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障害者差別解消法の合理的配慮|福祉事業所が事業者として行う実務

「うちは障がい福祉の事業所なので、合理的配慮は毎日やっています」

そうおっしゃる管理者の方は多いです。実際そのとおりで、日々の支援そのものが配慮の積み重ねです。ただ、法律の話になると少し様子が変わります。

障害者差別解消法において、福祉事業所は「支援する側」ではなく「事業者」です。 つまり、義務を課される側に立っています。令和6年4月1日からは、それまで努力義務だった合理的配慮の提供が法的義務になりました。「やっています」で済ませずに、求められたときにどう受け止め、どう判断し、何を残すかを決めておく必要があります。

この記事では、障害者差別解消法の条文と、厚生労働省が令和6年3月に定めた「福祉分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針」に戻って、事業所側の実務を整理します。

義務化はいつからか ― 令和6年4月1日

合理的配慮の提供が事業者の法的義務になったのは、令和6年4月1日です。

根拠は、令和3年6月4日に公布された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第56号)です。この改正で、事業者の合理的配慮が努力義務から法的義務へと改められました。

なお、行政機関等(国・自治体など)については、平成28年4月1日の法施行の時点ですでに法的義務でした。今回変わったのは民間事業者の側で、社会福祉法人が運営する事業所もここに含まれます。

条文はどうなっているか

事業者に関する規定は、障害者差別解消法第8条です。第1項が「不当な差別的取扱いの禁止」、第2項が「合理的配慮の提供」です。

事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

読み取っておきたいのは、条文が3つの条件でできていることです。

条件条文の言葉実務での意味
① きっかけ意思の表明があった場合求められて初めて動く。ただし後述の例外あり
② 限度負担が過重でないとき何でも応じるわけではない。判断の要素が示されている
③ 個別性性別、年齢及び障害の状態に応じて一律の対応ではなく、その人ごとに決める

「合理的配慮=親切にすること」ではありません。条件が揃ったときに発生する法的な義務です。逆に言えば、条件を1つずつ確認していけば判断ができます。

「対象となる障害者」は手帳の所持者に限らない

もう一つ、事業所が取りこぼしやすい点があります。対応指針は、法が対象とする障害者の範囲についてこう述べています。

したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限りません。

難病等に起因する障害や、高次脳機能障害を含みます。利用者だけでなく、見学に来られた方、ご家族、実習生、地域の方も対象になり得るということです。窓口対応や相談支援の場面を想定しておく必要があります。

「意思の表明」がないときはどうするか

条文だけを読むと「言われなければ何もしなくてよい」と読めてしまいます。ここが実務で最も誤解されるところです。

対応指針は、意思の表明の手段を広くとっています。言語(手話を含む)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、本人が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段が含まれます。ご家族、支援者・介助者、法定代理人等が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。

そのうえで、意思の表明がない場合について、こう書かれています。

なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者等を伴っていないことなどにより、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であるときには、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提供するために建設的対話を働きかけるなど、自主的に取り組むことが望まれます。

「必要としていることが明白なとき」は、こちらから働きかけることが望まれる。 意思表出が難しい方を日常的に支援している事業所ほど、この一文の重みが分かるはずです。

「過重な負担」はどう判断するか

事業所からいちばん多く出るのが「どこまでやればいいのか」という質問です。対応指針は、まず安易に過重な負担としないことを釘刺しています。

過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であり、過重な負担に当たると判断した場合、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。

考慮する要素として、対応指針は次の5つを挙げています。

要素内容
事務・事業への影響の程度事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か
実現可能性の程度物理的・技術的制約、人的・体制上の制約
費用・負担の程度当該措置を講ずることによる費用・負担の程度
事務・事業規模当該事業所の規模に応じた負担の程度
財務状況当該事業所の財務状況に応じた負担の程度

実務上の要点は2つです。

  1. 「前例がない」「マニュアルにない」は理由にならない。 対応指針は、デジタル機器の活用を認めた前例がないことを理由に必要な調整を行うことなく一律に対応を断ることを、提供義務違反に該当するおそれがある例として挙げています
  2. 断るときこそ説明と代替案が要る。 過重な負担に当たると判断した場合は、丁寧に理由を説明し、代替措置の選択も含めて柔軟に検討することが求められます

事業所の規模や財務状況が要素に入っているのは、小規模な事業所にとって現実的な救いです。ただしそれは「検討しなくてよい」という意味ではなく、検討したうえで、その事業所の条件に照らして判断するという意味です。

見落とされがちな「環境の整備」との違い

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい論点です。合理的配慮とセットで動くのが、法第5条の「環境の整備」です。

行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

対応指針は、両者の関係をこう整理しています。

環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものですが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置です。

つまり、この2つは対になっています。

 環境の整備(第5条)合理的配慮(第8条第2項)
法的性質努力義務法的義務
対象不特定多数特定の個人
タイミング事前求められたその場面
段差の解消、職員研修、マニュアルの整備その方のために筆談で説明する、休憩時間を調整する

そして対応指針は、環境の整備の中身にソフト面を明記しています。

また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、内部規制やマニュアルの整備等のソフト面の対応も含まれることが重要です。

ここに、事業所にとって実際的な意味があります。環境の整備が進んでいるほど、その都度の合理的配慮の負担は軽くなる。 対応指針も「環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中長期的なコストの削減・効率化にも資することとなります」と述べています。

福祉事業所は、利用者との関係がまさに長期にわたります。「毎回その場でなんとかする」から「一度整えて、次からは標準の対応にする」へ移すことが、そのままコスト削減になる、という構造です。

たとえば、ある方のために振り仮名付きの説明文書を用意したとします。それを「その方向けの1回きりの対応」で終わらせず、説明文書のふりがな版を標準の様式として保管しておけば、次の方には環境の整備として最初から提供できます。 これは配慮の質の問題ではなく、書式をどこに置いてあるかという段取りの問題です。

福祉事業所で実際に問われる場面

対応指針が挙げている例のうち、福祉事業所の日常に近いものを拾うと、次のようになります。

合理的配慮に該当すると考えられる例

  • 障害の特性に応じた休憩時間等の調整や必要なデジタル機器の使用などのルール、慣行を柔軟に変更すること
  • 場所を1階に移す、トイレに近い場所にする等の配慮をすること
  • 手話、要約筆記、筆談、図解、ふりがな付文書を使用するなど、本人が希望する方法で分かりやすい説明を行うこと
  • 電子メール、ホームページ、ファックスなど多様な媒体で情報提供、利用受付を行うこと
  • パニック等を起こした際に静かに休憩できる場所を設けること

不当な差別的取扱いとなるおそれがある例

  • 保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること
  • サービスの利用に当たって、他の利用者と異なる手順を課すこと(仮利用期間を設ける、他の利用者の同意を求めるなど)
  • 本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかけること
  • 正当な理由なく、行事、娯楽等への参加を制限すること

最後の「本人を無視して付添者のみに話しかける」は、悪意なく起きます。手続きを急ぐ場面ほど起きやすいので、契約・面談・見学対応の手順に「本人に向かって話す」を明記しておくのが現実的です。

なお対応指針は、合理的配慮の提供にあたって「個々の障害特性等をアセスメントし、個別の支援計画(サービス等利用計画、ケアプラン等)に位置付けるなどの取組も望まれます」としています。すでに事業所が持っている計画の枠組みに載せてよい、ということです。新しい書類を増やす必要はありません。個別支援計画の運用については個別支援計画のモニタリングの記事で整理しています。

相談窓口と研修 ― 福祉事業者には高い水準が求められている

対応指針の第4は、事業者の相談体制について述べています。福祉事業者については、次のように一段高い水準が示されています。

中でも、福祉の専門知識及び技術をもって福祉サービスを提供する事業者については、特に、その基本的専門性に鑑み、より充実した相談体制の整備をはじめ、日頃から、障害に関する理解や人権意識の向上・障害者の権利擁護に向けた職員の研修に積極的に取り組むことが重要です。

窓口については、こう書かれています。

なお、事業所において相談窓口等を設置(事業所における既存の苦情解決体制や相談窓口を活用することも考えられます)する際には、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報の周知を図り、利用しやすいものとするよう努めるとともに、対面のほか、電話(電話リレーサービスの対応を含む)、ファックス、電子メールなどの多様な手段を相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことが重要です。

新しい窓口を作らなくてよいという点が実務的に効きます。社会福祉法に基づく苦情解決の仕組みを事業所はすでに持っているので、そこを使う前提で、周知の仕方と受付手段の幅を見直せば足ります。ホームページに窓口を出しているか、メールでも受けられるか。この2点は今日すぐ点検できます。

研修については、対応指針の第5にこうあります。

なお、障害者差別の理解には、障害者虐待防止に関する理解も極めて重要になってくることから、併せて研修を行うことが望まれます。

虐待防止研修は障害福祉サービス事業所にとって義務です。別立てで研修を増やすのではなく、既存の虐待防止研修に差別解消の内容を組み込むのが、指針の考え方に沿ったやり方です。虐待防止委員会と研修の回し方については虐待防止委員会の運営の記事で整理しています。

さらに第5は、内部規則やマニュアルの点検にも触れています。

加えて、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要です。

古い運営規程や利用の手引きに「保護者同伴を原則とする」といった一文が残っていないか。手を付けやすいのは、この文書点検からです。

罰則はあるのか

「義務化」と聞くと罰則を心配される方がいますが、障害者差別解消法に事業者への直接の罰則はありません。定められているのは、主務大臣による行政措置です。

法第12条は、主務大臣が第8条の施行に関し特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる、と規定しています。対応指針も、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合などを想定した措置だと説明しています。

したがって実務上のリスクは、罰金ではなく「繰り返している」と見られることです。1件の対応の可否より、相談を受け止めた記録が残っているか、同じ相談が繰り返されていないかのほうが問われます。

何を、どこに置いておくか

制度の理解と同じくらい大事なのが、置き場所です。ご支援に入って詰まるのは、たいてい次の3つです。

  1. 相談を受けた記録がその職員の手元で止まっている。 口頭で解決したものが残らないため、同じ相談が別の職員に来たときに一から始まります。「今回はこう対応した」を1行でも共有の場所に残すと、次から迷いません
  2. 配慮のために作った資料が、作った人のパソコンにある。 ふりがな版・拡大版・図解版は、環境の整備として最も再利用が効く資産です。様式の置き場所を決めるだけで、その都度の負担が消えます
  3. 研修の実施記録が虐待防止と別ファイルになっている。 内容を束ねたなら、記録も束ねておくと運営指導の場面で説明が早くなります

いずれも「制度を知らない」ではなく「情報が分散している」ことが原因です。合理的配慮は個別対応ですが、個別対応を支える材料は共有できます。

まとめ

  • 事業者による合理的配慮の提供は、令和6年4月1日から法的義務(改正法=令和3年法律第56号)。福祉事業所も「事業者」として義務を負う
  • 条文の条件は、①意思の表明があったこと ②負担が過重でないこと ③その方の性別・年齢・障害の状態に応じることの3つ
  • 法の対象となる障害者は、障害者手帳の所持者に限らない
  • 意思の表明は、家族・支援者・介助者による補佐も含む。 表明がなくても必要が明白なときは、建設的対話を働きかけることが望まれる
  • 過重な負担は、事務・事業への影響/実現可能性/費用・負担/事業規模/財務状況の5要素で総合的・客観的に判断する。「前例がない」は理由にならない
  • 環境の整備(第5条)は努力義務、合理的配慮(第8条第2項)は法的義務。 環境の整備が進むほど、その都度の配慮の負担は軽くなる
  • 相談窓口は、既存の苦情解決体制の活用でよい。 周知の仕方と受付手段の幅を見直す
  • 研修は、虐待防止研修と併せて行うことが望まれると対応指針が明記している
  • 罰則はなく、主務大臣による報告徴収・助言・指導・勧告(法第12条)。問われるのは1件の可否より、繰り返していないかどうか

参考にした一次情報

※対応指針に示された事例はあくまで例示であり、事業者に強制する性格のものではありません。具体的場面や状況に応じた柔軟な対応が期待されています。個別の判断に迷う場合は、都道府県・市区町村の相談窓口や障害者差別解消支援地域協議会にご相談ください。


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