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介護の誤薬対策|介護職員が介助できる薬の範囲と記録・事故報告

「今日、この方に下剤を出すべきかどうかが、服薬一覧表からは分からないんです」

ある事業所でうかがった言葉です。頓服と下剤は紙の欄外に手書きで書いてあり、「何日空いたら飲んでもらう」という基準は書いてあるものの、今日が投与のタイミングかどうかは、別にある個別の排便記録表を見に行かないと判断できない。その個別記録は、後から一覧表に転記されている。

誤薬の対策というと、ダブルチェックの徹底や声出し確認の話になりがちです。それも大事なのですが、この事業所で起きているのは注意力の問題ではありません。判断に必要な情報が2か所に分かれている、という段取りの問題です。

この記事では、誤薬について「そもそも介護職員はどこまで介助してよいのか」という制度の線引きから始めて、記録と事故報告の実務までを一次情報に沿って整理します。

まず線引きを確認する ― 介護職員が介助できる薬の範囲

誤薬対策の議論は、たいてい「確認手順をどうするか」から始まります。しかしその前に、そもそも介護職員が介助してよい薬の範囲が国の通知で示されていることを押さえておく必要があります。

根拠は、平成17年7月26日付けの「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(医政発第0726005号)です。この通知は、高齢者介護や障がい者介護の現場で「医行為」の範囲が不必要に拡大解釈されているとの声を踏まえ、原則として医行為ではないと考えられる行為を列挙したものです。

その別紙の5番目が、医薬品の使用の介助です。

患者の状態が以下の3条件を満たしていることを医師、歯科医師又は看護職員が確認し、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを本人又は家族に伝えている場合に、事前の本人又は家族の具体的な依頼に基づき、医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品について、医師又は歯科医師の処方及び薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守した医薬品の使用を介助すること。

長い一文ですが、条件が段階的に積み上がっています。

段階条件
患者の状態が3条件を満たしていることを、医師・歯科医師・看護職員が確認している
免許を有しない者による介助ができることを、本人または家族に伝えている
事前の本人または家族の具体的な依頼に基づいている
医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品である
医師・歯科医師の処方および薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守している

そして「3条件」は次のとおりです。

① 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること

② 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと

③ 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと

具体的に挙げられている行為

通知は、介助してよい具体的な行為をこう限定しています。

具体的には、皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く。)、皮膚への湿布の貼付、点眼薬の点眼、一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)、肛門からの坐薬挿入又は鼻腔粘膜への薬剤噴霧を介助すること。

ここに書かれている行為は6つです。

  1. 皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置は除く
  2. 皮膚への湿布の貼付
  3. 点眼薬の点眼
  4. 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
  5. 肛門からの坐薬挿入
  6. 鼻腔粘膜への薬剤噴霧

内服薬について「一包化された」と限定されている点が重要です。ヒートから出して数えて渡す、複数の袋から必要な分だけ選び出す、といった行為は、この列挙にそのまま当てはまりません。一包化は「利便」ではなく、線引きの条件そのものです。

状態が変われば、同じ行為でも医行為になり得る

通知の注2は、この線引きが固定的でないことを示しています。

上記1から5まで及び注1に掲げる行為は、原則として医行為又は医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の規制の対象とする必要があるものでないと考えられるものであるが、病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る。

そして、対応の仕方も示されています。介護サービス事業者等はサービス担当者会議の開催時等に、必要に応じて、医師・歯科医師・看護職員に対して、そうした専門的な管理が必要な状態であるかどうかを確認することが考えられる、としています。

さらに注5は、福祉施設等での実施についてこう述べています。

上記5に掲げる医薬品の使用の介助が福祉施設等において行われる場合には、看護職員によって実施されることが望ましく、また、その配置がある場合には、その指導の下で実施されるべきである。

頓服と下剤は、この線引きのどこに立つか

冒頭の事業所の話に戻ります。頓服や緩下剤が扱いにくいのは、「今日、この方に必要か」という判断が挟まるからです。

通知が想定しているのは、あらかじめ処方され、区分して授与された薬について、決められたとおりに使用を介助することです。「状況を見て使うかどうかを決める」ところは、通知が介助として列挙している行為の外側にあります。

だからといって、頓服や下剤を扱ってはいけないという意味ではありません。実務的な結論はこうです。

  • 判断そのものは、看護職員(または医師の指示)の領域に置く
  • そのうえで、判断の基準と、判断に必要な直近の状況(最終排便日、前回の投与日時など)を、介護職員がその場で見られる形にしておく
  • 誰が判断し、誰が介助したかを記録に残す

「注意して確認する」ではなく、判断の材料をその場に届けることが対策になります。ここが、確認手順の話だけでは埋まらない部分です。

誤薬が起きたとき、制度上はどう扱われるか

施設が講じるべき措置

指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条第1項は、事故の発生またはその再発を防止するための措置を定めています。

一事故が発生した場合の対応、次号に規定する報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針を整備すること。二事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備すること。三事故発生の防止のための委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)及び従業者に対する研修を定期的に行うこと。四前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

第二号に「それに至る危険性がある事態」が入っています。飲ませる前に気づいた誤薬(ヒヤリハット)も、報告され、分析され、改善策が周知される対象だということです。ヒヤリハットの位置づけについては介護のヒヤリハットの記事で整理しています。

同条第2項・第3項は、事故が発生した場合の連絡と記録を定めています。

指定介護老人福祉施設は、入所者に対する指定介護福祉施設サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。

指定介護老人福祉施設は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。

医薬品の管理は運営基準に明記されている

見落とされやすいのが、同省令第27条第1項です。

指定介護老人福祉施設は、入所者の使用する食器その他の設備又は飲用に供する水について、衛生的な管理に努め、又は衛生上必要な措置を講ずるとともに、医薬品及び医療機器の管理を適正に行わなければならない。

「医薬品の管理を適正に行う」ことが運営基準そのものです。誤薬は「職員の不注意」ではなく、この管理の適正さが問われる事象だ、という位置づけになります。保管場所、受け渡しの手順、残薬の扱い、変更処方の反映。これらはいずれも運営指導で確認され得る項目です。

市町村への報告はどこから必要か

国の事故報告様式は、令和6年11月29日付けの「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(介護保険最新情報Vol.1332)で改訂されました。この通知は、報告対象をこう定めています。

○下記の事故については、原則として全て報告すること。
①死亡に至った事故
②医師(施設の勤務医、配置医を含む。)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故
○その他の事故の報告については、各自治体の取扱いによるものとすること。

そして様式の「事故の種別」には、転倒・転落・誤嚥/窒息・異食などと並んで、「誤薬、与薬もれ等」というチェック項目が置かれています。

この2つを合わせると、実務上の姿がはっきりします。

  • 誤薬は、国の様式で独立した種別として想定されている
  • ただし市町村への報告が必要かどうかは、誤薬であること自体では決まらない。 死亡に至ったか、医師の診断を受けて治療が必要となったかで決まる
  • 多くの誤薬は治療を要さずに済むため、①②に当たらない。 その場合の報告の要否は自治体の取扱いによる

つまり、件数の大半は国の報告対象の外に落ちます。 だからこそ、外に出さないものをどう内部に蓄積するかが施設の力になります。第35条第1項第二号が求めているのは、まさにそこです。

報告期限についても押さえておきます。通知は、第1報は様式の1から6の項目までについて可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること、報告方法は原則として電子メール等の電磁的方法により行うこととしています。事故報告書の書き方は介護の事故報告書の記事で詳しく扱っています。

障がい福祉サービスでは条文が違う

障がい者グループホーム(共同生活援助)などの障害福祉サービスでは、根拠となる省令が変わります。

指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第213条により、共同生活援助には第40条(事故発生時の対応)と第90条(衛生管理等)が準用されます。ここで、介護保険側との違いが2つ出ます。

 介護保険(省令39号)障害福祉(省令171号)
事故発生時の連絡先市町村、入所者の家族等(第35条第2項)都道府県、市町村、当該利用者の家族等(第40条第1項)
事故防止の委員会・指針・担当者義務(第35条第1項)同等の規定がない
衛生管理の条文医薬品及び医療機器の管理を適正に行わなければならない」(第27条第1項)「健康管理等に必要となる機械器具等の管理を適正に行わなければならない」(第90条第1項)

3つめが実務的に効きます。障害福祉サービスの運営基準には、「医薬品の管理」という言葉が置かれていません。 条文の裏付けが弱い分、服薬管理の手順を事業所側が自分で決めて文書にしておく必要性は、むしろ介護保険側より高いと考えたほうがよいと思います。

なお、事故発生時の連絡先に都道府県が入っている点も、介護保険側と手順が変わるところです。事業所の事故対応マニュアルが介護保険の様式を流用したものになっていないか、確認しておいてください。

現場の手順 ― 「確認する」の前に「見える」を作る

確認手順として広く使われているのは、投与の直前に「正しい利用者・正しい薬・正しい目的・正しい用量・正しい方法・正しい時間」を照合するやり方です。呼び名や項目数は事業所によって異なりますが、考え方は共通しています。

ただ、この手順は照合すべき情報が手元に揃っていることを前提にしています。揃っていなければ、確認の掛け声だけが増えます。ご支援に入って実際に詰まるのは、次の3か所です。

1. 一覧表に「今日の判断」が載っていない

冒頭の事例そのものです。定時薬は一覧表に載っているのに、頓服・下剤は欄外の手書き、判断材料は別の個別記録。照合の対象が2枚に分かれていると、6項目の確認は物理的に完結しません。

対策は、判断に必要な直近の値(最終排便日、前回投与日時、前回の効果)を服薬の画面や帳票に一緒に出すことです。介護職員が判断するのではなく、判断する人(看護職員・リーダー)が判断できる材料が、その場に揃っている状態を作ります。

2. 個別記録から一覧表への転記が発生している

排便チェック表を個人ごとに書き、それをホーム全体の一覧表に転記する。この二重入力は、時間を奪うだけでなく、転記のタイムラグの間だけ、一覧表が古い状態になります。 転記前の一覧表を見て判断すれば、その判断は古い情報に基づいています。

「入力は1回、見る形は複数」に変えるのが原則です。個別に入力したものが自動で一覧に集まる形にできれば、転記も、転記ミスも、タイムラグも同時に消えます。

3. 処方変更が全員に届く前に次の勤務が始まる

受診で処方が変わったとき、その情報が申し送りノート・連絡帳・薬情の3か所に分かれて存在し、どれが最新か分からない状態は珍しくありません。誤薬の原因分析で「変更の伝達」が挙がる事業所は、まずここを1本にすることをお勧めします。

いずれも「気をつける」で解決しない種類の問題です。情報の置き場所を1か所に決めることが、そのまま誤薬対策になります。

まとめ

  • 介護職員が介助できる医薬品の使用は、平成17年7月26日の通知(医政発第0726005号)で範囲が示されている。軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)・湿布の貼付・点眼・一包化された内用薬の内服(舌下錠を含む)・坐薬挿入・鼻腔粘膜への薬剤噴霧の6つ
  • 前提として、容態が安定していること等の3条件を医師・歯科医師・看護職員が確認し、本人または家族へ伝え、事前の具体的な依頼があり、あらかじめ薬袋等により区分し授与された医薬品であることが必要
  • 病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る(通知の注2)
  • 福祉施設等での医薬品の使用の介助は、看護職員によって実施されることが望ましく、配置がある場合はその指導の下で実施されるべき(通知の注5)
  • 頓服・下剤は「判断」が挟まる。 判断は看護職員側に置き、判断材料をその場に届ける形にする
  • 介護保険施設は、事故に至る危険性がある事態も報告・分析・周知の対象(省令39号第35条第1項第二号)。医薬品の管理を適正に行うことは運営基準そのもの(同第27条第1項)
  • 市町村への報告は、①死亡に至った事故 ②医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故が原則すべて対象。その他は自治体の取扱いによる(介護保険最新情報Vol.1332)
  • 国の事故報告様式には、「誤薬、与薬もれ等」という事故の種別が置かれている。第1報は遅くとも5日以内を目安
  • 障害福祉サービスでは、事故発生時の連絡先に都道府県が入り、衛生管理の条文に「医薬品の管理」の文言がない。手順は事業所側で文書化しておく

参考にした一次情報

※上記の条文は特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)および共同生活援助のものです。サービス種別ごとに条番号が異なりますので、自事業所の該当条文をご確認ください。また、「その他の事故」の報告基準と報告先の受付方法は自治体ごとに異なります。最終的な取扱いは所轄の市町村・都道府県にご確認ください。医行為の該当性について判断に迷う場合は、配置医・協力医療機関・看護職員にご確認ください。


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