決算期の議案書をお預かりすると、「第◯号議案 令和◯年度事業報告の承認について」と書かれていることがあります。多くの場合、これは条文どおりではありません。
社会福祉法は、計算書類については定時評議員会の承認を求め、事業報告については報告すれば足りるという建て付けをとっています。議案の立て方を間違えても直ちに無効になるわけではありませんが、監査で必ず確認される箇所です。
この記事では、事業報告を「昨年度の文章を書き換える作業」としてではなく、何を書き、誰の監査を受け、いつまでに通知を受け、評議員会でどう扱うのかという一連の手続として整理します。計算書類そのものの流れは社会福祉法人の計算書類にまとめていますので、あわせてご覧ください。
事業報告は計算書類と同じ条文から生まれる
出発点は社会福祉法第45条の27第2項です。
社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類(貸借対照表及び収支計算書をいう。以下この款において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
計算書類と事業報告は、同じ条文・同じ期限で作成義務が課されています。 期限は毎会計年度終了後3月以内。3月決算なら6月末までです。そして、それぞれに附属明細書が付きます。つまり作成すべき書類は次の4つです。
- 計算書類
- 計算書類の附属明細書
- 事業報告
- 事業報告の附属明細書
「附属明細書」と聞くと計算書類のものだけを思い浮かべがちですが、事業報告にも附属明細書があります。
記載事項は法令上、たった2つ
事業報告に何を書くかは、社会福祉法施行規則第2条の25第2項が定めています。意外に思われるかもしれませんが、法令が挙げているのは2項目だけです。
事業報告は、次に掲げる事項をその内容としなければならない。
一 当該社会福祉法人の状況に関する重要な事項(計算関係書類(計算書類(法第四十五条の二十七第二項に規定する計算書類をいう。第四十条第七項第一号及び第四十条の十七第一号を除き、以下同じ。)及びその附属明細書をいう。以下同じ。)の内容となる事項を除く。)
二 法第四十五条の十三第四項第五号に規定する体制の整備についての決定又は決議があるときは、その決定又は決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要
第一号——数字で語れることは書かない
第一号の括弧書きが実務上の肝です。「計算関係書類の内容となる事項を除く」とされています。収支の数字は計算書類が担うので、事業報告には数字以外の重要な事項を書く、という切り分けです。
利用者数や職員体制の推移、施設整備の状況、地域における公益的な取組、災害や感染症への対応、次年度に向けた課題——このあたりが第一号の中身になります。逆に、収支計算書の数字を文章に写し直しただけの事業報告は、条文の想定からずれています。
第二号——内部管理体制を決めた法人は必ず書く
第二号は、社会福祉法第45条の13第4項第五号の体制、いわゆる内部管理体制についてです。この体制の整備について決定または決議があるときは、その内容の概要と、運用状況の概要を事業報告に書かなければなりません。
内部管理体制は、事業の規模が政令で定める基準を超える法人では決定が義務です(同条第5項)。該当する法人で事業報告に運用状況の記載がないと、記載漏れになります。「決議はしたが、その後の事業報告に何も書いていない」という状態は珍しくありません。
理事会が理事に委任できない事項の全体像は社会福祉法人の規程一覧で整理しています。
附属明細書は「補足する重要な事項」
事業報告の附属明細書については、同条第3項が端的に定めています。
事業報告の附属明細書は、事業報告の内容を補足する重要な事項をその内容としなければならない。
補足すべき重要な事項がない場合にどう扱うかは所轄庁の運用によりますが、「作らなくてよい」と自己判断せず、所轄庁の様式と案内を確認してください。
監査するのは監事。会計監査人設置法人でも変わらない
作成した事業報告は監事の監査を受けます。ここで、会計監査人を置いている法人こそ注意が必要です。
社会福祉法第45条の28第2項は、会計監査人設置社会福祉法人について、監査を受ける者を書類ごとに分けています。
一 前条第二項の計算書類及びその附属明細書 監事及び会計監査人
二 前条第二項の事業報告及びその附属明細書 監事
事業報告とその附属明細書は、会計監査人設置法人であっても監事だけが監査します。 会計監査人は計算書類側だけを見ます。会計監査人の設置基準については社会福祉法人の会計監査人にまとめました。
監事の監査報告に書く6項目
事業報告についての監査報告に何を書くかは、社会福祉法施行規則第2条の36が定めています。
監事は、事業報告及びその附属明細書を受領したときは、次に掲げる事項を内容とする監査報告を作成しなければならない。
一 監事の監査の方法及びその内容
二 事業報告及びその附属明細書が法令又は定款に従い当該社会福祉法人の状況を正しく示しているかどうかについての意見
三 当該社会福祉法人の理事の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があつたときは、その事実
四 監査のため必要な調査ができなかつたときは、その旨及びその理由
第五号として内部管理体制に関する事項が相当でないと認めるときの記載、第六号として監査報告を作成した日が続きます。第六号の「監査報告を作成した日」が空欄のまま提出されている例が実際にあります。 日付は形式ではなく、後述する通知期限の起算に関わります。
監事の資格要件と職務については社会福祉法人の監事の要件を参照してください。
通知期限は「4週間」。計算書類とずれる
決算日程を組むときに効いてくるのが、監査報告の通知期限です。社会福祉法施行規則第2条の37第1項は次のように定めています。
特定監事は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに、特定理事に対し、事業報告及びその附属明細書についての監査報告の内容を通知しなければならない。
一 当該事業報告を受領した日から四週間を経過した日
二 当該事業報告の附属明細書を受領した日から一週間を経過した日
三 特定理事及び特定監事の間で合意により定めた日があるときは、その日
事業報告本体は「受領した日から4週間」、附属明細書は1週間です。一方、会計監査人設置法人の計算関係書類については、同規則第2条の34第1項が「会計監査報告を受領した日から一週間を経過した日」を基準としています。
つまり、事業報告の側のほうが長い時間軸で動きます。 計算書類の数字が固まってから事業報告に着手すると、4週間の期限に押されて日程が窮屈になります。実務では、事業報告の原案を早めに監事へ渡しておくのが定石です。
なお、第三号のとおり特定理事と特定監事の合意で日を定めることができますので、決算日程を組むときに合意日を明示しておけば、この期限に振り回されずに済みます。
定時評議員会では「承認」ではなく「報告」
監事の監査を受けた事業報告は、理事会の承認を受けます(社会福祉法第45条の28第3項)。そのうえで定時評議員会へ進みますが、ここで計算書類と扱いが分かれます。
理事は、第四十五条の二十八第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告を定時評議員会に提出し、又は提供しなければならない。
2 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時評議員会の承認を受けなければならない。
3 理事は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時評議員会に報告しなければならない。
(社会福祉法第45条の30)
第2項は計算書類について「承認」、第3項は事業報告について「報告」。 条文が明確に書き分けています。したがって議案書では、計算書類は承認議案、事業報告は報告事項として立てるのが原則です。
定款で承認事項にしている法人もある
ただし、これは「事業報告を承認議案にしてはいけない」という意味ではありません。社会福祉法第45条の8第2項は次のように定めています。
評議員会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
定款で事業報告を評議員会の決議事項と定めていれば、承認議案として扱うことになります。 議案の立て方に迷ったら、まず自法人の定款を確認してください。何も定めがなければ報告事項です。
評議員会の決議事項と報告事項の切り分け全般は社会福祉法人の評議員会決議事項で扱っています。
備置き・閲覧・届出——事業報告も「計算書類等」に含まれる
社会福祉法第45条の32第1項がいう「計算書類等」は、計算書類だけを指すのではありません。各会計年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに監査報告を指します。
したがって事業報告も、定時評議員会の日の2週間前の日から、主たる事務所に5年間、従たる事務所に写しを3年間備え置く必要があります。評議員及び債権者は閲覧と謄本・抄本の交付を請求でき、何人も閲覧を請求できます。
所轄庁への届出についても同様です。社会福祉法第59条第一号が「第四十五条の三十二第一項に規定する計算書類等」を挙げているため、事業報告とその附属明細書も、毎会計年度終了後3月以内に所轄庁へ届け出る書類に含まれます。
現況報告書とは別の書類
事業報告と現況報告書を混同している法人がときどきあります。この2つは別の条文に根拠を持つ別の書類です。
| 事業報告 | 現況報告書 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 法第45条の27第2項 | 法第45条の34第1項第四号 |
| 属する書類群 | 計算書類等 | 財産目録等 |
| 評議員会での扱い | 報告(定款に定めがある場合は決議) | 評議員会の決議事項ではない |
| 監事の監査 | 必要 | 条文上の監査対象ではない |
現況報告書の作成と公表については社会福祉法人の現況報告書にまとめています。内容が似ているからといって、片方を作れば済むものではありません。
「去年の文章を書き換える」から抜け出すために
事業報告が毎年ほとんど同じ文章になる法人には、共通する事情があります。1年分の出来事が、書く時点で手元に集まっていないのです。
- 施設整備や修繕の記録が拠点ごとのファイルに散っている
- 研修の実施記録が担当者の個人フォルダにある
- 苦情や事故の件数を、年度末に数え直している
- 内部管理体制の運用状況を示す資料が残っていない
これらは年度末に集めようとすると必ず抜けます。期中に1か所へ溜まる形にしておけば、事業報告は「集めた記録から書き起こす」作業になります。 第一号の「当該社会福祉法人の状況に関する重要な事項」を書くための材料は、日々の記録の中にしかありません。
まとめ
- 事業報告は計算書類と同じ条文(法第45条の27第2項)に根拠を持ち、期限も同じ毎会計年度終了後3月以内
- 事業報告にも附属明細書がある
- 法令上の記載事項は2つだけ。第一号は計算関係書類の内容となる事項を除いた重要な事項、第二号は内部管理体制の決定・決議の内容の概要と運用状況の概要
- 会計監査人設置法人でも、事業報告とその附属明細書を監査するのは監事のみ
- 監事の監査報告の記載事項は6項目(うち第六号は監査報告を作成した日)
- 監査報告の通知期限は事業報告の受領から4週間、附属明細書は1週間。特定理事と特定監事の合意で日を定められる
- 定時評議員会では計算書類は「承認」、事業報告は「報告」。ただし定款で決議事項と定めていれば承認議案になる
- 事業報告は「計算書類等」に含まれるため、備置き5年・3年、閲覧請求、所轄庁への届出の対象
- 現況報告書とは別の書類
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参考にした一次情報
※所轄庁によって様式や運用に細かな違いがあります。実際の手続きにあたっては、必ず所轄庁の案内と自法人の定款をご確認ください。本記事では様式やひな形の配布は行っていません。