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介護と第三者行為|市町村が取得する損害賠償請求権と届出の義務

利用者様が交通事故などで要介護状態になった、あるいは事故のあとに介護サービスが必要になった。そんな話を聞いたとき、自治体のページには「第三者行為」「求償」といった言葉が出てきます。ところが、「第三者行為」という一語は、介護保険法の本則に1回も出てきません。 「求償」も、「示談」も、本則には0回です(2026年10月14日に取得した条文で数えました)。

では条文は何を書いているのか。この記事では、自治体の案内で使われる言葉と、条文が使っている言葉のずれを整理します。

この記事で確かめたいのは、次のことです。

  • 給付の原因が第三者の行為だったとき、市町村は何を「取得する」のか
  • 先に損害賠償を受けた場合、保険給付はどうなるのか
  • 届出の義務は誰に、何を求めているのか
  • 労災保険など、ほかの法令による給付とはどう調整されるのか
  • 40歳から64歳の方の場合、条文はどこで線を引いているのか

先に結論を書きます。条文が書いているのは、市町村が被保険者の損害賠償請求権を取得するという仕組みです(介護保険法第21条第1項)。届出の義務は、施行規則第33条の2が第一号被保険者に課しています。読むのは介護保険法(以下「法」)と介護保険法施行規則(以下「規則」)の条文だけです。様式や添付書類、示談の扱い、政令の中身などは条文に無いので、最後の節で正直に挙げます。

条文の言葉は「第三者の行為によって生じた場合」

自治体の案内で言う「第三者行為」は、条文では次のように書かれています。法第21条第1項です。

市町村は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

読み取れることは3つです。

  1. 主語は市町村です。
  2. 前提は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合で、かつ、市町村が保険給付を行ったときです。
  3. 市町村が取得するのは、その給付の価額の限度での、被保険者が第三者に対して持つ損害賠償の請求権です。

つまり、被保険者の請求権のうち、市町村が給付した価額の範囲を市町村が引き継ぐ、という組み立てです。条文には「求償」という語はありません。自治体が「求償」と呼んでいる手続の根拠は、この「取得する」という書き方にあります。

先に損害賠償を受けた場合:第2項

第1項は、市町村が給付したあとの話です。では、給付の前に、被害を受けた方が第三者から賠償を受けていたらどうなるのか。第2項です。

前項に規定する場合において、保険給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、市町村は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。

「同一の事由について」第三者から損害賠償を受けたときは、市町村はその価額の限度で、保険給付を行う責めを免れるとされています。

ここから実務上言えるのは、損害賠償を先に受けると、その価額の限度では保険給付の側が行われなくなりうるということです。同じ損害を二重に埋め合わせない、という考え方が条文の形に表れています。

ただし、線引きを明確にしておきます。条文に「示談」という語はありません。示談の内容によって「同一の事由についての損害賠償」にどこまで当たるのかは、条文からは分かりません。「示談をする前に保険者に相談する」という注意が実務で言われるのは、この第2項があるためと説明できますが、示談の取扱いそのものは条文に書かれていません。個別の事案は、保険者である市町村に確認する部分です。

損害賠償金の徴収・収納は連合会に委託できる:第3項

第3項は、取得した請求権の事務について書いています。

市町村は、第一項の規定により取得した請求権に係る損害賠償金の徴収又は収納の事務を国民健康保険法第四十五条第五項に規定する国民健康保険団体連合会(以下「連合会」という。)であって厚生労働省令で定めるものに委託することができる。

読み取れるのは、次のことです。

  • 委託できるのは、第1項で取得した請求権に係る損害賠償金の徴収または収納の事務です
  • 委託先は、国民健康保険団体連合会のうち厚生労働省令で定めるものです
  • 「委託することができる」という書き方で、委託は義務ではありません

自治体の案内で「国保連」という言葉が出てくる背景は、この第3項にあります。ただし、どの連合会が省令で定められているか、実際にどの範囲の事務を委託している市町村が多いのかは、今回読んだ条文からは分かりません。

届出の義務を課しているのは施行規則:第一号被保険者

次に、届出です。法の本則には、届出の様式や手続は書かれていません。届出を定めているのは、施行規則の第33条の2です。

介護給付、予防給付又は市町村特別給付の支給に係る事由が第三者の行為によって生じたものであるときは、第一号被保険者は、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した届書を、市町村に提出しなければならない。

ここから読み取れることを整理します。

  • 届出の主語は第一号被保険者です
  • 提出先は市町村です
  • 時期は「遅滞なく」で、具体的な日数は書かれていません
  • 対象は、介護給付、予防給付、市町村特別給付の支給に係る事由が第三者の行為によって生じたものであるときです

届書に記載する事項は、条文では3つです。

号記載事項
第一号届出に係る事実
第二号第三者の氏名及び住所又は居所(氏名又は住所若しくは居所が明らかでないときは、その旨)
第三号被害の状況

第二号が「明らかでないときは、その旨」まで書いているのが、読みどころです。加害者の氏名や住所が分からない場合でも、分からないということを記載して出す、という形が条文に用意されています。

条文が求めている記載事項はこの3つだけです。 届出の様式の名前や、添付する書類の種類は、この条文には書かれていません。

届出の主語が第一号被保険者である点について、事業所側の立場で補足します。条文が届出を課している相手は、利用者様ご本人(第一号被保険者)です。事業所の側に同じ義務が書かれているわけではありません。一方で、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが、利用者様から事故の話を聞く場面はあるはずです。条文の上で届出の主体になるのが誰かを知っておくと、市町村への案内の仕方を考えやすくなります。なお、第一号被保険者の定義は今回の抜粋には含めていないので、ここでは書きません。

40歳から64歳の方は、条文のどこで線が引かれているか

事故で要介護状態になったとき、年齢によって介護保険の給付の入口が違ってくる、と言われることがあります。条文のどこにその線があるのかを確認します。法第7条第3項は、要介護者を次のように定義しています。第二号を引用します。

要介護状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの

第一号は「要介護状態にある六十五歳以上の者」とだけ書かれています。これに対して、40歳以上65歳未満の方は、要介護状態の原因である身体上または精神上の障害が、特定疾病によって生じたものであることが、要介護者の要件に入っています。第4項の要支援者についても、同じ構造です。

要支援状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの

つまり、条文の上では、40歳以上65歳未満の方が要介護者・要支援者になる要件に、原因が特定疾病であることが書かれています。事故による障がいが原因の場合に具体的にどう当てはまるのかは、特定疾病の中身(政令で定めるもの)を見なければ判断できません。今回は政令を読んでいないので、事故が原因の場合の当てはめについては、ここでは結論を書きません。

なお、法第7条の中には「第二号被保険者」という語は出てきません。被保険者の区分を定めた条文は別にあり、今回の抜粋には含めていません。要介護認定の仕組みそのものは、介護認定審査会の記事をご覧ください。

労災など、ほかの法令による給付との調整:法第20条

もう1つ、事故が仕事中や通勤中に起きた場合を考えるときに関わる条文が、法第20条です。

介護給付又は予防給付(以下「介護給付等」という。)は、当該要介護状態等につき、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による療養補償給付、複数事業労働者療養給付若しくは療養給付その他の法令に基づく給付であって政令で定めるもののうち介護給付等に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において、又は当該政令で定める給付以外の給付であって国若しくは地方公共団体の負担において介護給付等に相当するものが行われたときはその限度において、行わない。

2つの場合が書かれています。

  1. 労働者災害補償保険法の療養補償給付などで、政令で定めるもののうち介護給付等に相当するものを受けることができるときは、政令で定める限度で、介護給付等は行わない
  2. 政令で定める給付以外の給付であって、国または地方公共団体の負担で介護給付等に相当するものが行われたときは、その限度で、介護給付等は行わない

読み取れる範囲では、労災保険の給付と介護給付が重なる場面は、第20条が調整している、ということです。ただし、1つ目の「政令で定める限度」の中身は、条文には書かれていません。具体的にどの給付がどこまで調整されるのかは、政令の側にあります。

第21条との関係にも触れておきます。第21条は「第三者の行為によって生じた場合」の損害賠償請求権の話、第20条は「ほかの法令に基づく給付」との調整の話で、条文は別々です。労災が絡む事故で第三者もいる場合の両者の関係は、条文を読んだだけでは分かりません。

事業所に直接関わる条文:第22条の不正利得の徴収

ここまでは被害を受けた被保険者と市町村の話でした。事業所(指定居宅サービス事業者等)に直接関わる規定は、法第22条の不正利得の徴収です。第三者行為とは別の場面ですが、損害賠償や給付の調整と並んで、事務担当者が混同しやすい箇所なので、整理しておきます。

第1項は、偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者からの徴収を定めています。第2項は、診断書に虚偽の記載をした医師または歯科医師に、保険給付を受けた者と連帯して徴収金を納付すべきことを命ずることができる、という規定です。

事業所が直接の相手になるのは、第3項です。指定居宅サービス事業者等が、偽りその他不正の行為により、条文に挙げられた各規定による支払を受けたときについて、次のように書かれています。

当該指定居宅サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる。

返還させるべき額に加えて、その100分の40に当たる額を徴収することができる、という規定です。ここで徴収する権利の時効については、法第200条第1項が次のように書いています。

保険料、納付金その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。

「これらを行使することができる時から二年」と書かれています。ただし、第21条第1項で市町村が取得する損害賠償請求権の時効が、この第200条の対象に含まれるのかどうかは、条文の書き方からは断定できません。第21条の請求権の時効の扱いは、今回の条文からは分かりません。

条文に書かれていないこと

ここまで読んだ条文には、次の内容は書かれていません。

  • 届出の様式と添付書類:規則第33条の2は記載事項を3つ挙げるだけです。様式の名前、添付書類の種類は条文にありません
  • 求償の進み方:法第21条は請求権を「取得する」と書くだけで、請求の手順、請求先、金額の決め方などは書かれていません
  • 示談の取扱い:「示談」という語は本則にありません。示談の内容が第2項の「同一の事由についての損害賠償」にどこまで当たるかは、条文からは分かりません
  • 法第20条の「政令で定める限度」の中身:数字や範囲は政令の側にあります。今回は政令を読んでいません
  • 特定疾病の範囲と、事故が原因の場合の当てはめ:法第7条は「政令で定めるもの」と書くだけです
  • 連合会への委託の実際:第3項は「厚生労働省令で定めるもの」と書くだけで、どの連合会が、どこまでの事務を担っているかは分かりません
  • 第21条の請求権の時効:法第200条第1項との関係は、条文の書き方からは断定できません
  • 市町村ごとの窓口と運用:どの課が届出を受け付けるか、独自の案内があるかは、条文には書かれていません

これらは、所管の市町村の案内、省令・政令、通知で確認する部分です。

まとめ

  • 「第三者行為」という語は、介護保険法の本則に0回。条文は「給付事由が第三者の行為によって生じた場合」と書いている(法第21条第1項)
  • 市町村は、保険給付を行ったとき、その給付の価額の限度で、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。「求償」という語は本則に0回
  • 保険給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、市町村はその価額の限度で保険給付を行う責めを免れる(第2項)。「示談」の語は条文に無く、示談の扱いは条文からは分からない
  • 損害賠償金の徴収・収納の事務は、厚生労働省令で定める連合会に委託できる(第3項)
  • 届出の義務は、施行規則第33条の2が第一号被保険者に課している。記載事項は事実・第三者の氏名と住所・被害の状況の3つで、様式や添付書類は条文に無い
  • 40歳以上65歳未満の方が要介護者・要支援者になる要件には、原因が特定疾病であることが入っている(法第7条第3項第二号・第4項第二号)
  • 労災保険など、ほかの法令による給付との調整は法第20条。調整の限度は政令に委ねられている
  • 事業所に直接関わるのは、不正な支払を受けたときの徴収(法第22条第3項)で、返還額の100分の40が加わる。第三者行為とは別の場面

参考(一次情報)

本記事は法令の条文の構造を整理したもので、個別の事故や給付の可否、事業所の運営判断を示すものではありません。届出の様式、調整の限度、示談の取扱いなどは、所管の市町村の最新の案内と、省令・政令・通知をご確認ください。


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