減価償却そのものは、社会福祉法人でも一般企業でも計算の仕組みは変わりません。取得価額を耐用年数にわたって費用に配分する、それだけです。
それでも社会福祉法人の減価償却が難しくなるのは、減価償却費を計上すると、必ずもう一方で「国庫補助金等特別積立金取崩額」が動くからです。補助金で建てた施設の減価償却費だけを計上して取崩しを忘れる。逆に、補助金をもらっていない土地の分まで取り崩してしまう。こうしたずれは、翌年以降も同じ台帳をコピーして使い続けるため、一度入り込むと何年も残ります。
この記事では、社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)と、局長通知「運用上の取扱い」・課長通知「運用上の留意事項」の原文に沿って、減価償却の対象・残存価額・耐用年数・配分基準と、国庫補助金等特別積立金の取崩しとの対応関係を整理します。具体的な仕訳や税務上の扱いには踏み込みません。実際の処理は顧問税理士・会計士にご確認ください。
出発点:会計基準省令は「相当の償却」としか書いていない
会計基準省令第4条第2項は、減価償却についてこう定めているだけです。
有形固定資産及び無形固定資産については、会計年度の末日(会計年度の末日以外の日において評価すべき場合にあっては、その日。以下この条及び次条第二項において同じ。)において、相当の償却をしなければならない。
「相当の償却」が具体的に何を指すのかは、省令には書かれていません。実務の基準はすべて課長通知「運用上の留意事項」の17に置かれています。 減価償却で迷ったときに開くべきは、省令ではなくこの17です。
一般企業と決定的に違う点:減価償却費と取崩額が対で動く
社会福祉法人の減価償却を理解するうえで、最初に押さえるべきはここです。局長通知「運用上の取扱い」9は、国庫補助金等特別積立金の趣旨をこう説明しています。
国庫補助金等特別積立金は、施設及び設備の整備のために国又は地方公共団体等から受領した国庫補助金等に基づいて積み立てられたものであり、当該国庫補助金等の目的は、社会福祉法人の資産取得のための負担を軽減し、社会福祉法人が経営する施設等のサービス提供者のコスト負担を軽減することを通して、利用者の負担を軽減することである。
補助金の目的は最終的に「利用者の負担を軽減すること」だとされています。だからこそ、補助金で取得した資産の減価償却費をそのまま費用として残したままにはできません。同じ9が続けてこう定めます。
したがって、国庫補助金等特別積立金は、毎会計年度、国庫補助金等により取得した資産の減価償却費等により事業費用として費用配分される額の国庫補助金等の当該資産の取得原価に対する割合に相当する額を取り崩し、事業活動計算書のサービス活動費用に控除項目として計上しなければならない。
ポイントは2つです。取り崩す額は「取得原価に対する補助金の割合」で決まること。そして計上先は収益ではなく、サービス活動費用の控除項目であることです。減価償却費という費用を立て、その一部を控除項目として戻す。結果としてサービス活動増減差額には、法人が自己資金で負担した部分だけが費用として残ります。
したがって、減価償却費の計算と取崩額の計算は、同じ資産について同じ期に、必ずセットで行う必要があります。片方だけ動く年度があれば、それは処理漏れの可能性が高いと考えてよい関係です。
減価償却の対象と単位
課長通知17(1)は、対象をこう定めています。
減価償却は耐用年数が1年以上、かつ、原則として1個若しくは1組の金額が10万円以上の有形固定資産及び無形固定資産を対象とする。減価償却計算の単位は、原則として各資産ごととする。
「1年以上」と「10万円以上」の2つを同時に満たすものが対象です。そして計算の単位は原則として各資産ごととされています。同種の備品をまとめて1行で管理している台帳では、個別の廃棄・売却が発生したときに対応する取崩額を切り出せなくなります。
残存価額は取得時期で3通りに分かれる
ここが、古い施設を持つ法人ほど台帳の中で混在しやすいところです。課長通知17(2)は3つの場合を分けています。
平成19年3月31日以前に取得した有形固定資産について。
有形固定資産について償却計算を実施するための残存価額は取得価額の10%とする。耐用年数到来時においても使用し続けている有形固定資産については、さらに、備忘価額(1円)まで償却を行うことができるものとする。
平成19年4月1日以降に取得した有形固定資産について。
有形固定資産について償却計算を実施するための残存価額はゼロとし、償却累計額が当該資産の取得価額から備忘価額(1円)を控除した金額に達するまで償却するものとする。
無形固定資産について。
無形固定資産については、当初より残存価額をゼロとして減価償却を行うものとする。
整理すると次のようになります。
| 区分 | 残存価額 | 備忘価額まで償却 |
|---|---|---|
| 平成19年3月31日以前に取得した有形固定資産 | 取得価額の10% | 耐用年数到来後も使用し続けている場合は1円まで償却できる |
| 平成19年4月1日以降に取得した有形固定資産 | ゼロ | 取得価額から1円を控除した額に達するまで償却する |
| 無形固定資産 | 当初よりゼロ | 同左 |
昭和・平成初期に整備した施設が現役で動いている法人では、同じ建物の中に「10%の資産」と「ゼロの資産」が並んで台帳に載っている状態になります。台帳に取得年月日が入っていないと、この判定ができません。定款に載る基本財産の物件については社会福祉法人の基本財産もあわせてご確認ください。
耐用年数は大蔵省令によるもので、法人独自の表はない
課長通知17(3)は次のとおりです。
耐用年数は、原則として「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)によるものとする。
社会福祉法人のための独自の耐用年数表があるわけではありません。 償却率等についても同じ省令の定めによるものとされ、留意事項の別添2(減価償却資産の償却率、改定償却率及び保証率表)が掲げられています。自治体の手引きや会計ソフトの初期値をそのまま使っている場合でも、根拠は必ずこの省令にさかのぼれる形にしておくと、監査の場面で説明が早くなります。
年度の中途で取得・売却・廃棄したときは月割り
課長通知17(5)は、計算期間の単位をこう定めています。
減価償却費の計算は、原則として1年を単位として行うものとする。ただし、年度の中途で取得又は売却・廃棄した減価償却資産については、月を単位(月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数を生じた時はこれを1か月とする)として計算を行うものとする。
1か月に満たない端数は切り上げて1か月です。3月28日に引き渡しを受けた備品でも、その年度に1か月分を計上します。取得日を月単位でしか持っていない台帳だと、この判定が現場の記憶頼りになります。
共通発生分の配分は「2段構え」になっている
複数の拠点区分・サービス区分にまたがる資産の減価償却費をどう配分するか。ここが実務でいちばん間違えやすい論点です。課長通知17(6)は、2段階に分けて書いています。
まず、補助金で取得した資産について。
複数の拠点区分又はサービス区分に共通して発生する減価償却費のうち、国庫補助金等により取得した償却資産に関する減価償却費は、国庫補助金等の補助目的に沿った拠点区分又はサービス区分に配分する。
そのうえで、それ以外について。
ア以外の複数の拠点区分又はサービス区分に共通して発生する減価償却費については、利用の程度に応じた面積、人数等の合理的基準に基づいて毎期継続的に各拠点区分又はサービス区分に配分する。
つまり、「共通発生分はすべて面積按分」という処理では足りません。 補助金で取得した資産は、面積や利用人数ではなく補助目的に沿って配分先が決まります。面積按分を適用できるのは、補助金で取得したもの以外の共通資産です。しかもそちらは「毎期継続的に」とされているため、年度ごとに基準を変えることもできません。
この区別ができるかどうかは、台帳が資産ごとに「補助金の有無」と「補助目的の区分」を持っているかにかかっています。
土地に対する補助金は、原則として取り崩さない
補助金で土地を取得している法人で見かける誤りが、土地の分まで償却の進行に合わせて取り崩しているケースです。課長通知15(2)イは、こう定めています。
また、国庫補助金等はその効果を発現する期間にわたって、支出対象経費(主として減価償却費をいう)の期間費用計上に対応して国庫補助金等特別積立金取崩額をサービス活動費用の控除項目として計上する。なお、非償却資産である土地に対する国庫補助金等は、原則として取崩しという事態は生じず、将来にわたっても純資産に計上する。
取崩しはあくまで支出対象経費の期間費用計上に対応して行うものです。償却しない土地には対応する費用が発生しないため、原則として取り崩す場面がなく、純資産に残り続けます。 施設整備補助金を土地と建物に按分して受けている場合は、建物分と土地分を台帳の上で分けて持っておく必要があります。
廃棄・売却したときは、計上区分が変わる
通常の取崩しはサービス活動費用の控除項目ですが、資産そのものが無くなったときは違います。局長通知9の後段です。
また、国庫補助金等特別積立金の積立ての対象となった基本財産等が廃棄され又は売却された場合には、当該資産に相当する国庫補助金等特別積立金の額を取崩し、事業活動計算書の特別費用に控除項目として計上しなければならない。
同じ「取崩額」という科目名でも、計上する部が違います。
| 場面 | 取り崩す額 | 計上先 |
|---|---|---|
| 毎年度の減価償却に対応する取崩し | 減価償却費等のうち補助金割合に相当する額 | サービス活動費用の控除項目 |
| 対象資産の廃棄・売却 | 当該資産に相当する国庫補助金等特別積立金の額 | 特別費用の控除項目 |
さらに、この取崩しを行った場合には注記が必要です。会計基準省令第29条第1項は、注記すべき事項の一つとして次を挙げています。
基本金又は固定資産の売却若しくは処分に係る国庫補助金等特別積立金の取崩しを行った場合には、その旨、その理由及び金額
「処分したので落としました」で終わらせず、その旨・理由・金額を注記まで到達させる必要があります。資産の除却を現場判断で進めて経理に情報が届かないと、この注記が漏れます。
設備資金借入金の償還補助は、積立てのタイミングが違う
施設整備時に一括で受け取るのではなく、借入金の返済時期に合わせて執行される補助金があります。課長通知15(2)アは、この扱いをこう定めています。
設備資金借入金の返済時期に合わせて執行される補助金等のうち、施設整備時又は設備整備時においてその受領金額が確実に見込まれており、実質的に施設整備事業又は設備整備事業に対する補助金等に相当するものとして国庫補助金等とされたものは、実際に償還補助があったときに当該金額を国庫補助金等特別積立金に積立てるものとする。
施設整備時点で国庫補助金等には該当するけれども、積み立てるのは実際に償還補助があったときという組み立てです。そして取崩額の計算は、その年度に入金された額ではなく総額を基礎とします。同じ15(2)イです。
さらに、設備資金借入金の返済時期に合わせて執行される補助金のうち、施設整備時又は設備整備時においてその受領金額が確実に見込まれており、実質的に施設整備事業又は設備整備事業に対する補助金等に相当するものとして積み立てられた国庫補助金等特別積立金の取崩額の計算に当たっては、償還補助総額を基礎として支出対象経費(主として減価償却費をいう)の期間費用計上に対応して国庫補助金等特別積立金取崩額をサービス活動費用の控除項目として計上する。
積立ては毎年少しずつ、取崩しの計算は総額ベース。 ここがずれると、償還が続いている間ずっと取崩額が過小または過大になります。
予定どおりに入金されなかった場合の扱いも定められています。
また、当該国庫補助金等が計画通りに入金されなかった場合については、差額部分を当初の予定額に加減算して、再度配分計算を行うものとする。
僅少な場合は再計算を省略できるとされています。さらに償還補助が打ち切られた場合には、同じく再度配分計算をしたうえで経過期間分の修正まで行うこととされ、その修正額は原則として特別増減の部に記載し、重要性が乏しい場合はサービス活動外増減の部に記載できるとされています。補助の条件が変わったという情報が、財務担当から経理担当へ確実に伝わる経路を作っておく必要があります。
明細書の作成も求められている
課長通知15(2)ウです。
国庫補助金等特別積立金の積み立て及び取り崩しに当たっては、国庫補助金等特別積立金明細書(運用上の取り扱い別紙3(7))を作成し、それらの内容を記載することとする。
国庫補助金等特別積立金明細書は、会計基準省令第30条第1項が列挙する附属明細書の一つでもあります。決算書類のなかで、減価償却と取崩しの対応関係が外から検証される場所がここです。資産ごとの内訳が財産目録とも整合している必要があるため、社会福祉法人の財産目録の記載とあわせて確認しておくと手戻りが減ります。
ファイナンス・リースは「資産計上しない」ではない
「リースだから資産には載せていません」というお話を伺うことがありますが、局長通知8(2)は次のとおりです。
ファイナンス・リース取引については、原則として、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うものとする。
ファイナンス・リース取引は原則として売買取引に準じて処理され、リース資産として減価償却の対象になります。 注記も必要です。
ファイナンス・リース取引の場合、リース資産について、その内容(主な資産の種類等)及び減価償却の方法を注記する。
一方、オペレーティング・リース取引は通常の賃貸借取引に係る方法に準じて処理します。どちらに当たるかは契約内容で決まるため、送迎車輌や厨房機器、複合機など、リース契約書を経理が見られる状態にしておくことが前提になります。
実務の打ち手:減価償却と取崩しを「1つの台帳」から計算できるようにする
ここまで見てきたとおり、社会福祉法人の減価償却は、減価償却費だけでは完結しません。同じ資産について取崩額を計算し、配分先を決め、明細書と注記まで到達させる必要があります。
そこで私たちがご支援する法人様におすすめしているのが、固定資産管理台帳に次の項目を持たせ、減価償却と取崩しを同じ台帳から計算できる状態にするという運用です。
- 取得年月日(残存価額の判定と月割り計算の両方に使う)
- 取得価額
- 補助金額と、取得価額に対する補助割合
- 補助金の種類(施設整備か、設備資金借入金の償還補助か)
- 土地か償却資産かの別
- 耐用年数と償却率
- 配分先の拠点区分・サービス区分と、その配分根拠(補助目的か、面積・人数等か)
会計ソフトの固定資産モジュールと、補助金の管理表と、拠点ごとの配分表が別々に存在している法人は少なくありません。担当者が代わったときに引き継がれるのは数字だけで、「なぜこの配分先なのか」という根拠が失われることが実際に起きています。台帳を1つにまとめて根拠を列として持たせておけば、毎年度の計算は同じ手順の繰り返しになります。
まとめ
- 会計基準省令第4条第2項は「相当の償却」としか定めておらず、実務の基準は課長通知「運用上の留意事項」17にある
- 社会福祉法人の減価償却は、減価償却費と国庫補助金等特別積立金取崩額が必ず対で動く。取崩額は取得原価に対する補助金の割合で決まり、サービス活動費用の控除項目に計上する
- 対象は耐用年数1年以上かつ原則1個・1組10万円以上、計算単位は原則として各資産ごと
- 残存価額は平成19年3月31日以前は取得価額の10%、平成19年4月1日以降はゼロ、無形固定資産は当初からゼロの3通り
- 耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)による。法人独自の表はない
- 年度中途の取得・売却・廃棄は月割り。1か月未満の端数は1か月に切り上げる
- 共通発生分の配分は2段構え。補助金で取得した資産は補助目的に沿って配分し、それ以外を面積・人数等で毎期継続的に配分する
- 非償却資産である土地に対する補助金は、原則として取崩しが生じない
- 廃棄・売却したときの取崩しは特別費用の控除項目。注記も必要
- 設備資金借入金の償還補助は、実際に償還補助があったときに積み立て、取崩額の計算は償還補助総額を基礎とする
- ファイナンス・リース取引は原則として売買取引に準じて処理し、リース資産として減価償却の対象になる
参考(一次情報)
- 社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)|e-Gov法令検索
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて|厚生労働省法令等データベース
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について|厚生労働省法令等データベース
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)|e-Gov法令検索
※本記事は会計基準省令と通知の定めを整理したものです。具体的な仕訳や税務上の取扱いには触れていません。個別の判断は、顧問税理士・会計士のご確認をお願いします。
固定資産台帳と補助金の管理が別々になっている法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。取得年月日・補助割合・耐用年数・配分先の拠点区分までを1つの固定資産管理台帳に持たせ、減価償却費と国庫補助金等特別積立金取崩額を同じ台帳から計算できる状態に整えるところからご一緒します。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。