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社会福祉法人の利益相反取引|理事会承認と議決除斥・議事録の実務対応

「利益相反」という言葉自体は、多くの理事長・理事の方がご存知です。理事が経営する会社と法人が取引をするときは、何か手続きが要る——という感覚も、多くの法人様にすでにあります。

しかし実務で本当に問われるのは、「利益相反とは何か」ではありません。その取引がどの類型に当たり、誰の承認をどの順番で取り、議事録に何を残すかです。承認機関を勘違いしていないか、当事者理事を除いた頭数で定足数を数え直しているか、取引の後にも理事会への報告が要ることを知っているか。ここでつまずいている法人様を、少なくない数見てきました。

この記事では、利益相反の一般論ではなく、承認の根拠条文、対象となる取引の類型、承認の手順、議決からの除斥、事後報告、違反したときの効果、議事録の保存という実務の骨格に絞って整理します。

承認機関は「理事会」。根拠は社会福祉法第45条の16第4項の読み替え

利益相反取引の承認について定めているのは、直接には社会福祉法ではなく、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)第84条です。一般法人法は一般社団法人を対象にした法律なので、そのままでは承認機関は「社員総会」になります。

これを社会福祉法人に読み替えているのが、社会福祉法第45条の16第4項です。

4一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条、第八十五条、第八十八条(第二項を除く。)、第八十九条及び第九十二条第二項の規定は、理事について準用する。この場合において、同法第八十四条第一項中「社員総会」とあるのは「理事会」と、同法第八十八条の見出し及び同条第一項中「社員」とあるのは「評議員」と、「著しい」とあるのは「回復することができない」と、同法第八十九条中「社員総会」とあるのは「評議員会」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

この条文中に、「同法第八十四条第一項中『社員総会』とあるのは『理事会』と」読み替える、と明記されています。 一般法人法84条を単独で読むと承認機関は社員総会に見えますが、社会福祉法人においては、この読み替えによって承認機関は理事会になります。評議員会ではありません。役員会や常務理事会といった任意の会議体でもなく、法律上の理事会そのものです。ここを最初に押さえておく必要があります。

対象になる3つの取引類型(一般法人法第84条第1項)

読み替えの元になっている一般法人法第84条は、承認が必要な取引を3つの類型に分けています。

第八十四条(競業及び利益相反取引の制限)
理事は、次に掲げる場合には、社員総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 理事が自己又は第三者のために一般社団法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 理事が自己又は第三者のために一般社団法人と取引をしようとするとき。
三 一般社団法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において一般社団法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき。
2民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

条文の「社員総会」は、社会福祉法人では前章のとおり「理事会」に読み替えられます。3つの類型を、社会福祉法人で実際に起こり得る形に置き換えると、次のようになります。

類型(一般法人法84条1項)社会福祉法人で起こり得る例
一号 競業取引理事が経営する会社が、法人の事業エリア内で同種の福祉サービス(デイサービス・訪問介護等)を新たに開業する
二号 直接取引理事個人が所有する土地・建物を法人が賃借する/理事が経営する会社に法人が物品購入や工事を発注する
三号 間接取引法人が理事個人の債務を保証する/法人と第三者との取引に理事個人の利益が絡む

2項の「民法第百八条の規定は…適用しない」も見落とせません。 民法108条は自己契約・双方代理などを制限する規定ですが、直接取引・間接取引について理事会の承認を受けていれば、この民法の規定は適用されません。理事会の承認そのものが、利益相反を統制する手続きとして位置づけられているということです。

承認は「事前」に。開示すべき事実と議事録への記載

84条1項の要求は、「当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」というものです。文言上、承認は取引のに受ける必要があります。取引をしてしまってから理事会に諮っても、この承認には当たりません。

議事録には、単に「承認した」という結論だけでなく、次の内容が読み取れる形で残す必要があります。

  • どの理事が、どのような取引について、当事者であるか
  • 開示された重要な事実の内容(取引の相手方、目的物、価格・条件など)
  • 承認を求める議案として上程され、理事会で審議・決議されたこと

議事録は理事会議事録の記事で扱ったとおり、理事会の意思決定そのものを事後に証明する唯一の記録です。利益相反取引の承認は、後から「開示された事実」と「承認の範囲」を切り分けて説明できる記載にしておく必要があります。

当事者理事は議決に加われない。定足数の数え方を間違えやすい

承認の決議には、もう一つ重要な制約があります。取引の当事者である理事は、その決議に加われません。社会福祉法第45条の14が定めています。

4理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合以上)をもつて行う。
5前項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。

利益相反取引の当事者理事は、まさにこの「特別の利害関係を有する理事」に当たります。 議決に加われないだけでなく、4項の「議決に加わることができる理事の過半数」という定足数の母数からも外れる点が実務でつまずきやすいところです。

理事会成立要件の記事で整理したとおり、理事会は「議決に加わることができる理事」の過半数の出席で成立します。当事者理事を除いて出席者を数え直したとき、定足数を満たさなくなるケースがあります。

たとえば理事定数7名の法人で、理事4名(うち承認議案の当事者である理事A本人を含む)が出席したとします。「議決に加わることができる理事」の母数は、総数7名から理事Aを除いた6名。決議の要件はその過半数である4名以上の出席です。ところが出席した4名には理事A本人が含まれているため、議決に加わることができる出席者は3名にとどまり、必要な4名に届きません。出席者の頭数だけを見て「4名来ているから半分は超えている」と判断すると、実際には決議が成立していなかった、という事故が起こり得ます。 議事録には、当事者理事が議決に加わらなかったこと自体も明記しておく必要があります。

取引をした理事は、事後にも理事会への報告義務がある

事前の承認を受ければ終わり、ではありません。一般法人法第92条第2項は、取引後の報告義務を定めており、これも社会福祉法第45条の16第4項によって理事に準用されています。

2理事会設置一般社団法人においては、第八十四条第一項各号の取引をした理事は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を理事会に報告しなければならない。

事前の承認と、事後の報告は別の手続きです。 承認を受けて取引を実行したら、それで終わりにせず、取引後遅滞なく、その取引についての重要な事実を理事会に報告する必要があります。事後報告の有無も、議事録で確認できる状態にしておく必要があります。

違反したときの効果。「賛成しただけ」の理事も任務懈怠が推定される

承認手続を経ずに取引をした場合、あるいは承認を受けても法人に損害が生じた場合の効果は、社会福祉法第45条の20に定められています。

2理事が第四十五条の十六第四項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項の規定に違反して同項第一号の取引をしたときは、当該取引によつて理事又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3第四十五条の十六第四項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項第二号又は第三号の取引によつて社会福祉法人に損害が生じたときは、次に掲げる理事は、その任務を怠つたものと推定する。
一 第四十五条の十六第四項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第八十四条第一項の理事
二 社会福祉法人が当該取引をすることを決定した理事
三 当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事

競業取引(1号)で承認を経ずに取引をした場合は、理事や第三者が得た利益の額が、そのまま損害額と推定されます(2項)。直接取引・間接取引(2号・3号)で法人に損害が生じた場合は、取引をした理事本人だけでなく、その取引を決定した理事、そして理事会の承認決議に賛成した理事まで、任務を怠ったものと推定されます(3項)。

「自分は取引の当事者ではなく、議案に賛成しただけだ」という立場の理事も、この推定の対象に含まれています。 承認決議は、賛成した理事自身にも責任が及び得る決議だという前提で、開示された事実を確認したうえで議決に臨む必要があります。

「特別代理人」という古い理解のまま運用していないか

社会福祉法人の利益相反取引をめぐっては、「特別代理人を選任する必要がある」という説明を耳にすることがあります。しかし、本記事で確認した社会福祉法・一般法人法の該当条文(理事の職務及び権限等、理事会の運営、役員等又は評議員の社会福祉法人に対する損害賠償責任、競業及び利益相反取引の制限の各条文)には、いずれも「特別代理人」という語は置かれていません。現行の枠組みは、理事会における事前の承認と、取引後の理事会への報告を軸にしたものです。過去の理解のまま運用が止まっていないか、根拠条文に立ち返って確認することをおすすめします。

議事録は理事会の日から10年間、主たる事務所に備え置く

承認の議事録そのものの保存義務は、社会福祉法第45条の15第1項に定められています。

社会福祉法人は、理事会の日(前条第九項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第九十六条の規定により理事会の決議があつたものとみなされた日を含む。)から十年間、前条第六項の議事録又は同条第九項において準用する同法第九十六条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその主たる事務所に備え置かなければならない。

理事会の日から10年間、主たる事務所に備え置く。 利益相反取引の承認議事録も、この保存義務の対象そのものです。承認から10年経ってから、その取引の経緯を問われる可能性がある、という前提で保存しておく必要があります。

事業所単位で発生する取引を、法人本部がどう把握するか

多拠点・多事業の社会福祉法人様では、理事の関係先との取引が事業所単位で発生しがちです。ある事業所の管理者が、地域で付き合いのある業者(実は理事が経営する会社)に工事を発注していても、法人本部がその取引の存在自体を把握していない、というケースがあります。理事会に諮ったかどうか、議決から当事者理事を外したかどうか、議事録のどこに記載があるかは、事業所ごとの議事録ファイルを1冊ずつめくらないと分からない状態になりがちです。

利益相反取引は、計算書類の注記事項(関連当事者との取引)にもつながる項目です。取引の発生から、理事会での開示・承認、議決からの除斥、議事録への記載、事後報告、そして計算書類の注記までを1本の線で追える状態にしておくと、監査や運営指導で問われたときも、事業所への聞き取りに頼らず即座に答えられます。

まとめ

  • 承認機関は理事会。社会福祉法第45条の16第4項が、一般法人法第84条第1項の「社員総会」を「理事会」に読み替えている
  • 対象は一般法人法第84条第1項の競業取引(1号)・直接取引(2号)・間接取引(3号)
  • 承認は事前。重要な事実を開示し、理事会の承認を受ける必要がある
  • 取引の当事者理事は議決に加われないうえ、定足数の母数からも外れる(第45条の14第4項・第5項)
  • 承認を受けても、取引後は遅滞なく理事会に報告する義務がある(一般法人法第92条第2項)
  • 違反・損害発生時は、取引をした理事だけでなく決定した理事・承認決議に賛成した理事も任務懈怠を推定される(第45条の20第2項・第3項)
  • 現行法の条文に「特別代理人」という語はない。古い理解のまま運用していないか確認する
  • 承認議事録は理事会の日から10年間、主たる事務所に備え置く(第45条の15第1項)

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参考にした一次情報

※本記事で確認した条文の範囲では「特別代理人」という語は用いられていません。実際の手続きにあたっては、定款の定めや所轄庁の案内も併せてご確認ください。本記事では規程・議事録のひな形は扱っていません。

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