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労働条件の明示|書面で渡す事項は第5条第3項で絞られ昇給は外れる

労働条件通知書の様式を、項目の抜けなく埋めること。それは大切な実務ですが、条文が使用者に求めていることと、まったく同じ形をしているわけではありません。

この記事は、様式の埋め方ではなく、労働基準法(以下「労基法」)第15条と、労働基準法施行規則(以下「労基則」)第5条を条文の順に読みます。非常勤の職員が多い法人のために、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期法」)第6条と、その施行規則第2条もあわせて読みます。ひな形は作りません。条文の構造を読んで、法人本部が「何を決めておけばよいか」を考える材料にしていただく記事です。

先に、条文を読んで確かめられたことを並べます。

  • 労働条件を明示しなければならない範囲(労基則第5条第1項)と、書面で渡さなければならない範囲(同条第3項)は、同じではない。書面の対象は「第一項第一号から第四号まで」で、そのなかから昇給に関する事項が除かれている
  • 第5条第1項のただし書には2つの場合分けがある。第一号の二(更新の基準など)は更新する場合があるものの締結のときに限り、第四号の二から第十一号までは使用者が定めをしない場合は明示しなくてよい
  • 第一号の三には「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」が入っている。契約を結ぶ時点で、異動の範囲まで示す形になっている
  • ファクシミリや電子メールで明示できるのは、労働者がその方法を希望した場合。使用者の都合で切り替える形にはなっていない
  • 短時間・有期雇用労働者には、労基法第15条とは別に、パート・有期法第6条で特定事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、説明を求めることができる旨、相談窓口)を明示する義務がある。労基則では書面から外れていた昇給が、ここでは「昇給の有無」として出てくる
  • 無期転換の申込みができることとなる有期労働契約を結ぶときは、明示する事項が増える(労基則第5条第5項・第6項)
  • 罰則は労基法第120条第1号。列挙されているのは第15条の第1項と第3項で、第2項は入っていない

改正の経緯、様式の記載例、行政の運用などは、条文だけでは読めない、またはこの記事で確認していない論点です。後ろの「この記事で書いていないこと」にまとめています。

条文の地図:どの論点がどこに書かれているか

労基法と労基則、パート・有期法と同施行規則が入れ子になっているので、先に地図を置きます。

論点置かれている条文
労働条件の明示の義務、省令で定める事項と方法への委任労基法 第15条第1項
明示した労働条件が事実と違うときの即時の契約解除労基法 第15条第2項
解除したときの帰郷旅費労基法 第15条第3項
明示しなければならない労働条件の一覧とただし書労基則 第5条第1項
事実と異なるものとしてはならない労基則 第5条第2項
書面で明示する事項(第15条第1項後段の事項)労基則 第5条第3項
明示の方法(書面の交付、ファクシミリ、電子メール)労基則 第5条第4項
無期転換申込みができる有期労働契約のときの追加事項労基則 第5条第5項・第6項
短時間・有期雇用労働者への特定事項の明示パート・有期法 第6条、同法施行規則 第2条
罰則労基法 第120条第1号

労基法第15条第1項を、前段と後段に分けて読む

労働条件の明示の根拠は、労基法第15条第1項です。2つの文でできています。

前段は次のとおりです。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

後段は次のとおりです。

この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

ここから読み取れる構造は3つです。

  1. いつ:「労働契約の締結に際し」。契約を結ぶときが基準になる
  2. 何を:前段は「賃金、労働時間その他の労働条件」。範囲は広く書かれている。具体的な一覧は、次に見る労基則第5条第1項が置いている
  3. どうやって:後段は、賃金と労働時間に関する事項その他の省令で定める事項について、省令で定める方法で明示せよと求める

つまり、法第15条第1項は全体を明示する義務(前段)と、そのうち一部を決まった方法で明示する義務(後段)の二層になっています。省令の側がこの二層を第1項と第3項に分けて書いているので、次から順に見ていきます。

労基則第5条第1項:明示しなければならない労働条件の一覧

前段の明示の対象は、労基則第5条第1項が定めています。

使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。

続く各号を、号の番号を条文どおりにして表にします。

号条文の事項明示が必要になる場合(ただし書)
第一号労働契約の期間に関する事項常に
第一号の二有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合は、その上限を含む)更新する場合があるものの締結のときに限る
第一号の三就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(変更の範囲を含む)常に
第二号始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項常に
第三号賃金(退職手当と第五号の賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項常に
第四号退職に関する事項(解雇の事由を含む)常に
第四号の二退職手当の定めが適用される労働者の範囲、決定、計算及び支払の方法、支払の時期に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第五号臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、第八条各号の賃金、最低賃金額に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第六号労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第七号安全及び衛生に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第八号職業訓練に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第九号災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第十号表彰及び制裁に関する事項使用者が定めをしない場合は不要
第十一号休職に関する事項使用者が定めをしない場合は不要

表のうち、福祉法人の実務に関わりが深い2つの号は、条文の原文を引いておきます。

第一号の二(更新の基準と、更新回数・通算期間の上限)です。

有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間(労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十八条第一項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)

第一号の三(就業の場所・従事すべき業務と、その変更の範囲)です。

就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)

第三号の賃金の欄には、昇給に関する事項が入っています。

賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

この「昇給が第三号に入っている」ことが、後で書面の範囲を読むときに効いてきます。覚えておいてください。

ただし書の2つの場合分け

第1項には、ただし書が付いています。

ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

1文のなかに、性格の違う2つの場合分けが入っています。

対象の号条文の言葉読み取れること
第一号の二「更新する場合があるものの締結の場合に限り」契約の種類で決まる。期間の定めがあり、満了後に更新する場合がある契約のときだけ、更新の基準(と上限の定め)を明示する
第四号の二から第十一号まで「使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない」使用者の定めの有無で決まる。使用者が定めをしていなければ、明示しなくてよい

ここで見落としやすい点が2つあります。

  • 第四号の退職に関する事項(解雇の事由を含む)は、ただし書の対象に入っていません。 ただし書が挙げているのは第一号の二と、第四号の二から第十一号までです。したがって、第四号は定めをしない場合の除外を受けません
  • 第四号の二から第十一号までが不要になるのは、「使用者が定めをしない場合」です。 就業規則や運用で定めがあるなら、その定めについて明示することになります。「書かなくてよい項目」というより「定めがなければ書くことがない項目」と読むのが条文に沿った見方です

第一号の二のほうは、契約の種類で決まります。更新する場合がある有期の契約を結ぶとき、更新の基準が必要になります。更新回数や通算の期間に上限の定めがあるなら、その上限もかっこ書きのとおり含めて明示する、という条文の組み立てです。

書面で交付する範囲は、第3項で絞られている

ここが、この記事でいちばん確かめたい点です。法第15条第1項の後段が「省令で定める事項」と「省令で定める方法」を求めていました。その「事項」を定めたのが、労基則第5条第3項です。

法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

読み取れることは次のとおりです。

  • 書面で明示する事項は、第1項の第一号から第四号までに限られる
  • そのなかから、昇給に関する事項が除かれる。昇給は第三号に含まれているので、条文は第三号を丸ごと残さず、かっこ書きで昇給だけを外している
  • 第四号の二以降(退職手当、賞与・臨時の賃金、食費の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職)は、第3項の事項に入っていない

なお、第一号の二と第一号の三は、番号のうえで第一号と第二号のあいだに挟まれた枝番号です。「第一号から第四号まで」にこれらの枝番号が含まれると読むのが自然ですが、この抜粋した条文には枝番号の扱いを明記した文言はありません。実務で使う前に、現行の条文で確認してください。

ここまでを、明示の範囲と書面の範囲の対比として表にします。

事項明示が必要か(第1項)書面の対象か(第3項)
第一号 労働契約の期間必要対象
第一号の二 更新の基準・上限更新する場合があるものの締結のとき対象(枝番号を含むと読んだ場合)
第一号の三 就業の場所・業務、変更の範囲必要対象(同上)
第二号 労働時間・休憩・休日・休暇など必要対象
第三号 賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払の時期必要対象
第三号のうち昇給必要対象外(かっこ書きで除く)
第四号 退職(解雇の事由を含む)必要対象
第四号の二 退職手当定めをしない場合は不要対象外
第五号から第十一号まで定めをしない場合は不要対象外

読み方の要点は3つです。

  1. 昇給は、明示しなければならない事項に入っているのに、書面の対象からは外れている。 昇給は第1項の第三号にあるので、定めがあるなら明示は要る。ただ、書面を指定する第3項からはかっこ書きで外れる
  2. 第四号の二から第十一号までは、定めがあるなら明示は要る。 ただし書で「定めをしない場合」に不要になるだけで、定めがあるなら明示の対象。書面の指定がかからないだけである
  3. 書面の指定がかからない事項を、どの方法で明示してよいのかは、この抜粋した条文からは読めない。 法第15条第1項前段は、方法を指定せず「明示しなければならない」と書くにとどまる

ここまでが条文の構造です。運用の提案として言えるのは、書面の対象でない事項も、同じ書面にまとめておくほうが、あとで「何を示したか」を確かめやすいということです。これは条文が求めているのではなく、確認のしやすさからの提案です。

明示の方法:書面が原則、ファクシミリと電子メールは「希望した場合」

方法は、労基則第5条第4項が定めています。

法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

原則は書面の交付です。続いて、ただし書があります。

ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

ただし書の2つの方法は、第一号がファクシミリ、第二号が電子メールその他の電気通信です。第二号には、電子メール等の記録を出力することにより書面を作成できるものに限るというかっこ書きが付いています。

読み取れる構造は次のとおりです。

方法使える条件
書面の交付原則(条件なし)
ファクシミリの送信労働者がその方法を希望した場合
電子メール等の送信労働者がその方法を希望した場合、かつ、記録を出力して書面を作成できるもの

「希望した場合には」の主語は、「当該労働者」です。使用者が「今後はメールで送ります」と決めて切り替える形にはなっていません。非常勤の職員が多い法人で、書面の郵送や手渡しの手間を減らしたいときは、職員ごとに希望を確かめる手順が先にくることになります(希望を確かめた記録の残し方は条文には書かれていないので、運用の提案になります)。

明示が事実と違ったとき:労基則第5条第2項、法第15条第2項と第3項

明示した内容が、実際の労働条件と違った場合も条文があります。まず労基則第5条第2項です。

使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。

法第15条の側では、第2項が労働者の側の手段を置いています。

前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

さらに第3項が、解除した労働者の帰郷の旅費を定めています。

前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

整理すると次のとおりです。

条文内容条文の言葉
労基則 第5条第2項明示事項を事実と異なるものにしてはならない「事実と異なるものとしてはならない」
労基法 第15条第2項事実と相違するとき、労働者は契約を解除できる「即時に労働契約を解除することができる」
労基法 第15条第3項住居を変更した労働者が14日以内に帰郷するとき、旅費を負担する「必要な旅費を負担しなければならない」

「事実と相違する」のは、明示の内容が実際と違う場合です。たとえば、更新の基準を「更新しない場合がある」とだけ書いておきながら実際は自動的に更新している、といったずれが考えられます。明示した内容を、あとから実態に合わせて直す責任が使用者側にあるという読み方が、条文に沿っています(具体的にどの程度の相違が解除の理由になるかは、条文から読めません)。

無期転換申込みができる有期労働契約では、明示する事項が増える

有期の職員を更新していく法人にとって、第5項と第6項は見逃せません。第5項の前半は、対象になる契約を次のように書いています。

その契約期間内に労働者が労働契約法第十八条第一項の適用を受ける期間の定めのない労働契約の締結の申込み(以下「労働契約法第十八条第一項の無期転換申込み」という。)をすることができることとなる有期労働契約の締結の場合においては、

その契約を結ぶときに明示する事項は、次のように増えます。

第一項に規定するもののほか、労働契約法第十八条第一項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち第一項第一号及び第一号の三から第十一号までに掲げる事項とする。

増える事項は2種類です。

  1. 無期転換申込みに関する事項
  2. 申込みに係る無期の労働契約の内容である労働条件のうち、第1項の第一号と、第一号の三から第十一号まで

2のなかに、第一号の二(更新の基準)が入っていないことに気づきます。無期の契約には更新がないためと読めますが、条文にその理由は書かれていません。

ただし書も付いています。

ただし、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち同項第四号の二から第十一号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。

第1項のただし書と同じ形で、第四号の二から第十一号までは使用者が定めをしないなら明示しなくてよい、という構造です。

書面で明示する事項にも、同じ追加があります。第6項です。

法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第三項に規定するもののほか、労働契約法第十八条第一項の無期転換申込みに関する事項並びに当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件のうち第一項第一号及び第一号の三から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。

つまり、無期転換申込みができる有期労働契約の場合の書面の対象は、第3項の事項に、無期転換申込みに関する事項と、無期契約の労働条件(第一号、第一号の三から第四号まで。昇給を除く)が加わる形になります。第3項と同じく、昇給は書面の対象から除かれています。

どのくらいの期間を続けると申込みができることになるのかは、労働契約法第18条の中身で、この抜粋には入っていません。この記事では扱いません。法人としては、有期の職員のうち、第18条第1項の申込みができることとなる契約になる職員がいつ出るのかを、更新の日付の台帳とあわせて把握しておく必要があります。

非常勤には、パート・有期法第6条と同施行規則第2条が重なる

非常勤の職員が多い法人では、労基法・労基則だけでは足りません。短時間・有期雇用労働者については、パート・有期法第6条第1項が、別の事項を文書の交付等で明示するよう求めています。

事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第十四条第一項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。

条文の組み立てを読みます。

  • 対象は「労基法第15条第1項に規定する省令で定める事項以外のもの」。つまり、労基則第5条第3項の書面の事項とは別のものが「特定事項」になる
  • 時期は「雇い入れたときは、速やかに」
  • 方法は「文書の交付その他厚生労働省令で定める方法」

特定事項の中身は、同法施行規則第2条第1項が定めています。

法第六条第一項の厚生労働省令で定める短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。

次に掲げるのは5つです。

号特定事項労基則 第5条との関係
第一号昇給の有無昇給は労基則 第5条第1項の第三号にあるが、第3項で書面の対象から外れている
第二号退職手当の有無労基則 第5条第1項の第四号の二(退職手当)。書面の対象(第3項)ではない
第三号賞与の有無労基則 第5条第1項の第五号(賞与を含む)。書面の対象ではない
第四号法第十四条第二項の規定による説明を求めることができる旨労基則には対応する号がない
第五号短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口労基則には対応する号がない

この表のいちばん大事な点は、労基則第5条第3項で書面から外れた昇給が、パート・有期法の側では「昇給の有無」として戻ってくることです。法第6条第1項は、特定事項を「労基法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のもの」と書いており、労基則第5条第3項は昇給を除いています。この2つの条文を重ねて読むと、昇給は短時間・有期雇用労働者について、パート・有期法の側で「有無」を明示する対象になるという構造です。同様に、退職手当(第四号の二)と賞与(第五号)も、労基則では書面の対象ではなく、パート・有期法の側で「有無」を明示する対象に入っています。

条文は「有無」と書いています。ですから、定めがない場合に何も触れないのではなく、「ない」旨を示す形になると読めます(個別の書き方まで条文は指定していません)。

第四号の「法第十四条第二項の規定による説明」は、短時間・有期雇用労働者が求めたときに、待遇の相違の内容や理由を説明する義務です。条文は次のとおりです。

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

つまり、「説明を求めることができる」ことを雇入れのときに知らせるのが第四号です。

方法は、ここでも「本人が希望した場合」

特定事項の明示の方法については、同法施行規則第2条第3項が次のとおり定めています。

法第六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、第一項各号に掲げる事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを当該短時間・有期雇用労働者が希望した場合における当該方法とする。

この項に書かれているのは、ファクシミリと電子メール等の2つの方法で、本人が希望した場合に限られるということです。文書の交付そのものは、法第6条第1項の本文に書かれています。労基則と同じく、使用者の都合で電子メールに切り替える形にはなっていません。

努力義務の定めもある

法第6条第2項は、特定事項以外についても文書の交付等で明示するよう求めています。

事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。

語尾は「努めるものとする」で、義務ではなく努力義務です。第1項の「明示しなければならない」とは語尾が違います。

短時間・有期雇用労働者に当たるかは、この記事では判断しない

「非常勤だから短時間・有期雇用労働者に当たる」とは限りません。短時間・有期雇用労働者の定義は、この記事で確認した条文に入っていません。個別の職員が当たるかどうかは、雇用の中身(所定労働時間、契約の期間の定め)で別に確認が必要です。

罰則:第120条第1号に入っているのは、第15条の第1項と第3項

労基法第120条は、罰則の条です。

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

第1号の列挙の冒頭に、次のように書かれています。

第十四条、第十五条第一項若しくは第三項、第十八条第七項、

読み取れることは次のとおりです。

項内容第120条第1号の列挙
第15条第1項労働条件の明示の義務(前段・後段)入っている
第15条第2項事実と相違するときの労働者の解除権入っていない
第15条第3項帰郷の旅費の負担入っている

第2項は、労働者に解除権を与える規定です。使用者に何かを命じる形ではないので、罰則の列挙に入っていないのは条文の組み立てから理解できます(理由が条文に書かれているわけではありません)。

法定刑は「三十万円以下の罰金」で、第120条の本文に書かれています。労基則第5条を名指しした文言は、この第120条には見当たりません。後段の書面交付は法第15条第1項の一部なので、第1項の違反として列挙に入る形で読めますが、個別のケースが違反に当たるかどうかは条文だけでは判断できません。

パート・有期法第6条の罰則や、行政の関与の仕組みは、この記事で確認した条文に入っていません。この記事では扱いません。

福祉法人での運用:異動の範囲、更新のたび、非常勤の台帳

ここからは条文が書いていることではなく、条文の構造から考えた運用の整理です。提案であることを、そのつど書きます。

異動の範囲を、契約の時点でどう書くか

第一号の三は、就業の場所と従事すべき業務の変更の範囲まで明示するよう求めています。特別養護老人ホーム、デイサービス、グループホーム、法人本部といった複数の事業所を持つ法人では、「どこまで異動がありうるか」を契約の時点で決めておく必要が出てきます。

考えられる整理は次のとおりです。

考え方例運用上の見方(提案)
配属の事業所だけを書く「就業の場所は〇〇事業所」変更の範囲が空欄になりやすい。異動の可能性がある職員には足りない
法人内の事業所を列挙する「就業の場所の変更の範囲は、当法人の〇〇事業所、△△事業所」範囲が明確。事業所が増えたときに更新が必要
法人内全体と書く「就業の場所の変更の範囲は、当法人の事業所全体」書き方は簡単。職員にとって何を意味するかを説明できるかが課題

どれが正しいという条文はありません。大切なのは、採用の時点で、その職員に実際に異動を想定しているかと、書いた範囲が一致していることです。第5条第2項は、明示した労働条件を事実と異なるものとしてはならないと書いています。想定していない広い範囲を書いておく、あるいは想定している異動を書いておかない、のどちらも、実態との差が出る原因になります。

業務の変更の範囲も同じです。たとえば、介護職員として採用し、将来は相談業務や事務に異動する可能性があるのかどうか。条文は「従事すべき業務の変更の範囲」と書いているので、職種の枠を超えた異動の可能性があるなら、その範囲を決めておく必要があります。

更新のたびに、見直しておきたい項目

有期の職員を更新していく場合は、次の項目が更新の都度、動きやすいと考えられます。

  • 第一号の二:更新の基準と、更新回数・通算期間の上限の定め。更新のたびに、上限に近づいているかを確かめる
  • 第一号:契約期間
  • 第一号の三:就業の場所・業務、変更の範囲。前回の契約から異動があった場合
  • 第三号:賃金。昇給があったときは、その明示(書面の対象外だが、明示の対象)
  • 第5項・第6項:無期転換申込みができることとなる契約になるときの追加事項

更新の時に、法第15条の義務がかかるのか、つまり更新後の契約を結ぶことが「労働契約の締結」に当たるのかどうかは、この記事で確認した条文からは確定できません。確定できないので、更新の契約を結ぶ書類にも同じ項目を載せておくという運用が考えられます。これは条文の求めではなく、提案です。

更新の日付が職員ごとに異なる法人では、更新の台帳が職員ごとにずれて動きます。基準日が職員ごとに動く年次有給休暇の管理と、台帳の持ち方が似てくる、というのが運用の見方です。年次有給休暇の条文の読み方は、別の記事(年次有給休暇の時季指定)で扱っています。

非常勤の職員の台帳

短時間・有期雇用労働者について、条文から読める項目と、持っておくと便利な項目を分けて整理します。

項目条文が求めるか持っておく理由
労基則 第5条第3項の事項(書面)求める書面で交付する事項
昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無求める(パート・有期法施行規則 第2条第1項)特定事項として明示する
説明を求めることができる旨、相談窓口求める(同項)特定事項として明示する
明示した日、方法(書面・メール・FAX)条文は求めていない(提案)何をいつ示したかを後から確かめる
ファクシミリ・電子メールを希望した旨条文は求めていない(提案)「希望した場合」に当たることを後から確かめる
更新の回数と通算の期間第一号の二が上限を含めて求める場合がある上限や無期転換への近さを確かめる
異動の範囲として示した内容求める(第一号の三)実際の異動と一致しているかを確かめる

就業規則との関係は、この記事では扱いません。就業規則の作成や変更の手続は、別の記事(社会福祉法人の就業規則の変更手続)で扱っています。

この記事で書いていないこと

条文の範囲では、次のことは書かれていない、またはこの記事で確認していません。

  • 無期転換申込みができることとなる期間の長さ:労働契約法第18条の中身で、この記事の条文には入っていません
  • 短時間・有期雇用労働者の定義:個別の職員が当たるかは、条文の定義を別に確認する必要があります
  • 第3項の「第一号から第四号まで」に枝番号(第一号の二、第一号の三)が含まれるか:この条文には明記がありません。第6項が「第一号の三から第四号まで」と枝番号を明示して書いている点も踏まえ、現行の条文で確認してください
  • 書面の指定がかからない事項の、具体的な明示の方法:第5条第1項前段は方法を書いていません
  • 更新の都度、法第15条の義務がかかるか:条文から確定できません
  • パート・有期法第6条の罰則や、行政の関与の仕組み:この記事で確認した条文に入っていません
  • 事実と相違するとき、どの程度の相違から契約解除ができるか:条文は「事実と相違する場合」とだけ書いています
  • ファクシミリ・電子メールの希望を確かめる方法と、その記録:条文には書かれていません
  • 労働条件通知書の様式、記載例:この記事ではひな形を作りません
  • 改正の時期、改正の経緯:条文だけでは読めないため書いていません
  • 個別の職員への適用や、行政の運用:この記事は条文の構造の整理です。個別の判断は労働基準監督署や社会保険労務士などにご確認ください

まとめ

  • 労働条件の明示の根拠は労基法第15条第1項。前段が「労働条件を明示する」義務、後段が「省令で定める事項を、省令で定める方法で」明示する義務
  • 明示しなければならない範囲(労基則第5条第1項)と、書面で交付する範囲(同条第3項)は別物。書面の対象は第一号から第四号までで、昇給に関する事項は除かれる
  • 第1項のただし書は2つの場合分け。第一号の二は「更新する場合があるものの締結」に限り、第四号の二から第十一号までは「定めをしない場合」は不要。第四号の退職は、ただし書の対象外
  • 第一号の三の「変更の範囲」は、契約の時点で異動の範囲まで示す形。複数事業所の法人では、書き方を決めておく
  • ファクシミリ・電子メールは、労働者が希望した場合に限る(労基則第5条第4項)
  • 無期転換申込みができることとなる有期労働契約のときは、明示事項と書面の事項が増える(第5項・第6項)
  • 短時間・有期雇用労働者には、パート・有期法第6条で特定事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、説明を求めることができる旨、相談窓口)を明示する。方法はここでも本人が希望した場合にファクシミリ・電子メール
  • 明示が事実と違うときは、労働者が即時に契約を解除でき(第15条第2項)、14日以内の帰郷なら旅費を使用者が負担(同条第3項)
  • 罰則は第120条第1号で三十万円以下の罰金。列挙されているのは第15条の第1項と第3項で、第2項は入っていない

参考にした一次情報

いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の職員への適用や、行政の運用を示すものではありません。


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