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源泉徴収の義務|社会福祉法人でも支払の種類ごとに条文で決まる

職員の給与、理事への報酬、研修に来てもらった外部講師への謝金、顧問の税理士や社会保険労務士への報酬。社会福祉法人の法人本部では、性質の違う支払が毎月のように発生します。そのたびに、「これは源泉徴収が要るのだったか」「納付はいつまでだったか」と、手を止めて確かめている事務担当の方は多いのではないでしょうか。

法人税のことなら、社会福祉法人ならではの話をよく耳にします。では源泉徴収はどうなのか。法人の種類によって扱いが変わるのか、それとも変わらないのか。検索すると、税理士事務所のブログや、法人の種類を問わない一般的な解説は見つかります。けれども、社会福祉法人を主語にして、所得税法の条文だけで組み立てたものは、あまり多くありません。

この記事は、所得税法(昭和40年法律第33号)の本則から、源泉徴収に関する次の条文を抜き出し、その原文だけを根拠に整理します。

  • 給与所得・退職所得の定義(第28条・第30条)
  • 給与等に係る源泉徴収(第183条・第185条・第186条・第190条・第194条)
  • 退職手当等に係る源泉徴収(第199条・第201条)
  • 報酬・料金に係る源泉徴収(第204条〜第206条)
  • 納期の特例(第216条)
  • 納付の手続と、納めなかったときの定め(第220条〜第222条)

この記事が答えようとする問いは1つです。所得税法は、源泉徴収の義務を「法人の種類」ではなく「何を支払ったか」で決めている。だから社会福祉法人の事務でも、支払の種類ごとに条文を引き当てればよい。 この見立てを、条文の原文で確かめていきます。

なお、税率、源泉徴収税額表の金額、具体的な計算例は、この記事の根拠にした条文の範囲では扱えないため書きません。個別の支払がどの条文に当たるかの最終的な判断も、顧問税理士のご確認が前提です。

目次

まず結論:源泉徴収は「支払の種類」で条文が決まる

先に答えを示します。

  • 所得税法の本則を機械的に検索すると、「社会福祉法人」という語は0回。源泉徴収の義務は、法人の種類ではなく、何を支払ったかで書き分けられている
  • 給与等の源泉徴収は第183条。「居住者に対し国内において」給与等の支払をする者が、その支払の際に所得税を徴収する
  • 退職手当等は第199条、講演料や士業への報酬は第204条。いずれも、徴収した月の翌月十日までに国へ納付する、という書き方で、給与と同じ期限が並んでいる
  • 理事・監事の報酬は、「第28条第1項の給与等に当たるか」を起点に考える。条文だけでは「必ず給与所得」とは言えず、個別の契約や支給の実態による
  • 納期の特例(第216条)は、支払事務を取り扱う事務所等ごとに、給与等の支払を受ける者が常時十人未満であることと、税務署長の承認が条件
  • 納付しなかったときは、税務署長がその所得税を徴収する(第221条)

支払の種類と条文の対応を、一覧にします。

支払の種類起点になる条文徴収と納付の書き方
給与等(給料・賞与など)第28条第1項、第183条第1項支払の際に徴収し、徴収の日の属する月の翌月十日までに納付
退職手当等第30条第1項、第199条同じ書き方
講演料など(第1項第一号)第204条第1項第一号同じ書き方
弁護士・税理士・社会保険労務士などへの報酬(第1項第二号)第204条第1項第二号同じ書き方

ここからは、この結論を条文で確かめます。

所得税法は「法人の種類」を問うていない

本則に「社会福祉法人」は出てこない

この記事を書くにあたって、所得税法の本則を機械的に検索しました(2026年10月5日確認)。その結果、「社会福祉法人」という語は0回でした。この記事の根拠にした15条の抜粋にも、もちろん出てきません。

では、給与の源泉徴収の義務は誰に課されているのか。第183条第1項は、次のように書いています。

居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

主語は「給与等の支払をする者」です。その支払をする者が、株式会社か、個人事業主か、社会福祉法人かは、この文の中で問われていません。条文が見ているのは、支払を受ける相手(居住者)と、支払の種類(給与等)です。

法人税の扱いがどうであっても、源泉徴収は別の条文で決まる

法人税の取扱いは、法人の種類によって話が変わる分野です。社会福祉法人の法人税と収益事業については、社会福祉法人の法人税と収益事業の記事で整理しています。

この記事の根拠は所得税法だけなので、法人税の扱いには立ち入りません。ここで押さえておきたいのは、法人税の扱いがどうであっても、源泉徴収の義務は所得税法の別の条文が、支払の種類ごとに定めているという点です。法人税の話と源泉徴収の話は、条文の入口が別々です。

「居住者」の定義は、この記事では扱わない

第183条第1項は「居住者に対し」と書いています。居住者とは何かは、所得税法の別の条(第2条)が定めており、この記事の根拠にした抜粋には含まれていません。したがって、「どんな職員・講師なら居住者か」という点は、この記事では扱いません。

給与等の源泉徴収(第28条・第183条ほか)

給与等とは何か

第183条第1項が引く「給与等」は、第28条第1項で定義されています。

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

条文が挙げているのは、俸給、給料、賃金、歳費、賞与、そして「これらの性質を有する給与」です。職員への毎月の給料や賞与が給与等に当たることは、この文言から読み取れます。一方、手当や現物の支給のうち、どこまでが「これらの性質を有する給与」に入るかは、条文の文言だけでは判断できません。

徴収した月の翌月十日までに納付する

第183条第1項は、徴収の時期を「その支払の際」、納付の期限を「その徴収の日の属する月の翌月十日まで」と書いています。支払のたびに徴収し、月ごとにまとめて翌月十日までに納める、という流れです。

徴収する額の決め方は第185条・第186条

徴収する額の決め方は、第185条と第186条に書かれています。金額そのものは別表に委ねられており、この記事では触れません。構造だけ、次のとおり整理します。

  • 第185条(賞与以外の給与等):給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に支払う給与等は別表第二・別表第三の「甲欄」(第1項第一号)。それ以外の給与等は「乙欄」(同項第二号)。労働した日又は時間によって算定され、かつ労働した日ごとに支払を受ける給与等で政令で定めるものは「丙欄」(同項第三号)
  • 第186条(賞与):賞与は別の定めで、前月中に通常の給与等の支払があるかどうかなどで場合分けされている。賞与の金額が前月中の通常の給与等の金額の十倍を超えるときの定めも、同条第2項に置かれている

つまり、扶養控除等申告書が出ているかどうかで、甲欄か乙欄かが分かれることになります。この申告書の提出について、第194条第1項は次のように書いています。

国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該給与等の支払者を経由して、

この文は続けて、その申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない、と定めています。申告書は、給与の支払者を経由して提出する仕組みです。社会福祉法人の事務担当者は、職員から申告書を預かる側に立ちます。提出の期限は「毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日まで」ですから、新年度や新規採用の時期に、申告書の回収漏れが起きないようにしておく必要があります。

年末調整は第190条に定めがある

第190条は、年末調整の根拠です。扶養控除等申告書を提出した居住者について、その年最後に給与等の支払をする際に、これまでに徴収した所得税の合計額と、年間の給与等から計算した税額との過不足を整理する、という内容です。不足額は、その年最後に給与等の支払をする際に徴収し、徴収の日の属する月の翌月十日までに納付します。具体的な手順は、この記事では扱いません。

理事・監事の報酬は、条文のどこから考えるか

社会福祉法人の事務担当者が悩みやすいのが、理事・監事への報酬です。この記事の根拠にした抜粋には、「理事」「監事」という語は出てきません。したがって、理事報酬を特定の条文に当てはめて断定することはできません。条文から言えるのは、考え方の筋道までです。

筋道は、次のとおりです。

  1. その報酬が、第28条第1項の「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」に当たるか
  2. 当たるなら、第183条第1項の給与等として、支払の際に徴収する
  3. 給与等に当たらないなら、第204条第1項の各号のいずれかに当たるかを見る

2と3の関係は、第204条第2項第一号が整理しています。第1項に挙げた報酬や料金のうち、第28条第1項の給与等または第30条第1項の退職手当等に該当するものは、第204条第1項の規定を適用しない、という書き方です。給与等に当たるものは、第183条側で処理する、という分担です。

どの区分に当たるかは、報酬の支払いの根拠となる契約や、支給の実態によって変わりえます。「理事報酬は必ず給与所得である」と、条文から言い切ることはできません。 個別の判断は、顧問税理士にご確認ください。報酬の決め方そのものについては、社会福祉法人の役員報酬の記事で整理しています。

役員に関する定めが2か所ある

抜粋の中で、役員に触れた規定は2か所あります。1つ目は、第183条第2項です。

法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。

役員に対する賞与は、支払が確定してから一年を経過しても支払われないときは、その一年を経過した日に支払があったものとみなして、源泉徴収の規定が適用される、という定めです。もう1つは、第30条第5項で、退職手当等のうち「役員等」としての勤続年数が五年以下の場合の特定役員退職手当等に関するものです。

どちらも、役員の範囲を「法人税法第二条第十五号に規定する役員」で定めています。この規定は法人税法の条文であり、社会福祉法人の理事・監事がこれに当たるかどうかは、この記事の根拠にした抜粋からは判断できません。該当の有無は、顧問税理士に確認してください。

給与以外の支払は第204条が拾っている

第204条第1項は「居住者に対し」の支払を列挙する

給与以外の支払のうち、源泉徴収の対象になるものは、第204条第1項が列挙しています。柱書は次のとおりです。

居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

給与の第183条第1項と、文の形がそっくりです。「支払の際に徴収し、徴収の日の属する月の翌月十日までに納付」という点で、給与も第204条の報酬も、期限は同じ書き方になっています。

社会福祉法人の事務で出てきやすい2つの号

第1項には第一号から第八号まであります。社会福祉法人の法人本部の事務で出てきやすいのは、次の2つです。

第一号は、外部講師への謝金に関わりうる号です。

原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金

研修会に外部講師を招いたときの謝金は、条文に「講演料」と書かれているため、この号に関わりうると考えられます。ただし、「これらに類するもので政令で定める」とあるとおり、どこまでが対象かは政令に委ねられています。個別の謝金がこの号に当たるかどうかは、条文だけでは判断できません。

第二号は、士業への報酬です。

弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金

顧問の税理士や社会保険労務士への報酬が、この号に当たりうることは、条文に職種が名指しされていることから読み取れます。これも「その他これらに類する者で政令で定めるもの」の部分は政令次第です。

第205条は徴収する額の定め

第204条第1項で徴収する額は、第205条が定めています。この記事では税率や金額は扱いませんが、構造だけ確認しておきます。第205条は、第204条第1項の報酬などを2つに分けています。第一号は第204条第1項第一号・第二号・第四号・第五号・第七号の報酬などで、第二号に掲げるものを除いたもの。第二号は、第204条第1項第二号のうち司法書士・土地家屋調査士・海事代理士の業務に関する報酬などです。同じ第204条第1項第二号の中でも、弁護士・税理士・社会保険労務士などと、司法書士・土地家屋調査士・海事代理士とで、徴収する額の計算の仕方が分かれています。

「給与等に当たるもの」と「支払う側が個人のもの」は除かれる

第204条第2項は、第1項を適用しないものを3つ挙げています。事務担当者に関わるのは、主に第一号と第二号です。

第一号は、すでに触れた給与等・退職手当等との分担です。

前項に規定する報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(次号において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等に該当するもの

第二号は、支払う側が一定の個人である場合の除外です。

前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの

ここで注意したいのは、この除外が見ているのは支払を受ける側ではなく、支払う側だという点です。「給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの」と書かれているとおり、除外されるのは、給与の源泉徴収義務を負わない個人が支払う場合です。法人が支払う場面を除外する定めではありません。

では、支払を受ける側が個人か法人かで扱いが変わるのか。第204条第1項の柱書は「居住者に対し」の支払と書いています。居住者の定義は、前に述べたとおりこの記事の根拠にした抜粋に含まれていません。したがって、法人に報酬を支払う場合の扱いは、条文だけでは判断できません。実務では、支払先が個人か法人かを、支払のたびに記録に残しておくことが、あとで確認するための土台になります。

退職手当等の源泉徴収(第30条・第199条・第201条)

退職金を支払うときの源泉徴収は、給与とは別の条で定められています。退職所得とは何かは、第30条第1項です。

退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。

源泉徴収の義務は、第199条です。

居住者に対し国内において第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その退職手当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

文の形は、第183条第1項と同じです。期限も、徴収の日の属する月の翌月十日です。

徴収する額は、第201条が定めています。その分かれ目の1つは、退職手当等の支払を受ける居住者が「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかです。申告書が提出されているときは、第201条第1項と第2項が、その申告書の記載(支払済みの他の退職手当等の有無)に応じた場合分けをしています。申告書が提出されていないときは、同条第3項が、支払う退職手当等の金額に一定の率を乗じて計算する、と別建てで定めています。数値と計算の中身は、この記事では扱いません。

退職金を支払う前に、退職所得の受給に関する申告書が出ているかを確かめる。これが、条文の構造から導ける事務上の確認点です。

なお、社会福祉施設職員等退職手当共済制度は、所得税法とは別の制度です。共済の話は、この記事の根拠にした条文には含まれないため、立ち入りません。

納期の特例(第216条)

「源泉徴収 納期の特例」は、検索でもよく調べられている語です。第216条の原文に沿って、要件を確認します。

特例の対象は「事務所等」で、人数は常時十人未満

第216条は、給与等や退職手当等の支払をする者が、その支払事務を取り扱う事務所、事業所などについて、税務署長の承認を受けた場合の特例です。ここで見落としやすいのが、人数の要件がかかる単位です。条文は、その事務所や事業所などを次のように定義しています。

給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。以下この章において「事務所等」という。

つまり、「法人全体の職員が十人未満」ではなく、給与等の支払事務を取り扱う事務所等ごとに、給与等の支払を受ける者が常時十人未満であることが要件になっています。複数の事業所を持ち、本部で給与の支払事務をまとめて行っている法人の場合に、どの単位で数えるのかは、条文の文言だけでは判断しにくい面があります。迷う場合は、所轄の税務署か顧問税理士に確認してください。

また、第216条の柱書は、第184条に規定する者を除くと書いています。第184条の中身は、この記事の根拠にした抜粋には含まれていないため、触れません。

承認が要る

特例を使うには、承認が必要です。承認の相手は、事務所等の所在地の所轄税務署長です。

当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には

人数の要件を満たしていれば自動的に適用される、という仕組みではありません。承認を受けて初めて使える特例です。

納付の期限はこう変わる

承認を受けた事務所等は、納付の時期を、次のようにまとめられます。

一月から六月までの期間に係る給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額にあつては当該期間の属する年の七月十日までに、七月から十二月までの期間に係る給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額にあつては当該期間の属する年の翌年一月二十日までに国に納付することができる。

整理すると、次のとおりです。

支払の期間納付期限
1月から6月までその年の7月10日まで
7月から12月までその翌年の1月20日まで

注意したいのは、変わるのは納付の時期で、徴収の時期ではないことです。条文は「徴収した所得税の額を、…国に納付することができる」と書いています。給与や報酬を支払う際に徴収することは、特例を使っても変わりません。

対象になるのは給与等・退職手当等と、第204条第1項第二号の報酬

特例の対象を、第216条は「給与等及び退職手当等」と書き、その括弧書きで次のものを含めています。

(非居住者に対して支払つた給与等及び退職手当等並びに第二百四条第一項第二号(源泉徴収をされる報酬又は料金)に掲げる報酬又は料金を含む。以下この条において同じ。)

括弧書きに挙げられているのは、第204条第1項第二号(弁護士・税理士・社会保険労務士などの報酬)です。同項第一号(講演料など)は、この条文には書かれていません。そのため、顧問税理士や社会保険労務士への報酬は、特例を使う場合に給与や退職手当等と同じ期限でまとめて納付できると読めますが、講演料の扱いは、この条文だけでは確認できません。外部講師への謝金がある法人は、特例を使う場合の扱いを、税務署か顧問税理士に確認してください。

承認を受けた日の属する期間

承認を受けた日の属する期間は、その日の属する月から、その期間の最終月までを1つの期間とする、とも書かれています。たとえば、年の途中で承認を受けたときの最初の期間は、承認を受けた月から6月または12月までになります。

納めなかったときの条文(第220条〜第222条)

納付の際は計算書を添える(第220条)

源泉徴収した所得税を納付するときの手続は、第220条です。納付書に、財務省令で定める計算書を添付しなければならない、とあります。計算書の様式は、条文には書かれていません。

納付しなかったときは、税務署長が徴収する(第221条)

納付しなかったときについては、第221条第1項が定めています。

第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する。

徴収して納付すべき者が納付しなかったときは、税務署長がその者から徴収する、という定めです。第2項と第3項には、支払の日や支払金額が分からないときに、税務署長が推定や推計によって徴収できる、という規定が置かれています。支払の記録が不十分だと、推定や推計に頼られる余地が出る、という見方もできます。支払の日や金額の記録を、きちんと残しておく理由の1つです。

徴収していなかった場合は、後から控除・請求できる(第222条)

第222条は、徴収すべきだった所得税を徴収していなかった場合の、支払う側と受け取る側の関係を定めています。第221条の規定により所得税を徴収された者が、源泉徴収の規定による徴収をしていなかった場合や、徴収せずに納付の期限後に納付した場合には、その徴収をしていなかった所得税の額に相当する金額を、その後に支払うべき金額から控除し、または支払を請求することができます。この場合、控除された金額や請求に基づき支払われた金額は、徴収される側については、源泉徴収の規定により徴収された所得税とみなされます。

なお、期限に遅れたときに別に課される税の定めは、国税通則法の規定であり、この記事の根拠にした所得税法の抜粋には含まれていません。この記事では扱いません。

法人本部の備え方:支払の種類ごとに「どの条文か」を台帳にする

ここまでが条文から言えることです。ここから先は、条文が求めていることではなく、実務上の提案です。

給与、講演料、士業への報酬と、支払の種類ごとに担当者が別々の表計算ソフトで管理していると、源泉徴収の漏れや納付期限の管理が属人的になりがちです。次のような項目を、1つの台帳にまとめておくことを提案します。

項目何のために使うか
支払先(個人か法人か)第204条第1項柱書の「居住者に対し」に当たるかの確認材料にする
支払の種類と、考えられる根拠条文給与等(第183条)、退職手当等(第199条)、報酬など(第204条)の整理
支払日と支払金額第221条第2項以下の推定・推計に頼られないよう、記録を残す
徴収した額納付額との突き合わせ
納付期限原則は翌月十日。特例を使う場合は7月10日と翌年1月20日
納期の特例の承認の有無と、対象の事務所等事務所等ごとの承認を確認する
税理士への確認の要否条文だけで判断できない支払を、記録に残す

運用のポイントは3つです。

  1. 新しい種類の支払が発生したら、台帳に「どの条文か」を書き、判断に迷うものは顧問税理士に確認してから記録する。理事報酬や外部講師への謝金のように、条文だけで言い切れないものほど、確認した結果を残しておく
  2. 納付期限は、給与・退職手当等・第204条の報酬を、同じ「翌月十日」でまとめて管理する。第183条・第199条・第204条の柱書が同じ書き方なので、期限をそろえて管理しやすい
  3. 納期の特例を使っている場合は、承認を受けた事務所等の範囲と、期限(7月10日・翌年1月20日)をカレンダーに入れる

この記事で書いていないこと

この記事は、所得税法の抜粋した条文の原文として確認できた範囲だけを書いています。次の点は、根拠にした条文に含まれていないため、扱っていません。

  • 税率、源泉徴収税額表の金額、具体的な計算例(第205条などが政令や別表に委ねている部分を含む)
  • 「居住者」の定義と、支払先が法人の場合の扱い
  • 理事・監事の報酬が、給与等に当たるかどうかの個別の判断
  • 理事・監事が「法人税法第二条第十五号に規定する役員」に当たるかどうか
  • 第184条に規定する者の範囲
  • 源泉徴収票の交付などの、抜粋に含まれない手続
  • 年末調整の具体的な手順
  • 国税通則法に基づく、納付が遅れた場合の加算税
  • 法人税の取扱い、消費税・インボイスの話
  • 社会福祉施設職員等退職手当共済制度

判断に迷うときは、顧問税理士や所轄の税務署に確認してください。

まとめ

  • 所得税法の本則に「社会福祉法人」という語は出てこない。源泉徴収の義務は、法人の種類ではなく、支払の種類ごとに条文が決めている
  • 給与等は第183条、退職手当等は第199条、講演料や士業への報酬は第204条。いずれも徴収の日の属する月の翌月十日までに納付する、という書き方で、期限の形がそろっている
  • 理事・監事の報酬は、第28条第1項の給与等に当たるかが起点。条文だけで「必ず給与所得」とは言えず、個別の判断は顧問税理士に確認する
  • 第204条第2項の除外は、支払う側が給与の源泉徴収義務を負わない個人である場合などの定め。法人が支払う場面の除外ではない
  • 納期の特例(第216条)は、事務所等ごとに給与等の支払を受ける者が常時十人未満で、税務署長の承認を受けた場合の特例。納付の期限は7月10日と翌年1月20日になり、徴収の時期は変わらない
  • 納付しなかったときは、税務署長がその所得税を徴収する(第221条)。支払の日や金額の記録は、きちんと残しておく
  • 実務では、支払の種類・支払先が個人か法人か・根拠条文・納付期限を1つの台帳にまとめるところから始められる

源泉徴収は、一度仕組みをつくれば終わりではなく、新しい種類の支払が発生するたびに、条文のどこに当たるかを確かめる事務です。支払の種類ごとに条文を引き当てる習慣と、判断に迷うものを税理士に確認して記録する流れを、法人の中に置いておくことが、徴収漏れや納付の遅れを防ぐ近道です。

支払の種類ごとの記録と納付期限を、法人全体で見渡せるようにしたい法人様へ

給与、講演料、士業への報酬と、支払の種類ごとに担当者が別々の表計算ソフトで管理していて、源泉徴収の漏れや納付期限の管理が属人的になっている、というご相談をいただくことがあります。パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。支払の記録を法人全体で見渡せるようにして、確認や納付期限の管理をシステム側で軽くするお手伝いをしています。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。

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※本記事は所得税法の条文を整理したものです。税率や具体的な計算、個別の支払がどの条文に当たるかの判断は、顧問税理士のご確認をお願いします。


参考にした一次情報

  • 所得税法(昭和40年法律第33号)第28条(給与所得)・第30条(退職所得)・第183条(源泉徴収義務)・第185条(賞与以外の給与等に係る徴収税額)・第186条(賞与に係る徴収税額)・第190条(年末調整)・第194条(給与所得者の扶養控除等申告書)・第199条(源泉徴収義務)・第201条(徴収税額)・第204条(源泉徴収義務)・第205条(徴収税額)・第206条(源泉徴収を要しない報酬又は料金)・第216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)・第220条(源泉徴収に係る所得税の納付手続)・第221条(源泉徴収に係る所得税の徴収)・第222条(不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等)|e-Gov法令検索

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