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社会福祉法人の借入金|多額の借財の理事会決議と専決規程の作り方

社会福祉法人が金融機関から融資を受けようとするとき、事務局の頭を必ず一度は通る問いがあります。「この借入れは理事長の判断で進めてよいのか、それとも理事会の決議が必要なのか」という問いです。

根拠になるのは、社会福祉法第45条の13第4項に出てくる「多額の借財」という言葉です。ところが、この条文にも、関連する会計基準にも「いくらから多額か」という金額そのものは一切書かれていません。だからこそ「多額の借財」は、法人ごとに自分たちで決めておかなければならない事項になっています。

この記事では、「多額の借財」がどのような形で理事会の権限として規定されているか、金額の線引きを誰がどう決めることになっているか、そして決めた線引きが決算のどこに、どんな書類として現れるのかを、社会福祉法・社会福祉法人会計基準省令・指導監査ガイドラインの条文に沿って一本の線でつないで整理します。

「多額の借財」は理事長が専決できない事項として列挙されている

まず確認しておきたいのは、「多額の借財」が条文上どういう構造で規定されているかです。社会福祉法第45条の13は理事会の権限を定める条文で、第4項で、理事会が理事に委任することができない事項を号で列挙しています。

理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財

(前半部分を引用しました。この後、三号「重要な役割を担う職員の選任及び解任」、四号「従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」、五号「内部管理体制の整備」、六号「役員等の損害賠償責任の一部免除」と続きます。)

ここで見落としてはいけないのは、この条文が「理事長は多額の借財をしてはいけない」という理事長個人への禁止規定ではなく、「理事会が理事に委任することができない」という、理事会側の権限の所在を定める規定になっている点です。つまり、多額の借財にあたる借入れは、理事会が自ら決議しない限り成立しません。理事長が専決できるのは、この「多額の借財」に該当しない範囲の借入れだけです。

では「多額」とはいくらか――法律には金額の基準がない

「多額の借財」という言葉を見て最初に気になるのは、具体的にいくら以上が「多額」にあたるのか、という点だと思います。この点について、指導監査ガイドラインは次のように述べています。

なお、理事に委任することができない上記事項のうち、①「重要」な財産、②「多額」の借財、③「重要な役割」を担う職員、④「重要な組織」の範囲については、法人が実施する事業の内容や規模等に応じて、法人の判断として理事会で決定されるべきものであるが、理事に委任されている範囲を明確にするため、金額、役職又は役割、組織が行う業務等を具体的に決定すべきである。

つまり「多額」の意味は、法令にも会計基準にも数値として定義されていません。事業規模の大きい法人と小さい法人とで「多額」の感覚が異なるのは当然であり、指導監査ガイドライン自身も、絶対的な金額の基準を示すのではなく「法人が自ら決定すべきもの」という位置づけにしています。

このスタンスは、指導監査がどこまで踏み込むかにもそのまま反映されています。

そのため、指導監査を行うに当たっては、これらの内容(金額等)についての判断を行うものではなく、理事会の決定において、理事に委任される範囲が明確に定められているかを確認する。

指導監査は「その金額設定が妥当かどうか」を審査するわけではなく、「その金額の線引きが理事会の決定として明確になっているかどうか」を確認する、という立て付けになっています。裏を返せば、線引きが決まっていない状態そのものが、確認の対象になるということです。

専決規程を作らないとどうなるか

「多額の借財」の範囲を理事会が自ら決めておく、という運用の受け皿になるのが専決規程です。指導監査ガイドラインは、この点を着眼点として次のように整理しています。

多額の借財については、法人の経営に影響を与えるおそれがあるため、理事会が理事長等の理事に委任することができない(法第45条の13第4項第2号)こととされており、これに該当する場合は、理事会の決議がなければ行うことができない。多額の借財の範囲は、理事会が理事長等の理事に委任する範囲として、専決規程(注)等において明確に定めるべきものである(定款例第24条参照)。

そして、専決規程を定める際のもとになる定款例の考え方が、次のように注記されています。

(注)定款例第24条においては、「日常の業務として理事会が定めるものについては、理事長が専決し、これを理事会に報告する」とされており、法人において定款にこの規定を設ける場合には、「理事会が定めるもの」として専決規程等の規程を定めることとなる。なお、理事会において、専決規程等理事に委任する範囲を定めない場合には、全ての借入れに理事会の決議が必要となる。

ここが実務上、意外と誤解されやすいポイントです。専決規程を作らない、あるいは作っていても借入れの範囲を明確に定めていない場合、理事長は「多額ではない」小口の借入れであっても、理事会の決議を経ずに単独で決めることができません。専決規程がない状態は「線引きがゆるい」のではなく、「すべての借入れが理事会マター」という、むしろ重い状態になっているという理解が必要です。

会計上、借入金はどこに現れるか

理事会でどう決議したかとは別に、借入れをすれば法人の決算にも当然影響します。社会福祉法人会計基準省令第26条は、貸借対照表の区分を次のように定めています。

貸借対照表は、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、更に資産の部は流動資産及び固定資産に、負債の部は流動負債及び固定負債に区分しなければならない。

借入金は負債にあたるため、この負債の部のうち流動負債・固定負債のいずれかに区分されて表示されます。この流動・固定の判定基準は、局長通知「社会福祉法人会計基準の運用上の取扱いについて」の「6 資産及び負債の流動と固定の区分について(会計基準省令第26条第1項関係)」に示されています。

貸付金、借入金等の経常的な取引以外の取引によって発生した債権債務については、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金又は支払の期限が到来するものは流動資産又は流動負債に属するものとし、入金又は支払の期限が1年を超えて到来するものは固定資産又は固定負債に属するものとする。

つまり、借入れをした時点で「1年を超えて返済期限が到来する部分」は固定負債に区分されますが、決算日の翌日から数えて1年以内に返済期限が来る部分は流動負債に区分されます。これは借入れの契約時点で一度決まって終わるものではなく、毎期の決算のたびに見直しが必要な区分です。長期の借入れであっても、返済が進んで残りの返済期限が1年以内に入ってくれば、その部分は固定負債から流動負債側へ動くことになります。

この動きは、勘定科目の使い分けとしても表れます。会計基準省令の別表には、設備資金借入金・長期運営資金借入金・短期運営資金借入金・役員等長期借入金といった科目のほか、「1年以内返済予定設備資金借入金」「1年以内返済予定長期運営資金借入金」のように、1年以内に返済期限が来る分だけを別の科目に振り替える科目名も置かれています。どの科目が貸借対照表上どの区分に位置づくかは別表の様式で確認する必要がありますが、少なくとも「長期の借入金の中から、1年以内に返済期限が来る部分を切り出して別の科目で表示する」という実務が、科目名の設計自体にも表れていることが分かります。

同条第2項は、純資産の部についても区分を定めています。

純資産の部は、基本金、国庫補助金等特別積立金、その他の積立金及び次期繰越活動増減差額に区分するものとする。

借入金そのものは負債の部に表示されますが、施設整備の資金を借入れと国庫補助金の両方で調達している場合は、この純資産の部の「国庫補助金等特別積立金」の扱いも関わってきます。この積立金の取崩しと固定資産の減価償却との関係は、別記事で扱っていますので、あわせてご確認ください。

決算で必ず作る「借入金明細書」

借入れそのものについては、決算の附属明細書として個別に記載する書類が定められています。社会福祉法人会計基準省令第30条です。

法第四十五条の二十七第二項の規定により作成すべき各会計年度に係る計算書類の附属明細書は、当該会計年度に係る会計帳簿に基づき作成される次に掲げるものとする。この場合において、第一号から第七号までに掲げる附属明細書にあっては法人全体について、第八号から第十九号までに掲げる附属明細書にあっては拠点区分ごとに作成するものとする。
一 借入金明細書

ここでとくに実務上見落とされやすいのが、「第一号から第七号までに掲げる附属明細書にあっては法人全体について」作成する、という部分です。借入金明細書は一号に挙げられているので、法人全体で1本作成する書類にあたります。複数の拠点区分を持つ法人であっても、拠点区分ごとに借入金明細書を分けて作るわけではありません(拠点区分資金収支明細書や積立金・積立資産明細書のように、拠点区分ごとに作成する明細書とは、作成単位の考え方が違います)。この位置づけは、計算書類の附属明細書全体の中でも特徴的な部分です。

具体的な記載内容については、課長通知「社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項について」の「8 借入金の扱い」に示されています。

なお、資金を借り入れた場合については、借入金明細書(運用上の取り扱い別紙3(①))を作成し、借入先、借入額及び償還額等を記載することとする。

借入金の会計処理自体は借入目的に応じて各拠点区分で行いますが、決算書類としての借入金明細書は法人全体で1本にまとめる、という点は分けて理解しておく必要があります。

基本財産を担保に入れるとき

融資の条件として、法人の基本財産を担保に供するケースもあります。前掲の課長通知は、担保に関する記載方法も具体的に定めています。

その際、独立行政法人福祉医療機構と協調融資(独立行政法人福祉医療機構の福祉貸付が行う施設整備のための資金に対する融資と併せて行う同一の財産を担保とする当該施設整備のための資金に対する融資をいう。)に関する契約を結んだ民間金融機関に対して基本財産を担保に供する場合は、借入金明細書の借入先欄の金融機関名の後に(協調融資)と記載するものとする。また、法人が将来受け取る債権を担保として供する場合には、計算書類の注記及び借入金明細書の担保資産欄にその旨を記載するものとする。

なお、基本財産を担保に供すること自体には、借入れそのものの理事会決議とは別に、所轄庁の承認という論点が絡みます。この点は本記事では扱いませんので、基本財産を扱った記事を参照してください。

指導監査で借入金について確認されること

指導監査ガイドラインは、借入れに関する確認事項を「(3)債権債務の状況」という項目の中で扱っています。「多額」の範囲が専決規程等で明確になっているかどうかを前提として、実際にどのような手続きが取られているかが確認の対象になります。

指導監査を行うに当たっては、多額の借財(専決規程等がなく、理事長等に多額ではない借入の権限が委任されていない場合は、全ての借財)が理事会の議決を受けた上で行われているかを確認する。

指摘基準も明確に示されています。

多額の借財(専決規程等がない場合は全ての借財)について理事会の決議を受けた上で行われていない場合は文書指摘によることとする。

そして、確認の際に見られる書類も具体的に列挙されています。

定款、理事会議事録、借入金明細書(計算書類の附属明細書)、専決規程等、理事長による決裁文書、借入契約書等

ここで初めて、理事会での決議と、決算での記載(借入金明細書)が、指導監査の場面ではワンセットで確認される書類として並んでいることが分かります。専決規程がなく、理事長にどこまでの権限が委任されているかが不明確な法人ほど、実質的には「すべての借入れに理事会決議が必要」という厳しい状態に置かれていることになります。

まとめ――線引きは規程に、跡は議事録と明細書に

ここまで確認した内容を、実務の観点で整理すると次の2点になります。

  • 「多額の借財」がいくらからかは、社会福祉法にも会計基準にも金額の基準は書かれていません。法人が事業規模等に応じて自ら決め、専決規程等の理事会決定として明確にしておく必要があります。決めていない場合は、原則としてすべての借入れに理事会決議が必要になります。
  • 決めた線引きは、決算の借入金明細書(附属明細書、法人全体で1本)と、理事会議事録の両方に跡が残る形にしておく必要があります。指導監査で確認書類として挙げられているのも、この2種類に加えて専決規程・理事長による決裁文書・借入契約書です。

「この借入れは多額の借財にあたるのか」を、借入れの都度、理事会と事務局で個別に議論している法人も少なくありません。専決規程の金額を一度決めてしまえば、その後の判断は規程との比較だけで済むようになります。


理事会の決議事項と専決規程の範囲、突き合わせられていますか

理事会議事録に残っている決議事項の一覧と、専決規程に定めた委任範囲を並べて確認する作業は、規程と実際の運用がいつの間にかずれていないかを見直す良い機会になります。弊社では、社会福祉法人の理事会運営や会計処理を支えるシステム構築・DX支援を行っています。

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