「積立金を計上したいのですが、理事会に諮る必要はありますか」
決算理事会の議案を組み立てている時期に、こうしたご質問をよくいただきます。答えは「必要です」なのですが、多くの解説記事は結論だけを示していて、どの条文・どの通知にそう書いてあるのかまで踏み込んでいません。税理士事務所のブログや自治体の手引きも同様で、「理事会の承認が必要です」「目的外使用は認められません」と言い切ったところで終わっています。
この記事では、社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)と、それに付随する2本の通知を根拠に、積立金と積立資産の関係を条文レベルで整理します。あわせて、「国の通知に書いてあること」と「自治体の手引きで求められている運用」を混同しないよう、はっきり分けて説明します。
「積立金」は3種類ある。この記事が扱うのは「その他の積立金」
社会福祉法人の決算書類を見ていると、「積立金」という言葉が何種類も出てきて混乱する、というお話をよく伺います。会計基準省令第6条は、純資産を次の3つに区分しています。
| 区分 | 会計基準省令 | 内容 |
|---|---|---|
| 基本金 | 第1項 | 事業開始等に当たって財源として受け入れた寄附金の額 |
| 国庫補助金等特別積立金 | 第2項 | 施設及び設備の整備のために国、地方公共団体等から受領した補助金、助成金、交付金等の額 |
| その他の積立金 | 第3項 | 将来の特定の目的の費用又は損失の発生に備えるため、理事会の議決に基づき事業活動計算書の当期末繰越活動増減差額から積み立てた額 |
「積立金」と名の付くものが3つ並んでいるため、現場ではしばしば混ざります。この記事が扱うのは、このうち第3項の「その他の積立金」です。修繕積立金、人件費積立金、施設整備積立金といった、法人が独自の目的で積み立てるものが該当します。
「理事会の議決」は通知ではなく会計基準省令そのものに書いてある
まず押さえておきたいのは、「その他の積立金」の定義そのものです。会計基準省令第6条第3項は次のように定めています。
その他の積立金には、将来の特定の目的の費用又は損失の発生に備えるため、社会福祉法人が理事会の議決に基づき事業活動計算書の当期末繰越活動増減差額から積立金として積み立てた額を計上するものとする。
ここで重要なのは、「理事会の議決」が望ましい運用として通知等で推奨されているのではなく、その他の積立金そのものの定義に書き込まれているという点です。つまり、理事会の議決を経ていない積立金は、会計基準省令が定める「その他の積立金」の要件を満たしていないことになります。決算処理として計上する以上、議決の事実と議事録は、積立金そのものの成立要件だと理解しておく必要があります。
積立てには上限がある
もう一つ見落とされがちなのが、積立てには上限があるという点です。「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」(平成28年3月31日 雇児発0331第15号・社援発0331第39号・老発0331第45号。局長通知)第19は、次のように定めています。
当期末繰越活動増減差額にその他の積立金取崩額を加算した額に余剰が生じた場合には、その範囲内で将来の特定の目的のために積立金を積み立てることができるものとする。積立金を計上する際は、積立ての目的を示す名称を付し、同額の積立資産を積み立てるものとする。
つまり、積める額は青天井ではありません。当期末繰越活動増減差額に、その他の積立金取崩額を加算した額に余剰が生じた範囲内でしか積み立てることができない、という上限が示されています。決算理事会の議案を組むときは、この余剰額を先に確認したうえで積立額を決める順序になります。
また、積立金を計上する際には「積立ての目的を示す名称」を付けることも同時に求められています。「その他積立金」のような包括的な名称ではなく、「〇〇修繕積立金」「〇〇人件費積立金」のように、目的が特定できる名称を付ける必要があります。
積立金と積立資産は「同額・一対一」で動く
上の引用にもあったとおり、積立金を計上する際は「同額の積立資産を積み立てる」ことが原則です。取崩す場合も同様で、局長通知はこう続けます。
また、積立金に対応する積立資産を取崩す場合には、当該積立金を同額取崩すものとする。
積立金だけが決算書上で増減し、対応する積立資産(預金など)が動いていない、あるいはその逆、という状態は、原則としては想定されていません。積立金・積立資産・積立金取崩し・積立資産取崩しの4つの数字は、常に一対一で対応している必要があります。
例外は1つだけ。しかも片方向
この原則には、例外が1つだけ用意されています。「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」(平成28年3月31日 雇児総発0331第7号・社援基発0331第2号・障障発0331第2号・老総発0331第4号。課長通知)19は、次のように定めています。
運用上の取り扱い第19において積立金を計上する際は同額の積立資産を積み立てることとしているが、資金管理上の理由等から積立資産の積立てが必要とされる場合には、その名称・理由を明確化した上で積立金を積み立てずに積立資産を計上できるものとする
ここで許されているのは、資金管理上の理由等から積立資産だけを計上するパターンであり、名称・理由の明確化が条件です。逆方向、つまり積立金だけを計上して積立資産を積まない、という処理は認められていません。この非対称性を取り違えている資料も見かけるので、注意しておきたいところです。
目的を変えるときは、あらためて理事会の議決が要る
積立金を当初と違う目的に使いたい、という相談も少なくありません。ここは条文の構造から整理できます。
会計基準省令第6条第3項は、「その他の積立金」を「理事会の議決に基づき」積み立てた額と定義しています。積立金は、積み立てた時点で理事会が議決した「特定の目的」とセットになって成立しているものです。したがって、当初と異なる目的で取崩し・使用しようとするなら、積立て時に議決した目的そのものを変更することになり、あらためて理事会の議決を経る必要がある、という整理になります。
一方で、ここから先——「目的外に使う場合は所轄庁に協議する」「取崩しにも理事会の承認が要る」といった具体的な手続きは、自治体の指導監査の手引き等で示されている運用であり、上に挙げた会計基準省令・局長通知・課長通知そのものには明文化されていません。国の通知が明文で定めているのは「積立金に対応する積立資産を取崩す場合には、当該積立金を同額取崩す」というところまでです。所轄庁への事前協議の要否や様式は自治体ごとに手引きが異なるため、目的外使用を検討する際は、根拠を国の通知に求めるのではなく、必ず所轄の自治体の手引きを確認してください。
積立ての時期は「決算理事会後2か月以内」
積立ての時期についても、明確な定めがあります。課長通知19は次のとおりです。
積立金と積立資産の積立ては、増減差額の発生した年度の計算書類に反映させるものであるが、専用の預金口座で管理する場合は、遅くとも決算理事会終了後2か月を越えないうちに行うものとする。
積立金・積立資産は、その増減差額が発生した年度の計算書類に反映させるのが原則です。そのうえで、積立資産を専用の預金口座で管理する場合は、決算理事会終了後2か月以内に実際の資金移動を終える必要があります。決算理事会で議決したまま、預金口座への振替が翌年度にずれ込んでいる法人様を見かけますが、この時期の縛りは現場で最も抜けやすいポイントです。決算スケジュールを組む段階で、振替の実行日をあらかじめ議案に含めておくと確実です。
就労支援事業・授産事業の積立金は別枠のルール
就労支援事業には、工賃変動積立金と設備等整備積立金という、ここまで説明してきた「その他の積立金」とは別枠の特別なルールが定められています。積立額・上限額とも算定方法が細かく決まっており、この記事では深追いしません。詳しくは記事29「就労継続支援B型の工賃」で扱っていますので、そちらをご覧ください。
なお、授産施設については、会計基準省令第6条第3項に規定する「その他の積立金」により、人件費積立金、修繕積立金、備品等購入積立金、工賃平均積立金等として処理を行うことが可能とされています。
決算のたびに確認したい「積立金・積立資産明細書」
積立金と積立資産の対応関係は、附属明細書の様式にもそのまま表れます。拠点区分ごとに作成する附属明細書のうち、次の様式が該当します。
(別紙3(⑫)) 積立金・積立資産明細書
決算理事会の議案を作るときは、この明細書と、積立金ごとの名称・目的・議決日を突き合わせておくと、監査や指導監査の場でも説明がぶれません。計算書類全体の作成の流れについては、記事46「社会福祉法人の計算書類」で整理しています。
実務でずれやすいポイントと台帳での管理
ここまで整理してきた内容を、実務でつまずきやすい順に並べ直すと、次のようになります。
- 議決なしで積立金だけを計上してしまう(そもそも「その他の積立金」の定義を満たさない)
- 余剰額の範囲を確認せずに積立額を決めてしまう
- 積立金と積立資産の金額がいつの間にかずれている
- 専用口座への振替が決算理事会後2か月を過ぎている
- 目的を変えて取崩したのに、あらためて理事会の議決を取っていない
これらはどれも、積立金の一覧を「その都度」ではなく「決算前にまとめて」確認しようとするために起きます。私たちがご支援する法人様には、積立金ごとに名称・目的・積立額・対応する積立資産の口座・議決日を1枚の台帳にまとめ、決算のたびに残高と議事録を突き合わせる運用をおすすめしています。台帳の運用ルールは経理規程に落とし込んでおくと定着しやすく、経理規程のひな型は記事09「社会福祉法人の経理規程モデル」で紹介しています。また、台帳の管理を誰が担うかという役割分担については、記事50「社会福祉法人の会計責任者」もあわせてご確認ください。
まとめ
- 「積立金」には基本金・国庫補助金等特別積立金・その他の積立金の3種類があり、この記事が扱うのは第3項の「その他の積立金」
- 理事会の議決は通知ではなく会計基準省令第6条第3項そのものが要件として定義している
- 積立てには当期末繰越活動増減差額にその他の積立金取崩額を加算した額の余剰の範囲内という上限がある
- 積立金と積立資産は原則同額・一対一。積立資産だけを計上できる例外は1つだけで、逆は認められていない
- 専用口座で管理する場合、積立ては決算理事会終了後2か月以内に行う
- 目的外使用の手続きは、国の通知ではなく自治体の指導監査の手引きで示されている運用であり、両者を混同しない
参考(一次情報)
- 社会福祉法人会計基準|厚生労働省
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて|厚生労働省
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について|厚生労働省
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