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社会福祉法人の収支予算|定款で決まる承認手続と補正予算の実務

「予算はどこまで理事会で決めればいいのでしょうか」

年明けから3月にかけて、事務長様や経理のご担当者様からよくいただくご質問です。そして、この質問には全法人共通の正解がありません。

理由は単純で、社会福祉法人の収支予算の手続は、法律や省令で決められていないからです。決めているのは、それぞれの法人の定款です。だから「他の法人はこうしている」は判断材料になりません。

この記事では、厚生労働省の課長通知(運用上の留意事項)と指導監査ガイドライン、そして定款例に戻って、予算の承認は誰が行うのか、補正予算はどこまで必要なのか、それが決算とどうつながるのかを整理します。

出発点:予算の手続は「法定されていない」

まず、これを押さえてください。指導監査ガイドラインは、資金収支予算書の項でこう書いています。

資金収支予算書の作成に関する手続きは法定されていないが、収入支出予算の編成は法人の運営に関する重要事項であり、定款において、その作成及び承認に関して定めておくべきである

「法定されていない」と明言したうえで、「定款において定めておくべきである」と続く。 この一文が、予算にまつわる実務のほぼすべてを決めています。

そして、指導監査での確認方法もここから導かれます。ガイドラインは指摘基準をこう定めています。

資金収支予算書が定款等に定める手続により作成されていない場合は、文書指摘とする。

法律違反かどうかではなく、「自法人の定款に書いてあるとおりにやっているか」が問われるということです。したがって、予算の話をするときの最初の一手は、条文を調べることではなく、自法人の定款を開くことになります。

承認機関は定款で決まる(定款例第31条)

厚生労働省が示している社会福祉法人定款例の第31条第1項は、次のように始まります。

この法人の事業計画書及び収支予算書については、毎会計年度開始の日の前日までに、理事長が作成し、

この続きが、定款例では2つの案として示されています。

定款の型承認の流れ
例1理事長が作成し、理事会の承認を受ける
例2理事長が作成し、理事会の決議を経て、評議員会の承認を受ける

どちらを採用しているかは法人ごとに違います。 例1の法人が評議員会にかける必要はありませんし、例2の法人が理事会だけで済ませると、先ほどの指摘基準に触れます。

なお、ガイドラインには、定款において予算を評議員会の承認事項とすることが租税特別措置法第40条の適用を受ける場合の要件とされている旨の記載があり、次のように述べられています。

同条の適用を受けようとする法人は、例2の規定とする必要がある。

寄附を受けて施設整備を行うなど、同条の適用を検討したことのある法人様は、定款が例2になっているかを一度確認しておく価値があります。条文の適用要件そのものは税務の論点ですので、顧問税理士のご確認をお願いします。

理事会と評議員会の権限分担そのものについては、社会福祉法人の理事会と評議員会の違いで整理しています。

期限は「毎会計年度開始の日の前日まで」

定款例の文言は「毎会計年度開始の日の前日までに」です。4月1日開始の法人であれば、3月31日までに承認を終えている必要があります。会議体の日程を先に押さえておかないと、3月下旬に駆け込みになります。

予算の作り方:拠点区分ごと・勘定科目は資金収支計算書に準拠

作り方については、課長通知(運用上の留意事項)の「2 予算と経理」がこう定めています。

法人は、事業計画をもとに資金収支予算書を作成するものとし、資金収支予算書は各拠点区分ごとに収入支出予算を編成することとする。また、資金収支予算書の勘定科目は、資金収支計算書の勘定科目に準拠することとする。

ポイントは3つです。

  1. 出発点は事業計画。予算が先にあるのではなく、事業計画を金額に翻訳したものが予算です
  2. 各拠点区分ごとに編成する。法人合計だけの予算書は、この要件を満たしません
  3. 勘定科目は資金収支計算書に準拠する。予算独自の科目体系を作ってしまうと、決算で対比できなくなります

3点目は後段の「決算とのつながり」に直結します。資金収支計算書の構成については社会福祉法人の資金収支計算書と事業活動計算書の違いをご覧ください。

なお、予算の執行体制についても同じ通知の「1 管理組織の確立」に定めがあります。

法人における予算の執行及び資金等の管理に関しては、あらかじめ運営管理責任者を定める等法人の管理運営に十分配慮した体制を確保すること。

補正予算は「編成するものとする」が原則

ここからが、実務で最も差が出るところです。同じ通知の「2 予算と経理」の(2)です。

法人は、全ての収入及び支出について予算を編成し、予算に基づいて事業活動を行うこととする。なお、年度途中で予算との乖離等が見込まれる場合は、必要な収入及び支出について補正予算を編成するものとする。ただし、乖離額等が法人の運営に支障がなく、軽微な範囲にとどまる場合は、この限りではない。

読み方の順序が大事です。原則は「補正予算を編成するものとする」。例外が「軽微な範囲にとどまる場合」だけです。逆ではありません。

そして、補正予算の承認機関は当初予算と同じです。定款例第31条第1項は、承認の定めの後にこう続きます。

これを変更する場合も、同様とする。

「同様とする」=当初予算と同じ手続を通すという意味です。例2の法人であれば、補正予算も理事会の決議を経て評議員会の承認まで必要になります。ここを落として、当初予算は評議員会にかけているのに補正予算は理事会だけで済ませている——という運用は、実際によく見かけます。

ガイドラインの指摘基準にも、この点がはっきり書かれています。

補正予算の編成について、定款に定める手続きが行われていない場合

「軽微な範囲」は法人が自分で決めておくもの

では、例外である「軽微な範囲」はどこまでなのか。国は数値基準を示していません。 ガイドラインが求めているのは、法人が自分で決めておくことです。

また、補正予算を編成することを要しない軽微な乖離の範囲についても、規程や予算等において定めておくべきものである。

その前段では、補正予算を編成する場合の手続も含めて、理事長等の権限と責任の範囲を明確にすべきだとしています。

理事長等法人の業務執行を行う理事は、予算の執行に当たっては、定款や経理規程に基づいて決定・承認された範囲内で権限及び責任を有するものであり、

定めていない法人はどう見られるか。 ガイドラインは、基準がない場合の確認方法まで書いています。理事会において説明等がなされているか、法人の事業規模から見て明らかに軽微とはいえない乖離がないか、という2つの観点で確認するとしています。つまり、基準を定めていない法人は「明らかに軽微とはいえないかどうか」を監査側の目線で判断されます。

あわせて、乖離が生じている場合の望ましい対応も示されています。

なお、支出総額が予算より増加する場合や収入が予算より減少する場合であって予算どおりに支出を行うと欠損が生じる場合等予算と乖離が生じている場合には、理事長等予算の執行を担当する理事が理事会で説明を行い承認を受ける等の対応を行うことが適当である。

「支出が予算を超える」だけでなく、「収入が予算を下回って、予算どおり支出すると欠損が出る」場合も同じ扱いである点は見落とされがちです。

文書指摘になるのは、この2つ

ガイドラインが文書指摘として明記しているのは、次の2つです。

予算とその執行に軽微な範囲とは言えない乖離があるが、補正予算が編成されていない場合

もうひとつが、先ほど挙げたこちらです。

補正予算の編成について、定款に定める手続きが行われていない場合

指摘のパターン起きやすい原因
乖離はあるのに補正予算がない「軽微の範囲」を定めておらず、誰も判断していない
補正予算はあるが手続が違う定款が例2なのに理事会だけで承認している

どちらも、年度末に慌てて起きるのではなく、期中に判断する人がいないことが原因です。四半期ごとに予算と執行の差を見る場があるかどうかで、ほぼ決まります。

補正予算を出さないと、決算で辻褄が合わなくなる

補正予算は「出しておくと丁寧」な書類ではありません。出していないと決算が作れなくなる構造になっています。

社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)第16条第5項です。

法人単位資金収支計算書及び拠点区分資金収支計算書には、当該会計年度の決算の額を予算の額と対比して記載するものとする。

続く第6項です。

前項の場合において、決算の額と予算の額とに著しい差異がある勘定科目については、その理由を備考欄に記載するものとする。

そして、その「予算」欄に何を書くのかを、指導監査ガイドラインが指定しています。

「予算」欄の金額は、理事会で承認された最終補正予算額(補正が無い場合は当初の予算額)と一致しているか確認する。

決算書の予算欄に載るのは、理事会で承認された最終補正予算額です。 補正予算を編成していなければ、当初予算額がそのまま載ります。

ここで何が起きるか。期中に大きな乖離があったのに補正予算を出さなかった法人は、決算の予算欄が当初予算のまま固定され、決算額との差が大きく開いたまま出てきます。 その結果、第6項が求める備考欄の理由記載が大量に発生し、しかもその理由は「補正しなかったから」としか書きようがありません。

補正予算は、決算の予算対比を読める状態に保つための手続でもある、という理解をしておくと、期中の対応の優先度が変わってきます。

予算書も備置き・閲覧の対象

意外と知られていないのが、この規定です。定款例第31条第2項です。

前項の書類については、主たる事務所(及び従たる事務所)に、当該会計年度が終了するまでの間備え置き、一般の閲覧に供するものとする。

事業計画書と収支予算書は、当該会計年度が終了するまでの間、備え置いて一般の閲覧に供するとされています。決算書類の備置き・閲覧はよく知られていますが、予算書側も対象です。補正予算を編成した場合、備え置いている書類が最新のものになっているかもあわせて確認しておきたいところです。

経理規程に何を書いておくか

「予備費」「流用」といった言葉は実務でよく使われますが、今回確認した通知・指導監査ガイドラインには、これらの語そのものについての定めは見当たりません。 したがって、制度上の決まりとして扱うのは適切ではありません。

一方で、通知は経理規程の整備そのものを求めています。

法人は、上記事項を考慮し、会計基準省令に基づく適正な会計処理のために必要な事項について経理規程を定めるものとする。

そのうえでガイドラインが、補正予算を編成する場合の手続と、補正予算を要しない軽微な乖離の範囲を、定款や経理規程等に定めておくべきものとしています。予備費や流用の取扱いを設けるかどうかも含め、どこまでを理事長の裁量で動かしてよいのかを法人自身が文書にしておくことが、ここで求められていることだと整理できます。

実務としては、少なくとも次の3点が規程や予算書のどこかに書かれているかを確認してみてください。

  1. 補正予算を編成する場合の手続(誰が起案し、どの会議体が承認するか。定款の定めと矛盾していないか)
  2. 補正予算を要しない軽微な乖離の範囲(金額か、比率か、拠点単位か法人単位か)
  3. 期中に予算と執行の差を確認する時期(四半期ごとなど)

3点目は規程の必須事項ではありませんが、これがないと1と2が動きません。

まとめ

  • 資金収支予算書の作成手続は法定されていない。 定款において作成及び承認に関して定めておくべきものであり、指導監査は「定款等に定める手続により作成されているか」を見る
  • 定款例第31条は承認機関を例1(理事会の承認)と例2(理事会の決議を経て評議員会の承認)の2案で示している。自法人がどちらかを必ず確認する
  • 「これを変更する場合も、同様とする」。補正予算も当初予算と同じ承認機関を通す
  • 補正予算は「編成するものとする」が原則、例外は軽微な範囲にとどまる場合だけ。しかも軽微の範囲は法人が規程や予算等に定めておくべきもの
  • 文書指摘は2つ。軽微とは言えない乖離があるのに補正予算がない場合と、補正予算の編成について定款に定める手続きが行われていない場合
  • 決算の資金収支計算書の「予算」欄には、理事会で承認された最終補正予算額が入る。補正予算を出していないと、予算欄が当初予算のまま決算額と大きく開き、備考欄の理由記載が膨らむ
  • 予算は各拠点区分ごとに編成し、勘定科目は資金収支計算書に準拠する
  • 事業計画書・収支予算書も、当該会計年度が終了するまでの間の備置き・閲覧の対象

参考(一次情報)

※定款例は厚生労働省が示す例であり、実際の定めは各法人の定款によります。予算の承認機関・補正予算の手続・軽微な乖離の範囲は、必ず自法人の定款および経理規程をご確認ください。租税特別措置法の適用に関する判断は顧問税理士に、指導監査の運用に関するご確認は所轄庁にお願いします。


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