特別養護老人ホームや障がい者支援施設、グループホームでは、同じ利用者様を同じように支援していても、雇用の形がそろっていないことがよくあります。正職員、嘱託職員、パート職員が同じフロアで働き、夜勤手当や通勤手当、賞与、慶弔休暇の扱いがそれぞれ違う、という法人様は少なくないと思います。
そうした法人様で、法人本部や人事労務の担当者から寄せられるご相談は、次のようなものです。
- 正職員と嘱託・パートで手当に差があるが、これは問題になるのか。
- 職員から「なぜ私には賞与がないのか」と聞かれたら、何を、どこまで説明しなければならないのか。
- 雇い入れるときの労働条件の説明と、何が違うのか。
この記事では、これらの問いを、パートタイム・有期雇用労働法(正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)の条文だけを手がかりに整理します。
先にお断りしておきます。この記事では、個別の待遇差が不合理かどうかは判断しません。 ある待遇差が不合理かどうかは、条文だけでは決まらないためです。条文が何を判断材料に挙げているのか、どの条文がどの場面の話なのかを整理するのが、この記事の目的です。厚生労働省の指針(ガイドライン)の内容にも、判例にも触れません。
先に結論
- 条文に「同一労働同一賃金」という語は出てきません。今回確認した14か条の本文では0回でした。現場で使われる呼び名です。
- 第8条(不合理な待遇の禁止)は、待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間で不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。判断の材料は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、その待遇の性質と目的に照らして適切と認められるものです。
- 第9条(差別的取扱いの禁止)は、職務の内容が同一で、全期間にわたって職務の内容と配置の変更の範囲も同一と見込まれる場合の規定で、第8条とは適用場面が違います。
- 第14条は、説明を2つの場面に分けています。雇い入れたときの説明(第1項)と、職員から求めがあったときの説明(第2項)です。求めたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、第3項が禁じています。
- 労働条件を文書で明示する第6条は、労働基準法の明示事項に上乗せされる規定です。
- 待遇差が不合理かどうか、第8条の「その他の事情」に何が入るのか、説明をどの方法で行うのかは、条文からは決まりません。
条文に「同一労働同一賃金」も「正職員」も出てこない
まず、条文の言葉と現場の呼び名を並べておきます。今回確認したのは、パートタイム・有期雇用労働法の第2条、第3条、第6条から第15条まで、第18条、第30条の本文です。
| 検索した語 | 今回の14か条の本文での出現回数 |
|---|---|
| 同一労働同一賃金 | 0回 |
| 正職員 | 0回 |
| 嘱託 | 0回 |
| 夜勤 | 0回 |
| 慶弔 | 0回 |
条文が使っている語は、「通常の労働者」「短時間労働者」「有期雇用労働者」「短時間・有期雇用労働者」です。現場の呼び名との対応は、次のとおりです。
| 現場の呼び名 | 条文の語 | 条文が見ていること |
|---|---|---|
| 正職員 | 通常の労働者 | 待遇を比べるときの相手方。この語の定義は今回の抜粋に含めていません |
| パート職員 | 短時間労働者(第2条第1項) | 1週間の所定労働時間が、通常の労働者より短いこと |
| 嘱託職員 | 呼び名だけでは決まらない。有期雇用労働者(第2条第2項)に当たる場合がある | 期間の定めのある労働契約を結んでいるかどうか |
有期雇用労働者について、条文は次のように定めています。
この法律において「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいう。
(パートタイム・有期雇用労働法 第2条第2項)
つまり、「嘱託」「契約職員」「臨時職員」といった名称ではなく、労働契約に期間の定めがあるかどうかで決まります。短時間労働者の側も、名称ではなく所定労働時間で決まります。第2条第1項には、同種の業務に従事する通常の労働者との比較について、厚生労働省令で定める場合を除くという括弧書きがあります。この省令の中身は今回の一次情報に含めていないため、比較の相手の細かな決め方は、この記事では扱いません。
そして第2条第3項は、短時間労働者と有期雇用労働者をあわせて「短時間・有期雇用労働者」と呼ぶと定めています。以降の条文は、ほとんどがこの「短時間・有期雇用労働者」を対象にしています。
第8条:待遇ごとに判断する
不合理な待遇の禁止を定めているのが、第8条です。条文を引用します。
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
(パートタイム・有期雇用労働法 第8条)
この1文から、読み取れることを分けてみます。
| 条文の文言 | 読み取れること |
|---|---|
| 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて | 雇用形態の全体を比べるのではなく、待遇1つずつについて見る |
| 当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において | 比べる相手は、その待遇に対応する通常の労働者の待遇 |
| 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情 | 判断材料として条文が挙げているのは、この3つ |
| 当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの | 3つの材料のうち、待遇の性質と目的に照らして適切なものだけを考慮する |
| 不合理と認められる相違 | 禁じられているのは、相違そのものではなく、「不合理と認められる」相違 |
「職務の内容」は、条文のなかで、業務の内容と、その業務に伴う責任の程度をあわせたものと定義されています。
ここで大事なのは、待遇ごとに判断するという構造です。たとえば、次のように待遇を1つずつ分けると、同じ職員の組み合わせでも、問うべきことが変わります。
| 待遇の例 | その待遇について確認したい問い(法人の規程から読み取る部分) |
|---|---|
| 夜勤手当 | 何を目的に支給している手当か。夜間に勤務したこと自体への手当なのか、夜勤を担う役割への手当なのか |
| 通勤手当 | 何を目的に支給している手当か。通勤にかかる費用の補填か、別の趣旨を含むのか |
| 賞与 | 何を目的に支給しているか。功労への報償か、法人の業績への参加か、人材の定着かなど |
| 慶弔休暇 | 何を目的に付与しているか。通常の労働者にだけ付与している理由は何か |
条文は、これらの待遇の「性質」や「目的」が何であるかを定めていません。それは、各法人の規程や運用から読み取る部分です。そして、その性質と目的に照らして、職務の内容、変更の範囲、その他の事情のうち、どれを考慮することが適切かが決まる、というのが第8条の組み立てです。
したがって、「正職員とパートで職務の内容が同じかどうか」という1つの問いだけで、すべての手当の差を説明することはできません。反対に、「職務の内容が違うから、すべての待遇に差があって当然だ」と言い切ることもできません。待遇ごとに、その待遇の性質と目的から出発して理由を組み立てることになります。
一方で、次の点は、条文からは決まりません。
- 夜勤手当や賞与といった個別の待遇について、どの程度の差までが不合理でないと言えるのか。
- 「その他の事情」に、具体的に何が入るのか。
- 3つの判断材料を、どのような重みで考慮するのか。
第8条は、不合理かどうかの数値の基準も、考慮すべき事情の具体的な一覧も示していません。なお、第15条は、厚生労働大臣が第6条から第14条までに定める措置などについて、必要な指針を定めるものとすると定めています。ここまでが条文の事実で、その指針の内容には、この記事では触れません。
第9条:差別的取扱いの禁止は、適用場面が違う
第8条と並んで語られるのが、第9条です。ただし、この2つは、適用される場面が違います。
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
(パートタイム・有期雇用労働法 第9条)
第9条が対象にするのは、次の2つの条件を両方満たす短時間・有期雇用労働者です。
・職務の内容が、通常の労働者と同一であること。
・事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容と配置が、通常の労働者の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれること。
この2つを満たす人は、条文のなかで「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」と呼ばれます。そして、この人たちについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いが、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて禁じられます。
2つの条文の違いを表にします。
| 比べるところ | 第8条 | 第9条 |
|---|---|---|
| 対象 | 短時間・有期雇用労働者 | 職務の内容が同一で、全期間にわたり職務の内容と配置の変更の範囲も同一と見込まれる短時間・有期雇用労働者 |
| 禁じていること | 不合理と認められる相違を設けること | 短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱い |
| 判断の枠組み | 職務の内容、変更の範囲、その他の事情のうち、待遇の性質と目的に照らして適切なものを考慮する | 条文には、第8条のような考慮事情の定めがない |
| 単位 | 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ | 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ |
単位が「待遇のそれぞれ」である点は、2つの条文に共通しています。
福祉の現場に引き寄せると、次のような整理になります。自法人の短時間・有期雇用の職員のうち、通常の労働者と職務の内容が同一で、しかも「全期間にわたり、職務の内容と配置が同じ範囲で変わると見込まれる」人がいるかどうかで、どちらの規定を意識するかが分かれます。たとえば、同じユニットで同じ業務を担っていても、通常の労働者には異動や配置転換があり、短時間・有期雇用の職員には異動がない、という運用であれば、第9条の2つ目の条件を満たすかどうかが問われます。
ただし、「見込まれる」かどうかをどう判断するのか、その人が第9条の対象に当たるのかどうかは、条文からは決まりません。条文は「当該事業所における慣行その他の事情からみて」と書くにとどまり、具体的な基準は示していないためです。この記事では、個々の職員が第9条の対象になるかどうかの判断も行いません。
第10条から第13条:待遇差の説明で関わってくる、その他の条文
第14条の説明の対象には、第8条だけでなく、第13条までの規定が関わります。第10条から第13条までの内容を、義務か努力かの別とあわせて整理します。
| 条 | 内容 | 条文の書き方 |
|---|---|---|
| 第10条(賃金) | 通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案して、賃金を決定する。通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものは、ここでの賃金から除かれる | 「決定するように努めるものとする」(努力) |
| 第11条第1項(教育訓練) | 通常の労働者に実施する、職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を、職務内容同一短時間・有期雇用労働者にも実施する。厚生労働省令で定める場合は除く | 「実施しなければならない」(義務) |
| 第11条第2項(教育訓練) | 第1項以外の教育訓練を、職務の内容や能力などに応じて実施する | 「実施するように努めるものとする」(努力) |
| 第12条(福利厚生施設) | 通常の労働者に利用の機会を与える福利厚生施設のうち、厚生労働省令で定めるものを、短時間・有期雇用労働者にも利用させる | 「利用の機会を与えなければならない」(義務) |
| 第13条(通常の労働者への転換) | 通常の労働者への転換を推進するため、募集の周知、配置の希望の申出の機会の付与、転換のための試験制度の設置などのいずれかの措置を講ずる | 「講じなければならない」(義務) |
この表から、2つの点が言えます。
1つは、条文のなかで義務の規定と努力の規定が分かれていることです。第10条の賃金の決定は努力、第12条と第13条は義務です。第8条は「設けてはならない」という禁止の形で書かれています。
もう1つは、第10条と第12条には、厚生労働省令に委ねられた部分があることです。たとえば、慶弔休暇のような待遇が第12条の福利厚生施設に当たるのかどうかは、省令の中身を一次情報として確認していないため、この記事の範囲では決まりません。通勤手当が第10条の賃金から除かれる、という点は、第10条の括弧書きに書かれていることまでが言えることです。
また、第3条は、事業主の責務として、就業の実態などを考慮し、適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実、通常の労働者への転換の推進などの措置を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保などを図るよう「努めるものとする」と定めています。
第14条:説明は、2つの場面に分かれる
法人本部の担当者が、もっとも実務に近いと感じるのが、第14条の説明義務です。第14条は、3つの項で構成されています。
第1項:雇い入れたときの説明
事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、第八条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
(パートタイム・有期雇用労働法 第14条第1項)
この項が対象にしているのは、雇い入れたときです。説明する内容は、第8条から第13条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項について、「講ずることとしている措置の内容」です。労働基準法第15条第1項に規定する省令の事項と、第6条の「特定事項」は、この説明の対象から除かれています。このうち特定事項は、次の章で見る第6条第1項が、文書の交付などによる明示を定めているものです。
第2項:求めがあったときの説明
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
(パートタイム・有期雇用労働法 第14条第2項)
こちらは、雇用している短時間・有期雇用労働者から求めがあったときの説明です。説明の内容として、条文は2つを挙げています。
・通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由。
・第6条から第13条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項。
ここで、第1項と第2項を並べておきます。
| 比べるところ | 第1項 | 第2項 |
|---|---|---|
| きっかけ | 雇い入れたとき | 雇用している職員から求めがあったとき |
| 説明の時期 | 速やかに | 求めがあったとき |
| 説明する内容 | 第8条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項について、講ずることとしている措置の内容 | 通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由。第6条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項 |
| 対象から除かれるもの | 労働基準法第15条第1項に規定する省令の事項と、特定事項 | 条文には除外の括弧書きがない |
| 対象の条の範囲 | 第8条から前条(第13条)まで | 第6条から前条(第13条)まで |
第1項は「措置の内容」を説明するもの、第2項は「待遇の相違の内容及び理由」と「考慮した事項」を説明するもの、という違いがあります。
第3項:求めたことを理由とする不利益な取扱いの禁止
事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(パートタイム・有期雇用労働法 第14条第3項)
職員が第2項の説明を求めたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない、という規定です。説明を求められたときの現場の対応を考えるうえで、見落とせない項です。ただし、どのような扱いが「不利益な取扱い」に当たるのかは、条文からは決まりません。
条文から決まらない点
第14条について、条文からは決まらない点も確認しておきます。
- 説明を、文書で行うのか、口頭で行うのか。第14条の条文には、説明の方法を指定する文言がありません。
- 職員が「求める」ときの方法や、求めたと言えるための要件。
- 「相違の内容及び理由」を、どの程度詳しく説明すれば足りるのか。
この3点は、この記事の一次情報の範囲では決まりません。迷う場合は、所轄の労働局や社会保険労務士にご確認ください。
第6条と第7条:労働条件の文書交付は、労働基準法に上乗せされる
第14条第1項の括弧書きに出てきた「特定事項」は、第6条に関わる言葉です。第6条の条文の前半を引用します(前半部分を引用します)。
事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの
(パートタイム・有期雇用労働法 第6条第1項の前半)
この続きは、その「特定事項」を、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない、という内容です。ここで注目したいのは、労働基準法第15条第1項に規定する省令の事項「以外のもの」と書かれている点です。つまり、第6条の文書交付などによる明示は、労働基準法で定められた明示事項を置き換えるものではなく、それに上乗せされるものです。
労働基準法の明示事項のほうは、別の記事で整理しています。パートタイム・有期雇用労働法第6条の明示と、あわせてご覧ください。
特定事項の具体的な中身は、厚生労働省令に委ねられており、今回の一次情報には含めていません。したがって、何が特定事項に当たるのかは、この記事の範囲では決まりません。また、第6条第2項は、特定事項と労働基準法の明示事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように「努めるものとする」と定めています。
第7条は、就業規則に関する規定です。短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、または変更しようとするときは、その事業所で雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められる者の意見を聴くように努める、と定めています。有期雇用労働者に係る事項については、「短時間労働者」を「有期雇用労働者」と読み替えて、同じ規定を準用します。就業規則そのものについては、別の記事で整理しています。
守らなかったときの条文:第18条と第30条
最後に、これらの規定に違反した場合に、条文がどのような対応を定めているかを確認します。
第18条第1項は、厚生労働大臣が、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができると定めています。
第2項は、勧告に従わなかった場合の公表についての規定です。
厚生労働大臣は、第六条第一項、第九条、第十一条第一項、第十二条から第十四条まで及び第十六条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
(パートタイム・有期雇用労働法 第18条第2項)
公表の対象として条文が挙げているのは、第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで、そして第16条です。この列挙に、第8条は挙がっていません。これは条文の事実です。ただし、挙がっていないことが何を意味するのか、第8条の違反に対して第1項の助言、指導、勧告がどう働くのかは、条文だけでは決まりません。「公表の対象に挙がっていないから、気にしなくてよい」と読むことは、条文からは言えません。この記事では、第8条の位置づけについて、これ以上は踏み込みません。
また、第30条は、報告についての過料を定めています。
第十八条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
(パートタイム・有期雇用労働法 第30条)
過料の対象は、第18条第1項の報告をしなかった、または虚偽の報告をした場合です。待遇差そのものに過料が科されると定めた条文ではありません。
なお、不合理かどうかの判断が裁判で争われた場合の扱いは、今回の一次情報に含めていないため、この記事では触れません。
法人で確認していく順番(弊社の見立て)
ここからは条文ではなく、弊社の見立てです。法人本部や人事労務の担当者が、待遇差を説明できる状態かどうかを点検するときの順番を整理します。
- 職員を雇用の形で並べ、条文の語に当てはめる。 所定労働時間が通常の労働者より短い職員(短時間労働者)、期間の定めのある労働契約の職員(有期雇用労働者)を、名称ではなく契約の中身で洗い出します(第2条)。
- 待遇を1つずつ分ける。 基本給、賞与、夜勤手当、通勤手当、慶弔休暇、教育訓練、福利厚生施設の利用など、待遇ごとに行を分けて一覧にします(第8条の「それぞれ」)。
- 待遇ごとに、対応する通常の労働者の待遇を書く。 「第8条の比較の相手」を、待遇ごとに決めます。
- 待遇ごとに、性質と目的を書く。 規程や運用から、その待遇が何のためにあるかを、1行で書きます。書けない待遇があれば、その時点で説明に詰まる可能性があります。
- 差がある待遇には、差の理由を書く。 理由が、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、どれに結びつくのかを書きます(第8条の判断材料)。
- 通常の労働者と職務の内容が同じ職員がいるかを確かめる。 いる場合は、全期間にわたる職務内容と配置の変更の範囲が同じと見込まれるかを確かめます(第9条)。
- 雇い入れたときの説明の内容をそろえる。 第1項の「講ずることとしている措置の内容」を、どの書類や面談で伝えているかを確かめます(第14条第1項、第6条)。
- 求めがあったときの窓口と手順を決める。 誰が、何を見て説明するのか。求めた職員に不利益な取扱いをしない、という点を、管理職にも伝えておきます(第14条第2項、第3項)。
- 条文から決まらない点を書き出す。 個別の待遇差が不合理かどうか、第12条の福利厚生施設の範囲、説明の方法などは、所轄の労働局や社会保険労務士に確認します。
この順番のうち、3から5までの作業は、待遇の数だけ「待遇、比較の相手、性質と目的、差の理由」の行が必要になります。紙や表計算ソフトで管理している法人様では、事業所ごと、職種ごとにファイルが分かれてしまうと、職員から求めがあったときに、説明のための材料を集めるだけで時間がかかります。
まとめ
- 「同一労働同一賃金」という語は、今回確認した14か条の本文には出てきません。条文が使う語は、通常の労働者、短時間労働者、有期雇用労働者、短時間・有期雇用労働者です。
- 第8条は、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。判断材料は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情のうち、待遇の性質と目的に照らして適切と認められるものです。
- 第9条は、職務の内容が同一で、全期間にわたり職務の内容と配置の変更の範囲も同一と見込まれる場合の差別的取扱いの禁止で、第8条とは適用場面が違います。
- 第14条は、雇い入れたときの説明(第1項)と、求めがあったときの説明(第2項)を分け、求めたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています(第3項)。第6条の文書交付などは、労働基準法の明示事項に上乗せされます。
- 条文からは決まらないのは、個別の待遇差が不合理かどうか、「その他の事情」の具体的な中身、第9条の「見込まれる」の判断、第12条の福利厚生施設の範囲、特定事項の中身、説明の方法です。迷うときは、所轄の労働局や社会保険労務士にご確認ください。
参考にした一次情報
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov法令検索:第二条、第三条、第六条、第七条、第八条、第九条、第十条、第十一条、第十二条、第十三条、第十四条、第十五条、第十八条、第三十条
いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の事業所への適用や、指針・判例・行政通達の評価を示すものではありません。
待遇ごとの差の理由を、職員の求めにすぐ説明できますか
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。待遇ごとの性質と目的、通常の労働者との差の理由、説明の記録を、事業所をまたいで同じ見方で確認できる状態を整えるところからご一緒します。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。