「住所地特例」と調べると、自治体のページが並びます。どれも「対象施設の一覧」と「届出の様式」を載せています。
けれども、施設の事務担当者や施設長が本当に知りたいのは、次のことではないでしょうか。
- なぜ、うちの施設が対象になるのか
- 入所者の保険者は、施設のある市町村なのか、別の市町村なのか
- 施設の側は、何をしなければならないのか
先に結論を書きます。対象になる施設は、介護保険法第13条第1項に三つだけ書かれています。 そして、同条第3項は、対象施設に「必要な協力をしなければならない」という義務を置いています。 自治体の案内では「施設から届出をお願いします」という書き方になりがちですが、施設に協力が求められる根拠は、この条文です。
この記事では、介護保険法(以下「法」)の条文の組み立てを読みます。あわせて、障がい福祉の側で「居住地特例」と呼ばれる仕組みを置く障害者総合支援法の条文も見て、2つの法律が施設に同じ形で協力を求めていることを確かめます。
原則は法第9条:住所のある市町村の被保険者になる
まず、原則です。法第9条は、被保険者を次のように定めています。
次の各号のいずれかに該当する者は、市町村又は特別区(以下単に「市町村」という。)が行う介護保険の被保険者とする。
第一号被保険者(65歳以上)の定義は、次のとおりです。
市町村の区域内に住所を有する六十五歳以上の者(以下「第一号被保険者」という。)
つまり、介護保険の保険者は、住所のある市町村です。施設に入所して住所をその施設の所在地に移せば、原則どおりなら、施設のある市町村の被保険者になります。
この原則に例外を置いたのが、次の条文です(例外の趣旨は条文には書かれていないので、ここでは条文の組み立てだけを読みます)。
法第13条第1項が置く例外:「第九条の規定にかかわらず」
法第13条の見出しは「住所地特例対象施設に入所又は入居中の被保険者の特例」です。第1項の中心部分を引用します。
当該住所地特例対象施設に入所等をした際他の市町村(当該住所地特例対象施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるものは、第九条の規定にかかわらず、当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする。
組み立てを分けると、次のとおりです。
- 対象は、施設に入所等をすることで、施設の所在地に「住所を変更したと認められる」被保険者
- その人が入所等をした際に、施設のある市町村以外の市町村に住所を持っていたと認められること
- その場合、第9条の原則にかかわらず、入所前に住所があった市町村の被保険者のままになる
「他の市町村」は、条文のかっこ書きで「施設が所在する市町村以外の市町村」と定義されています。入所前の住所が施設と同じ市町村なら、この条文の出番はありません。
対象は三つの施設だけ
法第13条第1項は、対象施設(条文の言い方は「住所地特例対象施設」)を、次の三つに限っています。
| 号 | 施設 | 条文の言い方 |
|---|---|---|
| 第一号 | 介護保険施設 | 一 介護保険施設 |
| 第二号 | 特定施設 | 二 特定施設 |
| 第三号 | 養護老人ホーム | 三 老人福祉法第二十条の四に規定する養護老人ホーム |
「うちの施設は対象か」という疑問は、この三つのどれに当たるかで決まります。
第三号だけに付いている限定
見落とされやすいのは、第三号(養護老人ホーム)にだけ、限定が付いていることです。第1項のかっこ書きに、次の定めがあります。
第三号に掲げる施設に入所することにより当該施設の所在する場所に住所を変更したと認められる被保険者にあっては、老人福祉法第十一条第一項第一号の規定による入所措置がとられた者に限る。
養護老人ホームの場合は、入所していれば誰でも対象になるのではなく、老人福祉法の入所措置がとられた方に限られます。第一号・第二号には、このような限定は書かれていません。
「介護保険施設」と「特定施設」の中身
第一号の「介護保険施設」は、法第8条第25項で定義されています。
この法律において「介護保険施設」とは、第四十八条第一項第一号に規定する指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設及び介護医療院をいう。
つまり、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院の三つです。
第二号の「特定施設」は、法第8条第11項の定義です。
有料老人ホームその他厚生労働省令で定める施設であって、第二十一項に規定する地域密着型特定施設でないもの
ここには、2つの読みどころがあります。
- 条文が名前を挙げているのは有料老人ホームだけで、それ以外は「厚生労働省令で定める施設」に委ねられている
- 地域密着型特定施設は、特定施設から除かれている(第二十一項に規定する地域密着型特定施設でないもの)
省令で何が定められているのかは、今回読んだ条文には含まれていません。サービス付き高齢者向け住宅などの扱いは、後の節で「条文からは分からないこと」として整理します。
2か所目以降に移ったとき:特定継続入所被保険者
施設を移ることもあります。第1項のただし書きは、次の場合を、原則の対象から外しています。
二以上の住所地特例対象施設に継続して入所等をしている住所地特例対象被保険者
ただし書き全体は長いのですが、組み立ては次のとおりです。
- 継続して二以上の対象施設に入所等をしている
- 施設ごとに、その所在する場所に順次、住所を変更したと認められる
この条件に当たる人を、条文は「特定継続入所被保険者」と呼び、第2項で保険者を定めています。第一号は、最初の施設に入所した際の住所に着目しています。
当該二以上の住所地特例対象施設のうち最初の住所地特例対象施設に入所等をした際他の市町村(現入所施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるもの当該他の市町村
第二号は、施設を移る際に住所の変更を行ったと認められる場合で、「最後に行った特定住所変更」に着目しています。
最後に行った特定住所変更に係る継続入所等の際他の市町村(現入所施設が所在する市町村以外の市町村をいう。)の区域内に住所を有していたと認められるもの当該他の市町村
どちらも、住所をたどって保険者を決めるという考え方です。ただし、第一号は「最初」、第二号は「最後に行った住所変更」と、起点が違います。入所歴が複雑な方の保険者は、この記事の説明だけで決めず、市町村に確認してください。
山場:施設に課された「必要な協力」の義務(第13条第3項)
ここまでは、保険者を決める話でした。第3項は、施設の側に義務を置いています。
第一項の規定により同項に規定する当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とされた者又は前項の規定により同項各号に定める当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とされた者(以下「住所地特例適用被保険者」という。)が入所等をしている住所地特例対象施設は、当該住所地特例対象施設の所在する市町村(以下「施設所在市町村」という。)及び当該住所地特例適用被保険者に対し介護保険を行う市町村に、必要な協力をしなければならない。
読みどころは次の4点です。
- 義務を負うのは、住所地特例対象施設(施設そのもの)
- 協力する相手は2つ:「施設所在市町村」と、その入所者の「介護保険を行う市町村」(入所前の住所の市町村)
- 求められているのは「必要な協力」で、努力義務ではなく「しなければならない」と書かれている
- 協力の具体的な中身は、この条文には書かれていない
自治体の案内に「施設から届出をお願いします」とあるのは、この第3項が根拠だと読めます。ただ、「届出」という言葉は第3項には出てきません。何を、いつまでに、どの様式で出すかは、各市町村の案内で確認する事項です。
実務では、入所者ごとに「施設のある市町村」と「保険者である市町村」が別になりえます。請求や問い合わせの宛先を取り違えないよう、入所時に入所前の住所の市町村を確かめておくことが、条文の組み立てからは大切だと言えます。
地域密着型サービスとの関係:第42条の2第1項
住所地特例と地域密着型サービスの関係は、法第42条の2第1項に手がかりがあります。地域密着型介護サービス費の支給を定める条文で、事業者を指定する市町村について、次のように書かれています。
当該市町村(住所地特例適用被保険者である要介護被保険者(以下「住所地特例適用要介護被保険者」という。)に係る特定地域密着型サービスにあっては、施設所在市町村を含む。)の長が指定する者
読み方を整理します。
- 原則は、給付を行う市町村(当該市町村)の長が指定した事業者のサービスが対象
- 住所地特例適用要介護被保険者の「特定地域密着型サービス」については、施設所在市町村の長が指定した事業者も含まれる
ここで言う「特定地域密着型サービス」が具体的にどのサービスを指すのかは、今回読んだ条文には含まれていません。サービスごとの当てはめは、市町村や厚生労働省の案内で確認してください。
届出の根拠:法第12条
届出の根拠も、条文で確かめます。法第12条第1項は、第一号被保険者に届出を求めています。
第一号被保険者は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失に関する事項その他必要な事項を市町村に届け出なければならない。
届出の義務を負うのは、被保険者本人(第一号被保険者)です。第2項で、世帯主が代わって届け出ることもできます。第12条のどこにも、施設が届け出る義務は書かれていません。施設に書かれているのは、先ほどの第13条第3項の「必要な協力」です。
もう1つ、第5項に、手続きを軽くする規定があります。
住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条から第二十四条まで、第二十五条、第三十条の四十六又は第三十条の四十七の規定による届出があったとき(当該届出に係る書面に同法第二十八条の三の規定による付記がされたときに限る。)は、その届出と同一の事由に基づく第一項本文の規定による届出があったものとみなす。
住民基本台帳法の届出があれば、同じ事由の介護保険の届出があったものとみなされます。ただし、書面に同法第28条の3の付記がされたときに限るという条件が付いています。届出の様式・期限・提出先は、第12条にも書かれていません(第1項は「厚生労働省令で定めるところにより」としています)。
障がい福祉側の「居住地特例」:障害者総合支援法第19条
障がい福祉の側にも、同じ考え方の仕組みがあります。一般に「居住地特例」と呼ばれますが、今回読んだ障害者総合支援法第19条の条文には「居住地特例」という語は出てきません。 通称です。
原則は、第2項です。
支給決定は、障害者又は障害児の保護者の居住地の市町村が行うものとする。
介護保険は「住所」、障害者総合支援法は「居住地」と、使う言葉が違います。そのうえで第3項が、施設に入所している障がいのある方について、入所又は入居の前に有した居住地の市町村が支給決定を行うと定めます。
注目したいのは、第3項が、介護保険法の施設を名指ししていることです。
介護保険法第八条第十一項に規定する特定施設(以下この項及び次項において「介護保険特定施設」という。)に入居し、又は同条第二十五項に規定する介護保険施設(以下この項及び次項において「介護保険施設」という。)に入所している障害者
法第8条第11項の特定施設と、第25項の介護保険施設です。介護保険の対象施設と同じ施設が、障害者総合支援法の側でも並んでいます。第3項には、老人福祉法の入所措置がとられた養護老人ホームの入所者も挙がっています。介護保険法の第三号と同じ限定です。
なお、第4項は別の場面(障害児入所施設等から継続して入所した場合)で、満18歳となる日の前日に保護者であった者の居住地に着目しています。
そして、締めの論点が第5項です。
前二項の規定の適用を受ける障害者等が入所し、又は入居している特定施設は、当該特定施設の所在する市町村及び当該障害者等に対し支給決定を行う市町村に、必要な協力をしなければならない。
これは、介護保険法第13条第3項と同じ形です。
| 比べる点 | 介護保険法第13条第3項 | 障害者総合支援法第19条第5項 |
|---|---|---|
| 義務を負う者 | 住所地特例対象施設 | 入所・入居している特定施設 |
| 協力する相手 | 施設所在市町村と、介護保険を行う市町村 | 施設の所在する市町村と、支給決定を行う市町村 |
| 内容 | 必要な協力 | 必要な協力 |
2つの法律が、同じ形で施設に協力を求めています。介護保険と障がい福祉の両方の利用者がいる施設では、市町村から協力を求められる場面が2つの根拠に分かれる、と整理できます。
条文に書かれていないこと
ここまで読んだ条文には、次の内容は書かれていません。
- 届出の様式・期限・提出先:市町村ごとに案内が異なります。所管の市町村で確認してください。
- 「特定施設」として厚生労働省令が定める施設の具体名:法第8条第11項は、有料老人ホームのほかは「厚生労働省令で定める施設」としています。サービス付き高齢者向け住宅や軽費老人ホームなどが対象かどうかは、今回読んだ条文からは分かりません。
- 第13条第3項の「必要な協力」の具体的な中身:何を、いつまでに行うかは書かれていません。
- 介護保険料の賦課や負担限度額認定など、周辺の手続き:今回読んだ条文のうち、周辺で確認できたのは次の2か条だけです。法第141条は、特別徴収対象被保険者が住所地特例適用被保険者に該当するに至ったとき、市町村が特別徴収義務者に通知するものとしています。法第124条の3は、市町村が政令で定めるところにより、施設所在市町村が行う地域支援事業の費用を負担するとしています。保険料や負担限度額認定の手続き自体は、条文からは分かりません。
- 総合事業をどの市町村のものとして受けるか:介護の総合事業は市町村ごとに決まるのですが、住所地特例の対象者が、入所前の住所の市町村と施設所在市町村のどちらの事業を受けるのかは、今回読んだ条文からは分かりません。
条文で決まっていることと、市町村の運用で決まっていることを分けておくと、「なぜ市町村によって案内が違うのか」が整理しやすくなります。
まとめ
- 原則は法第9条。被保険者は、市町村の区域内に住所を有する人で、住所のある市町村の被保険者になる
- 法第13条第1項は、対象施設に入所等をして住所を変更したと認められる人が、入所等をした際に他の市町村に住所を有していた場合、「第九条の規定にかかわらず」入所前に住所があった市町村の被保険者とする
- 対象施設は三つだけ。介護保険施設、特定施設、養護老人ホーム(第一号〜第三号)
- 養護老人ホーム(第三号)だけは、老人福祉法の入所措置がとられた者に限られる
- 特定施設は「有料老人ホームその他厚生労働省令で定める施設」で、地域密着型特定施設は除かれる。省令で定める施設の具体名は、条文からは分からない
- 2か所目以降に移った場合は、特定継続入所被保険者として第2項に別の定めがある。入所歴が複雑な場合は、市町村に確認する
- 法第13条第3項は、対象施設に、施設所在市町村と保険者の市町村への「必要な協力」を義務づけている
- 法第42条の2第1項は、住所地特例適用要介護被保険者の特定地域密着型サービスについて、施設所在市町村の長が指定する事業者も含めている
- 法第12条第1項の届出義務は被保険者本人にある。住民基本台帳法の届出があった場合のみなし規定は、付記がされたときに限られる。様式・期限・提出先は、条文に書かれていない
- 障害者総合支援法第19条第3項は、介護保険の施設を名指しして入所前の居住地の市町村が支給決定を行うとし、第5項も、介護保険法第13条第3項と同じ形で施設に協力を求めている
参考(一次情報)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)|e-Gov法令検索(2026年10月13日に取得した条文による)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)|e-Gov法令検索(2026年10月13日に取得した条文による)
本記事は法令の条文の構造を整理したもので、個別の入所者の保険者や施設の対応を示すものではありません。届出の様式・期限、特定施設に当たる施設の範囲、特定地域密着型サービスの範囲、保険料などの周辺手続きは、所管の市町村の最新の案内と通知をご確認ください。
入所者の保険者、台帳で一目で分かりますか
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