「消防訓練は年2回やればよいと聞いたが、それはどの法令に書かれているのか」「通報訓練も年2回なのか」。施設長や防火管理者の方から、こうした質問をいただくことがあります。運営指導や消防署の立入検査の前に、訓練の記録を見直す法人も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、「年2回」は消防法そのものではなく、消防法施行規則の第3条第10項に書かれています。ただし、年2回と書かれているのは「消火訓練」と「避難訓練」です。通報訓練の回数は、この条文には書かれていません。また、この条文の主語は「防火管理者」で、あらかじめ消防機関に通報しておくことも、同じ条の第11項で求められています。
この記事では、消防法第8条、消防法施行令第1条の2・第3条の2、消防法施行規則第3条、施行令別表第一(六)項を、令和8年10月30日にe-Gov法令検索から取得した原文で読みます。条文から決まることと、決まらないことは分けて書きます。
先に結論
- 防火管理者が行う訓練は、消防法第8条第1項に「消火、通報及び避難の訓練の実施」として出てきます。施行令第3条の2第2項が、防火管理者の責務として同じ内容を定めています。
- 回数を書いているのは、施行規則第3条第10項です。別表第一(六)項などの防火管理者は、消火訓練と避難訓練を年二回以上実施しなければなりません。
- 介護や障がい福祉の施設の多くは、別表第一(六)項のロかハに当たります。どちらでも、第10項の対象に含まれます。
- 年2回の対象は「消火訓練」と「避難訓練」です。通報訓練の回数は第10項に書かれておらず、消防計画で定める事項です(施行規則第3条第1項第1号チ)。
- 訓練を実施するときは、あらかじめ、その旨を消防機関に通報します(同条第11項)。
- 第10項の主語は防火管理者です。事業所が防火管理者を定める対象かどうかを、先に確かめます。
「年2回」はどの条文に書かれているか
訓練に関する条文は、法律、政令、省令に分かれています。順に見ると、「訓練をする」という義務と「年2回」という回数が、別の条文に書かれていることが分かります。
| 条文 | 書かれていること | 回数の定め |
|---|---|---|
| 消防法第8条第1項 | 防火管理者を定め、消防計画に基づく訓練を行わせる | 書かれていない |
| 施行令第3条の2第2項 | 防火管理者が消火、通報及び避難の訓練を実施する | 書かれていない |
| 施行規則第3条第10項 | 消火訓練と避難訓練を年二回以上実施する | 年二回以上 |
消防法第8条第1項は、防火対象物の管理について権原を有する者が防火管理者を定め、政令で定めるところにより、防火管理上必要な業務を行わせると定めています。その業務の1つに、次のものがあります。
当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施
施行令第3条の2第2項は、防火管理者の責務として、同じ訓練を挙げています。
防火管理者は、前項の消防計画に基づいて、当該防火対象物について消火、通報及び避難の訓練の実施
ここまでの条文に、「年何回」という数字は出てきません。数字が出てくるのは、省令である施行規則の第3条第10項です。
第10項を読む:年二回以上なのは消火訓練と避難訓練
施行規則第3条第10項は、次のとおりです。
令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ又は(十六の二)項に掲げる防火対象物の防火管理者は、令第三条の二第二項の消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない。
読むときの要点は4つです。
- 主語は「防火管理者」です。施設や事業所ではなく、防火管理者に実施義務がかかる書き方です。
- 対象は、別表第一の(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項に掲げる防火対象物です。別表第一の他の項は、この項の列挙にありません。
- 回数は「年二回以上」です。「以上」なので、2回が下限です。
- 訓練の種類は「消火訓練及び避難訓練」です。施行令第3条の2第2項の「消火、通報及び避難の訓練」のうち、消火と避難が取り出されています。
検索では「特定防火対象物」「非特定防火対象物」という言葉で調べる方もいます。この記事で確かめた条文には、その2つの言葉も区分も出てきません。第10項は、別表第一の項の名前で対象を決めています。
福祉施設は(六)項のロかハ
別表第一(六)項は、病院や診療所などのイ、福祉施設などのロとハ、幼稚園などのニに分かれています。介護や障がい福祉の施設は、主にロかハです。条文にある施設の名前を、一部だけ挙げます。
| 区分 | 主な施設・事業 | 第10項の対象 |
|---|---|---|
| (六)項ロ | 老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、救護施設、障害児入所施設など | 当たる |
| (六)項ハ | 老人デイサービスセンター、児童発達支援センター、障がい者の生活介護・就労継続支援を行う施設など | 当たる |
第10項は「(六)項」と書いていて、ロとハを分けていません。そのため、ロでもハでも、年2回以上の対象に当たります。ただし、障害者支援施設やグループホームのように、ロかハかが「避難が困難な」入所者を主として入所させるかどうかで分かれる施設もあります。ロかハかの見分け方は、防火対象物6項の記事で整理しています。
第10項の主語は防火管理者:先に選任の対象かを確かめる
ここで、1つ注意があります。第10項の主語は「防火管理者」です。そのため、事業所が防火管理者を定める対象でなければ、第10項がそのまま当てはまるかどうかは、条文の作りだけでは決まりません。
防火管理者を定める対象は、施行令第1条の2第3項が定めています。収容人員(出入し、勤務し、又は居住する者の数)の基準が、区分ごとに決まっています。
当該防火対象物に出入し、勤務し、又は居住する者の数(以下「収容人員」という。)が十人以上のもの
これは(六)項ロなどに当たる第1号イの基準です。一方、(六)項のイ、ハ、ニは、第1号ロで、収容人員が三十人以上のものと定められています。整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 選任が要る人数 | 根拠 |
|---|---|---|
| (六)項ロ | 十人以上 | 施行令第1条の2第3項第1号イ |
| (六)項イ・ハ・ニ | 三十人以上 | 施行令第1条の2第3項第1号ロ |
収容人員には、利用者だけでなく、勤務する職員も含まれます。数え方は総務省令で定められている(施行令第1条の2第4項)ので、この記事では数え方までは確かめていません。複合用途の建物のように、条件が別に書かれているものもあります。
収容人員が基準に満たない事業所は、防火管理者を定める義務の対象になりません。その場合に、第10項の年2回をどう扱うかは、この記事で確かめた条文からは決まりません。自分の事業所が防火管理者の選任対象かどうかを先に確かめ、判断が分かれるときは、所轄の消防署に確認してください。
年2回の対象に、通報訓練は入っているのか
第8条第1項と施行令第3条の2第2項は、「消火、通報及び避難の訓練」と3種類を並べています。ところが、第10項が年二回以上と定めているのは、「消火訓練及び避難訓練」の2種類です。通報訓練の回数は、第10項には書かれていません。
では、通報訓練はどうなるのでしょうか。施行規則第3条第1項は、消防計画に定めるべき事項を挙げています。その中の1つが、次のものです。
消火、通報及び避難の訓練その他防火管理上必要な訓練の定期的な実施に関すること。
これは、施行令第1条の2第3項第1号に掲げる防火対象物の消防計画について、おおむね定める事項の1つとして書かれています。ここで使われているのは「定期的な実施」という言葉で、年何回という数字はありません。
つまり、条文から読めるのは次の整理です。
- 消火訓練と避難訓練は、年二回以上(第10項)。
- 通報訓練を含む訓練の実施は、消防計画に定める事項(第3条第1項第1号チ)。
- 通報訓練の回数は、この記事で確かめた条文には書かれていない。
実際の運用では、消火・通報・避難の3つを組み合わせた総合訓練として実施する施設も多いでしょう。その形で行う場合も、回数や組み合わせ方を消防計画にどう書くかは、所轄の消防署と相談して決めることになります。
訓練の前に、消防機関へ通報する(第11項)
第10項に続く第11項は、訓練を実施するときの手続きを定めています。
前項の防火管理者は、同項の消火訓練及び避難訓練を実施する場合には、あらかじめ、その旨を消防機関に通報しなければならない。
ここでいう「通報」は、火災を知らせる通報訓練のことではありません。「これから訓練を行います」と、事前に消防機関へ知らせることです。条文の書き方では、消火訓練と避難訓練を実施する場合にかかります。
検索で「消防訓練 通報」と調べると、この事前の通報と、訓練として行う通報(119番通報の練習)が混ざって出てくることがあります。条文の上では別のものなので、分けて整理しておくと迷いません。
事前通報の方法(書面か電話か)、何日前までに行うかは、この記事で確かめた条文には書かれていません。所轄の消防署の案内で確かめてください。
条文で決まっていないこと
訓練について、実務で質問が多い点のうち、この記事で確かめた条文に書かれていないものを整理します。これらは、ルールとして書くことはできません。
| 論点 | 条文での扱い | 決め方 |
|---|---|---|
| 夜間を想定した訓練 | 書かれていない | 消防計画で決め、消防署と調整 |
| 訓練の具体的な内容・時間 | 書かれていない | 消防計画で決める |
| 訓練の報告様式 | 書かれていない | 所轄の消防署に確認 |
| 消防署の立会い | 書かれていない | 所轄の消防署に確認 |
| 1回で消火と避難を両方行ってよいか | 年二回以上とだけ書かれている | 消防計画と所轄に確認 |
| 事前通報の方法・期限 | 書かれていない | 所轄の消防署に確認 |
| 防火管理者の選任対象外の事業所 | 第10項の主語は防火管理者 | 所轄の消防署に確認 |
とくに4行目の「1回で両方を行ってよいか」は、気になる方が多い点です。第10項は、消火訓練と避難訓練を年二回以上と書いていますが、同じ日の訓練で両方を行った場合に何回と数えるのかは、この文言からは決まりません。自治体や消防署の運用で扱いが示されている場合があるので、必ず所轄に確認してください。
別の制度の訓練は、別に確認する
介護保険や障害福祉サービスの運営基準にも、非常災害に備えた訓練を求める規定があります。水防法に基づく避難確保計画にも、訓練の定めがあります。これらは、消防法の防火管理とは別の制度で、この記事で確かめた条文にも含まれていません。そのため、回数や内容は、この記事の内容を当てはめず、それぞれの制度で確かめてください。
水防法の訓練は、避難確保計画の記事で整理しています。介護事業所の災害対策の全体像は、介護のBCPの記事で扱っています。
法人本部・施設で確認しておきたいこと
条文の読み方を踏まえて、確認したい点を整理します。これは条文から導いた弊社の整理で、実際の判断は、所轄の消防署に確認してください。
- 事業所ごとに、別表第一の何項に当たるかを確かめる。福祉施設は(六)項のロかハが多い。
- 事業所ごとに、収容人員を数え、防火管理者を定める対象かを確かめる。ロは十人以上、イ・ハ・ニは三十人以上が基準。
- 防火管理者を定める事業所は、消火訓練と避難訓練が年二回以上になっているかを、年間の記録で確かめる。
- 訓練の前に、消防機関へあらかじめ通報しているか、その記録があるかを確かめる。
- 通報訓練を、消防計画にどう位置づけているかを確かめる。回数は条文にないので、消防計画の記載が基準になる。
- 夜間想定や立会いなど、条文にない運用は、消防計画と消防署との調整内容を文書に残す。
- 防火管理者が交代したときに、訓練の記録と消防計画が引き継がれているかを確かめる。
この記事で書いていないこと
条文の抜粋に書かれていない論点は、断定しません。
| 論点 | 書かなかった理由 |
|---|---|
| 消防訓練の記録の保存期間 | 抜粋した条文に定めが無い |
| 収容人員の数え方 | 総務省令の算定方法を確認していない |
| 防火管理者の資格・講習 | 抜粋の対象外 |
| 罰則・命令の内容 | 抜粋の範囲に含まれない |
| 自治体の火災予防条例 | 抜粋の対象外 |
| 運営基準・水防法の訓練 | 別の制度で、条文を確認していない |
制度の細部は、条文の原文や所轄の消防署の案内で確かめてください。
まとめ
- 消防訓練の「年2回」の根拠は、消防法施行規則第3条第10項です。消防法第8条第1項と施行令第3条の2第2項は、訓練の実施を定めていますが、回数は書いていません。
- 年二回以上と書かれているのは、消火訓練と避難訓練です。別表第一(六)項は対象に含まれるので、福祉施設はロでもハでも当たります。
- 通報訓練の回数は第10項に書かれていません。消防計画で定める事項です(施行規則第3条第1項第1号チ)。
- 訓練を実施するときは、あらかじめ、その旨を消防機関に通報します(同条第11項)。
- 第10項の主語は防火管理者です。事業所が防火管理者の選任対象かを先に確かめ、判断が分かれるときは所轄の消防署に確認します。
参考にした一次情報
- 消防法|e-Gov法令検索:第8条
- 消防法施行令|e-Gov法令検索:第1条の2、第3条の2、別表第一(六)項
- 消防法施行規則|e-Gov法令検索:第3条
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