「今日の理事会、監事が急に欠席になったんですが、このまま開いて大丈夫でしょうか」
役員の高齢化や兼務が進む法人ほど、こうした問い合わせが増えます。理事会と評議員会の役割分担については理事会と評議員会の違いを整理した記事で解説しましたが、今回はさらに一段実務に踏み込んで、理事会そのものが「成立」するための要件を取り上げます。
「理事は何人集まればいいのか」「委任状は使えるのか」「監事が来ないと決議は無効になるのか」。これらは指導監査でも必ず確認される事項でありながら、条文だけを読むと判断に迷う場面が少なくありません。この記事では、社会福祉法の条文と、厚生労働省の事務連絡「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について(経営組織の見直しについて)」(平成28年6月20日付、同年11月11日改訂)をもとに、理事会の成立要件・定足数・監事の出席義務・開催回数を整理します。
理事会は「全ての理事」で組織される
まず前提として、理事会の構成員を確認しておきます。社会福祉法では次のように定められています(法第45条の13第1項)。
理事会は、全ての理事で組織する。
株式会社の取締役会のように一部の役員だけで構成されるのではなく、選任されている理事は全員が理事会の構成員になります。理事会の職務は、社会福祉法人の業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選定及び解職の3つです(同条第2項)。
理事会の成立要件(定足数)
ここが本題です。理事会が有効に成立し、決議を行うための要件は、社会福祉法第45条の14第4項に定められています。
理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合以上)をもつて行う。
整理すると、次の2段階です。
- 定足数:議決に加わることができる理事の過半数が出席していること
- 決議要件:出席した理事の過半数の賛成があること
定款でこの割合を引き上げること(例:3分の2以上)はできますが、引き下げることはできません。評議員会のように、特別決議で「3分の2以上」が法律上定められている議案はなく、理事会の決議要件は原則としてこの1本です(定款で加重されている場合を除く)。
特別の利害関係を有する理事は数に入らない
決議の公正を確保するため、その決議について特別の利害関係を有する理事は議決に加わることができません(法第45条の14第5項)。理事の競業取引・利益相反取引の承認、理事の損害賠償責任の一部免除、理事長の解任などが典型例です。
実務上の注意点は、特別利害関係を有する理事は「出席者数」からも除いて定足数を数えることです。たとえば理事7名のうち1名が当該議案について特別利害関係を有する場合、定足数の計算対象は「議決に加わることができる理事6名」となり、その過半数である4名以上の出席が必要になります。単純に在籍理事数の半分で判断すると、定足数を誤って数えてしまうケースがあるため注意が必要です。
書面決議・代理出席・持ち回り決議は認められない
評議員会の議決権行使との違いで、現場が最も誤解しやすいのがこの点です。厚生労働省の事務連絡では、次のように明記されています。
理事会における議決権の行使については、書面又は電磁的方法による議決権の行使や代理人、持ち回りによる議決権の行使は認められない。
理事は法人との委任契約に基づき、善良な管理者の注意をもって職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っており、理事会は理事本人が参集して相互に十分な討議を行うことで意思決定を行う場だからです。「体調不良の理事から委任状を預かって代理出席する」「押印だけもらって決議したことにする」といった運用は、法律上認められていません。
一方で、テレビ会議や電話会議による出席は認められています。厚生労働省の事務連絡は、「出席者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論を行うことができる方法であれば、テレビ会議や電話会議の方法による開催は認められる」としています。出席者の音声・映像がリアルタイムで伝わり、双方向にやり取りできる環境であることが前提で、この場合の出席方法は議事録にも記載する必要があります。
なお、理事が提案した事項について、議決に加わることができる理事の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をし、かつ監事がその提案について異議を述べなかった場合には、理事会を開催せずに決議があったものとみなす「決議の省略」という制度もあります(法第45条の14第9項で準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第96条)。ここで書面等による同意が必要なのは理事であり、監事については「異議を述べないこと」が要件である点が、実務でよく取り違えられます。
ただし、この制度を使えるのは定款にその旨の定めがある場合に限られ、無条件に使えるわけではありません。また、これとは別に「理事会への報告の省略」の制度もありますが(同項で準用する一般法人法第98条第1項)、後述する理事長・業務執行理事による自己の職務執行状況の報告は、この報告の省略の対象外とされています(同条第2項)。書面を回すだけでは代替できないため、報告のための理事会は実際に開催する必要があります。
監事の理事会出席義務
「監事は理事会に出席しなくてもよい」という誤解も根強くあります。実際には、次のとおり法律上の義務です。
監事は、理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない(社会福祉法第45条の18第3項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第101条第1項)。
厚生労働省の事務連絡は、この趣旨を「監事が出席することにより、理事会の議論を把握し、理事の業務執行の監督につなげるとともに、理事会において法令・定款に違反する決議や著しく不当な決議等が行われるのを防ぐ趣旨である」と説明しています。監事は理事会の成立要件(定足数)そのものには含まれませんが、出席して意見を述べることは法律上の義務であり、指導監査でも確認される事項です。
あわせて、監事には次の権限・義務も定められています(同項において準用する一般法人法第100条〜第103条)。
- 理事の不正行為・法令定款違反等を発見したときの理事会への報告義務
- 必要があると認めるときの理事会招集請求権(請求に応じてもらえない場合は監事自ら招集可能)
- 理事が評議員会に提出しようとする議案等を調査し、問題があれば評議員会へ報告する義務
理事会の議事録には、出席した理事に加えて監事の署名又は記名押印も必要です(法第45条の14第6項)。定款で「出席した理事長及び監事」を議事録署名人とする定めを置くこともできますが、いずれにせよ監事の関与を欠いた議事録は不備の指摘対象になります。
理事会の開催回数
理事会そのものの開催回数を直接定めた条文はありません。ただし、理事長及び業務執行理事には次の報告義務が課されています(法第45条の16第3項)。
前項各号に掲げる理事は、三月に一回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。ただし、定款で毎会計年度に四月を超える間隔で二回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでない。
この規定を素直に読むと「3か月に1回以上」が原則ですが、定款に定めれば「毎会計年度に4か月を超える間隔で2回以上」に緩和できます。この場合の「4か月を超える間隔で2回以上」とは、暦月で単純に4か月ごとという意味ではなく、会計年度(4月〜翌3月)の中で4か月を超える間隔が1回でもあり、かつ年2回以上開催されていればよいという考え方です。多くの法人は、次年度の事業計画・予算を審議する理事会(1〜3月頃)と、前年度の決算を審議する理事会(4〜6月頃)の年2回は最低限開催しており、この2回だけで済ませている法人も少なくありません。
ここで注意したいのは、この規定は理事長等の報告義務の頻度を定めたものであり、理事会の開催そのものを年2回に制限する規定ではないという点です。人事異動、契約、施設整備など、重要な財産の処分・多額の借財・重要な職員の選任解任といった理事に委任できない事項(法第45条の13第4項)が発生すれば、その都度理事会を開いて決議する必要があります。「年2回でよい」という理解のまま、本来理事会にかけるべき議案を理事長の専決で処理してしまうと、指導監査での指摘対象になります。
理事会の招集と議事録
最後に、成立要件と合わせて押さえておきたい周辺実務です。
理事会は各理事が招集するのが原則ですが、定款又は理事会の決議で招集権者を理事長などに限定することもできます(法第45条の14第1項)。招集権者以外の理事も、目的事項を示して招集を請求でき、5日以内に2週間以内の日を理事会の日とする招集通知が出なければ、自ら招集することも可能です(同条第2項・第3項)。
招集通知は、理事会の日の原則として1週間前まで(定款で短縮可)に、理事及び監事の全員に発する必要があります(法第45条の14第9項で準用する一般法人法第94条第1項)。評議員会の招集と異なり、通知の方法に書面などの限定はなく、議題を示すことも必須ではありません。理事及び監事の全員が同意すれば、招集手続そのものを省略して開催することもできます(同条第2項)。
議事録には、日時・場所、議事の経過の要領及びその結果、特別利害関係を有する理事の氏名、出席した理事・監事の氏名などを記載する必要があります。決議に参加した理事で議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されるため(法第45条の14第8項)、「当日は反対したのに議事録には何も残っていない」という状態は、後から自分の首を絞めることにもなりかねません。
まとめ
- 理事会は全ての理事で組織され、議決に加わることができる理事の過半数の出席と、その過半数の賛成で決議が成立する(社会福祉法第45条の14第4項)
- 特別の利害関係を有する理事は議決に加われず、定足数の計算からも除く
- 書面・代理人・持ち回りによる議決権行使は認められない。テレビ会議・電話会議は、一堂に会するのと同等の議論ができる環境であれば可能
- 監事は理事会の定足数には含まれないが、理事会への出席・意見陳述は法律上の義務(法第45条の18第3項、一般法人法第101条第1項)。議事録には監事の署名も必要
- 理事会の開催回数は、理事長等の「3か月に1回以上」の報告義務(定款で年2回以上に緩和可)が事実上の目安。ただし理事会を年2回に制限してよいという意味ではない
参考(一次情報)
- 社会福祉法(昭和26年法律第45号)|e-Gov法令検索
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)|e-Gov法令検索
- 「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について(経営組織の見直しについて)」の改訂について(平成28年11月11日付事務連絡)|厚生労働省
- 社会福祉法人理事会・評議員会の手引き(令和5年12月)|熊本県健康福祉部長寿社会局社会福祉課
理事会の運営を整えたい法人様へ
パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。定足数の確認や議事録の記載漏れなど、細かな運営ルールの整理も、まずは今の運用を一緒に見るところから始めます。