「社会福祉法人は法人税が非課税」。この説明は半分正しく、半分は危うい表現です。
正しいのは「原則として課税されない」という点です。危ういのは、条文のどこにも「社会福祉事業には法人税を課さない」とは書かれていないという点が抜け落ちることです。実際には「収益事業に当たるかどうか」を事業ごとに判定した結果として、多くの事業が課税されないという構造になっています。
この違いは、法人が新しい事業を始めるときにはっきり効いてきます。空きスペースを貸す、自動販売機を置く、職員以外にも食事を提供する、駐車場を貸す——こうした場面で「うちは社会福祉法人だから」で止まってしまうと、届出も申告も漏れます。
この記事では、具体的な税額計算や申告書の書き方は扱わず、条文がどういう順序で課税・非課税を決めているのかに絞って整理します。実際の判断は必ず顧問税理士とご確認ください。
出発点:社会福祉法人は「公益法人等」
法人税法は法人を区分しています。第2条第六号が「公益法人等 別表第二に掲げる法人をいう。」と定め、その別表第二に社会福祉法人が掲げられています。
そのうえで、納税義務を定める第4条第1項がこうなっています。ただし書には複数の場合が列挙されているため、前半部分を引用します。
第四条 内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を行う場合、
さらに第6条が課税所得の範囲を絞ります。
(内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税)
第六条 内国法人である公益法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、前条の規定にかかわらず、各事業年度の所得に対する法人税を課さない。
つまり、非課税の根拠は「社会福祉事業だから」ではなく「収益事業から生じた所得ではないから」です。判定の軸はひとつ、収益事業に当たるか否かだけです。
収益事業の3要件
では収益事業とは何か。第2条第十三号が定義しています。
十三 収益事業 販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。
ここから、収益事業に当たるための要件が3つ読み取れます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 政令で定める事業 | 法人税法施行令第5条第1項に列挙された34業種のいずれかに当たること |
| ② 継続して | 継続して行われるものであること |
| ③ 事業場を設けて | 事業場を設けて行われるものであること |
3つすべてを満たしてはじめて収益事業です。裏を返せば、34業種に当たる事業であっても、一時的に行われるものであれば収益事業にならない余地があります。
34業種(法人税法施行令第5条第1項)
政令が列挙する34の事業は次のとおりです。
| 号 | 業種 | 号 | 業種 |
|---|---|---|---|
| 1 | 物品販売業 | 18 | 代理業 |
| 2 | 不動産販売業 | 19 | 仲立業 |
| 3 | 金銭貸付業 | 20 | 問屋業 |
| 4 | 物品貸付業 | 21 | 鉱業 |
| 5 | 不動産貸付業 | 22 | 土石採取業 |
| 6 | 製造業 | 23 | 浴場業 |
| 7 | 通信業 | 24 | 理容業 |
| 8 | 運送業 | 25 | 美容業 |
| 9 | 倉庫業 | 26 | 興行業 |
| 10 | 請負業 | 27 | 遊技所業 |
| 11 | 印刷業 | 28 | 遊覧所業 |
| 12 | 出版業 | 29 | 医療保健業 |
| 13 | 写真業 | 30 | 技芸の教授 |
| 14 | 席貸業 | 31 | 駐車場業 |
| 15 | 旅館業 | 32 | 信用保証業 |
| 16 | 料理店業その他の飲食店業 | 33 | 無体財産権の提供等 |
| 17 | 周旋業 | 34 | 労働者派遣業 |
条文はさらに「(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)」と続けています。本体の事業に付随する行為まで含めて判定するという意味です。
なお、30号は条文上「洋裁、和裁、着物着付け、編物、手芸、料理、理容、美容、茶道、生花……」と具体的に列挙されており、一般に「技芸教授業」と呼ばれています。33号も条文は「その有する工業所有権その他の技術に関する権利又は著作権……の譲渡又は提供」を対象としています。業種名だけで判断せず、自法人の事業が当てはまるかは号の本文で確かめてください。
社会福祉法人に効く除外規定は、条文のどこにあるのか
ここがこの記事の本題です。34業種のリストを見ると、社会福祉法人が日常的に行っている事業がいくつも入っているように見えます。特別養護老人ホームの運営は医療保健業ではないのか、土地を貸していれば不動産貸付業ではないのか——という疑問が出てきます。
答えは、34業種それぞれの号のなかに書かれた除外規定にあります。 一般規定としてまとめて書かれているのではなく、号ごとに「次に掲げるもの以外のもの」という形で個別に外されているのです。
除外その1:医療保健業(第29号ロ)
二十九 医療保健業(財務省令で定める血液事業を含む。以下この号において同じ。)のうち次に掲げるもの以外のもの
この号が「次に掲げるもの」としてイからリまでを並べており、そのロがこれです。
ロ 社会福祉法第二十二条に規定する社会福祉法人が行う医療保健業
社会福祉法人が行う医療保健業は、社会福祉法人であるという理由だけで収益事業から外れます。 日本赤十字社(イ)や学校法人(ハ)と並んで、法人の種類で外されている数少ない例です。
除外その2:不動産貸付業(第5号ハ)
五 不動産貸付業のうち次に掲げるもの以外のもの
こちらも同じ形で、除外されるものがイから順に並びます。そのハがこれです。
ハ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人が同法第二条第三項第八号(定義)に掲げる事業として行う不動産貸付業
こちらは条件つきです。社会福祉法第2条第3項第8号に掲げる事業として行う場合に限って外れます。社会福祉法人が行う不動産貸付業がすべて外れるわけではありません。 たとえば、法人が保有する土地を近隣の事業者に賃貸している——という形であれば、この除外には当たらない可能性があります。
除外その3:従事者の半数以上が障がいのある方等である事業(第2項第2号)
施行令第5条第2項が、業種横断的な除外を置いています。
2 次に掲げる事業は、前項に規定する事業に含まれないものとする。
この第2項に4つの号が並びます。社会福祉法人に効いてくるのは第2号です。
二 公益法人等が行う前項各号に掲げる事業のうち、その事業に従事する次に掲げる者がその事業に従事する者の総数の半数以上を占め、かつ、その事業がこれらの者の生活の保護に寄与しているもの
「次に掲げる者」として、身体障害者福祉法の身体障害者、生活扶助を受ける者、知的障害者として判定された者、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者、年齢65歳以上の者、ひとり親家庭の親や寡婦が挙げられています。
就労継続支援や生活介護における生産活動は、この規定に当たるかどうかが論点になります。 「従事する者の総数の半数以上」と「生活の保護に寄与している」の2つを同時に満たす必要があり、従事者の構成を記録として残しておくことが前提になります。生産活動の収入の扱いは消費税でも論点になるので、社会福祉法人の消費税もあわせてご覧ください。
注意:公益社団・財団の「公益目的事業」除外は社会福祉法人に及ばない
同じ第2項の第1号には、次の規定があります。
一 公益社団法人又は公益財団法人が行う前項各号に掲げる事業のうち、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第二条第四号(定義)に規定する公益目的事業に該当するもの
主語は「公益社団法人又は公益財団法人」です。社会福祉法人は含まれていません。 公益法人の税務の解説を読んでいるときに、この規定を社会福祉法人にも当てはめてしまうと結論を誤ります。社会福祉法人には、「公益的な事業だからまとめて外れる」という規定はありません。
判定の順序
以上を実務の順序に直すと、こうなります。
- その事業は、施行令第5条第1項の34業種のどれかに当たるか
- 当たるとして、その号の除外規定(イロハ)に該当しないか
- 施行令第5条第2項の業種横断の除外に該当しないか
- 継続して事業場を設けて行われているか
1で当たらなければそこで終わりです。特別養護老人ホームや障がい福祉サービスの本体給付が課税されないのは、多くの場合ここで決着しています。
新規の事業を検討するときは、まず「34業種のどれに近いか」を言葉にしてみるのが早道です。「空きスペースを時間貸しする」なら席貸業、「敷地の一部を駐車場として貸す」なら駐車場業、「地域の方にも給食を提供する」なら料理店業その他の飲食店業、というように、業種名に当てはめてから除外規定を探す順序になります。
収益事業を始めたら届出が要る
収益事業を開始した場合、税務署への届出が必要です。国税庁は「公益法人等又は人格のない社団等の収益事業開始等の届出」の手続を案内しており、収益事業を開始した日以後2月以内に提出することとされています。
あわせて、区分経理が必要になります。収益事業から生じた所得を計算するには、収益事業に係る資産・負債・収益・費用を、それ以外の事業と区分して経理しなければなりません。社会福祉法人会計基準に基づく会計処理とは別の切り口が必要になるため、勘定科目や補助科目の設計段階で織り込んでおかないと、決算時に按分作業が発生します。
会計処理の全体像は社会福祉法人の経理規程モデルで整理しています。
つまずきやすい3点
1. 「小規模だから関係ない」と判断してしまう
収益事業に当たるかどうかの判定に、金額の下限は条文上ありません。規模ではなく事業の性質と継続性・事業場で決まります。
2. 附帯事業・公益事業と収益事業を同じ言葉として使ってしまう
社会福祉法にいう「公益事業」「収益事業」と、法人税法にいう「収益事業」は別の概念です。 定款上は公益事業として整理している事業が、法人税法上は収益事業に当たることも、その逆もあります。定款の区分と税務の区分を対応表にしておくと混乱が減ります。
3. 除外規定の要件を満たしている記録が残っていない
施行令第5条第2項第2号のように、「従事する者の半数以上」といった事実関係で決まる除外は、その事実を示す記録がなければ主張が難しくなります。従事者の名簿や勤務実績を、判定の根拠として残す必要があります。
まとめ
- 社会福祉法人は法人税法別表第二の公益法人等。第4条第1項ただし書と第6条により、収益事業から生じた所得以外は非課税
- 「社会福祉事業だから非課税」という一般規定は条文にない。収益事業に当たるかどうかを事業ごとに判定する
- 収益事業=施行令第5条第1項の34業種+継続+事業場の3要件
- 社会福祉法人に効く除外は、医療保健業(第29号ロ)、社会福祉法第2条第3項第8号の事業として行う不動産貸付業(第5号ハ)、従事者の半数以上が障がいのある方等で生活の保護に寄与する事業(第2項第2号)
- 公益社団・財団の「公益目的事業」除外(第2項第1号)は社会福祉法人に適用されない
- 収益事業を開始したら届出と区分経理が必要
参考(一次情報)
- 法人税法(昭和40年法律第34号)|e-Gov法令検索
- 法人税法施行令(昭和40年政令第97号)|e-Gov法令検索
- 社会福祉法(昭和26年法律第45号)|e-Gov法令検索
- C1-6 公益法人等又は人格のない社団等の収益事業開始等の届出|国税庁
※本記事は条文の構造を整理したもので、個別の課税判断を示すものではありません。34業種の一覧は条文の見出し部分を要約したもので、各号には本文に挙げた以外の除外規定も置かれています。実際の判定は条文の全文と法人税基本通達、顧問税理士のご確認をお願いします。
新しい事業を始めるたびに税務の判断で止まってしまう法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。定款上の事業区分と税務上の区分の対応、収益事業に当たるかの判定に使った根拠や記録を1か所にまとめ、次に新しい事業を検討するときに前回の判断を引き継げる状態に整えるところからご一緒します。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。