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避難確保計画|義務は地域防災計画への記載で決まり非常災害対策とは別

「避難確保計画」で検索すると、自治体が配布しているひな形と記入例のPDFが上位に並びます。作り方の資料は手に入りやすい一方で、この計画の義務が、どの施設に、どこまで及ぶのかを条文で順に読んだ説明は、あまり見当たりません。

この記事は、ひな形ではなく条文を読みます。読むのは、水防法第15条の3、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(以下「土砂災害防止法」)第8条の2と第8条、そして、特別養護老人ホーム、指定介護老人福祉施設、指定障害者支援施設等の運営に関する3つの省令の「非常災害対策」の条です。業務継続計画(BCP)の条もあわせて読み、3つの計画の関係を整理します。

先に、条文を読んで確かめられたことを並べます。

  • 水防法第15条の3の見出しと本文には、「避難確保計画」という語は出てこない。見出しは「要配慮者利用施設の利用者の避難の確保のための措置に関する計画の作成等」で、この記事では一般に使われる呼び方にならって「避難確保計画」と書く
  • 計画を作る義務の対象は、「市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設」の所有者又は管理者。対象かどうかは、市町村地域防災計画に名称と所在地が載っているかどうかを条文の言葉でたどって決まる
  • 社会福祉施設は、引用元の水防法第15条第1項第4号ロ(要配慮者利用施設)に入る。「所有者又は管理者からの申出があつた場合に限る」というただし書は第4号ハ(大規模工場等)にかかっていて、ロには書かれていない
  • 義務は計画の作成だけではない。作成したら遅滞なく市町村長に報告する義務(変更したときも同じ)と、訓練を行い、その結果を市町村長に報告する義務がある
  • 計画を作っていないときは、市町村長が必要な指示をすることができ、正当な理由なく従わないとその旨を公表することができる
  • 自衛水防組織を置くのは努力義務。ただし、置いたときは構成員などを市町村長に報告する義務がある
  • 土砂災害防止法第8条の2は、水防法とほぼ同じ構造。違いは、自衛水防組織に当たる規定が、第8条の2には含まれていないこと
  • 特養などの非常災害対策は省令の規定で、計画を作る義務の書きぶり、訓練の書きぶりが違い、この3つの条には市町村長への報告の定めは書かれていない
  • 業務継続計画は、また別の条。非常災害対策の条とは、書かれている目的が違う

計画を1つにまとめてよいか、様式の中身がどうなっているか、自治体がどう運用しているかは、条文からは読めません。後ろの「この記事で書いていないこと」にまとめています。

条文の地図:どの論点がどこに書かれているか

論点置かれている条文
地域防災計画に施設の名称・所在地を定めること(水防法の側。社会福祉施設は第4号ロ)水防法 第15条第1項
避難の確保のための計画の作成義務と、その対象の決まり方水防法 第15条の3第1項 / 土砂災害防止法 第8条の2第1項
計画を作成・変更したときの市町村長への報告水防法 第15条の3第2項 / 土砂災害防止法 第8条の2第2項
未作成のときの指示と、従わないときの公表水防法 第15条の3第3項・第4項 / 土砂災害防止法 第8条の2第3項・第4項
訓練の実施と、結果の市町村長への報告水防法 第15条の3第5項 / 土砂災害防止法 第8条の2第5項
報告を受けた市町村長の助言・勧告水防法 第15条の3第6項 / 土砂災害防止法 第8条の2第6項
自衛水防組織を置く努力義務と、置いたときの報告水防法 第15条の3第7項・第8項
施設の名称・所在地を市町村地域防災計画に定めること(土砂災害の側)土砂災害防止法 第8条第1項第四号
非常災害対策(特別養護老人ホーム)特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準 第8条
非常災害対策(指定介護老人福祉施設)指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第26条
非常災害対策(障害者支援施設)指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準 第44条
業務継続計画指定介護老人福祉施設の基準 第24条の2 / 指定障害者支援施設等の基準 第42条の2

「避難確保計画」という語は、第15条の3には出てこない

水防法第15条の3は、次の見出しで始まります。

(要配慮者利用施設の利用者の避難の確保のための措置に関する計画の作成等)

本文の第1項も、計画をこう呼んでいます。「洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画」。「避難確保計画」という略称は、この見出しにも本文にも出てきません。 自治体のひな形が使っている呼び方にならって、この記事でも「避難確保計画」と書きますが、条文で探すときは「避難の確保のための措置に関する計画」という言い方で探すことになります。

条文の言い方から、計画の性格も読めます。計画に求められているのは、避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置を定めることです。第1項は、計画の中身を国土交通省令に委ねていて(「国土交通省令で定めるところにより」)、その省令の中身は、この記事で確認していません。

なお、この「計画」の語の背景にある法律は、水防法(洪水時等)と土砂災害防止法(急傾斜地の崩壊等)の2つです。以降、水防法を軸に読んで、土砂災害防止法との違いは後でまとめます。

第1項:義務の対象は「名称及び所在地を定められた」施設

水防法第15条の3第1項は、誰に義務をかけているのでしょうか。

第十五条第一項の規定により市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、国土交通省令で定めるところにより、当該要配慮者利用施設の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画を作成しなければならない。

読み取れる構造は4つです。

  1. 誰が:要配慮者利用施設の「所有者又は管理者」。施設を運営する法人だけでなく、建物の所有者も条文の主語に入る
  2. どの施設が:「第十五条第一項の規定により市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた」施設。市町村地域防災計画に名称と所在地が定められていることが、義務の入口になっている
  3. 何を:利用者の洪水時等の避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画を作成する
  4. どうやって:国土交通省令で定めるところにより

2が、この記事のいちばん確かめたい点です。第15条の3第1項の言葉は「名称及び所在地を定められた」であり、施設が浸水想定区域の中にあることだけを入口にはしていません。自施設の義務を確かめるには、まず市町村地域防災計画に自施設の名称と所在地が載っているかを確かめる、という順になります。

引用元の第15条第1項を読む:社会福祉施設は第4号ロ

「第十五条第一項」は、同じ水防法の第15条第1項です。市町村防災会議が、浸水想定区域の指定があったときに、市町村地域防災計画に何を定めるかを書いた条です。第4号が、施設の名称と所在地です。

浸水想定区域(洪水浸水想定区域、雨水出水浸水想定区域又は高潮浸水想定区域をいう。第三項及び第二十四条の二第一項において同じ。)内に次に掲げる施設がある場合にあつては、これらの施設の名称及び所在地

列挙された施設のうち、社会福祉施設が入っているのはロです。

要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設をいう。第十五条の三において同じ。)でその利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図る必要があると認められるもの

ここから読み取れることは次のとおりです。

  • 要配慮者利用施設の定義に、社会福祉施設が例示されている。定義は「第十五条の三において同じ」とあり、避難確保計画の条と同じ言葉
  • 対象は、浸水想定区域内にある施設のうち、利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図る必要があると認められるもの。浸水想定区域の中にあるだけでなく、必要があると認められるという段階が挟まっている
  • 地域防災計画に定めるのは「市町村防災会議」。第1項の柱書は「定めるものとする」と書いている

第1項には、柱書の後にただし書があります。

ただし、第四号ハに掲げる施設について同号に掲げる事項を定めるのは、当該施設の所有者又は管理者からの申出があつた場合に限る。

このただし書が名指ししているのは第4号ハです。ハは、大規模工場等(大規模な工場その他の施設であって、国土交通省令で定める基準を参酌して市町村の条例で定める用途及び規模に該当するもの)で、社会福祉施設が入るロとは別の号です。条文の文言のうえでは、ただし書の「申出があつた場合に限る」は第4号ハの施設にかかっていて、第4号ロの要配慮者利用施設には書かれていません。 社会福祉施設について、所有者又は管理者の申出を要件とする文言は、この第15条第1項には見当たりません。

ただし、申出が要らないことと、すべての施設が自動的に載ることは、別の話です。ロは「避難の確保を図る必要があると認められるもの」と書いているので、載るかどうかの判断は市町村の側にあります。市町村がどのような基準で必要と認めているのかは、条文には書かれておらず、この記事では確認していません。載っているかどうかの確かめ方は、市町村の防災担当にお尋ねいただくことになります。

土砂災害防止法の側では、条文の構造が見える

同じ構造を、土砂災害防止法の側で見ると、「定められた」の意味が条文でたどれます。第8条の2第1項は、次のように始まります。

前条第一項の規定により市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、国土交通省令で定めるところにより、

「前条」は第8条です。第8条第1項は、市町村防災会議が、警戒区域ごとに市町村地域防災計画に定める事項を挙げています。その第四号が、要配慮者利用施設の名称と所在地です。

警戒区域内に、要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設をいう。以下同じ。)であって、急傾斜地の崩壊等が発生するおそれがある場合における当該要配慮者利用施設を利用している者の円滑かつ迅速な避難を確保する必要があると認められるものがある場合にあっては、当該要配慮者利用施設の名称及び所在地

ここから読み取れることは次のとおりです。

  • 「要配慮者利用施設」の定義に、社会福祉施設が例示されている(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設)
  • 市町村防災会議が地域防災計画に定めるのは、警戒区域内にあって、避難を確保する必要があると認められるものの名称と所在地
  • つまり、警戒区域の中にあるだけでなく、市町村側が必要と認めて地域防災計画に定めるという段階が挟まっている

水防法の側も、第15条第1項第4号ロが同じ組み立てです。浸水想定区域内にあって、避難の確保を図る必要があると認められる要配慮者利用施設の名称と所在地を、市町村防災会議が地域防災計画に定めます。どちらの法律でも、条文の言葉のうえでは、市町村の地域防災計画への記載が義務の入口です。

第2項から第6項:作って出して終わりではない

第1項の計画作成のあとにも、義務と手続が続いています。

作成したら、遅滞なく市町村長に報告する(第2項)

前項の要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、同項の規定による計画を作成したときは、遅滞なく、これを市町村長に報告しなければならない。

続いて、第2項の後段です。

これを変更したときも、同様とする。

作成したときだけでなく、変更したときも報告が要ります。 計画を見直すたびに、報告の義務がかかる形です。

作成していないとき:指示と公表(第3項・第4項)

第3項は、市町村長の権限を定めています。

市町村長は、第一項の要配慮者利用施設の所有者又は管理者が同項に規定する計画を作成していない場合において、当該要配慮者利用施設の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るため必要があると認めるときは、当該要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し、必要な指示をすることができる。

第4項は、その指示に従わなかったときです。

市町村長は、前項の規定による指示を受けた第一項の要配慮者利用施設の所有者又は管理者が、正当な理由がなく、その指示に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

段階を整理します。

段階条文条文の言葉
計画を作成していない第3項市町村長が、必要があると認めるときは「必要な指示をすることができる」
指示に従わない第4項「正当な理由がなく」従わなかったときは「その旨を公表することができる」

どちらも「することができる」で、市町村長の権限です。公表は、指示を受けて、正当な理由なく従わなかった場合に限られます。罰則の規定は、この第15条の3には書かれていません。

訓練を行い、その結果を報告する(第5項)

第一項の要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、同項に規定する計画で定めるところにより、同項の要配慮者利用施設の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保のための訓練を行うとともに、その結果を市町村長に報告しなければならない。

ここから読み取れるのは3点です。

  • 訓練は、計画で定めるところにより行う。計画に書いた内容が、訓練の基準になる
  • 訓練を行うことが義務で、実施の頻度は、この条文には書かれていない(計画で定めるところによる)
  • 結果を市町村長に報告しなければならない。報告先まで条文に書かれている

「避難訓練の報告」は、計画の報告(第2項)とは別の義務として、第5項に独立して置かれています。計画を出したことで、訓練の報告が済んだことにはなりません。

報告を受けた市町村長は、助言・勧告ができる(第6項)

第6項は、市町村長が第2項または第5項の報告を受けたときに、必要な助言又は勧告をすることができると定めています。計画の報告も、訓練の結果の報告も、市町村長が受け取って、助言や勧告につなげうる形になっています。

第7項・第8項:自衛水防組織は努力義務、置いたら報告義務

第7項は、自衛水防組織です。

第一項の要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、国土交通省令で定めるところにより、同項の要配慮者利用施設の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を行う自衛水防組織を置くよう努めなければならない。

語尾は「努めなければならない」で、努力義務です。第1項の「作成しなければならない」とは、語尾が違います。

ただし、これで終わりではありません。第8項が、置いたときの手続を定めています。

項内容条文の言葉
第7項自衛水防組織を置く「置くよう努めなければならない」(努力義務)
第8項置いたときの報告自衛水防組織を置いたときは、遅滞なく、構成員その他の国土交通省令で定める事項を市町村長に報告しなければならない。変更したときも同様

組織を置くこと自体は努力義務ですが、置いたなら、報告は義務という構造です。報告事項の「その他の国土交通省令で定める事項」の中身は、この記事で確認していません。

土砂災害防止法第8条の2:同じ構造、違いは自衛水防組織

土砂災害防止法第8条の2は、第1項から第6項までで、水防法第15条の3の第1項から第6項と、同じ順番、同じ構造で書かれています。条文を並べて読み比べた結果を表にします。

項水防法 第15条の3土砂災害防止法 第8条の2
第1項 計画の作成「第十五条第一項の規定により」名称及び所在地を定められた施設。「洪水時等」の避難の確保「前条第一項の規定により」名称及び所在地を定められた施設。「急傾斜地の崩壊等が発生するおそれがある場合」の避難の確保
第2項 計画の報告(変更時も)ありあり
第3項 未作成のときの指示ありあり
第4項 従わないときの公表ありあり
第5項 訓練と、結果の報告ありあり
第6項 助言・勧告ありあり
第7項 自衛水防組織を置く努力義務ありこの条には含まれていない
第8項 自衛水防組織を置いたときの報告ありこの条には含まれていない

違いは2つに整理できます。

  1. 対象の事象の書き方。水防法は「洪水時等」、土砂災害防止法は「急傾斜地の崩壊等が発生するおそれがある場合」。避難の確保が求められる場面が、それぞれの法律の守備範囲に合わせて書かれている
  2. 自衛水防組織の規定の有無。水防法には第7項・第8項があり、土砂災害防止法の第8条の2は第6項までで終わっている

一方、「訓練を行い、結果を市町村長に報告する」義務は、どちらの法律にもあります。「訓練の報告は水防法だけ」ということではありません。

この記事で確認した条文は第8条の2と第8条だけなので、土砂災害防止法の他の条に、自衛水防組織に類する規定があるかどうかは確認していません。ここでの言い方は「第8条の2には含まれていない」までです。

水防法と土砂災害防止法の両方の対象になる施設があるかどうか、あるとしたら計画をどう作るかは、この記事の条文からは読めません。市町村の防災担当にご確認ください。

非常災害対策:3つの省令の書きぶり

ここまでの避難確保計画は、水防法と土砂災害防止法が根拠でした。次に、施設の運営の基準である省令の側を読みます。「非常災害対策」の条は、施設の類型ごとに置かれています。

読むのは3つです。

  • 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(以下「特養基準」)第8条
  • 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(以下「指定介護老人福祉施設基準」)第26条
  • 指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準(以下「障害者支援施設基準」)第44条

特養基準の第8条第1項から読みます。

特別養護老人ホームは、消火設備その他の非常災害に際して必要な設備を設けるとともに、非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に職員に周知しなければならない。

同条第2項と第3項は、訓練と地域住民の参加です。

特別養護老人ホームは、非常災害に備えるため、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行なわなければならない。

特別養護老人ホームは、前項に規定する訓練の実施に当たって、地域住民の参加が得られるよう連携に努めなければならない。

指定介護老人福祉施設基準の第26条第1項は、同じ内容を1つの項にまとめています。

指定介護老人福祉施設は、非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない。

障害者支援施設基準の第44条第1項は、次のとおりです。

指定障害者支援施設等は、消火設備その他の非常災害に際して必要な設備を設けるとともに、非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連絡体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知しなければならない。

同条第2項は訓練、第3項は地域住民の参加で、特養基準と同じ構成です。

3つの条の書きぶりを並べる

比べる点特養基準 第8条指定介護老人福祉施設基準 第26条障害者支援施設基準 第44条
非常災害に際して必要な設備(消火設備など)第1項に書かれているこの条には書かれていない第1項に書かれている
非常災害に関する具体的計画第1項第1項第1項
関係機関との体制通報及び連携体制通報及び連携体制通報及び連絡体制
周知する相手職員従業者従業者
訓練第2項(別の項)第1項(計画や周知と同じ項)第2項(別の項)
地域住民の参加第3項第2項第3項
地域住民の参加の語尾連携に努めなければならない連携に努めなければならない連携に努めなければならない

3つの条から読み取れることは4点です。

  1. 3つとも、「非常災害に関する具体的計画を立て」ることを求めている。 計画の名前は条文に出てこない。「非常災害対策計画」という呼び方も、この3つの条の本文には出てこず、書かれているのは「非常災害に関する具体的計画」である
  2. 関係機関との体制の書きぶりが違う。 特養基準と指定介護老人福祉施設基準は「通報及び連携体制」、障害者支援施設基準は「通報及び連絡体制」。「連携」と「連絡」は、1字違いではなく言葉が違う
  3. 訓練は3つとも義務。 「定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない」と書かれている。計画で定めるところによる、という限定は付いていない。地域住民の参加は、3つとも「連携に努めなければならない」という努力義務の形
  4. この3つの条には、市町村長への報告の定めは書かれていない。 「非常災害時の関係機関への通報」は、非常災害が起きたときの通報の体制のことで、計画や訓練の結果を行政へ出す報告とは別のものである

業務継続計画(BCP)は、また別の条

3つ目の計画が、業務継続計画です。条文は別の条に置かれています。指定介護老人福祉施設基準の第24条の2第1項を読みます。

指定介護老人福祉施設は、感染症や非常災害の発生時において、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。

第2項は、周知と研修・訓練です。

指定介護老人福祉施設は、従業者に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。

第3項は、見直しを定めています(定期的に見直し、必要に応じて変更を行う)。障害者支援施設基準の第42条の2も、入所者が利用者に、サービス名が施設障害福祉サービスに変わるだけで、同じ3項の組み立てです。

非常災害対策の条と、書かれている目的を比べます。

比べる点非常災害対策(第26条など)業務継続計画(第24条の2など)
計画の目的非常災害に関する具体的計画(目的は条文に具体的に書かれていない)サービスの提供を継続的に実施するため、早期の業務再開を図るため
対象になる事態非常災害感染症や非常災害
訓練の書きぶり定期的に避難、救出その他必要な訓練従業者に周知し、必要な研修及び訓練を定期的に実施
見直し条文に書かれていない第3項で定期的な見直しと必要に応じた変更

業務継続計画は、感染症も含み、サービスの継続と再開を目的にした計画です。避難や救出の訓練を書く非常災害対策とは、条文のうえで目的が分かれています。業務継続計画の義務化や、未策定のときの減算については、別の記事(介護のBCPとは|義務化と研修・訓練、未策定減算を条文から整理)で扱っています。

3つの計画を、4点で並べる

ここまで読んだ3つの計画を、根拠法、対象の決まり方、報告の要否、訓練の扱いの4点で表にします。非常災害対策と業務継続計画は、特養基準・指定介護老人福祉施設基準・障害者支援施設基準の条を、まとめて書いています。

比べる点避難確保計画(水防法・土砂災害防止法)非常災害対策(省令)業務継続計画(省令)
根拠水防法 第15条の3 / 土砂災害防止法 第8条の2特養基準 第8条 / 指定介護老人福祉施設基準 第26条 / 障害者支援施設基準 第44条指定介護老人福祉施設基準 第24条の2 / 障害者支援施設基準 第42条の2
義務の主語要配慮者利用施設の所有者又は管理者施設の類型(特別養護老人ホーム、指定介護老人福祉施設、指定障害者支援施設等)施設の類型(指定介護老人福祉施設、指定障害者支援施設等)
対象の決まり方市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められたかどうか施設の類型で決まる。この条の本文には、地域防災計画への記載を入口とする言葉はない施設の類型で決まる。同上
報告計画の作成・変更時と、訓練の結果を市町村長に報告(水防法の自衛水防組織は、置いたときの報告もある)この3つの条には、報告の定めは書かれていないこの条には、報告の定めは書かれていない
訓練計画で定めるところにより行い、結果を報告定期的に避難、救出その他必要な訓練を行う(地域住民の参加は連携に努める)従業者に周知し、必要な研修及び訓練を定期的に実施
作成していないとき市町村長の指示、従わなければ公表(第3項・第4項)この条には書かれていないこの条には書かれていない

この表から見える大きな違いは、義務のかかり方の入口です。避難確保計画は、市町村地域防災計画に名称と所在地を定められた施設に義務が及びます。非常災害対策と業務継続計画は、施設の類型そのものが主語で、条文の本文に地域防災計画への記載は出てきません。

そのため、特別養護老人ホームのような施設は、非常災害対策の義務はかかっているが、避難確保計画の義務がかかっているかどうかは、地域防災計画への記載を確かめて初めて分かる、という整理になります。両方の義務が重なる施設もあれば、片方だけの施設もあるわけです。

なお、「報告」の欄が「書かれていない」ことは、この記事で読んだ条文の範囲での話です。省令の他の条や、都道府県・市町村の条例、通知などで別の定めがあるかどうかは確認していません。

福祉避難所の指定のしくみは、別の記事(福祉避難所の指定|協定との違いと受入対象者を特定する公示のしくみ)で扱っています。この記事で読んだのは、施設の側が利用者の避難を確保する計画の話です。

法人本部で、何を決めておくか(運用の提案)

ここからは、条文が書いていることではなく、条文の構造から考えた運用の整理です。提案であることを、そのつど書きます。

まず、事業所ごとに「どの義務がかかっているか」を一覧にする

確かめること確かめ方条文の根拠
市町村地域防災計画に自施設の名称と所在地が載っているか市町村の防災担当に確認する(確認の窓口は、この記事では調べていない)水防法 第15条の3第1項 / 土砂災害防止法 第8条の2第1項
載っている場合、水防法の側か、土砂災害防止法の側か、両方か同上同上
省令の非常災害対策の義務がかかる類型か施設の類型を確認する特養基準 第8条など
業務継続計画の義務がかかる類型か同上指定介護老人福祉施設基準 第24条の2など

事業所を複数持つ法人では、1つの事業所だけを確認して全体を判断しないことが肝心です。地域防災計画の記載は市町村ごと、施設ごとの話で、同じ法人の事業所でも、記載があるものとないものが混じりえます。

台帳に持っておく項目(提案)

条文が求めている手続を、台帳の項目に直すと、次のとおりです。

項目条文が求めるか持っておく理由
計画の作成日、版作成・変更の報告が要る(水防法 第15条の3第2項)変更するたびに報告が要るので、どの版をいつ出したかを追える
計画を市町村長に報告した日求める(同項)「遅滞なく」の確認の材料
訓練を実施した日、内容計画で定めるところにより行う(同条第5項)計画に書いた訓練を実際に行ったかの確認
訓練結果を市町村長に報告した日求める(同項)計画の報告とは別の義務なので、別に管理する
自衛水防組織の有無と、報告した日置くのは努力義務、置いたら報告が義務(同条第7項・第8項)水防法の対象のときだけ必要
非常災害対策の訓練の実施日定期的に行う(省令)「定期的」の頻度は条文に書かれていないので、法人として決めた頻度を記録する
地域住民の参加の有無参加が得られるよう連携に努める(省令)努力義務の取組みの確認
業務継続計画の研修・訓練の実施日定期的に実施する(省令)別の条の義務なので、別に管理する

条文からは、避難確保計画の訓練の報告と、非常災害対策の訓練の実施は、書かれている義務が違うことが読めます。同じ避難訓練を1回行ったとしても、その訓練が、どの条の義務を満たすものと位置づけるかは、法人側で決めておく必要があります。報告が要るのは避難確保計画の側です。

この「位置づけ」を、1つの訓練が複数の義務を同時に満たせるのかどうかは、条文からは言えません。計画をどう作り、どの訓練をどの義務に当てるかは、市町村の担当窓口と社会保険労務士・防災の専門家などにご確認ください。

この記事で書いていないこと

条文の範囲では、次のことは書かれていない、またはこの記事で確認していません。

  • 市町村が「避難の確保を図る必要があると認められる」と判断する基準:第15条第1項第4号ロは「認められるもの」と書くだけで、基準は条文に書かれていません。実際にどの施設が載っているかは、市町村ごとに確認が要ります
  • 所有者又は管理者の申出と、地域防災計画への記載の実際の関係:条文で確認できたのは、ただし書が第4号ハにかかっていて第4号ロには書かれていない、というところまでです
  • 国土交通省令の中身:計画の様式、記載事項、訓練の頻度や方法、自衛水防組織の報告事項は、この記事では確認していません
  • 避難確保計画・非常災害対策・業務継続計画を、1つの計画にまとめてよいか:条文からは言えません。それぞれの条が求めているのは、別の計画(または措置)である、というところまでです
  • 自治体ごとの運用、様式、提出方法、作成状況などの統計:この記事では扱っていません
  • 水防法・土砂災害防止法以外の法律に基づく計画:この記事では確認していません
  • この記事で読んだ3つの省令以外の施設類型(通所系・訪問系・居住系など)の非常災害対策の条:読んでいません
  • 都道府県・市町村の条例、通知、指針:省令の規定の運用に関わるものも含め、この記事では確認していません
  • 土砂災害防止法の他の条に、自衛水防組織に類する規定があるか:確認したのは第8条の2と第8条だけです
  • 個別の施設が義務の対象かどうか、違反に当たるかどうか:条文の構造の整理にとどまります。個別の判断は、市町村の担当窓口や専門家にご確認ください

まとめ

  • 水防法第15条の3の見出しと本文には、「避難確保計画」という語は出てこない。条文の言い方は「避難の確保のための措置に関する計画」
  • 計画を作る義務の対象は、市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者。義務の入口は、地域防災計画への記載
  • 義務は作成だけではない。作成・変更したときの市町村長への報告(第2項)と、訓練の実施と結果の報告(第5項)がある
  • 未作成のときは、市町村長が指示でき、正当な理由なく従わないと公表できる(第3項・第4項)
  • 自衛水防組織を置くのは努力義務、置いたときは構成員などの報告が義務(第7項・第8項)
  • 土砂災害防止法第8条の2は、第1項から第6項までが水防法と同じ構造。自衛水防組織に当たる規定は、第8条の2には含まれていない。訓練の結果の報告は両方にある
  • 特養などの非常災害対策は省令の規定。「非常災害に関する具体的計画」、通報と連携(または連絡)体制、定期的な訓練が書かれ、この3つの条には市町村長への報告の定めは書かれていない。「連携」と「連絡」、周知の相手の「職員」と「従業者」など、3つの条は書きぶりが少しずつ違う
  • 業務継続計画は別の条で、感染症も含めて、サービスの継続と早期の再開を目的にしている
  • 計画を1つにまとめてよいかは、条文からは言えない

参考にした一次情報

いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の施設への適用や、自治体の運用を示すものではありません。


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