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社福の有価証券|流動と投資の違いから時価評価・償却原価法・注記まで

余裕資金で債券や投資信託を持っている法人では、決算のたびに「この債券は有価証券なのか、投資有価証券なのか」「時価で評価するのか、取得価額のままでよいのか」「資金収支計算書のどこに出るのか」と手が止まることはないでしょうか。

この記事では、令和8年11月7日に取得した社会福祉法人会計基準(e-Gov法令検索)と、厚生労働省の法令等データベースに掲載された運用上の取扱い・運用上の留意事項に書かれている範囲だけを使って、有価証券の会計処理を整理します。社会福祉法人会計基準は以下「会計基準」、運用上の取扱いは「取扱い」、運用上の留意事項は「留意事項」と書きます。

取扱いと留意事項は、平成28年3月31日付の通知(雇児発0331第15号、雇児総発0331第7号など)として厚生労働省の法令等データベースに掲載されているものを確認しました。その後の改正がこの掲載版に反映されているかは確認できていません。決算で使う前に、所轄庁や顧問の会計士・税理士に、最新の版を確かめてください。

また、本記事は会計の扱いに絞ります。何で運用してよいか(投資できる商品の範囲、基本財産としての保有、資金運用規程の要否など)は、所轄庁の審査基準や法人の規程の話で、ここでは扱いません。

この記事で整理するのは、次の6点です。

  • 流動資産の「有価証券」と固定資産の「投資有価証券」は、何が違うのか
  • 期末に時価を付けるものと、付けないものは、どう分かれるのか
  • 満期保有目的の債券で、償却原価法はいつ使うのか。重要性が乏しければ使わなくてよいのか
  • 評価益・売却益などの科目と、資金収支計算書の取得支出・売却収入は何を指すのか
  • 外貨建の有価証券は、決算でどう換算するのか
  • 注記に、満期保有目的の債券の何を書くのか

条文から言えることと言えないことは分けて書きます。仕訳の例は、すべて弊社が置いた仮の数字です。

目次

先に結論

  • 流動資産の有価証券は、時価の変動により利益を得ることを目的とするものです。固定資産の投資有価証券は、長期的に所有する有価証券で基本財産に属さないものです(留意事項の勘定科目の説明)。
  • 会計基準第4条第5項は、満期保有目的の債券以外の有価証券のうち市場価格のあるものに、会計年度の末日の時価を付すよう求めています。
  • 満期保有目的の債券を債券金額と違う価額で取得し、その差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法による価額が貸借対照表価額になります(取扱い15)。差額に重要性が乏しければ、償却原価法を適用しないことができます(取扱い1(4))。
  • 資金収支計算書の支払資金には、短期間で回収される有価証券等が含まれます(取扱い5)。投資有価証券の取得は投資有価証券取得支出、売却は投資有価証券売却収入(収入総額)です。
  • 外貨建有価証券等は、原則として決算時の為替相場で円換算し、換算差額は当期の為替差損益にします(取扱い13)。
  • 満期保有目的の債券は、第29条第1項第十一号により、内訳、帳簿価額、時価、評価損益を注記します。

科目の違い:有価証券と投資有価証券

目的で分かれる2つの科目

留意事項の別添「勘定科目の説明」は、有価証券を次のように説明しています。

国債、地方債、株式、社債、証券投資信託の受益証券などのうち時価の変動により利益を得ることを目的とする有価証券をいう。

投資有価証券の説明は、次のとおりです。

長期的に所有する有価証券で基本財産に属さないものをいう。

2つを並べると、分け方の軸が違うことが分かります。有価証券は「時価の変動により利益を得ること」という保有の目的で、投資有価証券は「長期的に所有する」という保有の期間の見込みと、基本財産かどうかで説明されています。

科目説明の要点貸借対照表の区分
有価証券時価の変動で利益を得る目的のもの流動資産
投資有価証券長期的に所有し、基本財産に属さないもの固定資産

貸借対照表の区分は、科目表で有価証券が流動資産、投資有価証券が固定資産の側に並んでいるという整理です。この区分そのものは、今回抜粋した科目の説明文には書かれていません。法人の科目表で確かめてください。貸借対照表全体の見方は、貸借対照表・財産目録の記事で整理しています。

なお、基本財産に属する有価証券は、投資有価証券の説明から外れます。どの科目に載せるかは、今回の抜粋には入っていません。

満期が近づいたら流動になるのか

流動と固定の区分は、取扱い6が債権債務について定めています。

貸付金、借入金等の経常的な取引以外の取引によって発生した債権債務については、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金又は支払の期限が到来するものは流動資産又は流動負債に属するものとし、入金又は支払の期限が1年を超えて到来するものは固定資産又は固定負債に属するものとする。

これは債権債務についての文言です。債券(有価証券)の満期が1年以内になったときに、同じ考え方で投資有価証券から有価証券へ振り替えるのかは、今回の抜粋には書かれていません。弊社の読み方では、投資有価証券の説明が「長期的に所有する」と目的や期間を軸にしているため、満期までの残りの期間だけで科目が機械的に決まるとは言い切れません。振替の要否は、顧問の会計士・税理士に確認してください。

期末の評価:第4条の3つの場面

取得したときは、取得価額

会計基準第4条第1項は、資産の評価の原則を定めています。

資産については、次項から第六項までの場合を除き、会計帳簿にその取得価額を付さなければならない。ただし、受贈又は交換によって取得した資産については、その取得時における公正な評価額を付すものとする。

有価証券も資産なので、購入した場合は、原則として取得価額で帳簿に載せます。寄附で受けた株式などは、ただし書の「受贈」に当たると考えられますが、これは弊社の読み方で、有価証券に特化した説明は今回の抜粋にはありません。

満期保有目的以外で市場価格があれば、時価

期末の評価で中心になるのが、第4条第5項です。

満期保有目的の債券(満期まで所有する意図をもって保有する債券をいう。第二十九条第一項第十一号において同じ。)以外の有価証券のうち市場価格のあるものについては、会計年度の末日においてその時の時価を付さなければならない。

読み取れることは次の3つです。

  1. 時価を付す対象は、満期保有目的の債券以外の有価証券
  2. その中でも、市場価格のあるものに限られる
  3. 時点は、会計年度の末日で、毎期付す

満期保有目的の債券は、「満期まで所有する意図をもって保有する債券」と、条文の括弧の中で定義されています。条文は、この意図を持つかどうかで区分しています。

区分期末の評価根拠
満期保有目的の債券時価評価の対象外。償却原価法の場面がある第4条第5項、取扱い15
満期保有目的以外で市場価格あり期末の時価第4条第5項
市場価格のないもの原則は取得価額。細目は抜粋に無い第4条第1項

3つ目の「市場価格のないもの」(市場で値が付かない株式など)は、第5項の対象外です。このため、第1項の原則に戻ると読めますが、評価の細目は今回の抜粋には書かれていません。

時価が著しく低いときは、第3項

もう1つ、第4条第3項があります。

会計年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産については、当該資産の時価がその時の取得原価まで回復すると認められる場合を除き、時価を付さなければならない。

「著しく低い」の目安は、留意事項22が示しています。

会計年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い資産とは、時価が帳簿価額から概ね50%を超えて下落している場合をいうものとする。

「概ね50%を超えて下落」という数字が、はっきり書かれています。第3項は「資産」と書かれており、満期保有目的の債券を除く文言は、今回の抜粋にはありません。ただし、満期保有目的の債券に第3項をどう当てはめるのか、償却原価法による価額との関係をどう考えるのかは、書かれていません。大きく値下がりしている債券を持っているときは、顧問の会計士・税理士に確認してください。

満期保有目的の債券と償却原価法

取扱い15:差額が金利の調整のときは償却原価法

満期保有目的の債券は、時価ではなく取得価額を基にしますが、債券金額(額面)と違う価額で取得した場合があります。このときの扱いが、取扱い15です。

満期保有目的の債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない。

読み取れることは次のとおりです。

  1. 対象は、満期保有目的の債券
  2. 条件は、取得価額と債券金額に差があり、その差額の性格が金利の調整と認められること
  3. 処理は、償却原価法で算定した価額を貸借対照表価額とすること

低く買った場合も、高く買った場合も対象です。「金利の調整と認められるとき」と書かれているので、差額がそれ以外の性格(たとえば別の事情による値引き)のときは、この規定の文言の外になります。性格の見極め方は、抜粋には書かれていません。

取扱い1(4):差額に重要性がなければ、適用しないことができる

重要性の原則の適用例を挙げた取扱い1(会計基準第2条第1項第4号関係)に、償却原価法の例があります。

取得価額と債券金額との差額について重要性が乏しい満期保有目的の債券については、償却原価法を適用しないことができる。

つまり、満期保有目的の債券で、取得価額と債券金額の差が小さいときは、償却原価法を使わず、取得価額のままにできる扱いです。ただし、どの程度なら「重要性が乏しい」のか(金額の水準、債券金額に対する割合など)は、書かれていません。弊社の読み方では、適用しないと決めたときは、その判断の理由を残し、毎年同じ考え方で適用していくのが安全です。

償却の計算方法は、抜粋に無い

取扱い15は「償却原価法に基づいて算定された価額」としか書いていません。償却額を毎年均等に配分するのか、利息の考え方で計算するのか(定額法か利息法か)は、今回の抜粋には入っていません。以下の仕訳の例では、簡単のために均等に配分すると仮定しますが、これは弊社の例で、方法の選び方は顧問の会計士・税理士に確認してください。

評価損益・売却損益の科目

留意事項の勘定科目の説明には、投資有価証券に関する次の科目があります。

投資有価証券を時価評価した時の評価益をいう。

これが「投資有価証券評価益」の説明です。

投資有価証券を売却した場合の売却益をいう。

こちらが「投資有価証券売却益」の説明です。

科目説明の要点根拠
投資有価証券評価益時価評価した時の評価益留意事項の別添
投資有価証券売却益売却した場合の売却益留意事項の別添

損の側と、流動資産の有価証券の側も、事業活動計算書の勘定科目の説明に並んでいます。

投資有価証券評価損 投資有価証券を時価評価した時の評価損をいう。 投資有価証券売却損 投資有価証券を売却した場合の売却損をいう。

有価証券評価益 有価証券(投資有価証券を除く)を時価評価した時の評価益をいう。 有価証券売却益 有価証券(投資有価証券を除く)を売却した場合の売却益をいう。

償却原価法で毎期加算する額を入れる科目も、説明の中に書かれています。

受取利息配当金収益 預貯金、有価証券、貸付金等の利息及び出資金等に係る配当金等の収益をいう。(償却原価法による収益を含む。)

対象益の科目損の科目
投資有価証券投資有価証券評価益・売却益投資有価証券評価損・売却損
有価証券(流動)有価証券評価益・売却益有価証券評価損・売却損
償却原価法の加算受取利息配当金収益(減算の科目は説明に無い)

注意したいのは、流動資産の有価証券の売却益・評価益は、資金収支計算書の勘定科目の説明にも出てくることです。

流動資産評価益等による資金増加額 有価証券売却益 有価証券(投資有価証券を除く)を売却した場合の売却益をいう。 有価証券評価益 有価証券(投資有価証券を除く)を時価評価した時の評価益をいう。

「益」の名前の科目でも、流動資産の有価証券の分は、資金収支計算書の「流動資産評価益等による資金増加額」に載ります。どの計算書のどの区分に載るかは、科目名だけで決めず、別表と勘定科目の説明で確かめてください。事業活動計算書の全体は、事業活動計算書の記事で順に整理しています。

仕訳の例(弊社の仮の数字)

ここからは、すべて弊社が置いた仮の数字です。条文が定めているのは科目の説明までで、仕訳の形までは定めていません。以下は一般的な考え方としての例です。科目名は、前の章の勘定科目の説明と、貸借対照表の「現金預金」に合わせています。

例1:満期保有目的の債券を額面より低く買った場合(償却原価法)

次の数字を仮置きします。

  • 債券金額(額面):1,000万円(弊社の例)
  • 取得価額:970万円(弊社の例)
  • 満期までの期間:5年(弊社の例)
  • 差額の30万円は、金利の調整と認められるとする(弊社の例)

取得したときは、取得価額で投資有価証券に載せます。

借方貸方金額(弊社の例)
投資有価証券現金預金970万円

差額の30万円を5年で均等に配分すると、毎期の加算額は30万円 ÷ 5年 = 6万円です。期末に次の仕訳を入れる、というのがこの例の前提です。

借方貸方金額(弊社の例)
投資有価証券受取利息配当金収益6万円

1期末の貸借対照表価額は970万円 + 6万円 = 976万円です。5期続けると、970万円 + 6万円 × 5 = 1,000万円となり、満期の年には債券金額と同じ額になります。

額面より高く買った場合は、この加算の反対に、毎期、投資有価証券を減らしていきます。たとえば取得価額が1,030万円なら、差額30万円を5年で配分して毎期6万円ずつ減り、1,000万円になります。

例2:市場価格のある投資有価証券を、時価で評価した場合

市場価格があり、満期保有目的ではない投資有価証券を持っていると仮置きします。

  • 取得価額:500万円(弊社の例)
  • 期末の時価:530万円(弊社の例)

第4条第5項により、期末の時価を付します。評価益は530万円 - 500万円 = 30万円です。

借方貸方金額(弊社の例)
投資有価証券投資有価証券評価益30万円

時価が取得価額を下回ったときは、貸方・借方を逆にして「投資有価証券評価損」を使います。翌期にこの評価額をどう引き継ぐか(評価差額を洗い替えるか、時価を新たな簿価とするか)は、今回の抜粋には書かれていません。顧問の会計士・税理士に確認してください。

例3:投資有価証券を売却した場合

前期に取得した、取得価額500万円の投資有価証券を、当期に520万円で売却したと仮置きします(弊社の例)。売却益は520万円 - 500万円 = 20万円です。

借方貸方金額(弊社の例)
現金預金投資有価証券500万円
現金預金投資有価証券売却益20万円

借方の合計は520万円、貸方の合計も500万円 + 20万円 = 520万円で合っています。売却益は事業活動計算書側の科目ですが、資金収支計算書側では、売却益の20万円ではなく、売却の収入総額の520万円が対象になります(次の章で説明します)。

例4:外貨建の債券を、決算で換算した場合

外貨建有価証券の換算は、取扱い13が定めています(詳しくは後の章)。簡単に、時価評価も償却原価法も考えず、換算だけを見る例にします。

  • 外貨建の債券:1万ドル(弊社の例)
  • 取得時の為替相場:1ドル145円で、取得価額は145万円(弊社の例)
  • 決算時の為替相場:1ドル150円で、円換算額は150万円(弊社の例)

換算差額は150万円 - 145万円 = 5万円で、円安による差益です。

借方貸方金額(弊社の例)
投資有価証券為替差損益5万円

これは換算だけを見た最も単純な例です。外貨建の債券に、時価評価や償却原価法を重ねるときの計算の順序は、今回の抜粋には書かれていません。

資金収支計算書での扱い

支払資金には、有価証券等が入っている

資金収支計算書の「支払資金」は、取扱い5が定めています。まず、含まれる流動資産の部分は次のとおりです。

資金収支計算書の支払資金とは、経常的な支払準備のために保有する現金及び預貯金、短期間のうちに回収されて現金又は預貯金になる未収金、立替金、有価証券等及び短期間のうちに事業活動支出として処理される前払金、仮払金等の流動資産

この中に「有価証券等」が入っています。つまり、短期間のうちに回収されて現金又は預貯金になる有価証券は、現金及び預貯金と並ぶ支払資金の一部です。続けて、取扱い5は支払資金から除くものも定めています。

ただし、支払資金としての流動資産及び流動負債には、1年基準により固定資産又は固定負債から振替えられたもの、引当金並びに棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除くものとする。

「1年基準により固定資産から振替えられたもの」は支払資金から除かれます。投資有価証券が1年基準で流動に振り替えられた場合の扱いは、ここに書かれた文言から、支払資金には含めないことになると読めます。ただし、前の章のとおり、債券が1年基準で振り替わるかどうかは、今回の抜粋には書かれていません。

弊社の読み方では、流動資産の有価証券は支払資金の中の資産なので、現金及び預貯金で有価証券を買う(またはその逆の)取引は、支払資金の中での入れ替えです。このため、有価証券の取得や売却の代金そのものは、資金収支計算書の支出・収入として現れないと考えられます。一方で、前の章で見たとおり、売却益と評価益は「流動資産評価益等による資金増加額」、売却損と評価損は「流動資産評価損等による資金減少額」として資金収支計算書に載ります。支払資金の中の資産の価値が増減した分を、ここで表す形です。代金の扱いを直接説明した文言は今回の抜粋にはないため、法人の会計ソフトの設定とあわせて確認してください。資金収支計算書全体は、資金収支計算書の記事で整理しています。

投資有価証券は、取得支出と売却収入

投資有価証券については、留意事項の勘定科目の説明に、2つの科目があります。

投資有価証券を取得するための支出をいう。

これが「投資有価証券取得支出」の説明です。

投資有価証券の売却収入(収入総額)をいう。

こちらが「投資有価証券売却収入」の説明です。「(収入総額)」と書かれているのが大事な点で、売却で得た全額が対象です。売却益だけではありません。

先ほどの例を使って確認します。

場面事業活動計算書側資金収支計算書側
取得(例3の前期)なし取得支出 500万円
売却(例3の当期)売却益 20万円売却収入 520万円

取得の年度には事業活動計算書側に動きはなく、資金収支計算書側に取得支出が出ます。売却の年度には、事業活動計算書側に利益の20万円、資金収支計算書側に収入総額の520万円が出ます。同じ売却でも、2つの計算書で金額が違って見えるのは、このためです。

償却原価法による加算額(例1の6万円)は現金の動きを伴わないので、資金収支計算書への載せ方は、今回の抜粋からは決まりません。

外貨建の有価証券

外貨建の資産・負債の換算は、取扱い13が定めています。

外国通貨、外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。)及び外貨建有価証券等については、原則として、決算時の為替相場による円換算額を付すものとする。

「外貨建有価証券等」が対象に入っています。換算で生じた差額の扱いは、次のとおりです。

決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として、当期の為替差損益として処理する。

つまり、決算時の為替相場で円に換算し、差額は当期の為替差損益にします。例4のとおりです。2つの文とも「原則として」と書かれていて、例外の内容は今回の抜粋には書かれていません。外貨建の債券を持っている法人は、顧問の会計士・税理士に、時価評価・償却原価法との組み合わせ方を確認してください。

注記:満期保有目的の債券の内訳と時価

重要な会計方針の注記

会計基準第29条第1項は、計算書類に注記する事項を列挙しています。その第二号は、評価に関する注記を定めています。

資産の評価基準及び評価方法、固定資産の減価償却方法、引当金の計上基準等計算書類の作成に関する重要な会計方針

有価証券については、この注記に、たとえば満期保有目的の債券は償却原価法、市場価格のあるものは期末の時価、といった評価基準と評価方法を書くことになります。償却原価法を適用しない扱い(取扱い1(4))にしたなら、その旨もここに書いておくのが安全です。これは弊社の読み方です。

満期保有目的の債券の内訳

満期保有目的の債券については、第29条第1項に専用の号があります。第十一号です。

満期保有目的の債券の内訳並びに帳簿価額、時価及び評価損益

満期保有目的の債券は、期末に時価を付さない(取扱い15の償却原価法による価額か、取得価額のまま)ので、貸借対照表の金額と時価に差が生じます。その差を、注記で見せる仕組みです。求められているのは次の4つです。

  • 内訳(どの債券を持っているか)
  • 帳簿価額
  • 時価
  • 評価損益

例1の債券で書き方のイメージを作ると、1期末は次のようになります。

項目弊社の例
内訳額面1,000万円の債券(満期まで5年)
帳簿価額976万円
時価990万円(仮置き)
評価損益14万円(時価 - 帳簿価額)

帳簿価額は、例1の976万円(償却原価法による価額)です。時価は仮に990万円とすると、評価損益は990万円 - 976万円 = 14万円です。注記の様式は、今回の抜粋には入っていません。

拠点区分ごとにも求められる

第29条第4項は、拠点区分ごとの注記を定めています。

計算書類には、拠点区分ごとに第一項第二号から第十一号まで、第十四号及び第十六号に掲げる事項を注記しなければならない。

第二号から第十一号までが含まれるので、重要な会計方針(第二号)と、満期保有目的の債券の内訳など(第十一号)は、拠点区分ごとにも求められる範囲です。この項には、次のただし書もあります。

ただし、拠点区分の数が一の社会福祉法人については、拠点区分ごとに記載する計算書類の注記を省略することができる。

拠点区分が1つの法人は、拠点区分ごとの注記を省略できます。注記全体の整理は、計算書類の注記の記事にまとめています。

条文・通知から決まらないこと

論点一次情報での扱い決め方
償却の計算方法償却原価法とだけある顧問の会計士・税理士に確認する
差額が重要性が乏しい金額の目安書かれていない顧問の会計士・税理士に確認する
満期が近づいた債券の振替債権債務の区分のみ顧問の会計士・税理士に確認する
償却原価法で減算する科目説明に無い顧問の会計士・税理士に確認する
評価差額の翌期の扱い書かれていない顧問の会計士・税理士に確認する
市場価格のないものの評価細目が抜粋に無い顧問の会計士・税理士に確認する
外貨建と時価評価の組み合わせ書かれていない顧問の会計士・税理士に確認する
流動の有価証券の売買代金直接の説明は無い別表と会計ソフトの設定で確認する

経理担当が、決算前にそろえておくこと

条文と通知の構造から、決算前にそろえておくとよい整理は次の5つです。弊社の整理ですので、個別の判断は顧問の会計士・税理士と所轄庁にご確認ください。

  1. 保有する有価証券を、銘柄ごとの一覧にする。 取得日、取得価額、債券金額、満期、保有の目的(満期まで持つ意図か)、市場価格の有無を並べる
  2. 科目を、目的で仕分ける。 時価の変動で利益を得る目的のものは有価証券、長期で持ち基本財産でないものは投資有価証券、と留意事項の説明に沿って確かめる
  3. 評価の区分を決める。 満期保有目的か、市場価格があるか、で期末の評価(時価・償却原価法・取得価額)が分かれる
  4. 償却原価法の適用有無を記録する。 差額が金利の調整か、重要性が乏しいかの判断と、その理由を残す
  5. 注記の金額が、一覧と一致するか確かめる。 満期保有目的の債券の帳簿価額、時価、評価損益を、拠点区分ごとに見る

保有の目的や評価の判断を経理規程にまとめておくと、毎年同じ考え方で処理していることを説明しやすくなります。銘柄が増えると、帳簿価額、時価、評価損益を決算のたびに集め直す手間が大きくなります。最初から、銘柄の一覧、保有の目的、評価の区分、時価を1つの台帳で持っておくと、決算と注記の準備が楽になります。

この記事で書いていないこと

次のことは、今回確認した会計基準と取扱い・留意事項には書かれていません。この記事でも書きません。

  • 何で運用してよいか:投資できる商品の範囲、基本財産としての保有、株式の保有の制限、資金運用規程の要否は、今回の一次情報に入っていません
  • 償却の計算方法:償却原価法という名称までです
  • 重要性が乏しいとする金額の目安:定めがありません
  • 償却原価法で減算する額の科目:勘定科目の説明には加算(受取利息配当金収益)しか出てきません
  • 流動資産の有価証券の売買代金の資金収支での扱い:直接の説明はありません
  • 外貨建の債券の時価評価・償却原価法との組み合わせ:書かれていません
  • 注記の様式:今回の一次情報に入っていません
  • 税務上の取扱い:今回の一次情報に入っていません
  • 取扱い・留意事項の改正の反映状況:掲載版は確認しましたが、最新版かは未確認です

まとめ

  • 有価証券は時価の変動で利益を得る目的、投資有価証券は長期的に所有し基本財産に属さないもの。科目は目的と期間の見込みで分かれる
  • 第4条第5項は、満期保有目的の債券以外で市場価格のあるものに、期末の時価を付すよう求めている
  • 満期保有目的の債券を債券金額と違う価額で取得し、差額が金利の調整のときは、償却原価法による価額が貸借対照表価額(取扱い15)。差額に重要性が乏しければ適用しないことができる(取扱い1(4))
  • 償却原価法の加算額は受取利息配当金収益(償却原価法による収益を含む)。評価損益・売却損益は、投資有価証券と流動の有価証券で科目が分かれる
  • 償却の計算方法と重要性の目安は、今回の抜粋には書かれていない
  • 資金収支計算書の支払資金には有価証券等が入る(取扱い5)。投資有価証券は取得支出と売却収入(収入総額)で出る
  • 外貨建有価証券等は、原則として決算時の為替相場で換算し、差額は当期の為替差損益(取扱い13)
  • 満期保有目的の債券は、第29条第1項第十一号により内訳・帳簿価額・時価・評価損益を注記する。拠点区分ごとにも求められる(第29条第4項)
  • 何で運用してよいかは会計の話ではない。所轄庁の審査基準や法人の規程、顧問の会計士・税理士に確認する

参考にした一次情報

会計基準は2026年11月7日にe-Govから取得した条文によります。取扱いと留意事項は、同日に厚生労働省の法令等データベースから取得した、平成28年3月31日付の通知の掲載版です。その後の改正がこの掲載版に反映されているかは確認していません。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の法人の会計処理が適切かどうかを判断するものではありません。具体的な判断は、顧問の会計士・税理士や所轄庁にご確認ください。


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阪本翔太

阪本翔太

奈良県の中小企業診断士 & ITストラテジスト。 公的機関や大学などで講師もしています。 地方でがんばる人をITで後押ししたい。

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