決算が近づくと、「退職手当共済に入っているのに、退職給付引当金を立てる必要はあるのか」「都道府県の退職共済に入っている場合は、何を引当金にするのか」「法人独自の退職金は、いくらで計上すればよいのか」と手が止まることはないでしょうか。
退職給付引当金の会計処理は、法人が加入している退職金の制度によって分かれます。この記事では、令和8年11月5日に取得した社会福祉法人会計基準(e-Gov法令検索)と、厚生労働省の法令等データベースに掲載された運用上の留意事項に書かれている範囲だけを使って、その分かれ方を整理します。社会福祉法人会計基準は以下「会計基準」、運用上の留意事項は「留意事項」と書きます。
留意事項は、平成28年3月31日の通知として厚生労働省の法令等データベースに掲載されているものを確認しました。その後の改正がこの掲載版に反映されているかは確認できていません。決算で使う前に、所轄庁や顧問の会計士・税理士に、最新の版を確かめてください。
退職手当共済制度そのものの仕組み(誰が対象で、掛金や給付がどうなっているか)は、別の記事で整理しています。本記事は、その制度に入っている法人が決算でどう会計処理するか、に絞ります。制度の説明は繰り返しません。
この記事で整理するのは、次の4点です。
- 退職給付引当金を計上する根拠は、会計基準と留意事項のどこに書かれているか
- 制度の種類ごとに、会計処理がどう分かれるか(掛金の費用処理、引当金の計上、期末要支給額による算定)
- 退職給付引当金と退職給付引当資産、退職給付費用などの勘定科目が、何を指すか
- 資金収支計算書との関係、注記、引当金明細書に、何が求められているか
条文から言えることと言えないことは分けて書きます。掛金の金額の決め方、退職給付引当資産の運用方法、税務上の扱いは、今回読んだ範囲には定めがありません。仕訳の例は、すべて架空の数字です。
先に結論
- 退職給付引当金は、会計基準第5条第2項の各号に挙がる引当金の1つです。会計年度の末日に、将来の費用の発生に備えて、合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を費用として繰り入れます。
- 留意事項の引当金の項は、退職給付引当金について「21を参照のこと」としています。21の退職給付会計が、制度ごとの処理を定めています。
- 独立行政法人福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度と確定拠出年金制度のような外部拠出型の制度は、要拠出額である掛金額をもって費用処理するとされています。
- 都道府県等の実施する退職共済制度で、退職一時金制度等の確定給付型を採用している場合は、約定の額を退職給付引当金に計上します。被共済職員個人の拠出金があるときは、拠出した掛金累計額を差し引いた額です。
- 同じ都道府県等の退職共済制度には、簡便法が2つ用意されています。期末退職金要支給額を引当金とし同額の引当資産を計上する方法と、法人が負担する掛金額を引当資産とし同額の引当金を計上する方法です。
- 退職給付の対象となる職員数が300人未満の法人などは、退職一時金に係る債務を期末要支給額により算定できます。
- 会計基準第13条は、支払資金から引当金を除いています。退職給付引当金は、資金収支計算書の支払資金残高の計算には入りません。
- 採用する退職給付制度は、第29条第1項第四号の注記の対象です。引当金明細書は、第30条第1項第九号の附属明細書で、拠点区分ごとに作成します。
- 掛金の金額、引当資産の運用、税務上の扱いは、会計基準の本則と留意事項の該当箇所からは決まりません。顧問の会計士・税理士と所轄庁の指導に合わせてください。
退職給付引当金の根拠は、会計基準第5条第2項と留意事項
第5条第2項:引当金は「当該会計年度の負担に属する金額」を費用に繰り入れる
会計基準第5条は「負債の評価」の条です。第1項は、負債には原則として会計帳簿に債務額を付すと定めています。
負債については、次項の場合を除き、会計帳簿に債務額を付さなければならない。
第2項は、そのうえで引当金について、次のように定めています。
次に掲げるもののほか、引当金については、会計年度の末日において、将来の費用の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を費用として繰り入れることにより計上した額を付さなければならない。
「次に掲げるもの」は、第2項に続く各号を指します。各号には、第一号に賞与引当金、第二号に退職給付引当金、第三号に役員退職慰労引当金が挙げられています。つまり退職給付引当金は、条文に名前が出てくる引当金です。賞与引当金の考え方は、賞与引当金の記事で同じ条文から整理しています。
この条文から読み取れることは、次の4つです。
- 計上するのは会計年度の末日
- 目的は将来の費用の発生に備えること
- 金額は合理的な見積額のうち、当該会計年度の負担に属する金額
- 処理は費用として繰り入れること
退職金のように、支給が将来の遠い時点になる支出を、支給したときの費用にするのではなく、働いている各年度の負担として費用に繰り入れていく、というのが第2項の考え方です。ただし、「合理的な見積額」をどう求めるかは、この条文からは決まりません。制度ごとの求め方は、次に見る留意事項が定めています。
留意事項18:退職給付引当金は「21を参照」
留意事項の「18 引当金について」には、徴収不能引当金、賞与引当金、退職給付引当金の3つの項が並んでいます。退職給付引当金の項は、次の1行だけです。
退職給付引当金について
この見出しの下には「21を参照のこと。」とだけ書かれています。つまり、退職給付引当金の計上方法は、留意事項21の「退職給付会計について」に書かれています。次の章から、その21を、制度の種類ごとに読んでいきます。
会計処理は、加入している制度の3区分で決まる
留意事項21は、ア、イ、ウの3つの項に分かれています。この3つは、制度の種類と対応しています。
| 区分 | 対象の制度 | 留意事項の項 |
|---|---|---|
| 外部拠出型 | 福祉医療機構の退職手当共済、確定拠出年金 | 21のイ |
| 確定給付型の退職共済 | 都道府県等が実施する退職共済制度 | 21のウ |
| 退職一時金の算定 | 法人が職員に支払う退職一時金(期末要支給額) | 21のア |
アは、制度の種類というより、「退職一時金に係る債務をどう算定するか」を定める項です。ここでは、法人が職員に支払う退職一時金の区分として扱います。区分の呼び方は弊社の整理ですが、各区分の中身は、留意事項の原文に沿って書きます。
法人が複数の制度を使っている場合(たとえば退職手当共済に加えて、法人独自の退職金も定めている場合)は、制度ごとに上の区分に当てはめていく、という読みになります。複数の制度が重なるときの扱いを明記した文言は、今回読んだ範囲にはありません。
外部拠出型:掛金額をもって費用処理する(21のイ)
1つ目は、福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度や、確定拠出年金制度のような外部拠出型の制度です。留意事項21のイは、次のように定めています。
独立行政法人福祉医療機構の実施する社会福祉施設職員等退職手当共済制度及び確定拠出年金制度のように拠出以後に追加的な負担が生じない外部拠出型の制度については、当該制度に基づく要拠出額である掛金額をもって費用処理する。
読み取れることは次のとおりです。
- 対象は、拠出以後に追加的な負担が生じない外部拠出型の制度
- 例として、福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度と確定拠出年金制度が挙がっている
- 費用にする額は、制度に基づく要拠出額である掛金額
つまり、掛金を拠出した年度に、掛金額をそのまま費用にします。条文には、掛金のほかに将来の負担を見積もって引当金を立てる、という趣旨の文言はありません。「掛金額をもって費用処理する」と書かれているので、この区分では掛金が費用の額になる、というのが条文から言えることです。
一つ注意が要ります。この項が外部拠出型の例として名前を挙げているのは、福祉医療機構の退職手当共済制度と確定拠出年金制度の2つです。ほかの制度が外部拠出型に当たるかどうかは、「拠出以後に追加的な負担が生じない」という条件に照らして、制度ごとに確かめることになります。
仕訳の考え方(架空の例)
当期に退職手当共済へ納付した掛金が960万円(架空)だったとします。一般的な考え方としては、次の形です。勘定科目は、留意事項に出てくる名称だけを使っています。
| 借方 | 貸方 | 金額(架空の例) |
|---|---|---|
| 退職給付費用 | 現金預金 | 960万円 |
事業活動計算書でどの科目を使うか、資金収支計算書の退職給付支出とどう対応するかは、別表の勘定科目で確かめます。今回読んだ範囲には別表の中身は入っていません。また、実際の仕訳は、法人の会計ソフトの科目設定や、拠点区分・サービス区分の分け方で変わります。
退職手当共済制度の仕組みについては、退職手当共済制度の記事で整理しています。その記事は制度の説明が中心で、会計処理の方法までは踏み込んでいません。本記事が会計処理の側を受け持ちます。
都道府県等の退職共済:約定の額を引当金に計上する(21のウ)
2つ目は、都道府県等が実施する退職共済制度です。福祉医療機構の制度とは別に、都道府県等が実施する退職共済制度に入っている法人があります。留意事項21のウは、このうち確定給付型を採用している場合を、次のように定めています。
都道府県等の実施する退職共済制度において、退職一時金制度等の確定給付型を採用している場合は、約定の額を退職給付引当金に計上する。
続けて、被共済職員個人の拠出金がある場合を次のように定めています。
ただし被共済職員個人の拠出金がある場合は、約定の給付額から被共済職員個人が既に拠出した掛金累計額を差し引いた額を退職給付引当金に計上する。
読み取れることは次のとおりです。
- 対象は、都道府県等の実施する退職共済制度のうち、退職一時金制度等の確定給付型を採用している場合
- 退職給付引当金に計上する額は約定の額
- 被共済職員個人の拠出金がある場合は、約定の給付額から、個人が既に拠出した掛金累計額を差し引いた額
外部拠出型と違い、掛金を費用にするだけでは済まず、将来の給付に対する債務として引当金を計上する、という区分です。ここでいう「約定の額」が、共済の規約や契約のどの数字に当たるかは、今回読んだ範囲には書かれていません。制度を実施している都道府県等の資料で確かめてください。
計算の例(架空の数字)
次の数字を仮置きします。
- 約定の給付額:6,000万円(架空)
- 被共済職員個人が既に拠出した掛金累計額:800万円(架空)
個人の拠出金がある場合の式は、条文のとおり、約定の給付額から掛金累計額を差し引くものです。
6,000万円 − 800万円 = 5,200万円
この5,200万円が、期末に計上する退職給付引当金の額です。前期末の引当金が4,900万円(架空)だったなら、差額の300万円を当期に繰り入れます。一般的な考え方としては、次の仕訳です。
| 借方 | 貸方 | 金額(架空の例) |
|---|---|---|
| 退職給付費用 | 退職給付引当金 | 300万円 |
「差額を繰り入れる」という整理は一般的な考え方で、条文は「約定の額を退職給付引当金に計上する」と書くにとどまります。退職や支給のときの取崩しの仕訳は、今回読んだ範囲には定めがありません。
簡便法が2つある(21のウのなお書き)
21のウには、もう一つの定めがあります。都道府県等の退職共済制度については、簡便法を用いることができる、というものです。
なお、簡便法として、期末退職金要支給額(約定の給付額から被共済職員個人が既に拠出した掛金累計額を差し引いた額)を退職給付引当金とし同額の退職給付引当資産を計上する方法や、社会福祉法人の負担する掛金額を退職給付引当資産とし同額の退職給付引当金を計上する方法を用いることができるものとする。
つまり、簡便法は次の2つです。
| 方法 | 引当金の額 | 引当資産の額 |
|---|---|---|
| 簡便法その1 | 期末退職金要支給額 | 引当金と同額 |
| 簡便法その2 | 法人の負担する掛金額 | 引当資産と同額 |
簡便法その1の「期末退職金要支給額」は、括弧書きで「約定の給付額から被共済職員個人が既に拠出した掛金累計額を差し引いた額」と定義されています。先ほどの計算例なら、5,200万円です。その1では、この5,200万円を退職給付引当金に計上し、同額の5,200万円の退職給付引当資産を計上します。
簡便法その2は、基準になる額が違います。法人が負担する掛金額を退職給付引当資産とし、それと同額を退職給付引当金に計上します。たとえば法人が負担した掛金の累計が3,200万円(架空)なら、引当資産が3,200万円、引当金も3,200万円です。
この2つは、引当金の額の基準になる数字が違います。どちらの方法を選べるか、途中で変更できるかは、今回読んだ範囲には書かれていません。会計基準第2条第1項第四号は、会計処理の原則の1つとして、次のように定めています。
重要性の乏しいものについては、会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法の適用に際して、本来の厳密な方法によらず、他の簡便な方法によることができること。
ただし、この条文が簡便法を選ぶ際にどう働くか(簡便法を選べる法人の範囲など)は、本則と留意事項の該当箇所からは決まりません。選ぶ前に、顧問の会計士・税理士に確認してください。
簡便法の仕訳の考え方(架空の例)
簡便法その2で、当期に法人が負担した掛金が400万円(架空)だった場合の、一般的な考え方は次の2本の仕訳です。引当資産と引当金が同額になるように、両方に同じ額を計上します。
| 借方 | 貸方 | 金額(架空の例) |
|---|---|---|
| 退職給付引当資産 | 現金預金 | 400万円 |
| 退職給付費用 | 退職給付引当金 | 400万円 |
留意事項が書いているのは、「同額の退職給付引当資産を計上する」「同額の退職給付引当金を計上する」という点までです。現金預金の動きと費用の科目をどう結びつけるかは、会計ソフトの設定や、拠点区分・サービス区分の分け方で変わります。経理規程に書かれた科目や処理がある場合は、そちらに合わせてください。
法人独自の退職一時金:期末要支給額で算定できる場合がある(21のア)
3つ目は、法人が職員に直接支払う退職一時金です。21のアは、退職給付会計の適用にあたり、次のように定めています。
退職給付会計の適用に当たり、退職給付の対象となる職員数が300人未満の社会福祉法人のほか、職員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られない社会福祉法人や原則的な方法により算定した場合の額と期末要支給額との差異に重要性が乏しいと考えられる社会福祉法人においては、退職一時金に係る債務について期末要支給額により算定することができるものとする。
読み取れることは次のとおりです。
- 対象は、退職一時金に係る債務
- 期末要支給額により算定できるのは、次の3つのいずれかに当たる法人
- 退職給付の対象となる職員数が300人未満の法人
- 職員数が300人以上でも、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られない法人
- 原則的な方法による額と期末要支給額との差異に重要性が乏しいと考えられる法人
文言の「原則的な方法」と「数理計算結果」から、原則は数理計算を使う方法で、期末要支給額による算定はその簡便な代替である、という構造が読み取れます。ただし、原則的な方法の具体的な計算手順は、今回読んだ範囲には書かれていません。
期末要支給額の中身は、書かれていない
注意が要るのは、「期末要支給額」の計算方法です。21のウの括弧書きには、都道府県等の退職共済制度での期末退職金要支給額(約定の給付額から個人拠出の掛金累計額を差し引いた額)が定義されています。しかし、21のアの法人独自の退職一時金について、期末要支給額をどう計算するか(全職員が期末に自己都合で退職したと仮定するのか、といったこと)は、今回読んだ範囲に書かれていません。
法人の退職金規程が支給額の算式を定めているなら、そこが出発点になります。ただし、その規程の額がそのまま期末要支給額に当たるかどうかは、顧問の会計士・税理士に確認してください。
計算の例(架空の数字)
次の数字を仮置きします。
- 退職給付の対象となる職員数:120人(架空。300人未満)
- 期末要支給額:1億8,000万円(架空。規程の算式で計算した額と仮定)
- 前期末の退職給付引当金:1億7,000万円(架空)
職員数が300人未満なので、期末要支給額で算定できる区分です。期末の引当金を1億8,000万円とすると、差額の1,000万円を当期に繰り入れます。
| 借方 | 貸方 | 金額(架空の例) |
|---|---|---|
| 退職給付費用 | 退職給付引当金 | 1,000万円 |
条文が定めているのは、期末要支給額により「算定することができる」という点までで、仕訳の形までは定めていません。
区分の当てはめ方の整理
ここまでを1つの表にまとめます。自分の法人が、どの制度にどの処理で当てはまるかを確かめるときの見取り図です。
| 制度 | 会計処理 | 引当資産 |
|---|---|---|
| 福祉医療機構の退職手当共済、確定拠出年金 | 掛金額をもって費用処理 | 書かれていない |
| 都道府県等の退職共済(確定給付型)の原則 | 約定の額を退職給付引当金に計上 | 書かれていない |
| 都道府県等の退職共済の簡便法 | 引当金と引当資産を同額計上 | 計上する(2通り) |
| 法人独自の退職一時金 | 期末要支給額で算定できる場合がある | 書かれていない |
「書かれていない」は、条文と留意事項の該当箇所に、引当資産を積み立てるかどうかの定めがない、という意味です。積み立てを求めている、または求めていない、というわけではありません。
勘定科目の説明で、科目の意味を確かめる
留意事項の別添には「勘定科目の説明」があります。退職給付に関わる科目は、次のように説明されています。この表は、別添の説明の該当行を引いたものです。
| 科目 | 説明の要点 |
|---|---|
| 退職給付費用 | 当該会計期間の負担に属する退職給付。役員分を除く |
| 退職給付引当金 | 将来支給する退職金のうち、当年度末までに発生した額 |
| 退職給付引当資産 | 引当金に対応して積み立てた現金預金等 |
| 退職給付支出 | 外部拠出型の掛金額と、退職手当として支払う額 |
| 退職給付引当資産支出 | 引当資産への積立による支出 |
| 退職給付引当資産取崩収入 | 引当資産の取崩しによる収入 |
このうち、退職給付費用と退職給付引当金は、次のように説明されています。
従事する職員に対する退職一時金、退職年金等将来の退職給付のうち、当該会計期間の負担に属する金額(役員であることに起因する部分を除く)をいう。
この文は、退職給付費用の説明です。「当該会計期間の負担に属する金額」という言い方は、会計基準第5条第2項の「当該会計年度の負担に属する金額」と対応しています。また、「役員であることに起因する部分を除く」とあるので、役員分は退職給付費用に含まれません。役員退職慰労引当金は、第5条第2項第三号に別の引当金として挙がっています。この記事では、名前に触れるだけにします。
将来支給する退職金のうち、当該会計年度末までに発生していると認められる金額をいう。
こちらが、退職給付引当金の説明です。「当該会計年度末までに発生していると認められる金額」が、引当金の額の意味になります。
退職給付引当資産は、次のように説明されています。
退職金の支払に充てるために退職給付引当金に対応して積み立てた現金預金等をいう。
引当金は負債で、その裏づけとして積み立てる現金預金等が引当資産です。「引当金に対応して積み立てた」とあるので、引当金と引当資産は別の勘定です。積立資産の考え方については、積立金と積立資産の記事で整理しています。
退職給付支出は、次のように説明されています。
退職共済制度など、外部拠出型の退職手当制度に対して法人が拠出する掛金額及び退職手当として支払う金額をいう。
外部拠出型の掛金額が、この科目の説明に入っています。先ほどの21のイの「掛金額をもって費用処理する」と、科目の名前としてつながる部分です。退職給付引当資産への積立と取崩しには、次の2つの科目の説明があります。
退職給付引当資産への積立による支出をいう。
退職給付引当資産の取崩しによる収入をいう。
これらは、科目の説明が「支出」「収入」の言葉で書かれているということまでが、今回読んだ範囲で言えることです。どの科目が、どの計算書類のどの区分に出るかは、別表で確かめてください。
資金収支計算書との関係:引当金は支払資金から除かれる
退職給付引当金は、現金が出ていく取引ではありません。この点は、会計基準第13条の「支払資金」の定義に表れています。第13条第1項は、次のとおりです。
支払資金は、流動資産及び流動負債(経常的な取引以外の取引によって生じた債権又は債務のうち貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものとして固定資産又は固定負債から振り替えられた流動資産又は流動負債、引当金及び棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除く。)とし、支払資金残高は、当該流動資産と流動負債との差額とする。
括弧の中に「引当金」が入っています。つまり、支払資金は流動資産と流動負債の差額ですが、引当金は、その計算から除かれます。退職給付引当金も引当金ですから、支払資金残高の計算には入りません。
読み取れることは、次の2点です。
- 資金収支計算書の支払資金残高は、退職給付引当金の分だけ減ることはない
- 退職給付費用の繰入(引当金を増やす仕訳)は、支払資金の増減としては現れない
一方で、掛金を納付したり、引当資産へ積み立てたりするときは、現金預金が動きます。勘定科目の説明に「退職給付支出」「退職給付引当資産支出」といった名前の科目があるのは、現金の動きを表す科目が別に用意されているためと読めます。ただし、各科目が資金収支計算書のどこに載るかは、今回読んだ範囲では決まりません。別表で確認してください。
引当金は支払資金から除かれる、という点は、決算で次のような場面に出ます。「引当金を増やしたのに、資金収支計算書の支払資金が減っていない」というのは、不具合ではなく、第13条の定義どおりです。引当金が貸借対照表の負債の部にどう載るかは、貸借対照表・財産目録の記事で整理しています。
退職給付引当資産について、貸借対照表のどの区分に載るか(流動資産か固定資産か)は、今回の一次情報には入っていません。区分を断定することはしません。決算書を作る前に、最新の別表を確認してください。
注記:採用する退職給付制度を書く
計算書類には、注記が必要です。第29条第1項は、法人全体について注記する事項を、第一号から第十六号まで列挙しています。
計算書類には、法人全体について次に掲げる事項を注記しなければならない。
その第四号が、退職給付に関する注記です。
法人で採用する退職給付制度
つまり、法人が採用している退職給付制度は、注記の対象です。退職手当共済に入っている、都道府県の退職共済に入っている、独自の退職一時金を持っている、といった内容を、どのような様式で書くかは、今回読んだ範囲には入っていません。
第二号にも、関連する事項があります。「引当金の計上基準等計算書類の作成に関する重要な会計方針」が注記の対象に入っています。退職給付引当金を計上している法人は、この会計方針の注記にも、計上基準を書くことになります。たとえば、期末要支給額により算定している、といった趣旨です。
さらに、拠点区分ごとの注記については、第29条第4項が次のように定めています。
計算書類には、拠点区分ごとに第一項第二号から第十一号まで、第十四号及び第十六号に掲げる事項を注記しなければならない。ただし、拠点区分の数が一の社会福祉法人については、拠点区分ごとに記載する計算書類の注記を省略することができる。
第四号は「第二号から第十一号まで」に含まれます。つまり、採用する退職給付制度は、拠点区分ごとの注記の対象にもなります。拠点区分の数が一の法人は、拠点区分ごとに記載する注記を省略できます。
引当金明細書:拠点区分ごとに作成する
附属明細書については、第30条第1項が、作成すべきものを一号から十九号まで列挙しています。その第九号が引当金明細書です。同じ項は、法人全体で作るものと拠点区分ごとに作るものを、次のように分けています。
この場合において、第一号から第七号までに掲げる附属明細書にあっては法人全体について、第八号から第十九号までに掲げる附属明細書にあっては拠点区分ごとに作成するものとする。
引当金明細書は第九号ですから、拠点区分ごとに作成する附属明細書です。退職給付引当金も、拠点区分ごとに、この明細書に載せる対象になります。
附属明細書の役割は、第30条第2項が次のように定めています。
附属明細書は、当該会計年度における計算書類の内容を補足する重要な事項を表示しなければならない。
引当金明細書の様式は、第30条第4項で、社会・援護局長が定めるとされています。この様式の中身は、今回読んだ範囲には入っていません。また、第30条第3項は、厚生労働省社会・援護局長が定めるところにより、附属明細書の作成を省略できると定めています。どの附属明細書をどの条件で省略できるかは、今回読んだ範囲には書かれていません。
第30条第1項には、第十二号に「積立金・積立資産明細書」もあります。退職給付引当資産が、引当金明細書と積立金・積立資産明細書のどちらにどう載るかは、今回読んだ範囲には書かれていません。様式で確かめてください。
ここから、拠点区分が複数ある法人では、退職給付引当金の額を拠点ごとに出す必要がある、という実務上の整理ができます。職員が拠点をまたいで異動している場合の按分の方法は、条文にも留意事項にも書かれていません。法人で方法を決めて、後で説明できる形で残しておく必要があります。
条文・留意事項から決まらないこと
実務で質問が多い点のうち、今回読んだ範囲に定めがないものを整理します。
| 論点 | 一次情報での扱い | 決め方 |
|---|---|---|
| 約定の額の中身 | 共済の規約上の数字との対応が書かれていない | 制度の運営主体の資料で確認する |
| 期末要支給額の計算 | 独自の退職一時金の算定方法が書かれていない | 退職金規程と顧問の会計士・税理士で確認する |
| 簡便法の選び方 | どの法人が選べるか、変更できるかが書かれていない | 顧問の会計士・税理士に確認する |
| 引当資産の運用 | 積立先や運用方法が書かれていない | 所轄庁の指導と経理規程で確認する |
| 退職時の取崩し仕訳 | 支給時の仕訳が書かれていない | 顧問の会計士・税理士に確認する |
| 複数制度の併用 | 制度が重なるときの扱いが書かれていない | 顧問の会計士・税理士に確認する |
| 税務上の扱い | 一次情報に入っていない | 税理士に確認する |
退職給付引当金と対になる退職給付引当資産について、積み立てるかどうか、いつまでにいくら積み立てるかは、今回読んだ範囲には書かれていません。簡便法を選んだ場合は、引当金と同額の引当資産を計上することが書かれているだけです。
経理担当が、決算前にそろえておくこと
条文と留意事項の構造から、決算前にそろえておくとよい整理は次の5つです。条文から導いた弊社の整理で、個別の判断は顧問の会計士・税理士と所轄庁にご確認ください。
- 加入している制度を一覧にする。 退職手当共済、確定拠出年金、都道府県等の退職共済、法人独自の退職金のうち、どれに入っているかを、拠点区分ごとに書き出す
- 制度ごとに、留意事項21のア・イ・ウのどれに当たるかを決める。 外部拠出型は掛金額の費用処理、確定給付型の退職共済は約定の額の計上、独自の退職一時金は期末要支給額(または原則的な方法)
- 根拠資料を集める。 共済から届く約定の額や掛金累計額の通知、退職金規程、在籍職員の一覧を、決算の時点でそろえる。簡便法を使うなら、どちらの方法かも決めておく
- 引当金と引当資産の金額を、拠点区分ごとに出す。 簡便法を使う場合は引当金と引当資産が同額になるので、2つの金額の突き合わせも決算前に行う
- 注記と引当金明細書に載せる内容を、拠点区分ごとに確かめる。 採用する退職給付制度の注記、引当金の計上基準の注記、引当金明細書の金額が一致しているかを見る
拠点が複数あると、制度の種類や職員の数を、拠点ごとに電話やメールで集めることになりがちです。集計のたびに表を作り直していると、注記と明細書の金額がずれる原因になります。最初から、制度の種類、根拠資料、引当金と引当資産の金額を1つの台帳で持っておくと、決算のたびの手間が減ります。
この記事で書いていないこと
次のことは、今回確認した会計基準と留意事項には書かれていません。この記事でも書きません。
- 掛金の金額や率の決め方:制度の運営主体が定めるものです
- 退職給付引当資産の運用方法、積立の期限:定めがありません
- 退職や支給のときの取崩しの仕訳:定めがありません
- 期末要支給額の具体的な計算方法:独自の退職一時金について、書かれていません
- 数理計算による原則的な方法の手順:留意事項に具体的な手順は書かれていません
- 簡便法を選べる法人の範囲、途中での変更:定めがありません
- 複数の制度が重なるときの扱い:定めがありません
- 勘定科目の区分(流動・固定)と、事業活動計算書・資金収支計算書での位置:別表を今回は確認していません
- 引当金明細書の様式、附属明細書の省略の条件:今回の一次情報に入っていません
- 役員退職慰労引当金の計上方法:名前に触れるだけです
- 税務上の取扱い:今回の一次情報に入っていません
- 留意事項の改正の反映状況:掲載版は確認しましたが、最新版かは未確認です
まとめ
- 退職給付引当金は、会計基準第5条第2項の各号に挙がる引当金。会計年度の末日に、合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を費用として繰り入れる
- 留意事項の引当金の項は、退職給付引当金を「21を参照」としている。21が制度ごとの処理を定めている
- 福祉医療機構の退職手当共済や確定拠出年金のような外部拠出型は、要拠出額である掛金額をもって費用処理する(21のイ)
- 都道府県等の退職共済の確定給付型は、約定の額を退職給付引当金に計上する。個人の拠出金があれば、拠出した掛金累計額を差し引く(21のウ)
- 都道府県等の退職共済には簡便法が2つある。期末退職金要支給額を引当金とし同額の引当資産を計上する方法と、法人の負担する掛金額を引当資産とし同額の引当金を計上する方法
- 職員数が300人未満などの法人は、退職一時金に係る債務を期末要支給額により算定できる(21のア)
- 第13条は、支払資金から引当金を除いている。 退職給付引当金は支払資金残高の計算に入らない
- 採用する退職給付制度は第29条第1項第四号の注記、引当金の計上基準は第二号の注記、引当金明細書は第30条第1項第九号で拠点区分ごとに作成する
- 掛金の金額、引当資産の運用、取崩しの仕訳、税務上の扱いは、本則・留意事項の該当箇所からは決まらない。顧問の会計士・税理士と所轄庁の指導に合わせる
参考にした一次情報
- 社会福祉法人会計基準|e-Gov法令検索:第二条、第五条、第十三条、第二十九条、第三十条
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について|厚生労働省 法令等データベース:18 引当金について、21 退職給付会計について、別添 勘定科目の説明(退職給付に関する科目)
会計基準は2026年11月5日にe-Govから取得した条文によります。留意事項は、同日に厚生労働省の法令等データベースから取得した、平成28年3月31日の通知の掲載版です。その後の改正がこの掲載版に反映されているかは確認していません。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の法人の会計処理が適切かどうかを判断するものではありません。具体的な判断は、顧問の会計士・税理士や所轄庁にご確認ください。
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