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社会福祉法人の社会福祉充実残額|算定の考え方と所轄庁への届出

「今年の社会福祉充実残額はいくらでしたか」

決算のたびにこう聞かれて、計算書類・固定資産台帳・財産目録を並べ直す。毎年ほぼ同じ作業なのに、毎年同じだけ時間がかかる——という法人様は少なくありません。

自治体が配布する算定シートを見れば、埋める欄そのものは分かります。ただ、その欄がどの条文から出てきているのかを追ったことがある方は多くありません。 実はこの制度、条文の立て方そのものがやや独特です。「社会福祉充実残額」という言葉は、算定の入口となる条文には一度も出てきません。この記事では、条文をたどりながら、算定の考え方と届出までの実務を整理します。

なお、財産目録の様式や「使用目的等」欄の書き方は社会福祉法人の財産目録の書き方で解説していますので、そちらをご覧ください。この記事では、財産目録に書かれた情報が最終的にどう計算されるかに絞って整理します。

「社会福祉充実残額」という語は、算定式を定める条文には出てこない

社会福祉法第55条の2は「社会福祉充実計画の承認」という見出しの条文です。第1項の部分を引用します。

社会福祉法人は、毎会計年度において、第一号に掲げる額が第二号に掲げる額を超えるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該会計年度の前会計年度の末日(同号において「基準日」という。)において現に行つている社会福祉事業若しくは公益事業(以下この項及び第三項第一号において「既存事業」という。)の充実又は既存事業以外の社会福祉事業若しくは公益事業(同項第一号において「新規事業」という。)の実施に関する計画(以下「社会福祉充実計画」という。)を作成し、これを所轄庁に提出して、その承認を受けなければならない。ただし、当該会計年度前の会計年度において作成した第十一項に規定する承認社会福祉充実計画の実施期間中は、この限りでない。
一 当該会計年度の前会計年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額
二 基準日において現に行つている事業を継続するために必要な財産の額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額

読んでいただくと分かるとおり、この項がしているのは「第一号の額が第二号の額を超えるときは、計画を作成しなさい」という条件と義務の規定です。第一号の額から第二号の額を引いた差額そのものを指す名前は、ここには出てきません。

その名前は、離れた場所に置かれています。第3項は社会福祉充実計画に記載すべき事項を列挙している項ですが、その四号を引用します。

四 第一項第一号に掲げる額から同項第二号に掲げる額を控除して得た額(第五項及び第九項第一号において「社会福祉充実残額」という。)

「社会福祉充実残額」の定義は、算定式そのものを定める第1項ではなく、「計画に何を書くか」を定める第3項第四号の中に置かれています。 つまり社会福祉充実残額は、単なる計算結果の呼び名ではなく、社会福祉充実計画に記載すべき事項のひとつとして定義された数字です。算定シートを埋める作業をしていると見落としがちですが、この位置づけを押さえておくと、次に説明する「なぜ基準日や届出のタイミングが厳密なのか」の理由がつながって見えてきます。

条文の対応関係を整理すると、次のようになります。

記号何を指すか定義されている場所
第1項第一号の額前会計年度の貸借対照表:資産の部の計上額から負債の部の計上額を控除した額(純資産)社会福祉法第55条の2第1項第一号
第1項第二号の額控除対象財産の額(施行規則第6条の14で算定)社会福祉法第55条の2第1項第二号
社会福祉充実残額第1項第一号の額 − 第1項第二号の額社会福祉法第55条の2第3項第四号

引く前の額は「資産の合計」ではなく「純資産」

第1項第一号をあらためて見ると、こう書かれています。

当該会計年度の前会計年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額

資産の部の合計額ではありません。資産の部から負債の部を控除した額、つまり純資産です。 借入金や未払金が多い法人ほど、この時点で第一号の額は小さくなります。「うちは施設が多いから充実残額も大きいはず」という直感が外れるのは、たいていここが理由です。

引く額は、一般に「4つ」と言われるが、条文は3号立て

第1項第二号(控除対象財産の額)の算定方法は、社会福祉法施行規則第6条の14に委任されています。第1項の部分を引用します。

法第五十五条の二第一項第二号に規定する厚生労働省令で定めるところにより算定した額は、社会福祉法人が当該会計年度の前会計年度の末日において有する財産のうち次に掲げる財産の合計額をいう。
一 社会福祉事業、公益事業及び収益事業の実施に必要な財産
二 前号に掲げる財産のうち固定資産の再取得等に必要な額に相当する財産
三 当該会計年度において、第一号に掲げる事業の実施のため最低限必要となる運転資金

号は一号から三号までの3つです。 実務の説明では「控除対象財産は4区分」と言われることがよくありますが、条文の号立てとしては3号しかありません。4つ目とされているものの正体は、続く第2項にあります。

前項第一号に規定する財産の算定に当たつては、法第五十五条の二第一項第一号に規定する貸借対照表の負債の部に計上した額のうち前項第一号に規定する財産に相当する額を控除しなければならないものとする。

第2項は新しい財産の区分を作っているのではなく、一号の財産を算定するときの「補正ルール」です。 一号の財産(社会福祉事業・公益事業・収益事業の実施に必要な財産)に対応する負債があれば、その分を差し引きなさい、という指示です。「4つ引く」という説明は、この補正ルールを独立した4つ目の区分のように数えたものと考えると理解しやすくなります。

条文の構成を整理すると、次のようになります。

区分内容条文
一号社会福祉事業、公益事業及び収益事業の実施に必要な財産施行規則第6条の14第1項第一号
二号一号の財産のうち固定資産の再取得等に必要な額に相当する財産同項第二号
三号当該会計年度において、一号の事業実施のため最低限必要となる運転資金同項第三号
補正ルール一号の財産の算定にあたり、対応する負債の部計上額を控除する同条第2項

なお、各区分の具体的な計算方法(固定資産の再取得に必要な額の求め方、運転資金の月数など)や、いわゆる「計算の特例」にあたる部分は、所轄庁が配布する算定シートと厚生労働省の通知の世界です。この記事では条文の立て付けに絞っており、具体的な計算手順はそちらでご確認ください。

基準日は「前会計年度の末日」

先ほど引用した第1項の柱書のうち、基準日を定義している部分だけをあらためて引用します。

当該会計年度の前会計年度の末日(同号において「基準日」という。)

基準日は「当該会計年度の前会計年度の末日」です。 3月決算の法人であれば、今の会計年度に算定する社会福祉充実残額は、ひとつ前の年度、つまりすでに締めた決算の3月31日時点の数字を使います。

ここで時点のずれに注意が必要です。「今年度に算定する数字」と「今年度の活動の数字」は一致しません。今年度に算定するのは、あくまで前年度末の貸借対照表と、前年度末に有していた財産です。「今の状況で計算すればいい」と思い込んでいると、使う決算書の年度を取り違えます。算定に着手する前に、必ず「どの年度の貸借対照表を使う計算か」を確認してください。

承認の申請は、決算の届出と同時に行う

社会福祉充実残額の算定が第一号の額を超えていて計画が必要になった場合、その承認申請にはタイミングの制約があります。第2項です。

前項の承認の申請は、第五十九条の規定による届出と同時に行わなければならない。

社会福祉充実計画の承認申請は、第59条の届出と同時でなければなりません。 第59条は、毎会計年度終了後3か月以内に計算書類等と財産目録等を所轄庁に届け出る義務を定めた条文です。柱書と各号を引用します。

社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる書類を所轄庁に届け出なければならない。
一 第四十五条の三十二第一項に規定する計算書類等
二 第四十五条の三十四第二項に規定する財産目録等

つまり、決算の届出期限=社会福祉充実計画の承認申請期限です。決算をまとめてから計画の要否を検討し、必要なら計画を作って評議員会の承認を得る、というすべての工程を、決算日から3か月以内に終わらせなければなりません。「充実残額の計算が終わってから計画を考えよう」というスケジュールの立て方では、この期限に間に合わなくなります。ここは、この制度でいちばん実務が詰まりやすい点です。

計画自体にも承認の手続きがあります。第7項です。

社会福祉充実計画は、評議員会の承認を受けなければならない。

計画の承認機関は評議員会です。 決算の届出期限に合わせて評議員会を開く必要があるため、通常の定時評議員会の日程だけでなく、計画の承認議案が乗るかどうかも念頭に置いた招集の準備が要ります。

計画の作成にあたっては、専門家の意見を聴くことも義務づけられています。第5項です。

社会福祉法人は、社会福祉充実計画の作成に当たつては、事業費及び社会福祉充実残額について、公認会計士、税理士その他財務に関する専門的な知識経験を有する者として厚生労働省令で定める者の意見を聴かなければならない。

事業費だけでなく、社会福祉充実残額そのものについても専門家の意見を聴く義務があります。 数字を出して終わりではなく、その数字の妥当性を専門家に確認してもらう工程まで含めて期限内に収める必要がある、ということです。

残額がなくても、算定と評議員会への報告は毎年ついてまわる

第1項の柱書は「毎会計年度において」という言葉で始まります。第一号の額が第二号の額を超えないときは計画の作成義務は生じませんが、この柱書の構造上、超えているかどうかの比較自体は毎会計年度行うことになります。

そして、計画が不要な年でも、社会福祉充実残額そのものは記録に残ります。現況報告書の記載事項を定めた施行規則第2条の41の十二号を引用します。

十二 前会計年度末における社会福祉充実残額(法第五十五条の二第三項第四号に規定する社会福祉充実残額をいう。)並びに社会福祉充実計画(同条第一項に規定する社会福祉充実計画をいう。以下同じ。)の策定の状況及びその進捗の状況

社会福祉充実残額は、計画の要否にかかわらず、現況報告書に毎年記載する事項です。 さらに続く十四号には「第十二号に規定する社会福祉充実残額の算定の根拠」も記載事項として置かれています。つまり、算定した金額だけでなく、その根拠までもが毎年の現況報告書に残る前提になっています。現況報告書全体の記載事項については社会福祉法人の現況報告書の書き方で整理していますので、あわせてご確認ください。

「残額がマイナスだったから今年は関係ない」と算定そのものをやめてしまうわけにはいきません。 計画は不要でも、算定と現況報告書への記載は毎年の作業として続きます。

実務でつまずくのは、計算式ではなく「数字の置き場所」

ここまでの条文を踏まえると、社会福祉充実残額の算定に必要な数字は、実は一か所にまとまっていません。

  • 第1項第一号の額(純資産)は、計算書類の貸借対照表の資産の部・負債の部から拾います
  • 第1項第二号の額(控除対象財産)は、財産目録の「使用目的等」欄に書かれた区分をもとに算定します
  • 固定資産の再取得等に必要な額の基礎になる取得価額・減価償却累計額は、固定資産台帳にあります
  • 算定した残額と根拠は、現況報告書に毎年記載します

弊社がご支援に入っていると、「計算式が難しい」というご相談より、「毎年、この4つの資料を横断して同じ数字を拾い直している」というご相談のほうがずっと多いのが実情です。財産目録の使用目的等欄が前年のまま更新されていなかったり、固定資産台帳の取得価額が計算書類の金額と一致していなかったりすると、算定のたびに突き合わせのやり直しが発生します。

社会福祉充実計画そのものの作り方(記載事項や区域の考え方)は、社会福祉法人の社会福祉充実計画で扱っていますので、計画の作成が必要になった法人様はそちらもご覧ください。

まとめ

  • 「社会福祉充実残額」という語は、算定式を定める第55条の2第1項には出てこない。定義は、計画の記載事項を定める第3項第四号に置かれている
  • 第1項第一号の額は資産の合計ではなく、資産の部から負債の部を控除した純資産
  • 控除対象財産(第1項第二号)は、施行規則第6条の14で一号から三号までの3号立てで定められている。「4つ」と説明されることが多いのは、一号の算定における負債控除の補正ルール(第2項)を含めて数えているため
  • 基準日は「当該会計年度の前会計年度の末日」。今年度に算定するのは、すでに締めた前年度末の数字
  • 社会福祉充実計画の承認申請は、第59条の届出と同時に行わなければならない(第2項)。決算の届出期限=計画の承認申請期限
  • 計画は評議員会の承認が必要(第7項)。作成にあたっては公認会計士・税理士等の意見を聴く義務がある(第5項)
  • 第一号の額が第二号の額を超えなければ計画は不要だが、比較自体は毎会計年度行われる。算定結果と算定根拠は現況報告書に毎年記載する(施行規則第2条の41第十二号・第十四号)
  • 実務が詰まるのは計算式そのものより、計算書類・財産目録・固定資産台帳・現況報告書に散らばった数字の突き合わせ

参考(一次情報)

※引用はすべて原文のまま記載しています(条文の歴史的仮名遣い等もそのままです)。控除対象財産の具体的な計算方法や計算の特例は、所轄庁が示す算定シートと厚生労働省の通知に定められています。実際の算定・届出にあたっては、所轄庁の指導と顧問の公認会計士・税理士の確認を必ず受けてください。


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