請求を送った数日後に「返戻等一覧表」が届く。そこに並んだエラーコードを一つずつ調べ、どこに問い合わせればよいのか分からないまま10日の締切が迫る——請求担当者の方から、この時期のご相談を毎月いただきます。
返戻そのものは事故ではありません。制度の設計上、市町村が審査をする以上、不備があれば戻ってくるのが正常な動きです。問題になるのは、戻ってきたものを「いつまでに」「どの窓口に」「どの手続で」処理するのかが、担当者の記憶に頼って運用されていることのほうです。
この記事では、返戻を「起きてから慌てる出来事」ではなく、受付期間・支払確定のどちらの局面にいるかで手順が分かれる作業として整理します。
返戻は「市町村が審査して支払う」という条文から生まれる
出発点は障害者総合支援法第29条第6項です。事業者が請求したものを、市町村がそのまま支払うわけではないことがここに書かれています。
市町村は、指定障害福祉サービス事業者等から介護給付費又は訓練等給付費の請求があったときは、第三項第一号の主務大臣が定める基準及び第四十三条第二項の都道府県の条例で定める指定障害福祉サービスの事業の設備及び運営に関する基準(指定障害福祉サービスの取扱いに関する部分に限る。)又は第四十四条第二項の都道府県の条例で定める指定障害者支援施設等の設備及び運営に関する基準(施設障害福祉サービスの取扱いに関する部分に限る。)に照らして審査の上、支払うものとする。
そして同条第7項が、その審査と支払の事務を国民健康保険団体連合会(国保連)に委託できるとしています。
市町村は、前項の規定による審査及び支払に関する事務を国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第四十五条第五項に規定する国民健康保険団体連合会(以下「連合会」という。)に委託することができる。
ここが実務上とても重要です。審査をしているのは本来は市町村であり、国保連はその事務の委託先という関係になっています。だからこそ、後述するとおり返戻の内容によって問い合わせ先が国保連ではなく市町村になることがあります。「国保連に電話したら市町村に聞いてくださいと言われた」という経験は、この条文の構造から来ています。
まず切り分ける——「支払確定前」か「確定後」か
返戻と過誤申立は混同されやすいのですが、時間軸のどこにいるかで完全に分かれます。
| 返戻 | 過誤申立 | |
|---|---|---|
| どの局面か | 支払が確定する前 | 支払が確定した後 |
| 誰が気づくか | 審査側(市町村・国保連) | 多くの場合、事業所側 |
| 事業所がすること | 訂正して再請求する | 市町村に過誤申立書を出し、取り下げてから請求し直す |
| 取り下げる単位 | 訂正して出し直す | 受給者ごと・サービス提供年月ごとの請求まるごと |
| お金の動き | そもそも入金されていない | 一度入金された額が、後の月の支払から差し引かれる |
「返戻になったので過誤申立をしなければ」と考えてしまうケースをよく見かけますが、支払が確定していない返戻に過誤申立は不要です。逆に、支払が終わったものを過誤申立なしに出し直すと、後述するとおり重複請求として弾かれます。この二つを取り違えると、翌月以降の入金がさらに遅れます。
局面1:受付期間内(1日〜10日)に気づいたとき
請求の受付期間は限られています。大阪府国民健康保険団体連合会は、受付期間をこう案内しています。
受付期間は毎月「1日0:00」から「10日23:59」までです。
11日以降は受付できませんのでご注意ください。
この期間内であれば、送ってしまった請求を自分で取り下げて出し直せます。同じページに次の記載があります。
毎月10日までは請求情報の取下げができます。
ここで注意したいのが、取下げの単位です。沖縄県国民健康保険団体連合会は、よくある質問でこう説明しています。
誤った請求の取下げは「ファイルごと」となり、利用者単位での取下げはできません。
つまり、1人分を直したいだけでも、そのファイルに含まれる全員分を取り下げて送り直すことになります。同じ回答は続けて、請求情報の取下げを行わずに正しい請求を送信した場合、点検されるのは初めに送信した誤った請求のほうであると案内しています。「正しいものを後から送ったから大丈夫」は成り立ちません。
受付期間内に気づいたときの手順は、次の3つに固定しておくのが安全です。
- 取下げを先にする(訂正データの送信を先にしない)
- 取り下げたファイルに入っていた全員分を含めて作り直す
- 10日23:59までに送信を終える(土日祝でも期間は延びない前提で組む)
締切日が休日に当たる月ほど、事業所側の確認が薄くなります。10日ではなく8日を社内締切にしておくだけで、この局面の事故はほとんど防げます。
局面2:受付期間を過ぎてから返戻通知が届いたとき
返戻の通知は、受付期間が終わったあとに届きます。この段階ではもう当月の受付は閉じているので、訂正した請求は翌月の受付期間(翌月1日〜10日)に出すことになります。
このとき最初にすることは、訂正ではなくエラーコードの確認先の切り分けです。エラーコードは国保連が一覧表を公表しています(たとえば東京都国民健康保険団体連合会は「チェックエラーコード表」をサイトに掲載しています)。ただし、コードの意味が分かっても、聞くべき相手が国保連とは限りません。
沖縄県国民健康保険団体連合会は、よくある質問で次のように案内しています。
Sから始まるエラーコードについては、市町村より返戻となっているため、該当市町村へお問い合わせください。
先ほどの条文構造のとおり、審査の主体は市町村です。Sから始まるコードは市町村の審査で返戻になったものなので、国保連に聞いても内容は分かりません。 ここで時間を使っている事業所は非常に多く、「まずコードの頭文字を見て、窓口を決めてから電話する」という順番にするだけで、1件あたりの処理時間が目に見えて縮みます。
なお、受給者証の記載内容(支給量・有効期間・利用者負担上限月額)や、受給者番号・事業所番号の相違に由来する返戻は、事業所側でデータを直しても解決しません。市町村側の台帳と突き合わせる必要があるため、この場合も窓口は市町村です。
局面3:支払が確定したあとに誤りに気づいたとき——過誤申立
入金まで終わったあとに誤りが見つかった場合は、過誤申立を行います。大阪市は、この手続の性格を次のように説明しています。
過誤申立は、受給者個人ごと・サービス提供年月ごとの請求を取下げる手続きです。
ここで見落とされがちなのが、取り下げられる範囲です。同じページに、次の注意書きがあります。
請求を誤った箇所が一日分だけであっても、当該受給者の当該月全体が取下げとなりますので、ご留意ください。
1日分の加算を付け忘れた、という小さな誤りでも、その方のその月の請求はまるごと取り下げられます。したがって再請求は「差分だけ」ではなく、その月の全内容を作り直すことになります。過誤申立をする前に、対象月の提供実績記録を手元にそろえておかないと、再請求の段階で止まります。
そして、順番を間違えたときの結果もはっきり書かれています。
過誤申立書の提出のない状態で再請求を行った場合、「重複請求」として返戻されます。
必ず「過誤申立 → 取下げの確定 → 再請求」の順です。金銭の動きについても、大阪市は次のように案内しています。
過誤申立書を提出した翌月から、過誤申立により取下げる金額を差し引きます。
つまり、過誤申立をした分は後の月の支払から相殺されるため、その月の入金額が想定より減ります。件数がまとまると資金繰りに影響するので、大阪市は「過誤申立により取り下げる金額が多額になる場合は、過誤申立の提出月を分割するなど調整をしてください」とも案内しています。過誤申立は、経理担当者と共有してから出すものだと考えてください。
過誤申立の提出先・提出期間・様式は市町村ごとに定められています。大阪市の場合の提出期間は「毎月1日(0時)から最終日(23時30分)まで」です。自法人が請求している市町村すべてについて、様式と期間を一覧にしておくことをおすすめします。複数市町村にまたがって請求している事業所ほど、ここが属人化しています。
返戻の多くは「請求の作業」ではなく「記録の管理」で起きている
返戻の原因を分類していくと、請求ソフトの操作ミスよりも、手前の情報が更新されていないことに由来するものが多数を占めます。
- 受給者証の有効期間が切れているのに、事業所の台帳が古いまま
- 支給量や利用者負担上限月額の変更が、請求担当者まで届いていない
- 加算の算定要件を満たさなくなったのに、体制の届出を出していない
- サービス提供実績記録票と、請求データの日数・回数が一致していない
このうち3つ目は、届出そのものの期限の問題でもあります。加算を算定できなくなったときの届出については障害福祉サービスの体制届に整理していますので、あわせてご確認ください。
言い換えると、返戻を減らす作業は請求月にはほとんど残っていません。受給者証を預かった日、支給決定が変わった日、加算の要件が動いた日に、その情報が請求担当者の手元まで自動的に届いているかどうかで決まります。
仕組みにするなら、押さえるのは3点だけ
- 受給者証の情報を1か所に持つ — 有効期間・支給量・上限月額・市町村。更新期限が近づいたら自動で気づける状態にする
- 提供実績と請求の突合を、請求前に機械的に行う — 日数・回数・加算の有無を目視で照合しない
- 返戻・過誤申立の履歴を残す — いつ・どの受給者の・何月分を・どのコードで戻され、どう処理したか。同じ原因の再発が見えるようになる
3点目は地味ですが効果が大きい部分です。返戻の記録を1年分ためると、エラーコードの上位3つでほぼ全体の半分を占めることが珍しくありません。上位3つの原因を潰すだけで、翌年の返戻件数が大きく変わります。
まとめ
- 返戻は障害者総合支援法第29条第6項の「審査の上、支払う」という仕組みから生じるもので、審査の主体は市町村。国保連は同条第7項に基づく委託先
- 支払確定前=返戻(訂正して再請求)/支払確定後=過誤申立。この切り分けを最初に行う
- 受付期間は毎月1日0:00〜10日23:59。取下げは「ファイルごと」で、取下げをせずに再送信しても最初のデータで点検される
- Sから始まるエラーコードは市町村の審査による返戻。国保連ではなく市町村に問い合わせる
- 過誤申立は1日分の誤りでもその受給者のその月全体が取下げになり、申立をせずに再請求すると重複請求として返戻される。取下げ額は翌月以降の支払から差し引かれる
- 返戻を減らす鍵は請求月ではなく、受給者証・支給決定・加算要件の情報が請求担当者まで届く仕組みにある
受給者証と提供実績の管理を、請求担当者の記憶から仕組みに移したい事業所様へ
パレットテクノロジーズでは、社会福祉法人・障がい福祉サービス事業所向けに、受給者証の有効期間管理、提供実績記録と請求データの突合、返戻・過誤申立の履歴管理をkintoneで仕組みにするご支援をしています。「毎月、返戻対応で数日が消えている」「担当者が替わると同じ返戻が再発する」という状態であれば、現状のフローを拝見したうえで、どこまで自動化できるかをご提案します。
- サービスの詳細:IT導入・DX支援(福祉業界)
- ご相談・お問い合わせ:お問い合わせフォーム
参考にした一次情報
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 第29条(e-Gov法令検索)
- 大阪府国民健康保険団体連合会「請求期間・方法等」
- 沖縄県国民健康保険団体連合会「障害関係者のよくある質問」
- 大阪市「過誤申立の手続きについて(障がい福祉サービス費等)」
- 東京都国民健康保険団体連合会「エラーコード一覧表について」
※エラーコードの体系・過誤申立の様式と提出期間は、国保連および市町村ごとに定められています。実際の手続は、請求先の市町村および都道府県の国民健康保険団体連合会の案内をご確認ください。