指導監査で「この拠点の会計責任者はどなたですか」と聞かれたとき、その場で名前が出てこない。名前は出たものの「いつ任命されましたか」「辞令はありますか」と重ねられて止まる。会計責任者をめぐる指摘の多くは、この2往復で起きています。
会計責任者は、社会福祉法の条文には出てきません。根拠は通知にあります。にもかかわらず指導監査では文書指摘の対象になるため、「法律に書いていないから軽い」と考えていると足をすくわれる類の論点です。
この記事では、会計責任者の根拠と役割、出納職員との兼務をなぜ避けるのか、任命をどう証明するのかを、通知とガイドラインの原文に沿って整理します。
根拠は法律ではなく課長通知
会計責任者の根拠は、厚生労働省の課長通知「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」(平成28年3月31日)の「1 管理組織の確立」にあります。
会計責任者については理事長が任命することとし、会計責任者は取引の遂行、資産の管理及び帳簿その他の証憑書類の保存等会計処理に関する事務を行い、又は理事長の任命する出納職員にこれらの事務を行わせるものとする。
この一文に、実務で必要な要素がほぼすべて入っています。順に分解します。
任命するのは理事長
「理事長が任命する」と明記されています。理事会の決議で選ぶのでも、施設長が指名するのでもありません。理事長の任命行為です。したがって、任命の事実は理事長名の辞令などで残すことになります。
会計責任者が行う事務は3つ
通知が挙げているのは次の3つです。
- 取引の遂行
- 資産の管理
- 帳簿その他の証憑書類の保存等会計処理に関する事務
「伝票を承認する人」という理解が一般的ですが、通知の書き方はもう少し広く、資産の管理と証憑書類の保存まで含まれています。固定資産管理台帳や契約書の保管が誰の責任なのか曖昧な法人は、ここを起点に整理し直すと収まりがよくなります。
出納職員も理事長が任命する
もう一点、読み落とされやすいのが「理事長の任命する出納職員」という部分です。出納職員は会計責任者が選ぶのではなく、理事長が任命します。会計責任者の任命だけ辞令を出して、出納職員は事実上の担当割りで済ませている法人が少なくありません。
出納職員との兼務を「避ける」理由
厚生労働省の「社会福祉法人指導監査実施要綱の運用について(指導監査ガイドライン)」は、予算の執行及び資金等の管理に関する体制について、次の着眼点を置いています。
法人における予算の執行及び資金等の管理に関しては、あらかじめ会計責任者等の運営管理責任者を定める等法人の管理運営に十分配慮した体制を確保するとともに、会計責任者と出納職員との兼務を避けるなどの内部牽制に配意した業務分担、自己点検を行う等、適正な会計事務処理に努めるべきである。
「会計責任者と出納職員との兼務を避ける」——理由は内部牽制です。出納職員が現金や預金を動かし、会計責任者がそれを承認する。この2つを同じ人が担うと、承認という工程が機能しなくなります。
ガイドラインはさらに、管理運営体制の明確化について次のように述べています。
法人における管理運営体制を明確にするため、経理規程等に定めるところにより、会計責任者を理事長が任命することや、会計責任者又は理事長の任命する出納職員に取引の遂行、資産の管理及び帳簿その他の証憑書類の保存等会計処理に関する事務を行わせることなどを明確化すべきである。
つまり、任命の事実だけでなく、「経理規程等に定めるところにより」明確化することが求められています。経理規程に会計責任者と出納職員の職務が書かれていない状態は、辞令だけ出していても不十分ということになります。経理規程の整備については社会福祉法人の経理規程モデルを参照してください。
理事長が会計責任者を兼ねてよいか
小規模な法人からよく受ける質問です。結論から言うと、通知にも指導監査ガイドラインにも、理事長が会計責任者を兼ねることを禁ずる明文はありません。会計責任者と出納職員の兼務については「避ける」と明記されていますが、理事長との兼務については書かれていない、というのが原文の状態です。
ただし、通知の「1 管理組織の確立」は(1)で次のように求めています。
法人における予算の執行及び資金等の管理に関しては、あらかじめ運営管理責任者を定める等法人の管理運営に十分配慮した体制を確保すること。
続けて、内部牽制に配意した業務分担、自己点検を行う等、適正な会計事務処理に努めることとされています。明文の禁止がないことと、内部牽制が働かない体制でよいことは別です。 理事長が会計責任者を兼ねる場合は、少なくとも出納職員は別の職員とし、月次での照合や自己点検の記録を残すなど、牽制が働いていることを示せる状態にしておく必要があります。
所轄庁によって指導の温度差がある論点でもあるため、兼務の可否を判断する前に、自法人の所轄庁の運用を確認してください。
任命をどう証明するか——辞令と経理規程
指導監査ガイドラインが挙げる確認書類は、この項目については次の2つだけです。
経理規程、業務分担を定めた規程等
一方、指摘基準は3つあります。
次の場合は文書指摘によることとする。
・ 経理規程等により、会計責任者の設置等の管理運営体制について定められていない場合
・ 経理規程等により業務分担が明確に決められておらず、内部牽制に配意した体制となっていない場合
・ 管理運営体制に関する経理規程等に定める手続がなされていない場合
3つとも「経理規程等により」から始まっている点に注目してください。会計責任者の話でありながら、問われているのは規程の整備と、その規程どおりに手続がなされているかです。
実務では、次の3点を1組で持っておくと監査で困りません。
| 持つもの | 内容 |
|---|---|
| 経理規程 | 会計責任者・出納職員の設置、任命権者、職務の範囲 |
| 辞令(または任命書) | 理事長名で、氏名・拠点・発令日を記載。写しを保管 |
| 現在の体制の一覧 | 拠点ごとに会計責任者と出納職員が誰かを1枚で示す |
とくに3つめが抜けがちです。辞令は綴じてあるが、「今この瞬間、どの拠点の会計責任者が誰なのか」を1枚で示せない。人事異動のたびに辞令は出しているのに、現在の体制を通しで確認できない。これが「その場で答えられない」の正体です。
拠点が増えると崩れる
会計責任者の管理が難しくなるのは、拠点が複数ある法人です。
- 拠点ごとに会計責任者を置いているが、任命の時期がバラバラで一覧がない
- 異動で担当が変わったのに辞令を出し直していない
- 出納職員が実質的に会計責任者の承認も代行している
- 経理規程は法人で1本なのに、運用が拠点ごとに違う
拠点区分の考え方そのものは会計基準に沿って整理されますが、誰が責任者かという情報は会計システムの外側にあります。だからこそ台帳として持っておく必要があります。規程と決裁経路を法人全体で整理する進め方は社会福祉法人の規程一覧にまとめました。指導監査そのものの流れは社会福祉法人の指導監査を参照してください。
異動のたびに更新される仕組みにする
辞令を出す運用そのものは、どの法人にもあります。問題は、辞令を出したあとに一覧が更新されないことです。
人事異動の決裁と、会計責任者・出納職員の一覧の更新が別々の手作業になっていると、必ずどこかでずれます。異動の発令と同時に一覧が書き換わる形にしておけば、監査の前に慌てて確認する作業そのものがなくなります。
紙の辞令を廃止する必要はありません。辞令の写しと、現在の体制の一覧が、同じ場所から同じ鮮度で見えるようになっているかどうかが分かれ目です。
まとめ
- 会計責任者の根拠は社会福祉法ではなく、課長通知「運用上の留意事項」の「1 管理組織の確立」
- 任命するのは理事長。出納職員も理事長が任命する
- 会計責任者の事務は取引の遂行、資産の管理、帳簿その他の証憑書類の保存等
- 会計責任者と出納職員の兼務は「避ける」(指導監査ガイドラインの着眼点)
- 理事長と会計責任者の兼務を禁ずる明文はないが、内部牽制が働く体制であることを示せる必要がある。所轄庁の運用を確認する
- 文書指摘となる3つの場面は、いずれも「経理規程等により」定められているか、そのとおり手続がなされているかを問うもの
- 確認書類は経理規程、業務分担を定めた規程等。辞令に加えて、現在の体制を1枚で示せる一覧を持つ
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参考にした一次情報
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について(平成28年3月31日)/厚生労働省
- 社会福祉法人指導監査実施要綱の運用について(指導監査ガイドライン)/厚生労働省
- 社会福祉法人会計基準(平成28年厚生労働省令第79号)/e-Gov法令検索
※所轄庁によって運用に細かな違いがあります。実際の体制整備にあたっては、必ず所轄庁の案内と自法人の経理規程をご確認ください。本記事では規程や辞令のひな形の配布は行っていません。