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重層的支援体制|整備事業は市町村の任意事業。条文に3本柱の語は無い

自治体のページや研修資料で、重層的支援体制整備事業は「相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3本柱と説明されることがほとんどです。ところが、社会福祉法の条文を開くと、この呼び名はどこにも出てきません。

2026年10月15日に取得した条文で、本則の出現回数を数えました。「参加支援」は0回、「地域づくりに向けた支援」も0回、「包括的支援」も0回です。 一方で「重層的支援体制整備事業」は39回出てきます(走査が働いていることの確認として「社会福祉協議会」を数えると32回でした)。つまり、事業の名前は条文の言葉ですが、3つに束ねる説明の仕方は条文の外にあります。

では条文は何を置いているのか。置かれているのは、第106条の4第2項の6つの号です。そして読み進めると、もう1つ大きなことが分かります。この事業は市町村の事業であって、社会福祉法人の事業ではありません。

この記事で確かめるのは、次のことです。

  • 6つの号は何を書いているのか。自治体の言う3本柱とどうずれるのか
  • 「行うことができる」なのか「行わなければならない」なのか
  • 費用は誰が負担する組み立てになっているのか
  • 社会福祉法人が関わる入口は、条文のどこにあるのか

読むのは社会福祉法(以下「法」)の条文だけです。厚生労働省令の中身、実施要綱、交付金の金額などは条文に無いので、最後の節で正直に挙げます。

条文の組み立て:努力義務の第106条の3と、任意事業の第106条の4

まず押さえたいのは、2つの条文の役割の違いです。法第106条の3第1項は、市町村に体制の整備を求めています。

市町村は、次条第二項に規定する重層的支援体制整備事業をはじめとする地域の実情に応じた次に掲げる施策の積極的な実施その他の各般の措置を通じ、地域住民等及び支援関係機関による、地域福祉の推進のための相互の協力が円滑に行われ、地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制を整備するよう努めるものとする。

末尾は「整備するよう努めるものとする」で、努力義務です。掲げられている施策は3つあり、第一号が環境の整備、第二号が地域住民等が相談に応じられる体制の整備、第三号が生活困窮者自立相談支援事業を行う者その他の支援関係機関が一体的かつ計画的に支援を行う体制の整備に関する施策です。なお、0回だったのは「包括的支援」という続きの語です。見出しの「包括的な支援体制の整備」や、条文中の「包括的に提供される体制」という言い方はあります。

次が第106条の4第1項です。

市町村は、地域生活課題の解決に資する包括的な支援体制を整備するため、前条第一項各号に掲げる施策として、厚生労働省令で定めるところにより、重層的支援体制整備事業を行うことができる。

末尾は「行うことができる」です。努力義務ですらなく、任意事業として書かれています。「包括的な支援体制を整備する努力義務」が先にあり、その手段の1つとして「重層的支援体制整備事業を行うことができる」という建て付けです。実施していない市町村があるのは、条文の形からすれば当然ということになります。

置かれているのは6つの号

第2項が、事業の定義です。

前項の「重層的支援体制整備事業」とは、次に掲げるこの法律に基づく事業及び他の法律に基づく事業を一体のものとして実施することにより、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に対する支援体制並びに地域住民等による地域福祉の推進のために必要な環境を一体的かつ重層的に整備する事業をいう。

注目したいのは「この法律に基づく事業及び他の法律に基づく事業」という書き方です。まったく新しい事業を1つ作るのではなく、すでにある事業を束ねるという組み立てになっています。束ねる対象が、続く6つの号です。

号条文が書いていること
第一号相談に包括的に応じ、情報提供・助言、支援関係機関との連絡調整、虐待の防止・早期発見のための援助などを行うため、イからニまでの全ての事業を一体的に行う事業
第二号社会生活を円滑に営む上での困難を有する地域住民に対し、活動の機会の提供、訪問による情報提供・助言、現在の住居で日常生活を営むのに必要な援助など、社会参加のために必要な便宜の提供を行う事業
第三号自立した日常生活・地域社会への参加の機会を確保する支援、課題の発生の防止・解決に係る体制の整備、地域住民相互の交流を行う拠点の開設などのため、イからニまでの全ての事業を一体的に行う事業
第四号地域社会からの孤立が長期にわたる者その他の継続的な支援を必要とする地域住民及びその世帯に対し、訪問により状況を把握した上で相談に応じ、便宜の提供を包括的かつ継続的に行う事業
第五号複数の支援関係機関が、相互の有機的な連携の下、一体的かつ計画的に支援を行う体制を整備する事業
第六号前号の支援が必要であると市町村が認める地域住民に対し、支援の種類・内容などを記載した計画の作成その他の包括的かつ計画的な支援を行う事業

自治体の説明と照らすと、第一号が相談支援、第二号が参加支援、第三号が地域づくりに向けた支援に当たる形です。ただし条文はそれだけでは終わりません。第四号のアウトリーチ、第五号の多機関協働、第六号の計画の作成が、同じ第2項に並んでいます。 3本柱は、この6つのうち3つに名前を付けたものだと読むのが条文に素直です。

第四号の「訪問により状況を把握した上で」、第六号の「計画の作成」は、条文がはっきり行為を指定している部分です。実務の体制を考えるときは、3本柱だけでなく、この3つの号を一緒に見ておくと抜けが出ません。

第1号と第3号は、4つの法律の事業を名指しして束ねる

第一号と第三号の「イからニ」が、この事業のいちばん特徴的なところです。条文は、束ねる事業を他の法律の条項で名指ししています。

第一号のイからニは、次のとおりです。

記号条文の文言
イ介護保険法第百十五条の四十五第二項第一号から第三号までに掲げる事業
ロ障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第七十七条第一項第三号に掲げる事業
ハ子ども・子育て支援法第五十九条第一号に掲げる事業
ニ生活困窮者自立支援法第三条第二項各号に掲げる事業

第三号のイからニは、次のとおりです。

記号条文の文言
イ介護保険法第百十五条の四十五第一項第二号に掲げる事業のうち厚生労働大臣が定めるもの
ロ介護保険法第百十五条の四十五第二項第五号に掲げる事業
ハ障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第七十七条第一項第九号に掲げる事業
ニ子ども・子育て支援法第五十九条第九号に掲げる事業

介護保険、障がい福祉、子ども・子育て、生活困窮という4つの分野が、条項番号で指し示されています。そしてどちらの号も、柱書の末尾は「次に掲げる全ての事業を一体的に行う事業」です。「イとロだけ」という選び方は条文に書かれていません。つまり事業の中身が、既存の事業の集合として定義されているということです。

なお、名指しされた先の条文の中身(介護保険法第115条の45や生活困窮者自立支援法第3条第2項が何の事業か)は、社会福祉法の条文には書かれていません。それぞれの制度の側でご確認ください。関連する整理として、生活困窮者自立支援法の記事と介護予防・日常生活支援総合事業の記事もあわせてご覧ください。

連携の相手として条文に名前が出てくる機関

第3項が名前を挙げているのは、児童福祉法のこども家庭センター、介護保険法の地域包括支援センター、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の基幹相談支援センター、生活困窮者自立支援法第3条第2項各号に掲げる事業を行う者、その他の支援関係機関です。これらの相互間の緊密な連携が図られるよう努めるものとするという書き方で、主語は市町村です。

第4項には居住の支援が置かれ、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成十九年法律第百十二号)の支援協議会その他の居住の支援に関する機関と連携しつつ、居住の安定の確保のために必要な支援を行うよう努めるものとするとされています。3本柱の言葉だけでは出てこない論点です。

社会福祉法人が関わる入口は、条文のどこにあるか

ここまでの条文の主語は、ほぼすべて市町村です。では、社会福祉法人や社会福祉協議会は、この事業とどこで接点を持つのか。条文に書かれている入口は2つです。

入口1:第5項の委託

市町村は、第二項各号に掲げる事業の一体的な実施が確保されるよう必要な措置を講じた上で、重層的支援体制整備事業の事務の全部又は一部を当該市町村以外の厚生労働省令で定める者に委託することができる。

委託できるのは事務の全部または一部で、委託先は「当該市町村以外の厚生労働省令で定める者」です。誰が定められているかは条文からは分かりません。そして前提が付いています。「第二項各号に掲げる事業の一体的な実施が確保されるよう必要な措置を講じた上で」です。ばらばらに切り出して出すことを、条文は想定していません。

受託した場合、第6項がそのまま効いてきます。

前項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であつた者は、正当な理由がないのに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

対象の広さに注意してください。受託した法人だけでなく、その役員、職員、そして退職した方(「これらの者であつた者」)までが名指しされています。退職後まで及ぶ守秘をどう担保するかは、受託を検討する段階で決めておく論点です。

入口2:第106条の6の支援会議

もう1つが支援会議です。第106条の6第1項です。

市町村は、支援関係機関、第百六条の四第五項の規定による委託を受けた者、地域生活課題を抱える地域住民に対する支援に従事する者その他の関係者(第三項及び第四項において「支援関係機関等」という。)により構成される会議(以下この条において「支援会議」という。)を組織することができる。

構成員として、第106条の4第5項の委託を受けた者が明記されています。委託と支援会議は、条文の上でつながっています。

実務で効いてくるのは第3項と第4項です。第3項は、支援会議が支援関係機関等に対し、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に関する資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができると定めています。そして第4項です。

支援関係機関等は、前項の規定による求めがあつた場合には、これに協力するよう努めるものとする。

努力義務で、「協力しなければならない」ではありません。とはいえ、個人情報を含む資料や情報の提供を求められる場面が条文に用意されている以上、法人の側では「誰が判断して、何を出すか」を決めておく必要があります。第6項では、支援会議の事務に従事する者または従事していた者にも守秘義務がかかります。

運営面で特徴的なのが第7項です。支援会議の組織及び運営に関し必要な事項は、厚生労働省令ではなく支援会議が定めるとされています。自治体ごとに運営ルールが違いうるということです。

社会福祉法人の側に置かれている地域貢献の責務は、これらとは別の条文の話です。そちらは地域における公益的な取組の記事で整理しています。

お金の流れ:支弁は市町村、交付金は束ねる前の制度ごと

費用の条文も、「誰の事業か」をはっきりさせています。法第106条の7です。

重層的支援体制整備事業の実施に要する費用は、市町村の支弁とする。

1文だけの条文です。そのうえで第106条の8が、国から市町村への交付金を定めています。「国は、政令で定めるところにより、市町村に対し、次に掲げる額を合算した額を交付金として交付する」とあり、5つの号が並びます。

号算定の対象(条文の書き方)
第一号第2項第三号イの事業に要する費用として政令で算定した額の100分の20
第二号第2項第三号イの費用の算定額を基礎として、第一号被保険者の年齢階級別の分布状況、所得の分布状況等を考慮して政令で算定した額
第三号第2項第一号イ及び第三号ロの費用の算定額に、第二号被保険者負担率に100分の50を加えた率を乗じて得た額(特定地域支援事業支援額)の100分の50
第四号第2項第一号ニの事業に要する費用として政令で算定した額の4分の3
第五号第一号及び前二号に規定する事業以外の事業に要する費用の一部に相当する額として、予算の範囲内で交付する額

読み取れるのは、交付金の算定が束ねる前の制度ごとの事業を名指しして組み立てられているということです。第三号イ、第一号イ・第三号ロ、第一号ニと、イ・ロ・ハ・ニのどれかが個別に出てきます。そして第五号は「予算の範囲内で」です。負担割合が1本に決まっているわけではありません。

さらに第106条の10は、介護保険の特別会計からの繰入れを定めています。

市町村は、当該市町村について次に定めるところにより算定した額の合計額を、政令で定めるところにより、介護保険法第三条第二項の介護保険に関する特別会計から一般会計に繰り入れなければならない。

こちらは「繰り入れなければならない」で、義務の書き方です。加えて第106条の11は、市町村がこの事業を実施する場合に、介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律、子ども・子育て支援法、生活困窮者自立支援法それぞれの費用に関する規定を読み替えると定めています。重層で行う分の費用を元の制度の費用から除く、という形の読替えです。

事業を束ねても、お金は元の制度に遡って精算する。条文はそういう組み立てです。

実施計画は努力義務、ほかの計画との「調和」は義務

第106条の5の実施計画です。市町村は、この事業を実施するときは、提供体制に関する事項などを定める計画を策定するよう努めるものとするとされています。第2項の意見の反映も、第4項の公表も、同じく「努めるものとする」です。1か所だけ語尾が違うのが第3項です。

重層的支援体制整備事業実施計画は、第百七条第一項に規定する市町村地域福祉計画、介護保険法第百十七条第一項に規定する市町村介護保険事業計画、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第八十八条第一項に規定する市町村障害福祉計画、子ども・子育て支援法第六十一条第一項に規定する市町村子ども・子育て支援事業計画その他の法律の規定による計画であつて地域福祉の推進に関する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。

策定そのものは努力義務なのに、策定するなら調和が保たれたものでなければならないという書き方です。なお、市町村地域福祉計画を定める第107条第1項も「策定するよう努めるものとする」で、こちらも努力義務です。

法人の側から見ると、計画の策定や変更にあたって意見を求められる場面が第2項(地域住民、支援関係機関その他の関係者の意見を適切に反映するよう努める)に用意されている、という読み方ができます。

条文に書かれていないこと

ここまで読んだ条文には、次の内容は書かれていません。

  • 厚生労働省令の中身:委託先として定められている者、第二号・第四号・第六号の便宜や援助の具体、実施計画の記載事項は、すべて省令の側にあります
  • 実施要綱・交付要綱と、3本柱という整理の出どころ:条文にその語は無く、どの文書が出どころかも分かりません
  • 交付金の金額と、都道府県の負担:第106条の8は国の交付金を定めますが、算定は「政令で定めるところにより」です。今回の抜粋に第106条の9(次条)は含まれておらず、都道府県の交付金については何も確認できていません
  • 制度の開始時期と実施自治体の数:条文には書かれていません
  • イからニが指す個々の事業の中身:介護保険法第115条の45、障害者総合支援法第77条、子ども・子育て支援法第59条、生活困窮者自立支援法第3条第2項の内容は、それぞれの法律の側にあります
  • 「支援関係機関」「地域生活課題」「地域住民等」の定義:これらの語を定義した条文は、抜粋に含まれていません
  • 守秘義務に違反した場合の罰則:「漏らしてはならない」と書くだけで、罰則の条文は含まれていません
  • 委託先の選定方法と委託料の考え方:条文にはありません
  • 「相談支援」という語の出現回数:今回数えたのは「参加支援」「地域づくりに向けた支援」「包括的支援」の3語です

これらは、所管の市町村の案内、省令・政令、通知で確認する部分です。

まとめ

  • 自治体が使う「3本柱」という呼び名は条文に無い。本則で「参加支援」0回、「地域づくりに向けた支援」0回、「包括的支援」0回(「重層的支援体制整備事業」は39回)
  • 条文が置いているのは第106条の4第2項の6つの号。3本柱に当たるのは第一号・第二号・第三号で、ほかに第四号(訪問による把握)、第五号(多機関協働の体制整備)、第六号(計画の作成)がある
  • 第一号と第三号は、介護保険法・障害者総合支援法・子ども・子育て支援法・生活困窮者自立支援法の事業をイからニまで名指しし、「全ての事業を一体的に行う事業」と書いている
  • 第106条の3の体制整備は市町村の努力義務、第106条の4第1項の事業は「行うことができる」=任意事業
  • 費用は第106条の7で市町村の支弁。国の交付金(第106条の8)は束ねる前の制度ごとの事業を名指しして算定され、第五号は「予算の範囲内で」。介護保険特別会計からの繰入れ(第106条の10)は「繰り入れなければならない」
  • 社会福祉法人の入口は2つ。第106条の4第5項の委託(受託すると第6項の守秘義務が役員・職員・退職者まで及ぶ)と、第106条の6の支援会議(第3項の協力の求めに対し、第4項で協力の努力義務)
  • 実施計画の策定は努力義務だが、第106条の5第3項のほかの計画との調和は「でなければならない」

参考(一次情報)

本記事は法令の条文の構造を整理したもので、個別の自治体の事業内容や受託の可否、法人の運営判断を示すものではありません。実施の有無、委託の範囲、支援会議の運営ルールは自治体ごとに異なります。最新の情報は、所管の市町村の案内と、省令・政令・通知をご確認ください。


相談の記録が、分野ごとにばらばらになっていませんか

重層的支援体制整備事業は、分野をまたいで事業を束ねる組み立てです。受託や支援会議への参加を考えるとき、まず壁になるのが高齢者介護・障がい福祉・生活困窮と、分野ごとに分かれた記録の持ち方です。

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