人が第三者委員への報告を明確に拒否する意思表示をした場合を除く。
投書など匿名の苦情については、第三者委員に報告し、必要な対応を行う。
第三者委員は、苦情受付担当者から苦情内容の報告を受けた場合は、内容を確認するとともに、苦情申出人に対して報告を受けた旨を通知する。

原則は「すべて報告」です。 除外できるのは、申出人が明確に拒否の意思表示をした場合だけ。匿名の投書であっても、報告と対応の対象から外れません。「小さな苦情だから第三者委員には上げない」という現場判断は、この規定に沿っていません。

話し合い

苦情解決責任者は苦情申出人との話し合いによる解決に努める。その際、苦情申出人又は苦情解決責任者は、必要に応じて第三者委員の助言を求めることができる。
第三者委員の立ち会いによる苦情申出人と苦情解決責任者の話し合いは、次により行う。
ア 第三者委員による苦情内容の確認
イ 第三者委員による解決案の調整、助言
ウ 話し合いの結果や改善事項等の書面での記録と確認

記録・報告——一定期間毎に第三者委員へ

苦情解決や改善を重ねることにより、サービスの質が高まり、運営の適正化が確保される。これらを実効あるものとするため、記録と報告を積み重ねるようにする。
ア 苦情受付担当者は、苦情受付から解決・改善までの経過と結果について書面に記録をする。
イ 苦情解決責任者は、一定期間毎に苦情解決結果について第三者委員に報告し、必要な助言を受ける。
ウ 苦情解決責任者は、苦情申出人に改善を約束した事項について、苦情申出人及び第三者委員に対して、一定期間経過後、報告する。

受付の瞬間だけでなく、「経過と結果」「改善状況」まで書面に残すことが求められています。話し合いで終わりではなく、約束した改善事項が実行されたかどうかも、一定期間後にあらためて報告する必要があります。

最後の段階が公表です。次の章で詳しく確認します。

記録は何年保存するか。障害福祉は5年、介護保険は2年

先ほど確認した第三十九条が義務づける「苦情の内容等の記録」には、保存年限があります。ここは制度によって年数が違うので、正確に書き分ける必要があります。

障害福祉サービスの運営基準では、各サービスの「記録の整備」の条において、苦情の内容等の記録を「当該〇〇を提供した日から五年間保存しなければならない」と定めています(例:第七十五条(療養介護)、第百七十条の三(自立訓練(生活訓練))など)。

一方、介護保険の運営基準では、同様の記録は「その完結の日から二年間保存」とされています(例:第八十二条の二(訪問リハビリテーション))。

制度保存年限
障害福祉サービス提供した日から5年間
介護保険サービス完結の日から2年間

同じ「苦情の記録」でも、障害福祉と介護保険とで年数が異なります。 両方の指定を受けている法人様では、事業所ごとに適用される年限が違うため、混同しないよう注意が必要です。また、自治体の条例でこれより長い保存期間を定めている場合もあります。適用される条例は所轄庁の案内で確認してください。

公表は「事業報告書」や「広報誌」等に

苦情解決の最後の段階が公表です。指針は次のように定めています。

利用者によるサービスの選択や事業者によるサービスの質や信頼性の向上を図るため、個人情報に関するものを除き「事業報告書」や「広報誌」等に実績を掲載し、公表する。

個人情報に関するものを除いた「実績」を掲載するという枠組みです。何件の苦情があり、どのように解決・改善したかという実績を、事業報告書や広報誌などを通じて外部に示します。話し合いで解決して終わりではなく、その実績が公表されて初めて、この仕組みは完結します。

運営適正化委員会との関係。事業者はできる限り協力する

法人内部の仕組みとは別に、都道府県には運営適正化委員会が置かれています。社会福祉法第83条です。

都道府県の区域内において、福祉サービス利用援助事業の適正な運営を確保するとともに、福祉サービスに関する利用者等からの苦情を適切に解決するため、都道府県社会福祉協議会に、人格が高潔であつて、社会福祉に関する識見を有し、かつ、社会福祉、法律又は医療に関し学識経験を有する者で構成される運営適正化委員会を置くものとする。

運営適正化委員会は、苦情の解決の申出があったときに次のように対応します。

運営適正化委員会は、福祉サービスに関する苦情について解決の申出があつたときは、その相談に応じ、申出人に必要な助言をし、当該苦情に係る事情を調査するものとする。2運営適正化委員会は、前項の申出人及び当該申出人に対し福祉サービスを提供した者の同意を得て、苦情の解決のあつせんを行うことができる。

そして、事業者の側にはこの調査・あっせんへの協力義務があります。

指定居宅介護事業者は、社会福祉法第八十三条に規定する運営適正化委員会が同法第八十五条の規定により行う調査又はあっせんにできる限り協力しなければならない。

法人内の第三者委員による解決で完結しない場合は、都道府県社会福祉協議会に置かれる運営適正化委員会が受け皿になり、事業者はその調査・あっせんに「できる限り協力しなければならない」立場にあります。なお、処遇に不当な行為が行われているおそれがあると運営適正化委員会が認めたときは、都道府県知事へ通知される仕組みも設けられています。

記録が事業所ごとにバラバラだと、何が起きるか

ここまでの流れを見ると分かるとおり、苦情解決は「受付」「報告」「話し合い」「記録」「公表」という複数の書面が、複数の担当者(苦情受付担当者・苦情解決責任者・第三者委員)をまたいで作られる仕組みです。

事業所を複数運営する法人様でよく起きるのが、この記録が事業所ごと・担当者ごとに別の場所で管理されている状態です。ある事業所では紙のファイルに、別の事業所ではExcelに、第三者委員への報告メモは担当者の手元だけに残っている。法人本部が「今年度、第三者委員に何件報告し、公表実績はいくつか」を答えようとしたときに、事業所を一つずつ回って集める必要が出てきます。

記録を1か所に集める体制に変えると、状況は変わります。受付から第三者委員への報告、話し合いの記録、公表までを、法人本部が随時見える形で持てるようになり、監査や運営指導で問われたときも、事業所への聞き取りに頼らず即座に答えられます。

監査・運営指導で見られる3つの観点

苦情解決の仕組みは、指導監査の記事で扱ったとおり、運営指導や監査で確認される項目の一つです。実務的には、次の3点に整理できます。

  • 周知しているか——苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員の氏名・連絡先や仕組みそのものが、利用者に周知されているか
  • 記録が残っているか——受付時の書面(4項目)、話し合いの結果、経過と結果の記録が、それぞれの段階で残されているか
  • 第三者委員への報告と公表の実績があるか——受け付けた苦情がすべて(拒否の意思表示があった場合を除き)第三者委員に報告され、実績が事業報告書や広報誌等で公表されているか

体制図や規程が整っていても、この3点の記録が事業所ごとに分散していれば、いざというときに答えられません。

まとめ

  • 社会福祉法第82条は、経営者に苦情の適切な解決を努力義務として求める。一方、運営基準省令は窓口の設置記録を義務としている
  • 体制は苦情解決責任者(施設長・理事等)・苦情受付担当者(職員から任命)・第三者委員の三者
  • 第三者委員は複数が望ましく評議員は可だが理事は除かれ、選任は経営者の責任、報酬は実費弁償を除きできる限り無報酬が望ましい
  • 手順は周知→受付(書面に4項目を記録)→報告・確認(原則すべて第三者委員に報告)→話し合い→記録・報告→公表の一続き
  • 苦情の内容等の記録の保存年限は、障害福祉サービスが5年間、介護保険サービスが2年間と制度で異なる(自治体の条例でこれより長い場合がある)
  • 公表は個人情報に関するものを除き、「事業報告書」や「広報誌」等に実績を掲載する
  • 都道府県社会福祉協議会に置かれる運営適正化委員会の調査・あっせんには、事業者はできる限り協力しなければならない

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参考にした一次情報

※所轄庁・保険者によって、様式や運用に細かな違いがあります。実際の手続きにあたっては、必ず所轄庁の案内をご確認ください。本記事では苦情解決規程のひな形は扱っていません。

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