役員等賠償責任保険、いわゆるD&O保険の説明は、会社法を前提にしたものが大半です。社会福祉法人の法人本部が「うちの法人は、どの条文を根拠に、どの機関の決議で結ぶのか」を知りたくても、会社の説明をそのまま当てはめてよいのかが分かりません。
この記事は、保険商品の解説ではありません。社会福祉法第45条の22の2が何を準用しているかを出発点にして、条文の構造で次の3点を決着させます。
- 役員等賠償責任保険の内容を決めるのは、理事会か、評議員会か
- 理事が被保険者になるとき、利益相反取引の承認手続は要るのか
- 責任の免除や責任限定契約と、保険はどう違う位置にあるのか
なお、保険料を法人が負担してよいか、所轄庁がどう取り扱うか、保険商品の補償範囲がどうなっているかは、条文に書かれていないので扱いません。「条文はここまでしか定めていない」というところを、あえて線引きして書きます。
先に、条文を読んで確かめられたことを並べます。
- 社会福祉法第45条の22の2は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)第118条の2(補償契約)と第118条の3(役員等のために締結される保険契約)を、社会福祉法人について準用している
- その読替えで、第118条の3第1項の「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」は「理事会」になる。保険契約の内容の決定は理事会の決議で、評議員会ではない。第118条の2第1項の補償契約も同じ読替え
- 第118条の3第2項は、理事を被保険者とする保険契約の締結について、第84条第1項(競業及び利益相反取引の制限)を適用しないと定める。第92条第2項と第111条第3項も同じ列に並んでいる
- 第118条の3第3項は民法第108条を適用しないとするが、ただし書がある。役員等賠償責任保険契約のときは、第1項の決議で内容が定められたときに限る
- 同じ第45条の22の2で、一般法人法第112条から第116条までが、社会福祉法第45条の20第1項の責任について準用されている。この範囲に第115条(責任限定契約)が入っている
- 社会福祉法第45条の13第4項第6号は、一般法人法第114条第1項の定款の定めに基づく責任の免除を、理事に委任できない事項に挙げている
- 社会福祉法第45条の20第1項は「理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において『役員等』という。)又は評議員」と書く。評議員は「役員等」の語に含まれないが、損害賠償責任は評議員にも及ぶ
評議員の扱いは、読み間違えやすい箇所です。後半で、条文の文言どおりに丁寧に整理します。
条文の地図:どの論点がどこに書かれているか
社会福祉法の条文が、一般法人法の条文を準用する形で組まれています。先に地図を置きます。
| 論点 | 置かれている条文 |
|---|---|
| 理事、監事、会計監査人、評議員の、法人に対する損害賠償責任 | 社会福祉法 第45条の20 |
| 第三者に対する損害賠償責任 | 社会福祉法 第45条の21 |
| 連帯責任 | 社会福祉法 第45条の22 |
| 一般法人法の責任免除・補償契約・保険契約の準用と読替え | 社会福祉法 第45条の22の2 |
| 理事会が理事に委任できない事項 | 社会福祉法 第45条の13第4項 |
| 補償契約 | 一般法人法 第118条の2(社会福祉法 第45条の22の2で準用) |
| 役員等のために締結される保険契約 | 一般法人法 第118条の3(同上) |
| 責任の免除、一部免除、定款の定めによる免除、責任限定契約 | 一般法人法 第112条から第116条まで(同上) |
| 理事の競業及び利益相反取引の制限 | 一般法人法 第84条(社会福祉法 第45条の16第4項で準用) |
出発点:社会福祉法第45条の22の2は、2つのグループを準用している
第45条の22の2の前半は、次のとおりです。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十二条から第百十六条までの規定は第四十五条の二十第一項の責任について、同法第百十八条の二及び第百十八条の三の規定は社会福祉法人について、それぞれ準用する。
1文のなかで、準用の相手が2つに分かれています。
| 準用される一般法人法の条 | 準用の対象(条文の言葉) | 内容 |
|---|---|---|
| 第112条から第116条まで | 「第四十五条の二十第一項の責任について」 | 責任の免除、一部免除、定款の定めによる免除、責任限定契約、自己のためにした取引の特則 |
| 第118条の2、第118条の3 | 「社会福祉法人について」 | 補償契約、役員等のために締結される保険契約 |
見落としやすいのは、対象の書き方の違いです。第112条から第116条までは「第四十五条の二十第一項の責任」という特定の責任にひもづいています。第118条の2と第118条の3は、その責任ではなく法人そのものにひもづいています。保険契約や補償契約は、損害賠償責任の免除とは別の仕組みとして、法人が結ぶ契約として置かれている、という構造です。
決めるのは理事会:読替えを条文どおりに読む
準用の読替えは、同じ条の後半に書かれています。保険と補償契約に関係する部分だけを取り出します。
同法第百十八条の二第一項中「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」とあるのは「理事会」と、同法第百十八条の三第一項中「法務省令」とあるのは「厚生労働省令」と、「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」とあるのは「理事会」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
読み取れることは次のとおりです。
- 第118条の2第1項(補償契約)の「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」は、「理事会」になる
- 第118条の3第1項(保険契約)も同じく「理事会」になる
- 第118条の3第1項の「法務省令」は「厚生労働省令」になる
- 政令で定める技術的読替えがあるが、その中身はこの記事の条文には入っていない
読替え後の第118条の3第1項は、次の原文の「社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)」の部分が「理事会」になった形で読みます。
一般社団法人が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)の決議によらなければならない。
ここから、条文の構造として次のことが言えます。
- 保険の対象になる場面:役員等が職務の執行に関し責任を負うこと、またはその責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害。条文の言葉はこの範囲です
- 決議が要るもの:保険契約の「内容の決定」。契約を結ぶか結ばないかではなく、内容の決定が決議の対象になっている
- 決議する機関:読替えにより「理事会」。評議員会ではない
- 決議の対象から外れるもの:括弧書きにある、被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして省令で定めるもの。ここは「役員等賠償責任保険契約」という語から外れる。省令の中身(厚生労働省令に読み替えられる)は、この記事では扱っていません
補償契約の第118条の2第1項も、同じ形で理事会の決議によることになります。
一般社団法人が、役員等に対して次に掲げる費用等の全部又は一部を当該一般社団法人が補償することを約する契約(以下この条において「補償契約」という。)の内容の決定をするには、社員総会(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会)の決議によらなければならない。
理事会と評議員会の線引きは、ここでは理事会側に引かれている
この点は、理事会と評議員会の役割の違いを整理した別の記事(社会福祉法人の理事会と評議員会の違い)の読み方とも整合します。保険と補償契約は、評議員会の決議事項ではなく、理事会の決議事項として読替えで書かれています。
ただし、この読替えは「保険契約の内容の決定」と「補償契約の内容の決定」に限られます。同じ第45条の22の2の読替えには、責任の免除に関する条で「社員総会」が「評議員会」に読み替えられている箇所が複数あります。同じ条文のなかで、保険と補償契約は理事会、責任の免除は評議員会が関わる、と機関が分かれていることが、この準用規定の特徴です。これは後の章で見ます。
理事が被保険者になるとき:利益相反の承認は、条文が外している
役員等賠償責任保険は、理事自身を被保険者にします。理事と法人のあいだで契約が結ばれるように見える場面ですが、利益相反取引の承認は必要でしょうか。第118条の3第2項は、これに答えています。
第八十四条第一項、第九十二条第二項及び第百十一条第三項の規定は、一般社団法人が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、理事を被保険者とするものの締結については、適用しない。
読み取れるのは、次の3つです。
| 適用されない条 | 条文の見出し(または内容) | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 第84条第1項 | 競業及び利益相反取引の制限 | 理事が被保険者でも、この条の手続は適用されない |
| 第92条第2項 | 条文の見出しは抜粋に含まれていない | 適用されないことのみ確認。中身は扱わない |
| 第111条第3項 | 条文の見出しは抜粋に含まれていない | 適用されないことのみ確認。中身は扱わない |
第84条第1項は、理事が自己または第三者のために法人と取引をしようとするときなどに、重要な事実を開示して承認を受けることを求める規定です。社会福祉法では、第45条の20第2項と第3項が「第四十五条の十六第四項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項」と書いており、社会福祉法人でも第84条第1項が準用される構造になっています。利益相反取引の承認と議決除斥の読み方は、別の記事(社会福祉法人の利益相反取引)で整理しています。
保険契約の締結は、理事を被保険者とするものであっても、その第84条第1項の手続は適用しないと第118条の3第2項が定めています。これは「承認が要らない」と言い切るというより、利益相反の手続の代わりに、第118条の3第1項の決議(読替え後は理事会の決議)で内容を決めるという構造です。
第3項は、民法第108条との関係を定めています。
民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。
続くただし書は次のとおりです。
ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。
2つの文の組み立てを整理します。
| 場合 | 民法第108条の適用 |
|---|---|
| 理事を被保険者とする保険契約が、役員等賠償責任保険契約に当たる場合 | 第1項の決議(理事会の決議)で内容が定められたときに限り、適用されない |
| 理事を被保険者とする保険契約が、役員等賠償責任保険契約に当たらない場合(第1項の括弧書きで省令が除いたもの) | ただし書の条件がかからないので、適用されない |
つまり、役員等賠償責任保険契約として扱われるものは、理事会の決議で内容を決めておいて初めて、民法第108条の適用が外れるという読み方になります。決議を経ていない契約は、この適用除外の恩恵を受けません。民法第108条の中身は、この記事の条文には入っていないので扱いません。
隣り合う補償契約:補償できる範囲と、理事会への報告
保険と並んで準用されている補償契約についても、保険との違いが分かる範囲で触れます。補償契約は、法人が役員等に対して費用や損失を補償することを約する契約です。保険会社が損害をてん補する保険契約とは、契約の相手が違います。
第118条の2第2項は、補償契約を結んでいても補償できない費用等を3つ挙げています。
| 号 | 補償できないもの(条文の言葉) |
|---|---|
| 第一号 | 第1項第一号に掲げる費用のうち通常要する費用の額を超える部分 |
| 第二号 | 法人が損害を賠償するとすれば、役員等が法人に対して第111条第1項の責任を負う場合の、その責任に係る損失の部分 |
| 第三号 | 役員等がその職務を行うにつき悪意または重大な過失があったことにより第二号の責任を負う場合の、その損失の全部 |
また、第118条の2第4項は、補償をした理事と補償を受けた理事に、遅滞なく、補償についての重要な事実を理事会に報告することを求めています。この項の文言は「理事会設置一般社団法人においては」で始まります。社会福祉法人についての読替えは、第45条の22の2の抜粋には出てきていません。社会福祉法人でこの項がどう読まれるかは、政令の技術的読替えもあわせて確認する必要があります。
第5項と第6項は、保険契約の第2項・第3項に対応する規定です。
第八十四条第一項、第九十二条第二項、第百十一条第三項及び第百十六条第一項の規定は、一般社団法人と理事との間の補償契約については、適用しない。
補償契約の側には第116条第1項も並んでいる点が、保険契約と異なります。第6項は、民法第108条の適用を、第1項の決議によってその内容が定められた補償契約の締結について外しています。
この記事の主題は保険なので、補償契約はここまでにします。補償契約と保険契約は、どちらも法人が役員等のために結ぶもので、どちらも内容の決定は理事会の決議による、という共通の骨格を押さえておけば十分です。
責任の免除は、保険とは別の仕組み:第112条から第116条まで
保険契約は、損害が起きたときのてん補の仕組みでした。これとは別に、責任そのものを免除したり、あらかじめ限度を決めたりする仕組みが、第112条から第116条までです。第45条の20第1項の責任についてだけ準用されています。
保険と、責任を軽くする仕組みは、条文のなかで別の置き場所にあります。何がどこにあるかを、並べます。
| 一般法人法の条 | 内容 | 社会福祉法人での読替え(条文の言葉) |
|---|---|---|
| 第112条 | 責任は、総社員の同意がなければ免除できない | 「総社員」は「総評議員」 |
| 第113条 | 善意でかつ重大な過失がないときの一部免除 | 「社員総会」は「評議員会」。「代表理事」は「理事長」 |
| 第114条 | 定款の定めに基づく、理事の過半数の同意(理事会設置では理事会の決議)による免除 | 通知や異議の部分で「社員」は「評議員」 |
| 第115条 | 責任限定契約 | 「代表理事」は「理事長」。「社員総会」は「評議員会」 |
| 第116条 | 理事が自己のためにした取引に関する特則 | 読替えの定めは抜粋に出てこない |
この表から、保険契約と責任の免除の違いが見えてきます。
- 保険契約・補償契約の内容の決定:理事会の決議
- 責任の全部免除:総評議員の同意(第112条)
- 責任の一部免除:評議員会の決議(第113条第1項。読替え後)
- 定款の定めに基づく免除:理事会の決議(第114条第1項)。ただし社会福祉法が理事への委任を禁じている
- 責任限定契約:定款の定めに基づき、あらかじめ契約で限度を決める(第115条)
つまり、同じ「役員の責任を軽くする」という目的でも、保険は理事会、全部免除は評議員、一部免除は評議員会、定款の定めによる免除は理事会と、機関が分かれています。
一部免除と責任限定契約の入口
第113条第1項は、一部免除の条件を次のように書いています。
前条の規定にかかわらず、役員等の第百十一条第一項の責任は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、第一号に掲げる額から第二号に掲げる額(第百十五条第一項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、社員総会の決議によって免除することができる。
ここでの要点は、免除できる額に上限があることです。賠償の責任を負う額から、在職中に職務執行の対価として受ける財産上の利益の1年間当たりの額に所定の数を乗じた額(最低責任限度額)を控除した額が限度です。乗じる数は、代表理事が6、業務執行理事などが4、それ以外の理事、監事、会計監査人が2と、条文に書かれています。社会福祉法人では「代表理事」が「理事長」に読み替えられます。
第115条第1項の責任限定契約は、非業務執行理事等(業務執行理事または使用人でない理事、監事、会計監査人)を対象に、定款の定めにより、あらかじめ契約で責任の限度を決めておく仕組みです。「善意でかつ重大な過失がないとき」という条件が付いています。第115条第2項は、この契約を結んだ非業務執行理事等が、後に業務執行理事または使用人に就任したときは、契約は将来に向かって効力を失うと定めています。
この記事では、責任の免除と責任限定契約の細部には踏み込みません。ここで確認したいのは、保険とこれらの仕組みは、条文のなかで別の置き場所にあるということです。
定款の定めによる免除は、理事会の決議で、理事に委任できない
第114条第1項は、定款の定めに基づく免除を、次のように書いています。
責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、前条第一項の規定により免除することができる額を限度として理事(当該責任を負う理事を除く。)の過半数の同意(理事会設置一般社団法人にあっては、理事会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。
この免除について、社会福祉法第45条の13第4項は、理事会の権限を次のように書いています。
理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
その第六号が、次の事項です。
第四十五条の二十二の二において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十四条第一項の規定による定款の定めに基づく第四十五条の二十第一項の責任の免除
読み取れるのは、定款の定めに基づく責任の免除は、理事会が理事に委任できない重要な業務執行の決定として挙げられていることです。理事長などの個人に任せることはできず、理事会の決議事項になります。
一方、保険契約と補償契約の内容の決定が、第45条の13第4項に挙がっているかどうかは、この記事の抜粋では確認できません。ただし、第118条の3第1項と第118条の2第1項が、読替えにより理事会の決議によらなければならないと書いているので、決議の機関は条文から読めます。
評議員は「役員等」に含まれない:条文の非対称を読む
ここからが、この記事でいちばん丁寧に読みたい点です。社会福祉法第45条の20第1項は、次のとおりです。
理事、監事若しくは会計監査人(以下この款において「役員等」という。)又は評議員は、その任務を怠つたときは、社会福祉法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
括弧書きの位置に注意してください。「役員等」は、理事、監事、会計監査人の3者を指す定義です。「又は評議員」は括弧の外にあります。つまり、評議員は「役員等」の語には含まれません。一方で、損害賠償責任を負う主体には、評議員が並んでいます。
この非対称は、第三者に対する責任の条文でも、連帯責任の条文でも、同じ書き方で続いています。第45条の21第1項と第45条の22は、いずれも「役員等又は評議員」と書いています。
| 条文 | 書かれている主体 |
|---|---|
| 第45条の20第1項(法人に対する責任) | 役員等(理事、監事、会計監査人)又は評議員 |
| 第45条の21第1項(第三者に対する責任) | 役員等又は評議員 |
| 第45条の22(連帯責任) | 役員等又は評議員 |
| 一般法人法 第113条第1項(一部免除) | 役員等の第111条第1項の責任 |
| 一般法人法 第118条の2第1項(補償契約) | 役員等に対して費用等を補償する契約 |
| 一般法人法 第118条の3第1項(保険契約) | 役員等を被保険者とするもの |
この表を並べると、次のことが条文の文言から言えます。
- 損害賠償責任は、評議員にも及ぶ。第45条の20から第45条の22まで、評議員は明記されている
- 一方で、保険契約・補償契約・一部免除の条文は、文言上は「役員等」と書いている。評議員は「役員等」の定義に入っていない
- したがって、評議員を被保険者とする保険契約や、評議員に対する補償契約が、同じ決議の手続で扱われるのかどうかは、この抜粋の条文だけでは読めない
3つ目については、第45条の22の2が政令で定める技術的読替えに委ねている部分があり、その中身はこの記事の条文には入っていません。評議員を保険の対象にするかどうかは、条文の文言と、政令や省令を別に確認したうえで決めることになります。この記事では「文言はこうなっている」というところまでを書きます。
評議員の責任が条文に書かれているのに、保険の条文の主語に評議員がいない、という構造は、制度として知っておく価値があります。保険の補償範囲を考えるときに、「役員全員が対象」と大づかみに考えると、評議員が抜ける可能性があるからです。ただし、実際の商品の補償範囲は、この記事では扱いません。
法人本部で決めておきたいこと(条文の構造からの提案)
ここからは条文が書いていることではなく、条文の構造から考えた運用の整理です。提案であることを、そのつど書きます。
決議の記録を、機関別にそろえる
条文の構造から、理事会の決議事項と評議員会が関わる事項が混在します。次のように整理しておくと、後から確認しやすくなります(これは条文の求めではなく、提案です)。
| 項目 | 関わる機関(条文の言葉) | 台帳に持っておきたい内容(提案) |
|---|---|---|
| 役員等賠償責任保険契約の内容の決定 | 理事会の決議(第118条の3第1項) | 決議の日付、決議した内容、契約の期間 |
| 補償契約の内容の決定 | 理事会の決議(第118条の2第1項) | 決議の日付、補償の範囲として決議した内容 |
| 補償をしたときの報告 | 理事会への報告(第118条の2第4項) | 報告の日付、報告した事実 |
| 定款の定めに基づく責任の免除 | 理事会の決議。理事に委任できない(社会福祉法 第45条の13第4項第六号) | 決議の日付、免除した責任の内容 |
| 責任の一部免除 | 評議員会の決議(第113条第1項。読替え後) | 決議の日付、免除額の限度の根拠 |
| 責任限定契約 | 定款の定めが前提(第115条第1項) | 契約を結んだ相手、契約を結んだ日 |
保険の更新時期を、決議の記録とつなげる
保険契約は、通常は期間が区切られており、更新のたびに契約の内容が決まります。条文は「内容の決定」を理事会の決議事項としているので、更新のときに内容が変わるなら、その内容の決定が再び決議の対象になると考えるのが、条文に沿った運用の見方です。更新を、契約書の書類のやり取りだけで済ませず、理事会の議案の一つとして日程に載せておく、という工夫が考えられます。
更新のたびに決議が要るのか、内容が同じなら不要なのかは、条文だけでは確定できません。確定できないので、更新の時期を、理事会の年間の予定と合わせて台帳で追える状態にしておくと、判断の材料がそろいます。これは提案です。
民法第108条のただし書を、決議の記録に反映する
先に読んだとおり、第118条の3第3項のただし書は、役員等賠償責任保険契約のとき、第1項の決議で内容が定められたことを、民法第108条の適用除外の条件にしています。この条件を確かめられるように、決議の記録に「どの内容を決議したか」を残しておくことが、条文の組み立てから導かれる運用です(これも提案です)。
この記事で書いていないこと
条文の範囲では、次のことは書かれていない、またはこの記事で確認していません。
- 保険料を法人が負担してよいか:条文に書かれていません
- 所轄庁の取扱い、届出の要否:この記事で確認した条文に入っていません
- 保険商品の補償範囲、免責、保険料の水準:商品の内容は条文の外です
- 第118条の3第1項の括弧書きの省令(厚生労働省令に読み替え)の中身:この記事では取得していません
- 第45条の22の2の「政令で定める技術的読替え」の中身:この記事の条文には入っていません
- 評議員を被保険者にできるか、評議員への補償契約を結べるか:「役員等」の文言のうえでは含まれていませんが、政令や省令を含む確認は、この記事ではしていません
- 第92条第2項と第111条第3項の内容:適用されないことのみ確認し、中身は扱っていません
- 民法第108条の中身:適用の有無のみを読んでいます
- 第118条の2第4項の「理事会設置一般社団法人においては」が、社会福祉法人でどう読まれるか:第45条の22の2の読替えに出てきていません
- 保険契約の更新のたびに決議が必要か:条文から確定できません
- 個別の法人への適用や、行政の運用:この記事は条文の構造の整理です。個別の判断は所轄庁や、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご確認ください
まとめ
- 社会福祉法第45条の22の2は、一般法人法の第118条の2(補償契約)と第118条の3(保険契約)を社会福祉法人について準用し、第112条から第116条までを第45条の20第1項の責任について準用している
- 読替えにより、保険契約と補償契約の内容の決定は、理事会の決議。評議員会の決議ではない
- 理事を被保険者とする保険契約には、一般法人法第84条第1項(競業及び利益相反取引の制限)が適用されない(第118条の3第2項)。第92条第2項、第111条第3項も同じ
- 民法第108条は適用されない(第118条の3第3項)が、役員等賠償責任保険契約のときは、第1項の決議で内容が定められたときに限る
- 責任の全部免除は総評議員の同意、一部免除は評議員会の決議、定款の定めによる免除は理事会の決議で理事に委任できない(社会福祉法第45条の13第4項第6号)。責任限定契約は第115条
- 評議員は「役員等」に含まれない。損害賠償責任は評議員にも及ぶが、保険・補償契約・一部免除の条文の文言は「役員等」。評議員がどう扱われるかは、この抜粋の条文だけでは読めない
- 保険料の負担、所轄庁の取扱い、保険商品の補償範囲は、条文に書かれていない
参考にした一次情報
- 社会福祉法|e-Gov法令検索:第四十五条の十三、第四十五条の二十、第四十五条の二十一、第四十五条の二十二、第四十五条の二十二の二
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律|e-Gov法令検索:第八十四条、第百十二条、第百十三条、第百十四条、第百十五条、第百十六条、第百十八条の二、第百十八条の三
いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の法人への適用や、行政の運用、保険商品の内容を示すものではありません。
理事会の決議事項と議事録、契約や保険の更新期限を、法人本部で1つの台帳に持てていますか
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