「うちの経理規程、いつ誰が作ったものか分からない」
「他の法人から譲り受けた雛形をそのまま使っていて、実態と合っていない気がする」
社会福祉法人様のご支援に入っていると、経理規程についてこうした声をよく伺います。指導監査や会計監査で「経理規程どおりに運用されていますか」と問われて初めて、規程と現場の運用がずれていることに気づく、というケースも珍しくありません。
経理規程は、定款のように所轄庁の認可や届出が必要な書類ではありません。だからこそ、いつの間にか放置されやすく、いざ見直そうとすると「何を基準に直せばいいのか」が分からなくなりがちです。この記事では、経理規程の位置づけと参照すべきモデル規程、改正に必要な法人内の手続き、見直しが必要になる典型的なタイミングを整理します。
経理規程とは何か、なぜ必要なのか
経理規程は、社会福祉法人が「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号)に基づいて適正な会計処理を行うために、法人内部の会計事務の手続きを具体的に定めた規程です。厚生労働省の「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」(平成28年3月31日雇児総発0331第7号・社援基発0331第2号・障障発0331第2号・老総発0331第4号、最終改正令和3年11月12日)でも、法人が会計基準に基づく適正な会計処理のために必要な事項を経理規程に定めることが前提とされています。
会計基準省令は全国共通の「ものさし」を定めていますが、勘定科目の運用細則、予算の編成・執行手続き、出納・現金管理の方法、契約事務の決裁ライン、固定資産の管理方法といった具体的な事務フローは、各法人が経理規程で定める必要があります。会計基準だけを読んでも、明日から誰がどう伝票を起票し、誰の決裁を経て支払うのか、という実務の手順までは分かりません。その橋渡しをするのが経理規程です。
なお、経理規程は定款とは別個の内部規程です。当社の別記事「社会福祉法人の定款変更手続き」で整理しているとおり、定款の変更は評議員会の特別決議を経たうえで、事項によって所轄庁の認可または届出が必要になります。これに対して経理規程は、後述のとおり理事会の決議で足り、所轄庁への届出義務もありません。この違いを理解していないと、「経理規程を直すのに評議員会にかけないといけないのでは」と余計な手続きを踏んでしまったり、逆に「規程を変えたら届出が必要では」と分からないまま放置してしまったりします。
経理規程の「モデル」はどこにあるのか
経理規程を一から作る法人はまれで、実務ではモデル規程をベースに自法人向けに手を入れるのが一般的です。現在、参照できる代表的なモデルは2系統あります。
1. 全国経営協「社会福祉法人モデル経理規程」(平成29年版)
全国社会福祉法人経営者協議会(全国経営協、全国社会福祉協議会の部会)は、平成24年2月に「社会福祉法人モデル経理規程」(当時は全国社会福祉施設経営協議会名義)を公表していました。その後、社会福祉法人制度改革(改正社会福祉法、平成28年4月1日施行)に伴う会計基準の改正を受けて内容を見直し、「平成29年版 社会福祉法人モデル経理規程」(平成29年4月1日施行)として改定・公表しています。
この平成29年版モデル経理規程は、本則(規程本体)に加えて、徴収不能引当金の処理や税効果会計など個別の論点ごとに「モデル経理規程細則」を別立てで用意する構成になっています。本則で大枠のルールを定め、実務上の詳細な取扱いは細則に落とす、という2階層の設計です。比較的規模が大きく、複数の拠点区分・サービス区分を持つ法人を想定して作られており、項目数も多めです。
2. 厚生労働省「小規模社会福祉法人向け経理規程例」(令和2年11月)
全国経営協のモデル経理規程は大規模法人にも対応できるよう作られているため、拠点区分が1つしかない小規模な法人にとっては、使わない項目・過剰な決裁階層が多く含まれてしまうという課題がありました。これを受けて厚生労働省は令和2年11月30日付の事務連絡で、都道府県等の所轄庁に対し「小規模社会福祉法人向け経理規程例」と、これとセットになる「社会福祉法人経理事務マニュアル」の周知を依頼しています。
この規程例は、1法人が1施設を運営し拠点区分が1つである法人を想定して作られており、全国経営協モデルに比べて条文数・決裁階層がシンプルです。厚生労働省はその後も令和6年9月19日付でこの規程例に関するFAQを公表しており、継続的にメンテナンスされている資料であることが分かります。
どちらを参照すべきか
- 複数の拠点区分・サービス区分を持ち、決裁階層や引当金処理など会計論点が多岐にわたる法人 → 全国経営協モデル経理規程(平成29年版)をベースに、自法人にない論点を削る方向で調整
- 単一拠点で、法人規模・職員数が小さい法人 → 厚生労働省の小規模法人向け経理規程例をベースに、必要な項目を足す方向で調整
どちらのモデルも「そのまま使うための完成品」ではなく、あくまで自法人の実態に合わせて手を入れる前提の参考資料として作られている点は共通しています。
経理規程の改正はどこで決議するのか
経理規程の制定・変更は、法人の業務執行の決定に当たり、理事会の決議で行います(社会福祉法第45条の13第2項第1号)。定款変更のように評議員会の特別決議を経る必要はなく、所轄庁への届出義務もありません。
社会福祉法第45条の13第4項では、理事に委任することができず必ず理事会で決議しなければならない事項として、重要な財産の処分・多額の借財・重要な役割を担う職員の選任解任・従たる事務所その他の重要な組織の設置変更廃止と並んで、「内部管理体制の整備」(同項第5号)が挙げられています。内部管理体制とは、理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他法人の業務の適正を確保するために必要な体制のことで、基本方針だけでなく、それを具体化する諸規程(理事会規程、経理規程、各種職務・業務規程等)まで含めて整理されるのが一般的な解釈です。経理規程は、この内部管理体制を具体化する規程の一つと位置づけられます。
つまり、経理規程の改正は理事長の一存で決められるものではなく、理事会に諮って決議する事項です。当社の別記事「社会福祉法人の理事会と評議員会の違い」で整理しているとおり、理事会の決議は議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その出席理事の過半数をもって行うのが原則です。経理規程の改正案を理事会にかける際も、通常の議案と同じ手続きで決議します。
なお、経理規程そのものを所轄庁へ提出・届出する法令上の義務はありません。ただし、指導監査では経理規程が整備され、かつ規程どおりに運用されているかどうかが確認対象になります。「規程はあるが、誰も中身を見ていない」「改正したはずが現場の運用と食い違っている」という状態は、指導監査で指摘を受ける典型例です。
経理規程の改正が必要になる典型的なタイミング
経理規程は一度作ったら終わりではなく、次のようなタイミングで見直しが必要になります。
- 会計基準・運用上の留意事項が改正されたとき:平成28年の社会福祉法人制度改革に伴う会計基準改正のように、拠点区分・サービス区分の会計処理ルール自体が変わる改正では、規程の記載を国の基準に合わせて更新する必要があります
- 参照しているモデル規程自体が改定されたとき:平成24年版から平成29年版へのモデル経理規程の改定のように、参照元が更新された場合は、自法人の規程との差分を確認する契機になります
- 拠点・事業が増減したとき:新しい事業所を開設した、逆に事業を廃止した、といった変化は、決裁ライン・拠点区分の会計処理を規程に反映すべき典型的なタイミングです
- 契約事務の実態が変わったとき:随意契約の見積り徴収基準額や、クレジットカード決済・複数年契約の可否など、契約関係の規定は実務とのズレが生じやすい領域です。ここは別記事で詳しく扱います
- 理事長や決裁ラインの担当者が交代したとき:規程上の決裁権限者の名称・役職が実態と合っているかを確認する機会になります
モデル規程をそのまま使い続けると起きること
モデル経理規程は、あくまで多くの法人に共通する項目を網羅した「最大公約数」です。そのため、自法人の実態に合わせずにそのまま使い続けると、次のような食い違いが起きやすくなります。
- 拠点が1つしかないのに、複数拠点を前提にした承認ルートが規程に残っている
- 実際にはクラウド上で決裁しているのに、規程には紙の起票・押印を前提にした手続きしか書かれていない
- 契約金額の基準額が、物価や実際の取引実態と合わなくなっている
- 誰がいつ規程を改正したのか、改正履歴が残っていない
複数拠点を運営する法人ほど、本部と各拠点で経理規程の解釈や運用に微妙なずれが生まれがちです。規程の条文自体は理事会で正しく改正されていても、現場での運用がそこに追いついていなければ、実質的には規程が機能していないのと同じ状態になってしまいます。
自法人に合わせて改正する3つの進め方
1. 現状の運用を洗い出してから規程と突き合わせる
規程の条文を先にいじるのではなく、まず「今、誰がどの金額まで決裁しているか」「契約はどのフローで進んでいるか」「拠点ごとにやり方が違う部分はどこか」を洗い出します。そのうえで、全国経営協モデルまたは小規模法人向け規程例と突き合わせ、自法人に不要な項目・逆に足りていない項目を確認します。
2. 改正案を理事会に諮り、施行日と周知方法をセットで決める
経理規程の改正は理事会決議事項です。改正案を作成したら、いつから施行するか、拠点・職員へどう周知するかまでを議案の中で決めておくと、「決議はしたが現場に伝わっていない」という状態を防げます。関連する固定資産管理や契約事務の細則がある場合は、経理規程本体の改正と合わせて整合性を確認します。
3. 改正後、運用が規程どおりに回っているかを確認する
改正して終わりにせず、施行後しばらく経ってから実際の運用が規程どおりに回っているかを確認します。決裁のたびに紙の起票と押印を回している、拠点から本部への報告が電話とメールの往復になっている、といった状態が残っていると、規程を改正しても実務の負担は変わりません。私たちがkintoneなどでご支援する場合も、経理規程で定めた決裁ルートをそのままワークフローに落とし込み、申請・決裁の履歴が自動的に残る仕組みを作るところから着手することが多くあります。
まとめ
- 経理規程は、社会福祉法人会計基準に基づく適正な会計処理を行うための内部規程。定款とは別物で、所轄庁への届出義務もない
- 参照できるモデルは2系統。複数拠点・大規模法人向けの全国経営協「平成29年版モデル経理規程」と、単一拠点の小規模法人向けの厚生労働省「小規模社会福祉法人向け経理規程例」(令和2年11月)
- 経理規程の制定・改正は、内部管理体制の整備(社会福祉法第45条の13第4項第5号)の一環として理事会の決議で行う。評議員会の決議や所轄庁への届出は不要
- 見直しが必要になる典型的なタイミングは、会計基準の改正、モデル規程自体の改定、拠点・事業の増減、契約実態や決裁ラインの変化
- モデル規程は「そのまま使う完成品」ではなく「自法人に合わせて手を入れる前提の参考資料」。改正後は運用が規程どおりに回っているかまで確認する
参考(一次情報)
- 社会福祉法人モデル経理規程(平成29年版・平成29年4月1日施行)|全国社会福祉法人経営者協議会(鹿屋市サイト転載)
- 社会福祉法人モデル経理規程 細則|全国社会福祉施設経営協議会(伊勢市サイト転載)
- 小規模社会福祉法人向け経理規程例|厚生労働省
- 小規模社会福祉法人向け経理規程例に関するFAQ(令和6年9月19日付事務連絡)|厚生労働省
- 社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について|厚生労働省
- 社会福祉法|e-Gov法令検索(第45条の13:理事会の権限、第45条の36:定款の変更)
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