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就労継続支援B型の工賃|決め方・月3000円の下限・目標水準の報告

「工賃って、結局どうやって決めるのが正解なんでしょうか」

就労継続支援B型の事業所様とお話ししていると、この問いに突き当たります。時給で決めている事業所、作業量に応じて決めている事業所、月額を固定している事業所。やり方はさまざまですが、どのやり方であっても守らなければならない枠が省令に書かれています

そして、その枠は「いくら払うか」だけの話ではありません。年度ごとに目標を立て、それを利用者に伝え、都道府県に報告するところまでが省令上の義務になっています。この部分が抜けていて運営指導で指摘される、という話をときどき伺います。

この記事では、指定基準の省令と厚生労働省の会計処理の通知に戻って、工賃をめぐる事業所側の実務を整理します。

そもそも工賃とは何か ― 「収入から経費を引いた額」

根拠は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号)第201条第1項です。

指定就労継続支援B型の事業を行う者(以下「指定就労継続支援B型事業者」という。)は、利用者に、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない。

読み落とされやすいのは、工賃の原資が「生産活動に係る事業の収入」に限定されているという点です。給付費(訓練等給付費)は職員の人件費や事業運営のための報酬であって、工賃の原資ではありません。

裏を返すと、生産活動が赤字であれば、そこから出せる工賃はありません。 工賃を上げるという課題は、まず生産活動の収支をどう改善するかという課題である、というのが省令の構造です。

なお、この「収入から経費を控除した額」という考え方は、就労継続支援B型に限られません。生活介護でも、生産活動に従事している方には工賃の支払いが義務づけられています(同省令第85条)。生活介護で軽作業を行っている事業所は、この条文の対象になります。

平均月額3,000円という下限

第201条第2項が下限を定めています。

前項の規定により利用者それぞれに対し支払われる一月当たりの工賃の平均額(第四項において「工賃の平均額」という。)は、三千円を下回ってはならない。

ここで注意すべきなのは、「一人ひとりが3,000円以上」ではなく「平均額が3,000円以上」である点です。利用日数が少ない方がいて個々の額にばらつきがあっても、事業所の平均で判定されます。

そして第3項は、水準を高める努力義務を置いています。

指定就労継続支援B型事業者は、利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを支援するため、工賃の水準を高めるよう努めなければならない。

【見落としやすい】年度ごとの目標設定・利用者への通知・都道府県への報告

第201条第4項が、実務でいちばん抜けやすい義務です。

指定就労継続支援B型事業者は、年度ごとに、工賃の目標水準を設定し、当該工賃の目標水準及び前年度に利用者に対し支払われた工賃の平均額を利用者に通知するとともに、都道府県に報告しなければならない。

この一文に、4つの義務が畳み込まれています。

  1. 年度ごとに工賃の目標水準を設定する
  2. 目標水準を利用者に通知する
  3. 前年度に支払われた工賃の平均額も利用者に通知する
  4. その両方を都道府県に報告する

都道府県への報告は様式が示されるので実施される一方、「利用者への通知」が形として残っていない事業所は少なくありません。 通知した事実を記録に残しておかないと、運営指導の際に「実施した」と言えなくなります。掲示・書面の交付・個別支援計画の面談時の説明など、方法は各事業所で決めてかまいませんが、いつ・誰に・何を伝えたかを残すことが必要です。

運営指導で何を見られるかについては、障害福祉サービスの運営指導の記事で整理しています。

A型の「賃金」との違い

就労継続支援A型では、利用者と雇用契約を結ぶため、支払うのは賃金です。省令第192条が定めています。

指定就労継続支援A型事業者は、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額が、利用者に支払う賃金の総額以上となるようにしなければならない。

そして同条第6項が、原資の制限を明記しています。

賃金及び第三項に規定する工賃の支払いに要する額は、原則として、自立支援給付をもって充ててはならない。
ただし、災害その他やむを得ない理由がある場合は、この限りでない。

なお、A型でも雇用契約を締結していない利用者には工賃を支払うことになっており(同条第3項)、その工賃の平均額の下限も月3,000円とされています(同条第5項)。A型・B型の区別ではなく、雇用契約の有無で賃金と工賃が分かれる、という整理です。

工賃を出すための会計 ― 区分経理と原価管理

工賃は「収入−経費」で決まるので、経費が正しく把握できていなければ工賃も正しく計算できません。 厚生労働省の「就労支援等の事業に関する会計処理の取扱いについて」(平成18年10月2日社援発第1002001号)は、この点を出発点に置いています。

就労支援事業を行う指定事業所等は、指定基準において、授産施設同様、製品製造等の就労支援事業活動により得た就労支援事業収入から就労支援事業に必要な経費を控除した金額を工賃として利用者へ支払うこととされていることから、適正な利用者工賃の算出をするため、製品製造過程等における適切な製造原価等の把握が必要となる。

同通知は、就労支援事業のいずれかのみを実施する事業所について、法人本部と就労支援事業の2つの経理区分を設けることとし、多機能型事業所等では各指定事業所ごとに経理区分を設け、各就労支援事業ごとに事業区分を設けるものとしています。

実務で効いてくるのは、利用者工賃や職員給与を「製造」と「販売」で分けるという考え方です。同通知は、製造業務に携わる方に支給された利用者賃金・利用者工賃は就労支援事業製造原価明細表に、販売業務に携わる方に支給されたものは販売費及び一般管理費に計上する、としています。就労支援事業指導員等の給与も同じ扱いです。

拠点区分・サービス区分をまたいだ集計の考え方については、社会福祉法人の資金収支計算書の記事もあわせてご覧ください。

工賃変動積立金と設備等整備積立金

「今年は売上が良かったが、来年下がったら工賃を下げることになる」という悩みに対して、通知は積立てを認めています。ただし条件と限度額があります。

共通の前提条件

なお、次の積立金は、当該年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払額が、前年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払実績額を下回らない場合に限り、計上できるものとする。

つまり、工賃を前年度より減らしておいて積み立てる、ということはできません。

工賃変動積立金

項目限度
各事業年度における積立額過去3年間の平均工賃の10%以内
積立額の上限額過去3年間の平均工賃の50%以内

保障すべき一定の工賃水準は「過去3年間の最低工賃(天災等により工賃が大幅に減少した年度を除く)」とされ、これを下回った年度は理事会の議決に基づいて取り崩し、工賃を補填して利用者に支給するとされています。

設備等整備積立金

項目限度
各事業年度における積立額就労支援事業収入の10%以内
積立額の上限額就労支援事業資産の取得価額の75%以内

いずれも、積立金を計上する場合には同額の積立預金を計上して存在を明らかにしなければならないとされています。

そして、目的外への流用は認められません。ただし利用料収入の入金が事業実施月から2か月以上遅れる場合に限り、一時的な繰替使用が認められ、その資金は利用料収入で必ず補填することとされています。

工賃の税務の扱いについて

「工賃から源泉徴収は必要か」というご質問をよくいただきます。B型は雇用契約を締結しないサービスであり、支払うものは労働基準法上の賃金ではありません。

ただし、就労継続支援B型の工賃の所得区分について、国税庁が公表している取扱い(タックスアンサー・質疑応答事例・文書回答事例)を確認できませんでした。 インターネット上には「雑所得なので源泉徴収は不要」という説明が多く見られますが、当社としては一次情報で裏が取れないため断定しません。 実際の取扱いは、所轄税務署または顧問の税理士にご確認ください。

なお、生産活動の売上に係る消費税の課税区分と、工賃の支払いの取扱いも判断が分かれる論点です。こちらも個別にご確認ください。

実務でよくある取りこぼし

現場でご一緒していて多いのは、次の3つです。

  1. 生産活動ごとの収支が分からない。 パンの製造と受託作業と農作業を並行していると、事業所全体の収支は出せても、どの活動が工賃を押し上げていてどれが足を引っ張っているかが見えません。省令が求める「収入−経費」を活動単位で追えるようにしておくと、工賃向上の打ち手が具体的になります
  2. 利用者への通知の記録がない。 第201条第4項の義務のうち、都道府県への報告は残るのに、利用者への通知は残らない、という非対称が起きがちです
  3. 工賃の計算をExcelの1つのファイルで属人的に回している。 出勤日数・作業時間・作業量から工賃を割り付ける計算は、担当者が代わると引き継げないことが多い部分です

いずれも「会計の知識」ではなく「どこに何が置いてあるか」の問題です。

まとめ

  • 工賃は生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額(省令171号第201条第1項)。給付費は工賃の原資ではない
  • 生活介護でも、生産活動に従事している方への工賃の支払いが義務(同省令第85条)
  • 平均額が月3,000円を下回ってはならない(第201条第2項)。一人ひとりではなく平均で判定する
  • 年度ごとに目標水準を設定し、目標水準と前年度の平均額を利用者に通知し、都道府県に報告する(第4項)。利用者への通知の記録が残っているかを確認する
  • A型は雇用契約に基づく賃金。賃金・工賃の支払いに自立支援給付を充ててはならないのが原則(第192条第6項)
  • 会計は法人本部と就労支援事業で経理区分を分け、利用者工賃・職員給与を製造原価と販売費及び一般管理費に振り分ける(社援発第1002001号)
  • 工賃変動積立金は過去3年間の平均工賃の10%以内(上限50%以内)、設備等整備積立金は就労支援事業収入の10%以内(上限は就労支援事業資産の取得価額の75%以内)。 いずれも当該年度の支払額が前年度実績を下回らない場合に限る
  • 工賃の所得区分について国税庁の公表資料は確認できなかった。 税務の取扱いは所轄税務署・顧問税理士に確認する

参考にした一次情報

※基本報酬・加算の単位数、平均工賃月額に応じた報酬区分の詳細は、報酬告示および各年度の報酬改定資料をご確認ください。本記事では単位数には触れていません。


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