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社会福祉法人の合併手続きと日程|決議・認可・公告・登記の順番

「合併と事業譲渡、どちらが早いですか」——ご相談を受けると、まずこの前提から確認する必要があります。社会福祉法に「事業譲渡」という手続きは一つも定められていません。 合併には第48条から第55条にかけて、契約の締結から登記までの手続きが具体的に条文化されている一方、事業譲渡は法律上の手続き規定を持たず、定款変更と基本財産の処分を組み合わせて行うことになります。

厚生労働省の「社会福祉法人の合併・事業譲渡等マニュアル」は制度の全体像を丁寧に示してくれますが、実務で法人が本当に迷うのは要件の意味ではなく、「いつ、何を、どの順番で決めるか」です。とりわけ公告のタイミングと評議員会の決議要件は、会社法の合併や一般的な法人内の意思決定のイメージのまま進めると、順番を取り違えやすいところです。

この記事では、社会福祉法の条文に沿って、社会福祉法人の合併を契約の締結から登記までの手続きの順番として整理します。

「事業譲渡」は社会福祉法にひとことも出てこない

はじめに、合併と事業譲渡の法的な足場の違いを確認します。

社会福祉法の本文には、合併に関する規定が第48条から第55条まで詳細に置かれています。吸収合併・新設合併それぞれについて、契約の締結、評議員会の決議、所轄庁の認可、官報公告と債権者への催告、登記、事後の書面備置きまでが条文で定められています。

一方で、事業を他の法人へ譲り渡す行為には、これに相当する独立した手続き規定がありません。実務上は、譲渡する事業を運営根拠から外すための定款の変更と、その事業に紐づく基本財産の処分の手続きを組み合わせて行うことになります。定款の変更にも、評議員会の決議と所轄庁の認可が必要です。

定款の変更は、評議員会の決議によらなければならない。

(第四十五条の三十六第一項)

定款の変更のうち厚生労働省令で定める事項に係るものを除いては、所轄庁の認可を受けなければ効力を生じません(同条第2項)。合併のような官報公告や債権者への催告の手続きは、定款変更そのものには定められていません。「合併」と「事業譲渡」は、同じ土俵に並ぶ2つの選択肢ではありません。 合併は法律が手続きを具体的に定めた枠組みであるのに対し、事業譲渡は定款変更等の一般的な手続きを組み合わせて実現する枠組みです。この違いを理解しておくと、どちらを選ぶにしても、理事会・評議員会への説明がしやすくなります。

事業譲渡を選ぶ場合は、定款変更の決裁ルートを社内でどう通すかが実務上の論点になります。法人内の規程の整理や決裁経路については、社会福祉法人の規程一覧と決裁経路で整理していますので、あわせてご確認ください。

吸収合併と新設合併——効力が生じるのは登記のとき

社会福祉法上の合併には、吸収合併新設合併の2つの型があります。

吸収合併は、消滅する法人の権利義務を存続する法人が承継する形です。

社会福祉法人が他の社会福祉法人とする合併であつて、合併により消滅する社会福祉法人の権利義務の全部を合併後存続する社会福祉法人に承継させるものをいう。

(第四十九条)

吸収合併の効力が生じるタイミングは、契約でも認可でもなく登記です。存続法人の主たる事務所の所在地で合併の登記をした時点で効力が生じます(第50条第1項)。あわせて、吸収合併は所轄庁の認可を受けなければ効力を生じないとも定められています(同条第3項)。登記も認可も、どちらも欠かせない要件です。

新設合併は、2つ以上の法人が消滅し、新たに設立される法人がすべての権利義務を承継する形です。効力発生のタイミングは吸収合併と異なり、新設合併設立社会福祉法人が成立した日です(第54条の6第1項)。こちらも所轄庁の認可を受けなければ効力を生じません(同条第2項)。

新設合併には、設立手続きについての特則があります。通常の法人設立で必要な規定(第32条・第33条・第35条)は適用されず、定款は新設合併消滅社会福祉法人が作成することとされ、この場合は定款について第31条第1項の認可を受ける必要はありません(第54条の10)。ただし、これは設立手続きの一部を簡略化する特則であって、合併そのものの認可(第54条の6第2項)が不要になるわけではありません。 「新設合併は認可が要らない」という誤解は避けてください。

決議は評議員会の特別決議——過半数ではなく3分の2以上

合併契約の締結を決めるのは理事会の業務ですが、契約の承認を決めるのは評議員会です。吸収合併消滅法人については、次のとおり定められています。

吸収合併消滅社会福祉法人は、評議員会の決議によつて、吸収合併契約の承認を受けなければならない。

(第五十二条)

理事会と評議員会がそれぞれどこまでの権限を持つかは、理事会と評議員会の役割で整理していますので、あわせてご確認ください。

ここで見落とされやすいのが、決議の要件です。評議員会の決議は原則として、議決に加わることができる評議員の過半数で足ります(第45条の9第6項)。しかし、合併契約の承認はこの原則の例外にあたります。

前項の規定にかかわらず、次に掲げる評議員会の決議は、議決に加わることができる評議員の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合)以上に当たる多数をもつて行わなければならない。

(第四十五条の九第七項)

この特別決議の対象として、合併契約の承認が名指しで挙げられています。

五 第五十二条、第五十四条の二第一項及び第五十四条の八の評議員会

(同項第五号)

つまり、吸収合併消滅法人の承認(第52条)・吸収合併存続法人の承認(第54条の2第1項)・新設合併消滅法人の承認(第54条の8)のすべてが特別決議の対象です。「評議員会に諮って過半数を取れば足りる」という感覚のまま進めると、必要な賛成数を見誤ります。合併に関する評議員会の議案は、他の決議事項と同じ数え方をしないようご注意ください。決議事項ごとの要件の違いは、評議員会の決議事項でも整理しています。

公告は「認可の後」——順番を間違えると手続きが止まる

会社法の合併に慣れていると、公告や債権者保護の手続きを決議の直後に走らせるイメージを持ちがちです。しかし社会福祉法の合併は、公告のタイミングが所轄庁の認可の「後」と明記されています。

吸収合併消滅社会福祉法人は、第五十条第三項の認可があつたときは、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、判明している債権者には、各別にこれを催告しなければならない。

(第五十三条第一項)

条文に列挙されている公告事項は、吸収合併をする旨、存続法人の名称・住所、両法人の計算書類に関する事項、そして債権者が異議を述べることができる期間の4点です。この異議申述期間には、条文上の下限があります。

ただし、第四号の期間は、二月を下ることができない。

(同項ただし書)

つまり、評議員会の決議→所轄庁の認可→官報公告・催告(異議申述期間2月以上)→登記という順番が固定されており、認可を受ける前に公告を出すことはできません。実際に、ある社会福祉法人様では、認可が下りる前提で公告文の準備を進めてしまい、認可日が確定してから公告日と異議申述期間の起算日を組み直す手戻りが発生したことがありました。公告文の準備自体は前もって進めてよいのですが、公告日そのものは認可日が確定するまで動かせません。

異議を述べなかった債権者の扱いも条文で明確にされています。

債権者が前項第四号の期間内に異議を述べなかつたときは、当該債権者は、当該吸収合併について承認をしたものとみなす。

(第五十三条第二項)

なお、吸収合併存続法人の側にも同様の公告・催告義務があり(第54条の3)、新設合併消滅法人にも同様の規定があります(第54条の9)。合併の当事者となるすべての法人が、それぞれ官報公告と催告を行うことになります。

備置き期間は消滅法人と存続法人で終期が異なる

合併契約の内容などを記載した書面は、主たる事務所に備え置いて評議員・債権者の閲覧に供する必要があります。この備置き期間の終期が、消滅法人と存続法人とで異なる点は見落とされがちです。

吸収合併消滅法人の備置き期間は、評議員会の日の2週間前の日から吸収合併の登記の日までです(第51条第1項)。これに対して吸収合併存続法人の備置き期間は、同じく評議員会の日の2週間前の日から始まりますが、終期は吸収合併の登記の日後6月を経過する日までと、消滅法人よりも長く設定されています(第54条第1項)。存続法人は合併後も存続するため、評議員・債権者が事後に確認できる期間が長く取られている、という理解になります。

登記が終わったあとにも、存続法人には書面を作成・備置きする義務が続きます。承継した権利義務などの事項を記載した書面を登記の日後遅滞なく作成し、登記の日から6月間、主たる事務所に備え置かなければなりません(第54条の4)。新設合併の場合も、設立法人の成立の日後遅滞なく書面を作成し、成立の日から6月間備え置く義務があります(第54条の11)。評議員会前の備置きと、登記(成立)後の事後備置きは別の期間として、それぞれの起算日と終期を管理する必要があります。

債務超過のときは、理事に評議員会での説明義務がある

存続法人が承継する消滅法人の資産と債務のバランスによっては、評議員会での説明義務が生じます。

吸収合併存続社会福祉法人が承継する吸収合併消滅社会福祉法人の債務の額として厚生労働省令で定める額が吸収合併存続社会福祉法人が承継する吸収合併消滅社会福祉法人の資産の額として厚生労働省令で定める額を超える場合には、理事は、前項の評議員会において、その旨を説明しなければならない。

(第五十四条の二第二項)

承継する債務が資産を上回る、いわゆる債務超過の状態にあるときは、存続法人の理事が評議員会でその旨を説明しなければなりません。 これは、合併の相手方となる法人の財務状況を十分に精査したうえで評議員会の承認を得るための規定です。相手方法人の計算書類の確認は、合併契約の締結よりも前の段階から着手しておく必要があります。

逆算日程表——固定されている期間と、確認が必要な期間を分けて考える

ここまでの規定を、手続きの順番として整理すると次のようになります。「◯か月前から準備する」という所要期間は、条文には定められていません。 一方で、備置き期間や異議申述期間のように、日数・月数が条文で固定されている工程もあります。この2つを混同しないことが、日程を組むうえでの最初のポイントです。

順番手続き主体条文で定められている期間・起点
1合併契約の締結両法人の理事会期間の定めなし
2契約内容等の備置き開始消滅法人・存続法人評議員会の日の2週間前の日から(第51条・第54条)
3評議員会の特別決議(承認)両法人議決に加わることができる評議員の3分の2以上(第45条の9第7項)
4所轄庁への認可申請両法人期間の定めなし(審査に要する期間は所轄庁により異なる)
5所轄庁の認可所轄庁
6官報公告・債権者への催告両法人認可があったとき(第53条・第54条の3)
7債権者の異議申述期間債権者2月を下ることができない(同上ただし書)
8合併の登記/新設法人の設立存続法人・設立法人異議申述期間の満了後
9効力発生吸収合併=登記の日/新設合併=成立の日(第50条・第54条の6)
10事後の書面備置き存続法人・設立法人登記(成立)の日後遅滞なく作成、6月間備置き(第54条の4・第54条の11)

逆算の起点にできるのは「登記を予定している日」です。 そこから、最低でも2月の異議申述期間を確保できるよう公告日を決め、その前に認可が下りている必要があります。所轄庁への認可申請から認可までにかかる期間は自治体によって差があり、条文には定めがありません。「登記予定日から2月以上前に公告を出す」ところまでは条文から機械的に決まりますが、「公告を出すためにいつまでに認可申請を出すか」は所轄庁に確認しないと決められない、という前提で日程を組むのが安全です。認可申請の窓口では、あわせて審査に要するおおよその期間も確認しておくと、逆算の精度が上がります。

事業譲渡を選ぶ場合の位置づけ

冒頭で触れたとおり、事業譲渡には合併のような公告・催告・登記の手続きが法定されていません。その代わりに必要になるのが、譲渡する事業を定款から整理する定款変更の手続き(評議員会の決議+所轄庁の認可)と、事業に紐づく基本財産の処分です。

合併に比べると法定の手続きは少なく見えますが、債権者保護の手続きが法定されていない分、契約書の内容(債務の承継の有無、職員の雇用の扱い、利用者への影響)を当事者間の合意だけで詰めておく必要がある、という側面があります。合併か事業譲渡かは、どちらが「早い」かではなく、承継する権利義務の範囲をどこまで法律に沿って処理したいかで選ぶ論点だとご理解ください。

まとめ

  • 社会福祉法に「事業譲渡」という手続きは存在しない。事業譲渡は定款変更(第45条の36)と基本財産の処分の組み合わせで行う
  • 合併の効力発生は吸収合併=登記の日、新設合併=成立の日(第50条・第54条の6)
  • 合併契約の承認は評議員会の特別決議(3分の2以上)。過半数ではない(第45条の9第7項)
  • 公告は所轄庁の認可があった後。会社法の合併と順番が違う(第53条・第54条の3)
  • 債権者の異議申述期間は2月を下ることができない(同上ただし書)
  • 備置き期間は消滅法人と存続法人で終期が異なる(第51条・第54条)
  • 承継する債務が資産を上回るときは、理事が評議員会で説明する義務がある(第54条の2第2項)
  • 新設合併には設立手続きの特則がある。ただし合併自体の認可は別途必要(第54条の10)
  • 認可の審査期間は所轄庁により異なる。逆算日程は所轄庁への確認とセットで組む

合併・事業譲渡の進め方を、条文に沿って整理したい法人様へ

社会福祉法人の合併は、評議員会の特別決議・所轄庁の認可・官報公告・債権者への催告・登記という、複数の期限と書類が絡み合う手続きです。どの工程も関わる部署が法人内で分かれており、進捗の管理を紙やExcelだけで行うと、備置き期間や催告期限の管理が抜け落ちるリスクがあります。

パレットテクノロジーズでは、社会福祉法人・障がい福祉サービス事業所向けに、評議員会の決議事項や規程の決裁経路をkintoneで一元管理するご支援をしています。合併・事業譲渡のような大きな意思決定の場面でも、「いつ、誰が、何を決議・承認したか」を法人本部から一覧で追える体制づくりからご相談いただけます。

参考にした一次情報

  • 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第三十二条、第四十五条の九、第四十五条の三十六、第四十八条から第五十五条まで(e-Gov法令検索)

※合併の具体的な手続・提出書類・審査期間は所轄庁によって異なります。実際の手続にあたっては所轄庁の手引で必ずご確認ください。

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