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介護のBCPとは|義務化と研修・訓練、未策定減算を条文から整理

「BCPは作りました。ファイルにして棚に入れてあります」

これは、私たちが法人様からよく伺うお言葉です。そして残念ながら、それだけでは基準を満たしていません

BCP(業務継続計画)は令和6年4月から義務化され、令和7年4月には未策定の場合に基本報酬が減算される扱いが始まりました。ただし条文をよく読むと、義務は「計画を作ること」だけではありません。研修と訓練を定期的に実施すること、計画を定期的に見直すことまで含まれています。

この記事では、指定基準の条文と厚生労働省の報酬改定資料を根拠に、BCPの義務が具体的に何を指すのか、減算はいくらなのかを介護保険と障がい福祉の両方について整理します。

条文にある義務は3つ

介護保険サービスの場合、根拠は「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)です。訪問介護について定めた第30条の2が、他のサービスにも準用されています。

指定訪問介護事業者は、感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する指定訪問介護の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。
2 指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。
3 指定訪問介護事業者は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。

障がい福祉サービス側も、ほぼ同じ条文です。根拠は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号)第33条の2です。

指定居宅介護事業者は、感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する指定居宅介護の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。
2 指定居宅介護事業者は、従業者に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。
3 指定居宅介護事業者は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。

義務を分解すると、次の3つです。

#義務の内容条文上の位置語尾
1業務継続計画を策定し、計画に従い必要な措置を講ずる第1項しなければならない
2従業者に周知し、必要な研修及び訓練を定期的に実施する第2項しなければならない
3定期的に見直し、必要に応じて変更する第3項するものとする

第1項と第2項は「しなければならない」、第3項は「するものとする」です。第3項も努力義務ではなく、原則として従うべき規定と解されますが、条文上の強さには差があります。

要点は、義務が「策定」で終わっていないことです。 周知・研修・訓練が第2項に、はっきりと書かれています。「作って棚に入れてある」状態では、第2項が満たされていないことになります。

「感染症」と「非常災害」の両方が必要

条文は「感染症や非常災害の発生時において」と書いています。減算の要件を見ると、この「両方」がはっきりします。厚生労働省の報酬改定資料は、減算の趣旨をこう説明しています。

感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を構築するため、業務継続に向けた計画の策定の徹底を求める観点から、感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合、基本報酬を減算する。

「いずれか又は両方」が未策定なら減算です。つまり、感染症のBCPだけを作って自然災害のBCPを作っていない場合も、減算の対象になります。

障がい福祉サービス側も同じ構造です。

感染症や災害が発生した場合であっても、必要な障害福祉サービス等を継続的に提供できる体制を構築するため、業務継続に向けた計画の策定の徹底を求める観点から、感染症又は非常災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合、基本報酬を減算する。その際、一定程度の取組を行っている事業所に対し経過措置を設けることとする。

自法人のBCPを確認するとき、まず見るべきは感染症編と自然災害編が両方あるかです。片方だけの法人様は少なくありません。

減算はいくらか

介護保険:施設・居住系は3%、その他は1%

厚生労働省の報酬改定資料は、単位数をこう示しています。

業務継続計画未策定減算 施設・居住系サービス 所定単位数の100分の3に相当する単位数を減算(新設)
その他のサービス 所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算(新設)

対象は「全サービス(居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除く)」です。

定率にした理由も資料に書かれています。

※平成18年度に施設・居住系サービスに身体拘束廃止未実施減算を導入した際は、5単位/日減算であったが、各サービス毎に基本サービス費や算定方式が異なることを踏まえ、定率で設定。なお、その他サービスは、所定単位数から平均して7単位程度/(日・回)の減算となる。

「その他サービス」の1%は、平均して1日あたり7単位程度という目安が国から示されています。かつての身体拘束廃止未実施減算(5単位/日)より重い水準です。

障がい福祉:3%の対象が明示されている

障がい福祉サービス側は、減算率ごとに対象サービスが列挙されています。

(減算単位)
・ 所定単位数の3%を減算
(対象サービス:療養介護、施設入所支援(施設入所支援のほか、障害者支援施設が行う各サービスを含む)、共同生活援助、宿泊型自立訓練、障害児入所施設)
・ 所定単位数の1%を減算

1%の対象は、居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護・重度障害者等包括支援・短期入所・生活介護・自立生活援助・自立訓練(宿泊型を除く)・就労移行支援・就労継続支援・就労定着支援・就労選択支援・計画相談支援・地域移行支援・地域定着支援・障害児相談支援・児童発達支援・放課後等デイサービス・居宅訪問型児童発達支援・保育所等訪問支援です。

整理すると次のようになります。

 介護保険障がい福祉
減算の名称業務継続計画未策定減算業務継続計画未策定減算
施設・居住系所定単位数の100分の3所定単位数の3%(療養介護、施設入所支援、共同生活援助、宿泊型自立訓練、障害児入所施設)
その他所定単位数の100分の1所定単位数の1%
対象外居宅療養管理指導、特定福祉用具販売

経過措置はすでに終わっている

ここが実務上もっとも重要な点です。減算は令和7年4月1日から本格適用され、経過措置は令和7年3月31日で終了しています

介護保険側の経過措置は次の内容でした。

※ 令和7年3月31日までの間、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、減算を適用しない。訪問系サービス、福祉用具貸与、居宅介護支援については、令和7年3月31日までの間、減算を適用しない。

障がい福祉側も同様です。

※ 令和7年3月31日までの間、「感染症の予防及びまん延防止のための指針の整備」及び「非常災害に関する具体的計画」の策定を行っている場合には、減算を適用しない。

つまり、令和7年3月31日までは「感染症の指針+非常災害の具体的計画」があれば減算を免れていましたが、その代替はもう使えません。現在は、業務継続計画そのものが必要です。

「感染症のまん延防止のための指針」と「感染症のBCP」、「非常災害に関する具体的計画(消防計画等)」と「自然災害のBCP」は別物です。指針や消防計画があるからBCPがある、とは言えません。

なお例外的に、障がい福祉側では就労選択支援について経過措置が延びています。

※ 就労選択支援については、令和9年3月31日までの間、減算を適用しない経過措置を設ける。

また介護保険側では、居宅療養管理指導について経過措置期間が延長されました。

○ 居宅療養管理指導について、事業所のほとんどがみなし指定であることや、体制整備に関する更なる周知の必要性等を踏まえ、令和6年3月31 日までとされている以下の義務付けに係る経過措置期間を3年間延長する。
ア 虐待の発生又はその再発を防止するための措置
イ 業務継続計画の策定等

研修と訓練は何が違うのか

条文は「必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない」と、研修と訓練を並べて書いています。別のものとして両方が必要です。

実務上の区別は次のように考えると整理しやすいです。

 研修訓練
目的計画の内容を知っている状態をつくる計画どおりに動けるかを確かめる
形式座学・資料の読み合わせ・オンライン受講机上訓練(シミュレーション)、実地訓練
記録に残すもの実施日・対象者・受講者名簿・内容実施日・想定シナリオ・参加者・気づいた課題

サジェストに「bcp 介護 机上訓練」が並ぶのは、訓練の形式で迷う方が多いためでしょう。訓練は必ず実地でなければならないわけではなく、机上訓練(シミュレーション形式)も訓練にあたると一般に運用されています。ただし自治体の集団指導資料で求める形式が示されている場合はそれに従ってください。

訓練で最も大事な記録は「気づいた課題」です。 これが第3項の「定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行う」につながります。訓練をやって課題が1つも出ないのであれば、訓練の設計が甘い可能性があります。

逆に、課題を洗い出したのに計画が更新されていない状態は、第2項は満たしているが第3項が満たされていないことになります。訓練記録と計画の改訂履歴は、セットで見られると考えておくのが安全です。

運営指導・実地指導では何を見られるか

BCPは、運営指導の確認項目に入っています。用意しておくべきものは、条文の3つの義務に素直に対応します。

義務用意しておくもの
策定(感染症・非常災害の両方)業務継続計画の本体(感染症編・自然災害編)。最新版がどれか分かる状態にしておく
周知従業者に周知した記録(会議で説明した議事録、配付記録、イントラへの掲示日など)
研修研修の実施記録と受講者名簿(誰が未受講かが分かる状態)
訓練訓練の実施記録、想定シナリオ、参加者、洗い出した課題
見直し計画の改訂履歴(いつ、何を、なぜ変えたか)

このうち抜けやすいのは周知の記録改訂履歴です。計画も研修記録もあるのに、「従業者に周知したことを示すもの」と「見直したことを示すもの」がない、という状態が実際によくあります。

なお、令和8年6月に厚生労働省が公表した運営指導マニュアルには、電子で管理している書類の扱いが明記されています。

ICT で書類管理している事業者等の場合については、電子管理の文書の印刷をもとめることなく、パソコン画面上で確認するなど、事業者等に配慮した方法で文書確認を行います。

運営指導の全体像と準備については、障害福祉サービスの運営指導|令和8年6月の新マニュアルで読む準備で詳しく整理しています。

「作って終わり」にしないための実務

BCPが形骸化しやすい理由は明確です。BCP本体は分量が多く、更新すべき箇所が本文の中に散っているからです。

私たちが伴走支援でお伺いする法人様では、次のような状態がよく見られます。

  • BCPはWordで100ページ近くあり、最新版がどのファイルか分からない
  • 職員の連絡先が本文中の表に書かれており、入退職のたびに全体を開いて直す必要がある
  • 備蓄品のリストと数量が本文中にあり、現物と合っているか誰も確認していない
  • 研修と訓練の記録が、防災担当者の個人フォルダにある

取り組む順番としては、次の順がおすすめです。

  1. 「頻繁に変わるもの」を本文から切り出す。職員の緊急連絡先、備蓄品の在庫、協力医療機関・取引先の連絡先は、本文に埋め込まず別表にします。別表だけを更新すれば済むようになり、更新のハードルが一気に下がります
  2. 最新版の判定ルールを決める。置き場所を1か所にし、ファイル名に改訂日を入れる。改訂履歴の表を先頭に置く
  3. 研修・訓練の記録を、他の法定研修と同じ台帳にまとめる。感染症対策、虐待防止、身体拘束適正化、BCP。いずれも「研修を定期的に実施し、記録を残す」という同じ構造です。台帳を分けるほど、未受講者の把握が難しくなります
  4. 訓練の課題を、改訂の起点として記録する。「課題 → 改訂 → 次回訓練で確認」がつながっていれば、第3項の見直しは自然に成立します

1つ目と3つ目は、他の法定研修と共通で効きます。虐待防止委員会の研修記録についても同じ考え方が使えるので、あわせて虐待防止委員会の開催回数と議事録|研修の範囲と未実施減算を整理をご覧ください。

また、BCPの実効性は「非常時に誰がどこにいるか分かるか」に大きく左右されます。勤務記録の持ち方については勤務形態一覧表の書き方|常勤換算と兼務の数え方を国の通知から整理もご参考にしてください。

まとめ

論点結論
義務の中身①策定と必要な措置 ②周知+研修及び訓練の定期実施 ③定期的な見直しと変更。策定だけでは足りない
感染症と災害「いずれか又は両方」が未策定なら減算。片方だけでは不足
減算率(介護保険)施設・居住系 所定単位数の100分の3/その他 100分の1(居宅療養管理指導・特定福祉用具販売を除く全サービス)
減算率(障がい福祉)3%=療養介護、施設入所支援、共同生活援助、宿泊型自立訓練、障害児入所施設/その他は1%
経過措置令和7年3月31日で終了。「感染症の指針+非常災害の具体的計画」での代替はもう使えない(就労選択支援は令和9年3月31日まで)
研修と訓練別のものとして両方必要。訓練は机上訓練でも可。最も大事な記録は洗い出した課題
抜けやすい記録従業者への周知の記録計画の改訂履歴

参考にした一次情報

※訓練の形式(机上/実地)、研修・訓練の回数の目安、自己点検シートの様式は自治体ごとに運用が異なります。実際の対応は、必ず自法人の指定権者(都道府県・市町村等)が公表している最新の集団指導資料をご確認ください。


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