「月80時間を超えたら、医師の面接指導」。ここまでは多くの法人が知っています。では、「職員から申出が無いので、うちは何もしていない」という状態は、条文のうえで成り立つのでしょうか。
夜勤・宿直・早番・遅番が組み合わさる福祉の現場では、1か月の時間外労働が本人にも把握しにくいことがあります。申出が出てくるのを待つ運用のままで大丈夫なのか。この記事は解説を繰り返すのではなく、労働安全衛生法(以下「安衛法」)の第66条の8から第66条の9まで、労働安全衛生規則(以下「安衛則」)の第52条の2から第52条の8までを、条文の順に読んで決着をつけます。
先に、条文を読んで確かめられたことを並べます。
- 面接指導そのものは、安衛則第52条の3第1項のとおり労働者の申出により行う
- ただし、その前に事業者には時間の算定(毎月1回以上、一定の期日を定めて)と、80時間を超えた労働者への情報の通知の義務がある(安衛則第52条の2第2項・第3項)。「申出が無いから何もしなくてよい」とは、条文から読めない
- 対象の要件は2つあり、どちらも満たす必要がある。月80時間を超えること、そして疲労の蓄積が認められること(安衛則第52条の2第1項)
- 労働時間の状況の把握は、面接指導とは別の条(安衛法第66条の8の3)に置かれている。方法は「客観的な方法その他の適切な方法」(安衛則第52条の7の3第1項)
- 保存年数は2つあって違う。面接指導の結果の記録は五年間、労働時間の状況の記録は三年間
- 罰則は非対称。安衛法第120条第1号の列挙に、第66条の8の2第1項と第66条の8の4第1項は入っているが、第66条の8第1項と第66条の8の3は入っていない
事業場の単位、疲労の蓄積を誰がどう認めるか、実際の指導の運用などは、条文だけでは読めない、またはこの記事で確認していない論点です。後ろの「この記事で書いていないこと」にまとめています。
条文の地図:どの論点がどこに書かれているか
条が法と省令に分かれていて行き来しやすいので、先に地図を置きます。
| 論点 | 法(安衛法) | 省令(安衛則) |
|---|---|---|
| 通常の労働者の面接指導 | 第66条の8 | 第52条の2から第52条の7 |
| 研究開発業務に従事する者の面接指導 | 第66条の8の2 | 第52条の7の2 |
| 労働時間の状況の把握 | 第66条の8の3 | 第52条の7の3 |
| 高度プロフェッショナル制度の対象者の面接指導 | 第66条の8の4 | (この記事では確認していない) |
| 面接指導の対象外の労働者への措置(努力義務) | 第66条の9 | 第52条の8 |
| 罰則 | 第120条第1号 | なし |
この記事の中心は、いちばん上の段(通常の労働者)と、その前提になる労働時間の状況の把握です。福祉の事業所で通常問題になるのは、この2つだからです。
面接指導の根拠:安衛法第66条の8第1項
面接指導を行う義務の根拠は、安衛法第66条の8第1項です。条文の後半は次のとおりです。
に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
条文の前半(引用していない部分)に、誰が対象かが書かれています。「労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者」で、その要件は省令に委ねられています。語尾は「行わなければならない」です。
省令の側で、その要件を定めているのが安衛則第52条の2です。
対象になる労働者は、2つの要件を両方満たす者
要件1と要件2は「かつ」でつながっている
安衛則第52条の2第1項は、対象の要件を次のように書いています。
休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。
部品に分けます。
| 部品 | 条文の言葉 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 何の時間か | 「休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」 | 休憩を除いた、週40時間を超えた部分の時間 |
| どれだけか | 「一月当たり八十時間を超え」 | 1か月あたり80時間を超える |
| もう一つの条件 | 「かつ、疲労の蓄積が認められる者」 | 時間だけでなく、疲労の蓄積も要件 |
時間の要件と疲労の蓄積の要件は、「かつ」でつながっています。 80時間を超えただけでは、この条の要件を満たしません。逆に、疲労の蓄積が認められても、80時間を超えていなければこの条の要件に当たりません。
注意したいのは、数えるのが「1日8時間を超えた分」や「月の総労働時間」ではなく、週40時間を超えた部分だという点です。条文の言葉は「一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」です。1か月の分をどのように足し合わせるか(週が月をまたぐときなど)は、第52条の2には書かれていません。
ただし書:医師が不要と認めた者は除かれる
第1項にはただし書があります。
ただし、次項の期日前一月以内に法第六十六条の八第一項又は第六十六条の八の二第一項に規定する面接指導を受けた労働者その他これに類する労働者であつて法第六十六条の八第一項に規定する面接指導(以下この節において「法第六十六条の八の面接指導」という。)を受ける必要がないと医師が認めたものを除く。
読み取れることは次のとおりです。
- 除かれるのは、直前の期日(次項=第2項の期日)の前1か月以内に面接指導を受けた労働者などで、かつ、受ける必要がないと医師が認めた者
- 「受けた」だけでは足りず、「医師が認めた」ことが要る
- 医師がどのような手続で認めるかは、第52条の2には書かれていない
「疲労の蓄積が認められる」を誰が、どのように判断するのかも、第52条の2第1項には書かれていません。ここは、事業所の運用で迷いやすい点です。この記事では条文から読めることだけにとどめ、判断の基準は確認していません。
事業者が先にやること:算定と通知(安衛則第52条の2第2項・第3項)
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。面接指導は申出から始まりますが、申出の前に、事業者の側に先にやることが2つあります。
算定は、毎月1回以上、期日を定めて
前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。
読み取れることは次のとおりです。
- 算定するのは、第1項の「超えた時間」(週40時間を超えた時間)
- 頻度は毎月1回以上
- 「一定の期日を定めて」とあるので、期日を決めるのは事業者の側。毎月同じ日に区切って算定する形になる
- 期日を何日にするか(月末か給与の締め日か)は、条文には書かれていない
通知は、算定したら「速やかに」
事業者は、第一項の超えた時間の算定を行つたときは、速やかに、同項の超えた時間が一月当たり八十時間を超えた労働者に対し、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない。
ここから、次のことが読み取れます。
- 通知は、算定を行ったときに生じる義務で、語尾は「通知しなければならない」
- 時期は「速やかに」
- 通知の相手は「一月当たり八十時間を超えた労働者」。この文には「疲労の蓄積」は出てきません
- 通知する内容は「当該超えた時間に関する情報」
- 通知の方法(書面か、メールか、システムの画面か)は、条文には書かれていない
つまり、第3項の文面を素直に読むと、通知の義務は「申出があるかどうか」に左右されません。申出を受け付ける前に、まず事業者が算定し、80時間を超えた本人に知らせるという順序になります。
条文の順序に並べ直す
第52条の2から第52条の3を、事業者と労働者のどちらが動くかで並べます。
| 順 | 誰が | 何をする | 条文 |
|---|---|---|---|
| 1 | 事業者 | 期日を定める | 安衛則第52条の2第2項 |
| 2 | 事業者 | 期日に、週40時間を超えた時間を算定する(毎月1回以上) | 同第2項 |
| 3 | 事業者 | 80時間を超えた労働者に、超えた時間の情報を速やかに通知する | 同第3項 |
| 4 | 労働者 | 期日後、遅滞なく、申出をする | 安衛則第52条の3第1項・第2項 |
| 5 | 事業者 | 申出があったら、遅滞なく面接指導を行う | 同第3項 |
申出が出てくるのは、4番目です。1番目から3番目は、事業者が先に行うことです。
申出と実施:安衛則第52条の3
面接指導の実施のしかたは、第52条の3です。
法第六十六条の八の面接指導は、前条第一項の要件に該当する労働者の申出により行うものとする。
前項の申出は、前条第二項の期日後、遅滞なく、行うものとする。
事業者は、労働者から第一項の申出があつたときは、遅滞なく、法第六十六条の八の面接指導を行わなければならない。
読み取れることを整理します。
- 面接指導は「前条第一項の要件に該当する労働者の申出により」行う。申出は、2つの要件を満たす労働者について出てくる
- 申出の時期は「前条第二項の期日後、遅滞なく」。算定の期日の後になる
- 事業者は、申出があったら「遅滞なく」行わなければならない
- 申出の方法(書面か口頭か)は、条文には書かれていない
- 面接指導を行う医師が産業医でなければならないかどうかは、これらの条文からは読めない(第52条の4は「医師」と書くだけ)
産業医は、申出を勧奨できる
第52条の3には、産業医に関する規定もあります。
産業医は、前条第一項の要件に該当する労働者に対して、第一項の申出を行うよう勧奨することができる。
産業医には、申出を行うよう勧奨できるとされています。語尾は「できる」で、義務ではありません。
ここから、福祉の現場に関わる点が1つ読み取れます。この勧奨は産業医が行うものなので、産業医が置かれていない事業場では、この勧奨の経路は使えません。産業医が置かれていない場合に、申出を促す代わりの手段が条文にあるかどうかは、この記事で扱った条文からは読めません。制度名を挙げて「これを使えばよい」と断定することは、この記事ではしません。また、産業医を置く義務が事業場の人数でどう決まるかは、この記事で確認した条文には出てこないので、扱っていません。
面接指導で医師が確認する事項
医師は、法第六十六条の八の面接指導を行うに当たつては、前条第一項の申出を行つた労働者に対し、次に掲げる事項について確認を行うものとする。
第52条の4は、続く各号で3つの事項を挙げています。
| 号 | 確認する事項 |
|---|---|
| 第1号 | 当該労働者の勤務の状況 |
| 第2号 | 当該労働者の疲労の蓄積の状況 |
| 第3号 | 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況 |
「疲労の蓄積」は、対象になるかどうかの要件(第52条の2第1項)にも、面接指導で医師が確認する事項(第52条の4第2号)にも出てきます。
労働者が自分で選んだ医師による面接指導
安衛法第66条の8第2項は、労働者は事業者が行う面接指導を受けなければならない、と定めたうえで、ただし書を置いています。事業者の指定した医師による面接指導を希望しない場合に、他の医師の面接指導を受けて、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでないという内容です。
その書面に何を書くかは、安衛則第52条の5にあります。書くべき事項は次のとおりです。
| 号 | 記載する事項 |
|---|---|
| 第1号 | 実施年月日 |
| 第2号 | 当該労働者の氏名 |
| 第3号 | 面接指導を行った医師の氏名 |
| 第4号 | 当該労働者の疲労の蓄積の状況 |
| 第5号 | 前号に掲げるもののほか、当該労働者の心身の状況 |
事業者としては、労働者が別の医師の面接指導を受けて書面を持ってきたとき、この5事項がそろっているかを確認する形になります。
結果の記録、医師の意見、事後の措置
面接指導を行ったあとの流れは、安衛法第66条の8の第3項から第5項と、安衛則第52条の6・第52条の7にあります。
| 段階 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 記録 | 面接指導の結果を記録する | 安衛法第66条の8第3項、安衛則第52条の6 |
| 意見聴取 | 労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴く | 安衛法第66条の8第4項、安衛則第52条の7 |
| 事後の措置 | 医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは措置を講じる | 安衛法第66条の8第5項 |
医師の意見を聴く
事業者は、第一項又は第二項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
聴く時期は、安衛則第52条の7に書かれています。面接指導が行われた後(労働者が自分で選んだ医師の場合は、その結果を証明する書面を事業者に提出した後)、遅滞なく行わなければならない、という内容です。
事後の措置と、委員会への報告
第5項は、医師の意見を勘案したあとの措置を定めています。条文の後半は次のとおりです。
就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
条文の前半は、「医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して」という条件です。つまり、措置を講じるのは、必要があると認めるときです。そのうえで、措置の例として就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少が挙がり、医師の意見を委員会へ報告することも挙がっています。
委員会への報告という経路があるため、衛生委員会がどのような場かを押さえておくと、この条文が読みやすくなります。衛生委員会については、別の記事(衛生委員会の設置と運営)で扱っています。
記録は五年間、記載する内容は2つのまとまり
安衛則第52条の6第1項は、記録の保存年数を定めています。
事業者は、法第六十六条の八の面接指導(法第六十六条の八第二項ただし書の場合において当該労働者が受けたものを含む。次条において同じ。)の結果に基づき、当該法第六十六条の八の面接指導の結果の記録を作成して、これを五年間保存しなければならない。
読み取れることは次のとおりです。
- 記録の対象には、労働者が自分で選んだ医師の面接指導(第66条の8第2項ただし書の場合)も含まれる
- 保存は五年間。語尾は「保存しなければならない」
- 五年間の起算点は、この条文には書かれていない
第2項は、記録に何を記載するかを定めています。記載するのは、前条(第52条の5)の各号に掲げる事項(実施年月日、氏名、医師の氏名、疲労の蓄積の状況、心身の状況)と、安衛法第66条の8第4項の医師の意見です。
労働時間の状況の把握:面接指導とは別の条
ここまでの算定は「週40時間を超えた時間」を数える作業でした。その時間を正しく数えるには、そもそも労働時間を把握していなければなりません。把握の義務は、面接指導の条とは別の条に置かれています。安衛法第66条の8の3です。
事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
部品に分けます。
| 部品 | 条文の言葉 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 目的 | 「第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため」 | 通常の面接指導と、研究開発業務の面接指導を実施するため |
| 方法 | 「厚生労働省令で定める方法により」 | 方法は省令に委ねられている |
| 誰の | 「労働者(次条第一項に規定する者を除く。)」 | 労働者のうち、次条第1項に規定する者だけが除かれている |
| 語尾 | 「把握しなければならない」 | 義務 |
誰が対象から外れるのか
かっこ書きの「次条」は、第66条の8の4です。その第1項に規定されているのは、労働基準法第41条の2第1項の規定により労働する労働者であって、健康管理時間が省令で定める時間を超えるものです(第66条の8の4第1項、後ほど読みます)。
条文が把握の対象から除いているのは、この「次条第一項に規定する者」だけです。 それ以外の労働者について、条文の言葉のうえで除外は書かれていません。誰がこの「次条第一項に規定する者」に当たるのかは、労基法第41条の2第1項の条文を読む必要があり、この記事では確認していません。
また、第66条の8の3は、把握の目的を「面接指導を実施するため」と書いています。面接指導の条とは別の条ですが、面接指導の実施と結びついた条です。
方法は「客観的な方法その他の適切な方法」
法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
読み取れることは次のとおりです。
- 例として挙がっているのは、タイムカードによる記録と、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録
- 「等の客観的な方法」「その他の適切な方法」と、例示のあとに幅を持たせている
- 紙の出勤簿やExcelの手入力が「客観的な方法」「適切な方法」に当たるかどうかは、この条文だけでは確定できない
「客観的な方法」の意味や、自己申告との関係は、条文のこの部分には書かれていません。勤怠の仕組みが紙やExcelの事業所では、まず「そこに記録された時間は、どの時点で誰が入力しているのか」を点検しておくと、のちの算定の土台になります。これは条文が求めるものではなく、運用の提案です。
労働時間の状況の記録は三年間
事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
ここで、保存年数が2つ並びます。
| 面接指導の結果の記録 | 労働時間の状況の記録 | |
|---|---|---|
| 条文 | 安衛則第52条の6第1項 | 安衛則第52条の7の3第2項 |
| 保存年数 | 五年間 | 三年間 |
| 条文の語尾 | 「保存しなければならない」 | 「三年間保存するための必要な措置を講じなければならない」 |
| 作成する記録 | 面接指導の結果の記録 | 把握した労働時間の状況の記録 |
年数が違うだけでなく、語尾の組み立ても違います。面接指導の記録は「保存しなければならない」と直接書かれ、労働時間の状況の記録は「保存するための必要な措置を講じなければならない」と書かれています。起算点は、どちらの条文にも書かれていません。
事業所の運用では、同じ職員のファイルに面接指導の記録と勤怠の記録を一緒に綴じてしまうと、保存年数が違うのに同じ期限で廃棄してしまうおそれがあります。台帳を分けるか、期限を別々に管理する形にしておくのが安全です(提案)。
研究開発業務と高度プロフェッショナル:福祉の事業所では通常問題にならないが、罰則の比較に必要
福祉の事業所で、ここから先の2つの対象者が出てくることは多くないと考えられます(これは条文ではなく、この記事の見立てです)。ただ、次の罰則の比較に必要なので、条文の構造だけ確認しておきます。
研究開発業務に従事する者:月100時間
安衛法第66条の8の2第1項は、通常の面接指導とは別に、一定の業務に従事する者の面接指導を定めています。条文には「労働基準法第三十六条第十一項に規定する業務」と書かれており、この業務の中身は労基法の側の条文を読む必要があります。この記事では、一般に研究開発業務と呼ばれるものとして扱い、業務の中身は確認していません。
時間の基準は、安衛則第52条の7の2第1項にあります。
法第六十六条の八の二第一項の厚生労働省令で定める時間は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、一月当たり百時間とする。
通常の80時間に対して、こちらは100時間です。そして同条第2項は、第52条の2第2項、第52条の3第1項、第52条の4から第52条の7までを準用しています。
| 準用の読み替え | 内容 |
|---|---|
| 第52条の3第1項 | 「前条第一項の要件に該当する労働者の申出により」を「前条第二項の期日後、遅滞なく」と読み替える |
| 第52条の4 | 「前条第一項の申出を行つた労働者」を「労働者」と読み替える |
読み替えのとおりなら、研究開発業務の面接指導は、申出を要件としない形で読まれます。準用されている条の一覧には、第52条の2第3項(80時間を超えた労働者への通知)は挙がっていません。この違いが実務でどう働くかは、この記事では扱いません。
高度プロフェッショナル制度の対象者
安衛法第66条の8の4第1項は、次のように定めています。
事業者は、労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者であつて、その健康管理時間(同項第三号に規定する健康管理時間をいう。)が当該労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。
労基法第41条の2第1項の規定により労働する労働者が対象で、基準は労働時間ではなく健康管理時間です。この記事では、この制度の中身も、安衛則の対応する条も確認していません。
罰則:第120条の列挙に、入っている条と入っていない条がある
ここまで読んだ条のうち、罰則が置かれているのはどれでしょうか。安衛法第120条の導入部は次のとおりです。
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
第1号には、条の列挙があります。列挙のなかから、この記事で読んだ条を探すと、次のようになります。
| 条 | 内容 | 第120条第1号の列挙 |
|---|---|---|
| 第66条の8第1項 | 通常の面接指導 | 入っていない |
| 第66条の8の2第1項 | 研究開発業務に従事する者の面接指導 | 入っている |
| 第66条の8の3 | 労働時間の状況の把握 | 入っていない |
| 第66条の8の4第1項 | 高度プロフェッショナル制度の対象者の面接指導 | 入っている |
| 第66条の9 | 面接指導の対象外の労働者への措置(努力義務) | 入っていない |
列挙の該当箇所は、「第六十六条第一項から第三項まで、第六十六条の三、第六十六条の六、第六十六条の八の二第一項、第六十六条の八の四第一項、第八十七条第六項」と続いています。第66条の8の2第1項と第66条の8の4第1項は並んでいますが、その間にも前後にも、第66条の8第1項と第66条の8の3は出てきません。
「罰則が無いから、やらなくてよい」にはならない
ここで誤解しないでほしい点があります。第120条第1号の列挙に入っていないことは、義務が無いことを意味しません。
- 第66条の8第1項の語尾は「行わなければならない」
- 第66条の8の3の語尾は「把握しなければならない」
- 安衛則第52条の2第3項の語尾は「通知しなければならない」
いずれも義務の文言です。列挙に入っていない条について、他の条で罰則が定められているかどうかは、この記事では第120条以外を確認していません。行政の指導や是正勧告がどう働くか、民事上の責任がどうなるかは、条文からは読めないので、この記事では判断しません。
条文から言えるのは、「義務は書かれている。そのうえで、第120条第1号の列挙には入っていない」という事実までです。
面接指導の対象外の労働者:第66条の9と第52条の8
80時間を超えない職員でも、健康への配慮が必要なことはあります。そのための条が、安衛法第66条の9です。
事業者は、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項又は前条第一項の規定により面接指導を行う労働者以外の労働者であつて健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならない。
語尾は「努めなければならない」で、努力義務です。対象は、第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、前条(第66条の8の4)第1項の面接指導を行う労働者以外で、健康への配慮が必要な労働者です。
措置の内容は、安衛則第52条の8が定めています。第1項は、必要な措置を、面接指導の実施または面接指導に準ずる措置としています。そして第2項は次のとおりです。
労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者以外の労働者に対して行う法第六十六条の九の必要な措置は、事業場において定められた当該必要な措置の実施に関する基準に該当する者に対して行うものとする。
ここから、2点が読み取れます。
- 第66条の9の措置は、事業場において定められた基準に該当する者に対して行う
- 基準の中身は、条文には書かれていない。事業場で定める
つまり、80時間に満たない職員への配慮の基準は、事業場の側で決めることになります。たとえば「月60時間を超えた」「夜勤の回数が一定数を超えた」といった基準を置く例が考えられますが、これは条文にある数字ではなく、この記事の提案です。
第3項は、労基法第41条の2第1項の規定により労働する労働者については、その労働者の申出により措置を行うと定めています。
福祉の事業所で、どう運用に落とすか
ここまでの条文の構造を、福祉の事業所の運用に当てはめます。以下は、条文が書いていることと、運用上の提案を分けて整理します。
| 場面 | 条文が求めること | 運用上の提案 |
|---|---|---|
| 算定の期日 | 一定の期日を定めて、毎月1回以上算定する(第52条の2第2項) | 給与の締め日に合わせて期日を決める。法人としての期日を1つ決め、事業所ごとの運用差を作らない |
| 算定する時間 | 休憩を除き、週40時間を超えた時間(第52条の2第1項) | 夜勤・宿直・早番・遅番を含めて、勤怠の記録から機械的に算定できる形にしておく |
| 通知 | 算定したら速やかに、80時間を超えた労働者へ時間の情報を通知する(第52条の2第3項) | 通知の様式と、通知した日付の記録を決めておく。通知の方法は条文に定めがないので、法人で決める |
| 申出の受付 | 申出は期日後、遅滞なく(第52条の3第2項) | 申出の窓口と、申出から面接指導までの手順を、通知文に添える |
| 面接指導の実施 | 申出があったら遅滞なく行う(第52条の3第3項) | 医師を手配する流れを、申出が出る前に決めておく |
| 結果の記録 | 五年間保存(第52条の6第1項) | 勤怠の記録(三年間)とは別の台帳で期限を管理する |
| 労働時間の把握 | 客観的な方法その他の適切な方法で把握し、三年間保存するための措置を講じる(第66条の8の3、第52条の7の3) | 紙やExcelの勤怠は、入力の時点と入力者を確認しておく |
夜勤・宿直を含む時間の数え方
福祉の現場で迷うのは、夜勤や宿直の時間をどう数えるかです。週40時間を超えた時間の算定は、第52条の2第1項に書かれている「労働させた場合」の時間に当たるかどうかで決まります。夜勤や宿直の時間を労働時間として数えるかどうかは、この記事で読んだ条文からは読めません。別の記事(宿直と夜勤の違い)で整理しています。
事業場ごとの体制
1つの法人が、特養、デイサービス、グループホーム、法人本部と複数の拠点を持つことは珍しくありません。安衛則第52条の8第2項は「事業場において定められた…基準」と書いていますが、安衛法第66条の8や安衛則第52条の2の条文の主語は「事業者」です。どの施設を1つの事業場と数えるか、体制を事業場ごとに分けるか法人で1つにするかは、この記事で読んだ条文からは確定できません。 産業医の有無が事業場ごとに異なる場合は、申出の勧奨の経路が事業場ごとに変わりうることだけ、押さえておくとよいでしょう。
台帳に何を持つか
通知から申出、面接指導、記録までを追える台帳の項目を、条文が求めるものと提案に分けます。
| 項目 | 条文が求めるか | 持っておく理由 |
|---|---|---|
| 算定の期日 | 求める(第52条の2第2項) | 期日を定めることが義務のため |
| 職員ごとの超えた時間 | 求める(算定は第52条の2第2項。通知は第3項) | 通知の内容そのものになる |
| 通知した日 | 条文は求めていない(提案) | 速やかに通知したことを後から確かめるため |
| 申出の日 | 条文は求めていない(提案) | 申出の遅滞なき対応を確かめるため |
| 面接指導の結果の記録 | 求める(第52条の6) | 五年間の保存の対象 |
| 医師の意見と、講じた措置 | 医師の意見は記録に記載(第52条の6第2項)。措置は法第66条の8第5項 | 事後の措置につなげるため |
| 労働時間の状況の記録 | 求める(第52条の7の3第2項) | 三年間の保存の対象 |
| 所属事業所 | 条文は求めていない(提案) | 法人全体の一覧から事業所ごとに絞るため |
この記事で書いていないこと
条文の範囲では、次のことは書かれていない、またはこの記事で確認していません。
- 「疲労の蓄積が認められる」ことを誰がどう判断するか:第52条の2第1項には書かれていません
- 通知の方法(書面かメールか):第52条の2第3項には書かれていません
- 期日を何日にするか、1か月の時間の足し合わせ方:第52条の2には書かれていません
- 産業医が置かれていない事業場で、申出を促す代わりの手段:この記事で確認した条文には出てきません
- 産業医を置く義務が、事業場の人数でどう決まるか:この記事で確認した条文には出てきません
- 面接指導を行う医師が産業医でなければならないか:第52条の4は「医師」と書くだけです
- 紙の出勤簿やExcelが「客観的な方法」に当たるか:第52条の7の3第1項の条文だけでは確定できません
- 保存年数(五年間・三年間)の起算点:条文には書かれていません
- 次条第一項に規定する者の具体的な範囲:労基法第41条の2第1項と、安衛法第66条の8の4を読む必要があり、この記事では確認していません
- 研究開発業務(労基法第36条第11項の業務)の中身:この記事では確認していません
- 高度プロフェッショナル制度に対応する安衛則の条:この記事では確認していません
- 第120条以外の罰則、行政の指導、是正勧告の流れ、民事上の責任:この記事では確認していません
- 夜勤・宿直の時間を労働時間として数えるか:この記事で読んだ条文からは読めません
- どの施設を1つの事業場と数えるか:条文から確定できません
- 個別の職員が対象になるかの判断:この記事は条文の構造の整理で、個別の判断は労働基準監督署や社会保険労務士などにご確認ください
まとめ
- 面接指導は申出により行う(安衛則第52条の3第1項)。ただし、その前に事業者には算定(毎月1回以上、一定の期日を定めて)と、80時間を超えた労働者への通知の義務がある(第52条の2第2項・第3項)。申出が無いことは、算定と通知をしない理由にならない
- 対象の要件は2つを両方満たすこと。週40時間を超えた時間が月80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められること。直前の期日の前1か月以内に面接指導を受け、受ける必要がないと医師が認めた者などは除かれる
- 条文の順序は、期日→算定→通知→申出→面接指導。申出は4番目
- 産業医は申出を勧奨できる(第52条の3第4項)。産業医が置かれていない事業場では、この経路は使えない
- 労働時間の状況の把握は、面接指導とは別の条(安衛法第66条の8の3)。条文が対象から除くのは「次条第一項に規定する者」だけ。方法は客観的な方法その他の適切な方法
- 保存年数は、面接指導の結果の記録が五年間、労働時間の状況の記録が三年間
- 罰則は、第120条第1号の列挙に第66条の8の2第1項と第66条の8の4第1項が入り、第66条の8第1項と第66条の8の3は入っていない。ただし、どの条も条文の語尾は義務であり、「罰則が無いからやらなくてよい」とは読めない
- 80時間に満たない職員への配慮は、第66条の9の努力義務で、基準は事業場で定める(安衛則第52条の8第2項)
参考にした一次情報
- 労働安全衛生法|e-Gov法令検索:第六十六条の八、第六十六条の八の二、第六十六条の八の三、第六十六条の八の四、第六十六条の九、第百二十条
- 労働安全衛生規則|e-Gov法令検索:第五十二条の二から第五十二条の七の三、第五十二条の八
いずれも条文によります。本記事は条文の構造を整理したもので、個別の職員への適用や、行政の運用を示すものではありません。
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