お問合せ
note

社福

社会福祉法人の繰入金|拠点区分間の資金移動と会計基準が定める範囲

法人本部から各拠点へ、あるいはある拠点から別の拠点へ。社会福祉法人の運営では、拠点区分間・事業区分間でお金や資産を動かす場面が日常的に発生します。そのたびに「これはいくらまで繰り入れてよいのか」「貸付けにしたほうがよいのか」と迷う担当者の方は多いのではないでしょうか。

こうした疑問をインターネットで調べると、「資金不足が生じない範囲であれば繰入れができる」「清算するものに限り貸付けができる」といった具体的な説明を目にすることがあります。しかし、それらが社会福祉法人会計基準のどの条文に基づくのかまで示している記事は多くありません。

本記事では、社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)と、その運用を定める局長通知・課長通知、そして指導監査ガイドラインの原文を確認しながら、「会計基準が定めているのはどこまでか」「動かせる範囲そのものは、どこで決まっているのか」を切り分けて整理します。

拠点区分間・事業区分間でお金が動く場面

社会福祉法人は、複数の施設・事業を1つの法人として経営していることがほとんどです。特別養護老人ホームと居宅介護支援事業所を運営している法人、あるいは介護保険サービスと障害福祉サービスを両方手がけている法人であれば、法人内部で「事業区分」「拠点区分」「サービス区分」という階層に分けて会計処理を行っています。

会計基準省令第10条は、この区分について次のように定めています。

社会福祉法人は、計算書類の作成に関して、事業区分及び拠点区分を設けなければならない。

同条第2項では、拠点区分の内側にさらに設ける区分について次のように定めています。

拠点区分には、サービス区分(社会福祉法人がその行う事業の内容に応じて設ける区分をいう。以下同じ。)を設けなければならない。

区分そのものの作り方や、事業区分・拠点区分・サービス区分の関係については、事業区分・拠点区分・サービス区分で詳しく解説していますので、ここでは「法人の中に複数の区分がある」という前提だけ押さえておいてください。区分が複数あるからこそ、区分をまたいでお金や資産が動く「内部取引」が発生し、それをどう処理するかというルールが必要になります。

会計基準省令が内部取引について定めているのは、たった一文

内部取引の処理について、会計基準省令が直接定めている条文は第11条です。全文を引用します。

社会福祉法人は、計算書類の作成に関して、内部取引の相殺消去をするものとする。

これだけです。「繰入れの上限」「資金不足が生じない範囲」「清算するものに限る」といった条件は、会計基準省令の本文には一切出てきません。省令が定めているのは、区分間で発生した内部取引を、計算書類の作成にあたって相殺消去するという処理方針だけです。

この一文をどう実務に落とし込むかは、局長通知「社会福祉法人会計基準の運用上の取扱いについて」と課長通知「社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項について」が具体化しています。次の章から、その内容を見ていきます。

お金の動かし方は「繰入れ」と「貸付け」の2種類、明細書も別々

区分をまたいでお金を動かす方法は、大きく「繰入れ」と「貸付け」の2種類に分かれ、それぞれ記載する附属明細書も別になっています。課長通知は「事業区分間、拠点区分間及びサービス区分間の資金移動」として、繰入金について次のように定めています。

社会福祉事業、公益事業及び収益事業における事業区分間及び拠点区分間の繰入金収入及び繰入金支出を記載するものとする(運用上の取り扱い別紙3(④)「事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書」参照)。また、拠点区分資金収支明細書(運用上の取り扱い別紙3(⑩))を作成した拠点においては、サービス区分間の繰入金収入及び繰入金支出を記載するものとする(運用上の取り扱い別紙3(⑬)「サービス区分間繰入金明細書」参照)。

貸付け・借入れについては、別の項目「事業区分間、拠点区分間及びサービス区分間の貸付金(借入金)残高」で次のように定められています。

社会福祉事業、公益事業及び収益事業における事業区分間及び拠点区分間の貸付金(借入金)の残高を記載するものとする(運用上の取り扱い別紙3(⑤)「事業区分間及び拠点区分間貸付金(借入金)残高明細書」参照)。また、拠点区分資金収支明細書(運用上の取り扱い別紙3(⑩))を作成した拠点区分においては、サービス区分間の貸付金(借入金)の残高を記載するものとする(運用上の取り扱い別紙3(⑭)「サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書」参照)。

つまり、事業区分間・拠点区分間の階層では「事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書」と「事業区分間及び拠点区分間貸付金(借入金)残高明細書」、サービス区分間の階層では「サービス区分間繰入金明細書」と「サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書」という、合計4種類の明細書に分かれて記載することになります。ここでも、この規定が定めているのは「どの明細書に何を記載するか」であって、「いくらまで動かしてよいか」ではないことに注意してください。

相殺消去する「場所」は、事業区分間・拠点区分間・サービス区分間で異なる

繰入れ・貸付けを記載したら、次はその内部取引を計算書類のどこで相殺消去するかが問題になります。局長通知は、会計基準省令第11条に関連する説明として、まず内部取引を3つの階層に分けています。

社会福祉法人が有する事業区分間、拠点区分間において生ずる内部取引について、異なる事業区分間の取引を事業区分間取引とし、同一事業区分内の拠点区分間の取引を拠点区分間取引という。同一拠点区分内のサービス区分間の取引をサービス区分間取引という。

そして、この3つの階層それぞれについて、相殺消去する書類を次のように指定しています。

事業区分間取引により生じる内部取引高は、資金収支内訳表及び事業活動内訳表において相殺消去するものとする。当該社会福祉法人の事業区分間における内部貸借取引の残高は、貸借対照表内訳表において相殺消去するものとする。また、拠点区分間取引により生じる内部取引高は、事業区分資金収支内訳表及び事業区分事業活動内訳表において相殺消去するものとする。当該社会福祉法人の拠点区分間における内部貸借取引の残高は、事業区分貸借対照表内訳表において相殺消去するものとする。なお、サービス区分間取引により生じる内部取引高は、拠点区分資金収支明細書(別紙3(⑩))及び拠点区分事業活動明細書(別紙3(⑪))において相殺消去するものとする。

事業区分間の取引は「内訳表」、拠点区分間の取引は「事業区分〇〇内訳表」、サービス区分間の取引は拠点区分の明細書、というように、階層が1段下がるごとに相殺消去する場所も1段下がる構造になっています。区分の階層を正しく理解していないと、この対応関係自体を取り違えてしまうので、事業区分・拠点区分・サービス区分を合わせて確認しておくと理解しやすくなります。

内部取引の相殺消去は、「繰入金」という名前の取引だけではない

ここまでは「繰入金」「貸付金」という名前の取引を前提に見てきましたが、相殺消去の対象はそれだけではありません。課長通知は「内部取引の相殺消去について」という項目で、次のように範囲を広げています。

運用上の取り扱い第4に規定する内部取引の相殺消去には、ある事業区分、拠点区分又はサービス区分から他の事業区分、拠点区分又はサービス区分への財貨又はサービスの提供を外部との取引と同様に収益(収入)・費用(支出)として処理した取引も含むものとする。例えば、就労支援事業のある拠点区分において製造した物品を他の拠点区分で給食として消費した場合には、就労支援事業収益(収入)と給食費(支出)を、内部取引消去欄で相殺消去する取扱いをするものとする。

つまり、法人本部への繰入れのようにお金だけが動く取引に限らず、ある拠点区分が作った物品を別の拠点区分が使う(対価を収益・費用として処理している)取引も、内部取引として相殺消去の対象になります。就労支援事業を運営している法人であれば、この規定に該当する取引が思いのほか多いかもしれません。

「いくらまで動かせるか」は会計基準ではなく、別の通知が決めている

ここまで見てきたとおり、会計基準省令と運用上の通知が定めているのは「記録の方法」「明細書への記載」「相殺消去する場所」であり、「動かしてよい金額・条件」ではありません。では、その制限はどこにあるのでしょうか。

指導監査ガイドラインは、社会福祉法第26条第1項を根拠として、次のように整理しています。

法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立されるものであるため、法人の行う社会福祉事業に支障のない範囲であれば、公益事業又は収益事業を行うことができる(法第26条第1項)。公益事業及び収益事業は社会福祉事業に対して従たる地位にあり(審査基準第1の2の(4)、3の(5))、原則として、社会福祉事業の収入を公益事業又は収益事業に充てることはできないものと解される。もっとも、各福祉サービスに関する収入については、通知の定めにより、法人本部への繰入れや他の社会福祉事業又は公益事業への充当が一定の範囲で認められる(注2)。

つまり、原則は「社会福祉事業の収入を公益事業・収益事業に充てることはできない」という、社会福祉法に基づく制約です。そのうえで「一定の範囲で認められる」根拠となる通知として、指導監査ガイドラインは次の4本を名指ししています。

  • 「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について」(平成16年3月12日付け雇児発第0312001号、社援発第0312001号、老発第0312001号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長及び老健局長連名通知)
  • 「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」(平成27年9月3日付け府子本第254号、雇児発0903第6号内閣府子ども・子育て本部統括官及び厚生労働省雇用均等・児童家庭局長連名通知)
  • 「特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等について」(平成12年3月10日付け老発第188号厚生省老人保健福祉局長通知)
  • 「障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱いについて」(平成18年10月18日付け障発第1018003号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)

会計基準側では「従たる地位」という言葉で、収益事業・公益事業が社会福祉事業に対して補助的な位置づけであることも示されています。この位置づけと、収益事業を行う場合の法人税の取扱いは別の論点になりますが、あわせて整理したい方は法人税と収益事業もご覧ください。

ここで重要な注意点があります。 今回確認できた一次情報には、これらの通知の名称と、原則・例外の位置づけまでしか書かれていません。「資金不足が生じない範囲であれば繰り入れられる」「貸付けは当該年度に清算するものに限る」といった具体的な金額・割合・期間の条件は、この記事で示す一次情報の中には見つかりませんでした。実際に繰入れ・貸付けを行う際の具体的な範囲は、上記の各通知およびその関連通知、そして所轄庁が公開している手引きで確認してください。会計基準を読むだけでは、この部分にはたどり着けません。

指導監査で実際にチェックされるポイント

制度の建てつけを理解したうえで、実務担当者として気になるのは「指導監査で何を見られるか」でしょう。指導監査ガイドラインは、社会福祉事業の実施状況を確認する項目として、次を指摘基準に挙げています。

次の場合は文書指摘によることとする。
・ 社会福祉事業の規模が法人の全事業のうち50%以下である場合(法人の社会福祉事業が「主たる地位を占める」ものと所轄庁が認める場合を除く。)
・ 社会福祉事業の収入を認められない使途に充てている場合

この項目の確認書類は「計算書類及びその附属明細書」とされています。前述の「事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書」は、まさにこの附属明細書の一つです。

附属明細書そのものについても、指導監査ガイドラインは別に指摘基準を設けています。

次の場合は文書指摘によることとする。
・ 作成すべき附属明細書が作成されていない場合
・ 附属明細書について計算書類の金額と一致していない場合
・ 附属明細書が様式に従っていない場合

法人全体で作成すべき附属明細書には「事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書」「事業区分間及び拠点区分間貸付金(借入金)残高明細書」が、拠点区分で作成すべき附属明細書には「サービス区分間繰入金明細書」「サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書」に加えて「積立金・積立資産明細書」が含まれています。積立金・積立資産の管理については積立金と積立資産で解説していますので、繰入金・貸付金の明細書とあわせて確認しておくとよいでしょう。

つまり、指導監査でチェックされるのは「附属明細書が定められたとおりに作られ、計算書類の金額と一致しているか」という記録の正確性と、「社会福祉事業の収入が認められない使途に充てられていないか」という使途の適正性の、2つの観点です。

実務でやっておきたい整理

最後に、この記事で確認できたことを整理します。

  1. 会計基準省令が内部取引について定めているのは第11条の一文だけで、「内部取引の相殺消去をするものとする」という処理方針を示すのみです。
  2. 繰入れと貸付けは別の取引として扱われ、事業区分間・拠点区分間の階層とサービス区分間の階層で、それぞれ別の附属明細書に記載します。
  3. 相殺消去する書類は、事業区分間取引・拠点区分間取引・サービス区分間取引という3つの階層ごとに異なります。
  4. 内部取引の相殺消去は、繰入金という名前の取引だけでなく、区分間での財貨・サービスの提供を収益・費用として処理した取引も対象になります。
  5. 「いくらまで動かしてよいか」という制限は、会計基準ではなく、社会福祉法第26条第1項を根拠とした別系統の通知が定めています。会計基準を読むだけでは、この範囲は分かりません。

課長通知は、こうした区分ごとの記録を前提として、会計帳簿についても次のように定めています。

会計帳簿は、原則として、拠点区分ごとに仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成し、備え置くものとする。

拠点区分ごとに帳簿を分けて備えておくことは、繰入れ・貸付けを含む内部取引を正確に記録し、附属明細書や指導監査に対応するための土台になります。「会計基準が定めていること」と「別の通知が定めていること」を切り分けて理解しておくことが、拠点区分間のお金の動きを整理する第一歩です。


拠点区分間の繰入れ・貸付けの整理、年度末に慌てず済む仕組みにしませんか

事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書や貸付金(借入金)残高明細書のために、年度末になってから拠点をまたぐ取引をひとつずつ洗い出している、という声を法人本部の会計担当者の方からよくお聞きします。拠点区分ごとの帳簿・仕訳の管理を日常の業務フローに組み込めれば、明細書の作成も指導監査での確認もスムーズになります。パレットテクノロジーズでは、社会福祉法人様のkintone・Excel環境に合わせて、拠点区分間取引の記録から明細書出力までを支援しています。

▶ 社会福祉専門IT|社会福祉法人様向けのDX伴走支援

▶ ご相談・お問い合わせはこちら

関連記事

お問い合わせ