お問合せ
note

社会福祉

社会福祉法人の指導監査とは|周期・指摘基準・準備の進め方を実務目線で整理

「そろそろうちの法人にも指導監査が来る」

そう言われて、書類の山を前にため息をついている事務長さんは少なくないと思います。私たちが社会福祉法人様のご支援に入るとき、最初に「毎年これが一番しんどい」と伺うのが、決算・現況報告書と、この指導監査の準備です。

やっかいなのは、指導監査そのものが分かりにくいことではなく、「何を、どこまで、どんな状態で用意すればいいのか」が現場に共有されていないことです。前回対応した職員が退職していて、どのファイルに何が入っているか誰も分からない。そんな話も何度も聞いてきました。

この記事では、厚生労働省の「社会福祉法人指導監査実施要綱」(平成29年4月27日制定、令和4年3月14日最終改正)を根拠に、指導監査の全体像と、準備を軽くするための現実的な考え方を整理します。

指導監査とは何か

指導監査は、所轄庁(都道府県知事・市長など)が社会福祉法人に対して行う監査です。実施要綱では、その目的をこう位置づけています。

法人の自主性及び自律性を尊重し、法令又は通知等に定められた法人として遵守すべき事項について運営実態の確認を行うことによって、適正な法人運営と社会福祉事業の健全な経営の確保を図る

ポイントは「自主性及び自律性を尊重し」という部分です。あら探しをするための制度ではなく、法令どおりに運営できているかを確認し、できていなければ改善を促すための仕組みだ、という建て付けになっています。

実際、実施要綱には所轄庁側への注意書きも書かれています。たとえば評議員の資格について「監査担当者の主観的な判断で、必要な識見を有していない等の指摘を行うことや、識見を有する者であることの証明を求めることがないよう留意する必要がある」といった具合です。指摘には必ず根拠が要る、という前提で制度が作られているわけです。

「指導監査」「運営指導」「会計監査」は何が違うのか

ここが実務でいちばん混乱するところです。同じ「監査」という言葉が使われているので、法人の中でも話が噛み合わなくなります。整理すると次のようになります。

 対象実施する人根拠
指導監査(法人監査)社会福祉法人という法人そのもの所轄庁社会福祉法。実施要綱・指導監査ガイドライン
施設監査法人が経営する施設・事業所轄庁各施設の最低基準など
運営指導(旧・実地指導)介護保険・障害福祉サービスなどの事業所指定権者介護保険法、障害者総合支援法など
会計監査計算書類・財産目録会計監査人(公認会計士・監査法人)社会福祉法第45条の19

指導監査は「法人」を見るもの運営指導は「事業所のサービス」を見るもの、と切り分けて考えると整理しやすくなります。理事会や評議員会がきちんと開かれているか、定款どおりに運営されているかを問われるのが指導監査、個別支援計画やサービス提供記録を問われるのが運営指導、というイメージです。

なお、法人監査と施設監査は別物ですが、厚生労働省は両者の連携を求めており(「社会福祉法人の法人監査及び施設監査の連携について」平成29年9月26日)、実務では同じ日にまとめて実施されることもあります。「今日来るのはどっちの監査なのか」を事前に確認しておくと、当日の受け答えが噛み合いやすくなります。

一般監査と特別監査

指導監査は2種類あります。

  • 一般監査:一定の周期で計画的に行われるもの。通常イメージするのはこちら
  • 特別監査:運営等に重大な問題を有する法人を対象に、随時実施されるもの

どちらも原則として実地で行われます。ただし一般監査については、感染症のまん延防止の必要性が極めて高いなど、実地で行うことが困難な場合には実地によらないことができる、という定めが置かれています。

一般監査の周期は「原則3年に1回」

ここは誤解が多いところです。「毎年来るもの」と思い込んでいる法人様がありますが、実施要綱では次のように定められています。

毎年度提出される報告書類で運営状況を確認したうえで、次の2つを満たす法人については、一般監査の実施の周期は3箇年に1回とされています。

  • ア 法人の運営について、法令及び通知等に照らし、特に大きな問題が認められないこと
  • イ 法人が経営する施設及び法人の行う事業について、施設基準、運営費並びに報酬の請求等に関する大きな問題が特に認められないこと

つまり、問題なく運営できていれば3年に1回が原則です。毎年来ているとすれば、それは法人監査と施設監査の周期が異なっていて併せて実施されているか、あるいは何らかの問題が認識されている可能性があります。

4年・5年に延長できる条件

さらに、実施要綱には周期を延長できる仕組みが用意されています。整理すると次のとおりです。

5箇年に1回まで延長できる場合

  • 会計監査人を設置している法人で、会計監査報告に「無限定適正意見」または「除外事項を付した限定付適正意見」(除外事項について改善が確認できる場合に限る)が記載されたとき
  • 会計監査人を設置していない法人で、公認会計士または監査法人との契約に基づく「会計監査人による監査に準ずる監査」を実施し、同様の意見が記載されたとき

4箇年に1回まで延長できる場合

  • 公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人(=「専門家」)による、財務会計に関する内部統制の向上に対する支援、または財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援を受け、専門家が作成する所定の書類が提出されたとき
  • 上記に該当しない法人でも、苦情解決への取組が適切に行われ、かつ次のいずれかに該当するとき
    • 福祉サービス第三者評価事業を受審し結果を公表している、またはISO9001の認証取得施設を有している
    • 地域社会に開かれた事業運営が行われている(研修生・介護相談員・ボランティアの受入れ、地域との交流など)
    • 地域の様々な福祉需要に対応した先駆的な社会貢献活動に取り組んでいる

いずれも、所轄庁が「財務の状況の透明性及び適正性並びに経営組織の整備及びその適切な運用が確保されている」と判断することが前提です。

会計管理の監査事項そのものを省略できる

見落とされがちですが、周期の延長とは別に、監査事項の省略という仕組みもあります。

会計監査人による監査(またはそれに準ずる監査)で無限定適正意見等が記載されている場合、および専門家による内部統制・事務処理体制の向上支援を受けていて会計管理に関する事務処理の適正性が確保されていると所轄庁が判断する場合には、指導監査ガイドラインのⅢ「管理」の3「会計管理」に関する監査事項を省略することができます。

会計まわりは準備書類が最も多い領域です。ここが丸ごと省略できるかどうかは、事務負担に直結します。顧問の税理士法人と「事務処理体制の向上に対する支援」の枠組みで契約できているかどうかは、一度確認しておく価値があります。

指摘は「文書指摘」「口頭指摘」「助言」の3段階

指導監査の結果として行われる指導は、実施要綱で次のように整理されています。

法令又は通知等の違反が認められる場合

  • 原則として、改善のための必要な措置をとるべき旨を文書により指導する(文書指摘)。改善措置の具体的な内容は期限を付して法人から報告させ、必要と認める場合は実地調査もできる
  • 違反の程度が軽微である場合、または文書指摘を行わずとも改善が見込まれる場合は、口頭により指導することができる(口頭指摘

法令又は通知等の違反が認められない場合

  • 法人運営に資すると考えられる事項について助言を行うことができる

そして指導に際しては「常に公正不偏かつ懇切丁寧であることを旨とし、単に改善を要する事項の指導にとどまることなく、具体的な根拠を示して行うものとする」とされています。納得がいかない指摘があれば、根拠を尋ねてよい、ということです。

文書指摘に従わないとどうなるか

文書指摘を受けた事項について改善が図られない場合、次の段階に進みます。

  1. 改善勧告(社会福祉法第56条第4項または第58条第2項)
  2. 勧告に従わなかったときは、その旨の公表(同法第56条第5項)
  3. 正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったときは、改善命令(同法第56条第6項または第58条第3項)
  4. 改善命令にも従わないときは、さらに所要の措置(同法第56条第7項・第8項)

公表まで進むと法人の信用に直結します。文書指摘を受けたら、期限内に実効性のある改善を返すことが何より重要です。

ガイドラインには「指摘基準」と「確認書類」が書いてある

ここが実務でいちばん役に立つのに、意外と知られていない点です。

指導監査は、実施要綱の別紙である「指導監査ガイドライン」に基づいて行われます。このガイドラインは、Ⅰ「組織運営」、Ⅱ「事業」、Ⅲ「管理」という3つの柱で構成され、それぞれの監査事項について次の5つの列が用意された表になっています。

項目/監査事項/根拠/チェックポイント/着眼点・指摘基準・確認書類

そして各監査事項の末尾には、「<指摘基準> 次の場合は文書指摘によることとする」として、どういう状態なら文書指摘になるのかが具体的に列挙され、続けて「<確認書類>」として、当日そろえるべき書類名がそのまま書かれています。実施要綱と別紙を合わせた88ページの通知の中に、この<指摘基準>と<確認書類>がそれぞれ80か所以上示されています。

たとえば定款の備置き・公表については、次の場合に文書指摘とされています。

  • 主たる事務所における定款の備置きが行われていない場合、または従たる事務所における定款の備置き(もしくは電磁的記録で作成された定款のパソコンへの記録)が行われていない場合
  • 定款がインターネットを利用して公表されていない場合
  • 備置きまたは公表されている定款の内容が直近のものでない場合

評議員の選任であれば、確認書類として「評議員の選任に関する書類(評議員選任・解任委員会の資料、議事録等)、就任承諾書等」が明示され、「評議員について、就任承諾書等により、就任の意思表示があったことが確認できない場合」は文書指摘とされています。

つまり、当日の想定問答は公開されているわけです。準備の第一歩は、このガイドラインの<確認書類>欄を拾い出して、自法人のチェックリストに置き換えることです。

つまずくのは制度理解ではなく「書類が集まらない」こと

ここまで読んでいただくと分かるとおり、指導監査で問われる内容自体は公開されていて、法人としてやるべきことも明確です。

それでも準備に何週間もかかってしまうのは、制度が難しいからではありません。私たちが現場でよく見るのは、こういう状態です。

  • 議事録が紙のバインダーにしかなく、法人本部と施設で保管場所がばらばら。前回いつ何を決議したかを追うのに半日かかる
  • 就任承諾書や履歴書が個人ファイルに紛れている。誰の分が揃っていないのか、集め終わるまで分からない
  • ホームページに載せている定款が古い。変更認可を受けた後、差し替えを担当する人が決まっていない
  • 前回の指摘事項と、その後の改善状況を突き合わせた記録がない。今回また同じ指摘を受ける
  • 担当者が異動・退職していて、どこに何があるか引き継がれていない

どれも「制度を知らない」から起きているのではなく、情報が置かれる場所が決まっていないから起きています。

実際、私たちにご相談をいただく法人様からは、こういうお話をよく伺います。

拠点施設が複数あり、それぞれで(デジタル化が)進んでいる現状やペーパーレス化できていないこと等、課題は散在しています。

複数の施設・事業所を運営していれば、拠点ごとに事情が違うのは当たり前です。問題は、拠点ごとにやり方が違うこと自体ではなく、法人本部から全体が見えないことです。監査前に「あの書類はどうなっている?」と一件ずつ電話で確認しなければならない状態が、準備期間を膨らませます。

準備を軽くする3つの打ち手

1. 「監査前に集める」から「発生したときに保存する」へ

いちばん効くのはこれです。理事会・評議員会を開いたその場で議事録を所定の場所に保存する、評議員が就任したらその場で就任承諾書をスキャンして保存する。発生時点で保存されていれば、監査前に「集める」作業そのものが消えます。

紙で原本を保管する必要があるものはもちろん残りますが、「どこに原本があるか」の索引だけでも一元化されていれば、探す時間は大きく減ります。

2. 法人本部と施設が同じ場所を見る

複数拠点を運営している法人ほど、ここがボトルネックになります。法人本部が施設に電話やメールで書類を依頼し、施設が探して送り返す。この往復が積み重なって「1か月かかる」になります。

拠点をまたいで同じ場所に情報を置き、権限の範囲で誰でも参照できるようにする。それだけで、依頼と回収の往復がなくなります。私たちがkintoneなどのクラウドツールでご支援する場合も、最初に手をつけるのはたいていこの部分です。新しいシステムを入れることが目的ではなく、「探す・依頼する・待つ」時間を削るのが目的です。

3. 会計まわりは専門家支援とセットで設計する

前述のとおり、専門家(公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人)による財務会計に関する内部統制または事務処理体制の向上に対する支援を受ければ、一般監査の周期を4箇年に1回まで延長でき、さらに会計管理に関する監査事項を省略できる可能性があります。

顧問税理士がすでにいる法人でも、その契約がこの枠組みに乗っているとは限りません。「うちは支援を受けている法人に該当するのか」を確認するだけでも、次の監査の負担が変わります。

まとめ

  • 指導監査は所轄庁が法人そのものを対象に行う監査で、事業所を対象とする運営指導とは別物
  • 一般監査の周期は、問題が認められない法人では原則3箇年に1回。会計監査等を受けていれば5箇年、専門家支援や第三者評価受審等の要件を満たせば4箇年まで延長できる
  • 会計監査や専門家支援を受けていれば、会計管理に関する監査事項そのものを省略できる場合がある
  • 指導は文書指摘・口頭指摘・助言の3段階。文書指摘が改善されないと、改善勧告→公表→改善命令と進む
  • 指導監査ガイドラインには<指摘基準>と<確認書類>が具体的に書かれている。準備はここを自法人のチェックリストに落とすところから
  • 実務のボトルネックは制度理解ではなく、書類の保管場所と拠点間の情報のやりとり

参考(一次情報)


監査準備の負担を減らしたい法人様へ

パレットテクノロジーズは、社会福祉法人様のデジタル化を「現地現物」で伴走支援しています。ITに詳しい職員がいらっしゃらなくても大丈夫です。まずは、いま何にどれだけ時間がかかっているかを一緒に見るところから始めます。

社会福祉専門IT|社会福祉法人様向けのDX伴走支援

ご相談・お問い合わせはこちら

お問い合わせ