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安全衛生推進者とは|福祉の事業場は衛生推進者を選ぶ理由を条文で確認

「うちの施設は、安全衛生推進者を置かないといけないのでしょうか」。法人本部や施設長の立場で、そう調べ始めたことはないでしょうか。検索すると、「社会福祉施設は衛生推進者を選任する」と書いた資料と、「安全衛生推進者を選任する」と書いた資料の両方が出てきます。どちらが正しいのか、確信を持てないまま、とりあえず「安全衛生推進者」と呼んでいる職場も多いと思います。

先に結論です。条文の括弧書きを順に追うと、安全衛生推進者と衛生推進者は「同じ選任義務の、業種による呼び分け」です。 労働安全衛生法(以下「安衛法」)第12条の2が選任義務を定め、括弧書きで「衛生推進者」になる業種を切り分けています。その切り分けの線は、労働安全衛生法施行令(以下「施行令」)第2条の業種の一覧に引かれていて、この記事で引用した一覧には、社会福祉施設という業種名は載っていません。 そのため、一覧に載らない業種の事業場は衛生推進者の側に入ります。

もう一つ、福祉の現場で大事な点があります。選任の義務は、法人全体ではなく「事業場」ごとに生じる条文の作りです。 1つの法人が特養、デイサービス、グループホーム、法人本部を持っていれば、「どこまでを1つの事業場と数えるか」で義務の有無が変わりえます。この記事では、条文の言葉だけを根拠に、その構造を順に確かめます。

なお、講習の実施機関や費用、罰則、事業場の区切り方の具体的な基準は、この記事で読んだ条文には書かれていません。 後ろの「この記事で書いていないこと」にまとめています。

選任義務の出発点は、安衛法第12条の2

まず、選任義務そのものを定めた安衛法第12条の2です。条見出しは「安全衛生推進者等」です。前半部分を引用します。

事業者は、第十一条第一項の事業場及び前条第一項の事業場以外の事業場で、厚生労働省令で定める規模のものごとに、厚生労働省令で定めるところにより、安全衛生推進者(第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者)を選任し、

読み取れることを分けます。

  • 選任するのは事業者である
  • 対象は、第11条第1項の事業場(安全管理者の事業場)と、前条第1項の事業場(第12条第1項、つまり衛生管理者の事業場)以外の事業場である。すでに管理者を置く規模の事業場は、この条の対象から外れる
  • そのうち、厚生労働省令で定める規模のものが対象になる
  • 選任するのは「安全衛生推進者」。ただし括弧書きで、第11条第1項の政令で定める業種以外の業種の事業場では「衛生推進者」になる

つまり、事業場ごとに「安全衛生推進者」になるのか「衛生推進者」になるのかが、括弧書きで分かれています。分かれ目は「第11条第1項の政令で定める業種」に当たるかどうかです。

担当させる業務も同じ条文に書かれています。条文は「第十条第一項各号の業務」を担当させるとし、括弧書きのなかで、衛生推進者の事業場については次のように範囲を絞っています。

第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生に係る業務に限る。

つまり、安全衛生推進者は安全と衛生の両方、衛生推進者は衛生に係る業務に限る、という作りです。どの業務が「衛生に係る」ものかをこの条文が一つずつ仕分けているわけではありません。業務の中身は、後ほど第10条の各号で見ます。

分かれ目の「政令」は、施行令第3条にある

括弧書きにある「第11条第1項の政令で定める業種」を追うために、第11条第1項(安全管理者)を見ます。前半部分を引用します。

事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、

ここに「政令で定める業種及び規模」と出てきます。この政令が、施行令第3条(安全管理者を選任すべき事業場)です。

法第十一条第一項の政令で定める業種及び規模の事業場は、前条第一号又は第二号に掲げる業種の事業場で、常時五十人以上の労働者を使用するものとする。

ポイントは「前条第一号又は第二号に掲げる業種」という書き方です。第3条は自分では業種名を並べず、1つ前の第2条の第一号・第二号に業種を預けています。 第3条の書き方からは、第12条の2の括弧書きにある「政令で定める業種」の業種部分は、第2条の第一号・第二号と読めます。

業種の一覧は、施行令第2条に並んでいる

その第2条は、見出しが「総括安全衛生管理者を選任すべき事業場」で、本来は別の目的の条文です。柱書は次のとおりです。

労働安全衛生法(以下「法」という。)第十条第一項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。

各号に業種名が並んでいます。第一号は次の1行です。

林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業

第二号は次の1行です。

製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業

そして第三号は次の1行です。

その他の業種

第2条の第一号・第二号には、林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業、電気業、ガス業などが並んでいますが、社会福祉施設や介護、障がい福祉サービスにあたる言葉は見当たりません。 一覧に載らない業種は第三号の「その他の業種」の側にいます。

ここまでの道筋を整理すると、次のとおりです。

順条文読み取れること
1安衛法第12条の2安全衛生推進者を選任する。ただし「第11条第1項の政令で定める業種以外」の事業場は衛生推進者
2安衛法第11条第1項安全管理者は「政令で定める業種及び規模」の事業場で選任する
3施行令第3条その政令は、前条の第一号・第二号の業種で、常時50人以上の事業場
4施行令第2条第一号・第二号の業種が並ぶ。社会福祉施設という語は一覧に見当たらない
5結論第一号・第二号に当たらない業種の事業場は、衛生推進者の側に入る

注意したいのは、第2条の本来の目的は総括安全衛生管理者の選任です。第2条の「百人」「三百人」「千人」は総括安全衛生管理者の規模であって、推進者の規模ではありません。 推進者の規模は、後で見る安衛則第12条の2で別に決まっています。第2条は、ここでは「業種の一覧」として借りられているだけです。

業種の判定も、事業場ごとに行う

もう一点、福祉法人で見落とされやすいところです。括弧書きは「第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては」と書かれています。判定の単位は事業場で、法人ではありません。

たとえば、法人が福祉の事業のほかに、第一号に載っている清掃業の事業場を別に持っているとします。その事業場は、一覧に載る業種の事業場として読まれる可能性があります。その場合は、結論が福祉の施設とは変わりえます。ただし、ある事業場がどの業種に当たるのかを、どう判断するかは、この記事で読んだ条文には書かれていません。迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

規模は、安衛則第12条の2の「常時10人以上50人未満」

次に規模です。選任義務が生じる規模は、労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第12条の2が定めています。

法第十二条の二の厚生労働省令で定める規模の事業場は、常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場とする。

この条文から読めるのは、次の3点です。

  • 対象は常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場
  • 「常時」「使用する」という言葉が使われている
  • 数える単位は事業場である

50人以上になるとどうなるかは、衛生管理者の条文で対比できます。安衛法第12条(衛生管理者)の前半部分と、施行令第4条です。

事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、

法第十二条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

ここから、第12条の2の規模の上限(50人未満)と、衛生管理者の選任義務が生じる規模(常時50人以上)が、ちょうどつながっていることが分かります。第12条の2が「前条第1項の事業場以外」と書いているのは、このつながりを反映したものです。

人数と業種で整理すると、次の表になります。

常時使用する労働者第2条の第一号・第二号の業種それ以外の業種(福祉の事業場はここ)
10人未満安全衛生推進者の規模(10人以上)に当たらない衛生推進者の規模(10人以上)に当たらない
10人以上50人未満安全衛生推進者(安衛法第12条の2)衛生推進者(安衛法第12条の2の括弧書き)
50人以上安全管理者(施行令第3条)と衛生管理者(施行令第4条)衛生管理者(施行令第4条)

この表は、引用した条文だけから組み立てたものです。10人未満の事業場に、推進者の選任以外に何が求められるかは、表からは読めません(この点は、後ろの意見聴取の条文でも触れます)。また、50人以上の事業場に、衛生管理者のほかに何が求められるかも、この記事では扱いません。

選任の方法は、安衛則第12条の3

選び方は、安衛則第12条の3が定めています。冒頭の部分を引用します。

都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他法第十条第一項各号の業務(衛生推進者にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当するため必要な能力を有すると認められる者のうちから、次に定めるところにより行わなければならない。

講習の修了は「唯一の道」とは書かれていない

この書き方に注目してください。「講習を修了した者」と並んで、「その他…担当するため必要な能力を有すると認められる者」とあります。講習の修了が唯一の資格だとは、この条文は書いていません。 ただし、「必要な能力を有すると認められる者」が具体的に誰を指すのかは、この条文だけでは読み取れません。判断に迷うときは、所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。

同条第2項には、一定の者について、講習科目のうち厚生労働大臣が定めるものの免除を受けられる、という定めがあります。免除の対象は「第五条各号に掲げる者」「第十条各号に掲げる者」とだけ書かれています。誰が該当するのかは、この記事で読んだ範囲では確かめていません。

14日以内と専属

選任の条件として、第1項に2つの号があります。

安全衛生推進者等を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。

その事業場に専属の者を選任すること。

読み取れることを分けます。

  • 期限は、「選任すべき事由が発生した日」から14日以内
  • 選任する人は、その事業場に専属の者であること

「選任すべき事由」にどんな場面が当たるのかは、条文が例を挙げていないので、ここからは読み切れません。台帳に日付を残すときは、「事由が発生したと考えた日」と「選任した日」を両方書いておくと、あとで説明しやすくなります(これは条文の求めではなく、運用の提案です)。

専属については、第2号のただし書に例外があります。

労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者のうちから選任するときは、この限りでない。

労働安全コンサルタントや労働衛生コンサルタントなどから選ぶ場合は、専属でなくてもよい、という例外です。「その他厚生労働大臣が定める者」の中身は、この記事では確かめていません。専属という言葉が、他の業務との兼務をどこまで許すのかも、条文からは読み取れません。 言えるのは、例外に当たる場合を除き、その事業場に専属の者を選ぶという条文の形までです。

複数の施設を持つ法人での読み方

ここが福祉法人の実務で悩むところです。法人が施設を3つ持ち、それぞれが選任の対象になる規模なら、条文の文言どおりに読むと、それぞれの事業場ごとに、その事業場に専属の者を選ぶ形になります。「法人で1人を選んで3施設を見てもらう」という運用が条文上どう扱われるかは、例外に当たる場合を除き、条文の文言とは合いにくいと考えられます。ただし、個別の運用の可否はこの記事では判断できません。

氏名の周知は安衛則第12条の4。届出の定めは見当たらない

選任したあとにすることは、安衛則第12条の4に書かれています。

事業者は、安全衛生推進者等を選任したときは、当該安全衛生推進者等の氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。

読み取れることは次のとおりです。

  • 選任したら、氏名を関係労働者に周知させる
  • 方法の例として、作業場の見やすい箇所への掲示が挙がっている(「掲示する等」なので、掲示に限られるとは書かれていない)
  • 周知する相手は関係労働者

検索すると、「安全衛生推進者 届出」という語が出てきます。そこで、この記事で引用した範囲で確かめると、安衛法第12条の2、安衛則第12条の2、第12条の3、第12条の4のいずれにも、選任したことを労働基準監督署に届け出る、という定めは書かれていません。 書かれているのは、氏名を作業場に周知することです。

ここは慎重に書きます。「届出は不要」と断定するのではなく、この記事で読んだ条文には、選任の届出の定めが見当たらない、という言い方にとどめます。ほかの条文や通達、都道府県ごとの案内まで確かめたわけではありません。届出の有無に不安があるときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。

推進者が担当する業務は、安衛法第10条第1項各号

推進者が担当する業務は、第12条の2が参照していた「第十条第一項各号の業務」です。第10条は総括安全衛生管理者の条文で、柱書は総括安全衛生管理者に統括管理させる業務として、次の5つを並べています。このうち、第一号から第四号を引用します。

労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。

労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。

健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。

労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。

第五号は「前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの」で、中身は省令に委ねられています。

安全衛生推進者の場合は、これらの業務を担当します。衛生推進者の場合は、「衛生に係る業務に限る」とされています。ただし、5つの号のどれが「衛生に係る」ものかを、この記事で読んだ条文は仕分けていません。たとえば、健康診断の実施に関することが衛生にかかわることは想像できますが、それは条文が示した分類ではありません。現場に説明するときは、「第10条第1項各号の業務のうち衛生に係るもの」という条文の言い方のまま伝えるのが安全です。

衛生管理者との境目を並べる

名前が似ている衛生管理者と衛生推進者の違いを、条文の言葉で並べます。

 衛生推進者衛生管理者
根拠安衛法第12条の2(括弧書き)安衛法第12条
規模常時10人以上50人未満(安衛則第12条の2)常時50人以上(施行令第4条)
選任の対象となる人登録を受けた者が行う講習を修了した者その他、必要な能力を有すると認められる者(安衛則第12条の3)都道府県労働局長の免許を受けた者その他、厚生労働省令で定める資格を有する者(安衛法第12条)
担当する業務第10条第1項各号の業務のうち、衛生に係るもの第10条第1項各号の業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理すること
選任の期限と専属14日以内。その事業場に専属(安衛則第12条の3)抜粋した条文には書かれていない(省令に委ねられている)

この表から言えるのは、同じ「衛生」を扱う役割でも、規模と、求められる資格の組み立てがはっきり違うことです。衛生管理者は「免許を受けた者」が条文に出てきますが、衛生推進者は「講習の修了」か「必要な能力を有すると認められる者」です。

なお、引用した第12条の2には、第11条第2項(労働基準監督署長による増員・解任の命令)に当たる規定は見当たりません。衛生管理者は、第12条第2項が前条第2項を準用しているため、同じ命令の対象になります。ただし、この記事ではその運用までは扱いません。

50人以上になると、何が増えるか

50人以上になると、衛生管理者のほかにも、施行令が同じ規模を定めている役割や場があります。施行令第5条(産業医)と第9条(衛生委員会)を並べます。

施行令の条対象規模
第4条衛生管理者を選任すべき事業場常時50人以上
第5条産業医を選任すべき事業場常時50人以上
第9条衛生委員会を設けるべき事業場常時50人以上

条文は、第5条が次のとおりです。

法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

第9条は次のとおりです。

法第十八条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

3つとも、規模は常時五十人以上の労働者を使用する事業場です。第12条の2の規模(10人以上50人未満)の上限と、これらの下限が同じ50人でつながっています。事業場の人数が50人に届くと、衛生管理者の選任だけでなく、産業医の選任と衛生委員会の設置も、同じ規模の条文で定められていることになります。ここで読めるのは規模までです。産業医の職務や、衛生委員会の構成・運営は、この記事では扱いません。

推進者にも、能力向上教育の努力義務がかかる

安衛法第19条の2(安全管理者等に対する教育等)は、推進者にも関わります。第1項を引用します。

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。

読み取れることを分けます。

  • 対象に、安全衛生推進者と衛生推進者が明記されている
  • 内容は、能力の向上を図るための教育、講習等を行うか、受ける機会を与えること
  • 書き方は「努めなければならない」で、努力義務として書かれている

選任したら終わりではなく、選任した人が学び続けられるよう機会を与えることが、事業者に期待されています。ただし、どの教育をどの頻度で行うかは、この条文には書かれていません。 第2項で、厚生労働大臣が指針を公表するとされています。具体的な内容は指針を確認することになりますが、指針の中身はこの記事では確かめていません。

委員会がなくても、意見を聴く機会は求められる

最後に、安衛則第23条の2です。

委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない。

委員会を設けていない事業者は、安全や衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴く機会を設けることが求められています。「推進者を選任したから十分」とは書かれておらず、人の配置とは別に、職員の声を聴く場を持つことも、条文の求めです。

ここでいう「委員会」の中身は、この条文自身は説明していません。ただ、前の節で見たとおり、施行令第9条は衛生委員会を設けるべき事業場を、常時五十人以上の労働者を使用する事業場と定めています。この記事で読んだ条文をつなぐと、次のように整理できます。

  • 衛生委員会は、常時50人以上の事業場について設けるものとして施行令第9条が定めている
  • それ未満の事業場は、第23条の2の言葉でいえば「委員会を設けている事業者以外の事業者」に当たる場面が出てくる
  • その場合、事業者には、安全または衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けることが求められる

つまり、常時10人以上50人未満で衛生推進者を置く事業場は、衛生委員会の規模には届かないので、推進者を選ぶことと並んで、関係労働者の意見を聴く機会を設けることが条文の言葉で求められていると読めます。ただし、「委員会」が衛生委員会のほかに何を含むのか、意見を聴く機会をどんな形で設ければよいのかは、この記事では確かめていません。

福祉法人の現場に引き寄せる:数え方で義務の有無が変わる

ここからが、福祉法人ならではの論点です。選任の単位が事業場である以上、1つの法人のなかで、何を1つの事業場と数えるかによって、結論が変わります。次の表は、仮の人数での例です。条文の構造を確かめるためのもので、実際の判断ではありません。

場面(仮の例)見方条文から言えること
特養の職員が60人1つの事業場として60人常時50人以上。衛生管理者の側(施行令第4条)
同じ法人のデイサービスが別の場所に12人別の事業場として12人常時10人以上50人未満。衛生推進者の側
グループホームが8人別の事業場として8人10人未満。推進者の規模(10人以上)に当たらない
法人本部が6人別の事業場として6人10人未満。同じく推進者の規模に当たらない
特養45人と、併設のデイ10人1つとみるか、2つとみるか1つなら合計55人で衛生管理者の側。2つなら特養45人(推進者)とデイ10人(推進者)。ただし区切り方は条文から読めない

最後の行が、数え方で結論が変わる典型です。併設事業所や同一敷地内の別の事業を、1つの事業場とみるか別々とみるかで、衛生管理者が必要になるか、推進者でよいかが分かれてしまう場面があります。 どこで区切るのかは、この記事で読んだ条文からは読めません。具体的な事業場の線引きは、所轄の労働基準監督署に確認してください。

そのほかに、福祉法人でよくある悩みと、条文から言える範囲を整理します。

  • 非常勤やパートの職員を人数に含めるか:条文は「常時…労働者を使用する」とだけ書いています。非常勤の数え方(週何時間から数えるか、など)は、この記事の条文からは読めません
  • シフト制で、同時に勤務する人数が少ないとき:条文の数え方は「常時使用する労働者」です。同時に勤務する人数で数えるのか、在籍で数えるのかは、条文の言葉からは読み切れません
  • 1人の職員が複数の施設を兼務しているとき:どの事業場の人数に数えるかは、条文からは読めません
  • 選任した人が異動や退職をしたとき:新たに選任する場合の期限は14日以内という条文が参考になりますが、異動や退職がどの「事由」に当たるかは、条文に書かれていません

こうした悩みは、条文を読むだけでは決着しません。大切なのは、自分の法人がどの事業場でどう数えたのか、その根拠を記録として残しておくことです。

就業規則や感染症対策の委員会との関係

安全衛生に関する話題は、似た言葉でほかの制度とも混同されがちです。2点だけ補足します。

1つ目は、介護保険や障害者総合支援法の省令が事業所に求める「衛生管理」です。感染症対策の委員会などが含まれますが、これは労働安全衛生法とは別の制度です。根拠の法令が違うので、「衛生」という言葉が同じでも、安衛法の推進者の選任義務とは切り分けて整理してください。感染症対策の側については、別の記事(介護と障がい福祉の衛生管理)で扱っています。

2つ目は、就業規則との関係です。社会福祉法人の就業規則そのものについては、別の記事(社会福祉法人の就業規則)で扱っています。この記事で読んだ条文は、就業規則に何を書くかを定めたものではありません。

法人本部で整理しておきたい台帳の項目

条文の構造を踏まえると、法人本部で事業場ごとに把握しておきたい項目が見えてきます。以下は条文が求める項目ではなく、条文の作りから考えた台帳の項目の提案です。

  • 事業場の単位:どこからどこまでを1つの事業場として数えているか。区切りの根拠も1行添える
  • 業種の判断:施行令第2条の第一号・第二号に当たる事業場がないか(清掃業の事業場を別に持っていないか、など)
  • 常時使用する労働者の人数と、数えた日:非常勤の扱いを含めて、数え方のルールも記録する
  • 該当する区分:10人未満、10人以上50人未満、50人以上のどれか
  • 選任した人の氏名と、選任した日:事由が発生したと考えた日も、あわせて残す
  • 専属かどうか:コンサルタントなど専属でない者から選ぶ場合は、その旨と根拠
  • 氏名の周知の方法と日付:掲示の場所と掲示した日
  • 能力向上のための教育・講習の機会:受講した日、受講できなかった場合の理由
  • 関係労働者の意見を聴いた機会:実施した日と内容

事業場が複数ある法人ほど、これらが担当者の頭の中にしかない状態になりがちです。人事異動のたびに確認し直すことになるので、事業場ごとに人数・区分・選任日を1つの台帳で持っておくだけで、手戻りは大きく減ります。

この記事で書いていないこと

条文を読んだ範囲では、次のことは書かれていません。この記事でも書きません。

  • 講習の実施機関、日程、費用:安衛則第12条の3は「登録を受けた者が行う講習」と書くだけです
  • 罰則の有無と金額:この記事では、安衛法の罰則の条文を読んでいません
  • 事業場の区切り方の具体的な判断基準:併設事業所、同一敷地内の別の事業、法人本部の扱いは、条文から読めません
  • 非常勤・パート・シフト制職員の数え方:「常時使用する労働者」の中身は、この記事の条文からは読めません
  • ある事業場がどの業種に当たるかの判断の仕方:施行令第2条の業種名にどう当てはめるかは書かれていません
  • 選任の届出に関する他の条文・通達:この記事で引用した安衛法第12条の2、安衛則第12条の2〜第12条の4には届出の定めが見当たりません。他の条文や通達までは確かめていません
  • 講習科目の免除の対象者の中身:安衛則第12条の3第2項の「第五条各号」「第十条各号」に当たる者は確かめていません
  • 「その他厚生労働大臣が定める者」の中身:専属の例外の対象は確かめていません
  • 産業医の職務の詳細と、衛生委員会の構成・運営:規模(常時50人以上)は施行令第5条・第9条で読みましたが、中身は読んでいません。「委員会」が衛生委員会以外に何を指すかも確かめていません
  • 関係労働者の意見を聴く機会の具体的な設け方:安衛則第23条の2は「機会を設けるようにしなければならない」と書くだけです
  • 「技術的事項を管理する者」の選任に関する括弧書き:第12条の2の括弧書きにある、安衛法第25条の2第2項の話は扱っていません
  • 名前の似た「安全推進者」:この記事で読んだ条文には出てこないので、扱いません
  • 個別の事業場が、いま推進者を置く必要があるかどうかの判断:本記事は条文の構造の整理です

まとめ

  • 安全衛生推進者と衛生推進者は、同じ条文(安衛法第12条の2)の呼び分け。 括弧書きで、第11条第1項の政令で定める業種以外の事業場は「衛生推進者」になる
  • その業種は、施行令第3条が「前条第一号又は第二号」として、第2条の一覧に預けている。引用した一覧に社会福祉施設という語は見当たらないので、福祉の事業場は衛生推進者の側に入る
  • 規模は常時10人以上50人未満(安衛則第12条の2)。50人以上は衛生管理者(施行令第4条)の世界になる
  • 選任は事由が発生した日から14日以内、その事業場に専属(ただし例外あり)。資格は講習の修了だけとは書かれておらず、必要な能力を有すると認められる者も含まれる(安衛則第12条の3)
  • 選任したら氏名を関係労働者に周知する(安衛則第12条の4)。引用した範囲に、選任の届出の定めは見当たらない
  • 推進者にも能力向上教育の努力義務がかかる(安衛法第19条の2)
  • 数える単位は事業場。併設事業所などの区切り方は、条文から読めないので、所轄の労働基準監督署に確認する

参考にした一次情報

いずれも本則の条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の事業場について推進者の選任が必要かどうかを示すものではありません。事業場の区切り、業種の判断、人数の数え方は、所轄の労働基準監督署などにご確認ください。


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