「理事長の任期って、いつまででしたか」
事務局を預かっていると、年に一度は必ず出る質問です。そして、たいてい定時評議員会の直前に出ます。
社会福祉法人の理事長については、条文が複数の条にまたがって書かれています。選び方は第45条の13、権限は第45条の17、任期は第45条、報酬は第45条の35、登記は別の政令。ひとつの条を読んでも全体像が見えないため、毎年同じことを調べ直すことになります。
この記事では、社会福祉法と組合等登記令に戻って、理事長にまつわる規定を事務局が使う順番で並べ直します。
理事長は誰が選ぶのか ― 理事会が、理事の中から
まず出発点です。理事長を選ぶのは理事会であって、評議員会ではありません。
社会福祉法第45条の13は、理事会の職務としてこう定めています。
理事会は、次に掲げる職務を行う。一社会福祉法人の業務執行の決定二理事の職務の執行の監督三理事長の選定及び解職
そして同条第3項が、選定を義務づけています。
理事会は、理事の中から理事長一人を選定しなければならない。
ここから3つのことが確定します。
- 理事長は「理事の中から」選ぶ。 理事でない人を理事長にはできません。したがって、まず評議員会で理事に選任され、その後に理事会で理事長に選定されるという2段構えになります
- 理事長は一人。 「共同代表」や「副理事長を代表権付きで置く」という設計は、この条文では想定されていません
- 解職も理事会の職務。 理事長を解職しても理事の地位は残ります。理事から外すには評議員会の決議が必要です
順番を間違えると、理事長が不在の期間が生じます。定時評議員会の後に理事会を開いて理事長を選定する、という流れを毎年の予定表に固定しておくのが安全です。理事会と評議員会の役割分担については社会福祉法人の理事会と評議員会の記事で整理しています。
理事長は何ができるのか ― 代表権の範囲
理事長の権限は第45条の17です。
理事長は、社会福祉法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
第2項が実務的に重要です。「1,000万円を超える契約は理事会の承認を要する」といった内部の取り決めをしていても、それを知らない相手方には主張できない、ということです。理事長が独断で結んだ契約が、外に対しては有効に成立してしまいます。
内部統制としてやるべきことは、契約の効力を後から争うことではなく、理事長が単独で動かないで済む決裁の流れをあらかじめ作っておくことです。経理規程・決裁規程で金額と決裁者を対応づけておく形が一般的です。規程の書き方については社会福祉法人の経理規程モデルの記事で扱っています。
業務執行理事との違い
第45条の16第2項は、業務を執行する理事を2種類挙げています。
次に掲げる理事は、社会福祉法人の業務を執行する。一理事長二理事長以外の理事であつて、理事会の決議によつて社会福祉法人の業務を執行する理事として選定されたもの
第二号が業務執行理事です。理事長と業務執行理事の違いは、はっきりしています。
| 理事長 | 業務執行理事 | |
|---|---|---|
| 人数 | 1人(第45条の13第3項) | 制限なし |
| 業務の執行 | する | する |
| 代表権 | あり(第45条の17第1項) | なし |
| 選定 | 理事会 | 理事会の決議 |
業務執行理事には代表権がありません。対外的に法人を代表して契約できるのは理事長だけです。「常務理事」「専務理事」といった呼び名を定款で置いている法人もありますが、呼称と代表権は別の話なので、登記の記載を確認するのが確実です。
3か月に1回以上の報告義務
見落とされやすいのが、第45条の16第3項です。
前項各号に掲げる理事は、三月に一回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。ただし、定款で毎会計年度に四月を超える間隔で二回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでない。
理事長と業務執行理事は、3か月に1回以上、自分の職務執行の状況を理事会に報告する義務があります。理事会が年3回程度しか開かれない法人では、この報告のために理事会の回数が決まってくる、という関係になります。
ただし書きも押さえておいてください。定款で「毎会計年度に4月を超える間隔で2回以上」報告する旨を定めた場合は、3か月ルールが外れます。 自法人の定款にこの定めがあるかどうかで、必要な理事会の回数が変わります。理事会の開催と成立要件については社会福祉法人の理事会の成立要件の記事で整理しています。
任期はいつまでか ― 「選任後2年以内に終了する会計年度」の数え方
冒頭の質問への答えです。理事長の任期を定めた条文はありません。理事長は理事であることが前提なので、理事としての任期が切れれば理事長の地位も終わります。
役員の任期は第45条です。
役員の任期は、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。
この条文は、日付を数える順番を守れば必ず答えが出ます。3ステップで確認します。
例1:令和8年6月の定時評議員会で選任された場合
| 手順 | 確認すること | 結果 |
|---|---|---|
| ① | 選任の日から2年以内はいつまでか | 令和10年6月まで |
| ② | その間に終了する会計年度は | 令和8年度(令和9年3月31日終了)と令和9年度(令和10年3月31日終了) |
| ③ | そのうち最終のものは | 令和9年度 |
→ 任期は、令和9年度に関する定時評議員会(令和10年6月頃)の終結の時まで。おおむね2年です。
例2:令和8年11月の臨時評議員会で選任された場合
| 手順 | 確認すること | 結果 |
|---|---|---|
| ① | 選任の日から2年以内はいつまでか | 令和10年11月まで |
| ② | その間に終了する会計年度は | 令和8年度と令和9年度 |
| ③ | そのうち最終のものは | 令和9年度 |
→ 任期は例1と同じく令和10年6月頃の定時評議員会の終結の時まで。実際の在任は約1年7か月で、2年より短くなります。
年度途中で選任された役員の任期が短くなるのは、この条文の当然の帰結です。「就任から2年」ではありません。 期中の増員や補欠選任をしたときは、必ずこの3ステップで数え直してください。
理事長になれる人の要件
「理事長の資格要件」を定めた条文はありません。理事長は理事の中から選ばれるので、理事の要件がそのまま理事長の要件になります。
欠格事由(第40条第1項・第44条第1項で準用)
次に該当する人は役員になれません。
- 法人
- 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として厚生労働省令で定めるもの
- 生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法又は社会福祉法の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
- 前号に該当する者を除くほか、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
- 第56条第8項の規定による所轄庁の解散命令により解散を命ぜられた社会福祉法人の解散当時の役員
- 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
4つめの刑罰の要件は、かつて「禁錮以上の刑」と規定されていましたが、刑法改正により拘禁刑に置き換わっています。古い規程やチェックリストの表現が残っていないか、この機会に確認しておくと安全です。
理事全体の構成要件(第44条第4項)
理事は6人以上必要で(第44条第3項)、そのうちに次の者が含まれていなければなりません。
一社会福祉事業の経営に関する識見を有する者二当該社会福祉法人が行う事業の区域における福祉に関する実情に通じている者三当該社会福祉法人が施設を設置している場合にあつては、当該施設の管理者
親族等の制限(第44条第6項)
理事のうちに、各理事について、その配偶者若しくは3親等以内の親族その他厚生労働省令で定める特殊の関係がある者が3人を超えて含まれてはならず、また、当該理事とそれらの者の合計が理事の総数の3分の1を超えてはならないとされています。理事6人の法人であれば、同族関係者は2人までです。
理事長個人に特別な資格は要らない一方、理事長を含めた理事全体の構成でこれらを満たす必要がある、という構造です。
理事長は施設長を兼ねられるか
結論から言うと、兼務を禁じる規定はありません。
むしろ第44条第4項第三号は、施設を設置している法人では施設の管理者が理事に含まれていなければならないとしています。施設長は理事に入る前提の制度設計であり、その理事が理事会で理事長に選定されることを妨げる条文はありません。小規模な法人では実際によくある形です。
ただし、次の2点は分けて考える必要があります。
- 監事は兼務できない。 第44条第2項は「監事は、理事又は当該社会福祉法人の職員を兼ねることができない。」と定めています。施設長は法人の職員ですから、施設長が監事を兼ねることはできません
- 理事長が施設長を兼ねると、監督する側とされる側が同じ人になる。 理事会の職務には「理事の職務の執行の監督」(第45条の13第2項第二号)が含まれます。法律上は可能でも、指導監査で牽制の効き方を問われる場面はあります。業務執行理事を別に置く、監事監査の対象を明確にするなど、監督が形だけにならない設計を併せて考えておくのが実務的です
なお、施設長として受ける給与と、理事としての報酬は性質が異なります。二重取りに見えないよう、職務の内容と支給の根拠を規程で分けて書いておくことをお勧めします。
報酬はどう決めるか ― 支給の基準と評議員会の承認
役員報酬は第45条の35です。
社会福祉法人は、理事、監事及び評議員に対する報酬等について、厚生労働省令で定めるところにより、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該社会福祉法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めなければならない。
前項の報酬等の支給の基準は、評議員会の承認を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
社会福祉法人は、前項の承認を受けた報酬等の支給の基準に従つて、その理事、監事及び評議員に対する報酬等を支給しなければならない。
押さえるべきは3点です。
- 決めるのは「支給の基準」であって、個々の金額ではない。 基準を作り、それに従って支給します
- 基準は評議員会の承認が必要。変更するときも同じ。 理事会だけでは変えられません
- 「不当に高額」でないことの説明材料が要る。 条文は、民間事業者の役員報酬・従業員給与・自法人の経理の状況を考慮せよと書いています。基準を作るとき、この3つを参照した記録を残しておくと、監査で説明が早くなります
無報酬とする場合も、その旨を含めて基準を定め、評議員会の承認を受ける形になります。
登記 ― 変更から2週間
見落とすと実害が出るのがここです。社会福祉法人の登記は、組合等登記令によります。
登記事項の一つとして、同令第2条第2項第四号は「代表権を有する者の氏名、住所及び資格」を挙げています。代表権を有する者=理事長です。理事全員を登記するのではなく、理事長だけが登記されます。
そして変更の期限は第3条第1項です。
組合等において前条第二項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければならない。
2週間以内です。理事長が交代したときはもちろん、理事長が任期満了で再び選定された場合も「重任」の登記が必要です。同じ人が続けるので変更がないように見えますが、任期が満了して新たに選定されている以上、登記事項に変更が生じています。ここが最も漏れやすい場面です。
さらに、社会福祉法第29条第2項がこう定めています。
前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
登記が遅れている間は、新しい理事長であることを対外的に主張できません。金融機関や取引先との手続きで実際に止まります。
定時評議員会 → 理事会で理事長選定 → 2週間以内に登記申請。この3つを1本の流れとして予定表に入れておくのが確実です。理事会議事録は登記の添付書類にもなるため、署名・押印の要件も併せて確認してください。議事録の要件については社会福祉法人の理事会議事録の記事で整理しています。
理事長が欠けたとき
理事長が辞任・死亡などで欠けた場合、法人が代表者不在になると業務が止まります。社会福祉法はこれに備えた規定を置いています。
第45条の17第3項は、第45条の6第1項及び第2項を理事長について準用し、その際「この法律又は定款で定めた役員の員数が欠けた場合」とあるのを「理事長が欠けた場合」と読み替えるとしています。
その効果は次のとおりです。
- 任期の満了または辞任により退任した理事長は、新たに選ばれた理事長(一時理事長の職務を行うべき者を含む)が就任するまで、なお理事長としての権利義務を有する(第45条の6第1項の準用)。したがって、任期満了や辞任の場合には空白期間が生じません
- 事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、所轄庁は、利害関係人の請求により又は職権で、一時理事長の職務を行うべき者を選任することができる(同条第2項の準用)
注意すべきは、死亡や解職の場合には「権利義務を有する」の規定が働かないことです。条文が対象としているのは任期満了と辞任だからです。急な事態では、速やかに理事会を招集して新しい理事長を選定する必要があります。理事会を誰が招集できるかを定款で確認しておく(第45条の14第1項)ことが、いざというときに効きます。
事務局がつまずくのは、たいてい「日付の管理」
ご支援に入っていて実際に困りごとになるのは、条文の解釈ではありません。次の3つです。
- 役員ごとの任期満了日が一覧になっていない。 期中に選任された役員がいると満了時期がずれるため、名簿だけでは分かりません。選任日・満了する定時評議員会・登記の要否を1行にまとめた表を作ると、毎年の確認が数分で終わります
- 登記の2週間に気づくのが遅れる。 理事会の議事録を作った時点で登記の起算が始まっています。議事録の作成タスクと登記申請のタスクを同じ場所で管理していないと、片方だけが進みます
- 報酬の支給の基準がどこにあるか分からない。 承認を受けた年度と、その後の変更履歴が追えなくなっている法人が少なくありません。規程は最新版だけでなく、承認した評議員会の日付とセットで保管してください
いずれも、書類そのものではなく書類と日付のひも付けが切れていることが原因です。年間の予定表に「定時評議員会 → 理事会 → 登記」を1つのまとまりとして置くだけで、かなりの部分が防げます。
まとめ
- 理事長は、理事会が理事の中から一人を選定する(第45条の13第2項第三号・第3項)。評議員会ではない
- 理事長は業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持ち、権限への制限は善意の第三者に対抗できない(第45条の17)
- 業務執行理事は業務を執行するが、代表権はない(第45条の16第2項)
- 理事長と業務執行理事は、3か月に1回以上、職務執行の状況を理事会に報告する。定款に定めがあれば「毎会計年度に4月を超える間隔で2回以上」でよい(第45条の16第3項)
- 任期は「選任後2年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」(第45条)。年度途中の選任では2年より短くなる
- 理事長固有の資格要件はなく、理事の欠格事由(第40条第1項)と理事全体の構成要件(第44条)を満たすことが前提
- 理事長と施設長の兼務を禁じる規定はない。 ただし監事は理事・職員を兼ねられない(第44条第2項)
- 報酬は「支給の基準」を定め、評議員会の承認を受ける。変更時も同様(第45条の35)
- 代表権を有する者の氏名・住所・資格は登記事項で、変更から2週間以内に登記する(組合等登記令第2条第2項第四号・第3条第1項)。重任も登記が必要
- 登記しなければ、第三者に対抗できない(社会福祉法第29条第2項)
参考にした一次情報
※定款の定めによって取扱いが変わる部分(任期の短縮、理事会の招集権者、報告の間隔など)があります。最終的な判断は自法人の定款と所轄庁の指導、および司法書士・顧問弁護士にご確認ください。
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